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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

となりのユーチューバー

 裏野ハイツ。
 最近俺が引っ越してきた場所だ。
 家賃4.9万円、駅まで徒歩7分、1LDKと非常に好条件の物件だった。
 築30年の木造というから、少々ボロさは目立つが……これ以上、贅沢は言えない。我慢しよう。

 朝、仕事に出て、夕方ごろに帰ってくる。
 そして、買ってきた夕飯を食べ、ゴロゴロして夜になったら寝る。
 残業とかがあるから一概には毎日がそうとは言えないが、基本的に俺はそんな生活を送っていた。
 つまり、家にいるのは概ね夜か休日だ。
 さっきはボロいなどと言ったが、家にいる時間はそう多くない。

 そんな感じで、俺が裏野ハイツに引っ越してきてから、もう数ヶ月が経とうとしていた。
 俺の生活に変わりはない。
 ある日の夜、家でゴロゴロとしていると、隣の部屋からなにやら音が聞こえてきた。
 話し声だ。

 裏野ハイツは1号室から3号室までと、1階と2階の計6世帯住めるアパートだ。
 俺はそこの203号室に引っ越してきた。
 引っ越してきたときにあいさつ回りはしたんだが、どこもみんな良い人そうだった。
 ただ一つ……隣の202号室を除いて……。

 202号室にあいさつに行ったとき、誰も出て来なかった。
 たまたまそのときが留守なのかなと思い、別の日に訪ねてみたが、その日も誰も出て来なかった。
 そもそも誰もいないのではないかと思い、201号室の気の良さそうなお婆さんに尋ねたところ、どうやら人は住んでいるらしい。
 何時ならいるかと尋ねたら、お婆さんに渋い顔をされた為、これ以上は聞けなかった。
 その後も何度か訪ねたが誰も出て来ず、俺もこれ以上はいいかと思い、あいさつは出来ていない。
 裏野ハイツに引っ越してきて数ヶ月が経つが、結局202号室の人とは一回もあったことがなかった。

 そんな、お隣さん……202号室から話し声が聞こえてきた。

 なんだ。人はいるのか。
 この時間ならいるのか。どうしよう、あいさつに行くべきだろうか。やはりマナーだからな。
 いや。でも、もう数ヶ月経つからな。あいさつに行くには遅すぎる。さすがにもういいだろう。

 そんな事を思いながら、俺は自然と耳を澄ました。
 隣にどんな人がいるのか気になったのだ。
 今まで一回も見たことのないお隣さん。
 はたして、どんな人物なのだろうか。

 声が聞こえる。男の声だ。
 男一人の声だ。他には聞こえない。なにか妙にテンションが高いように感じる。そして、他に誰かいるかのような話し方をしている。でも他の人の声は聞こえない。
 分かった。一人分しか聞こえてこない男の声。妙に高いテンション。誰か不特定多数に話しかけるような話し方。
 知っている。俺は隣の人がどんな人物かを知っていた。

『はい、みなさん、こんにちわ〜。はい、というわけでね……』

 ユーチューバーだ!
 これ、お隣さんユーチューバーだ!!

 某動画サイトに動画を投稿する者。
 その内容はゲームの実況だったり、なにか企画をやるものだったり、なにか商品のレビューをするものだったり、まちまちだ。
 とにかく、そんないろんな動画を投稿する人。 多分お隣さんはそれにあたる人だ。

 いやあ……まあ……うん。
 いいよ。別にいいんだよ。お隣さんがなにしようと勝手だよ。俺に口を出す権利はないよ。
 ただ、ちょっとそれは想像してなかったというか、なんというか。
 とりあえず驚いた。

 まあ、なんだかんだ言ったが、俺もそういう動画は見る方だ。
 だから、それがどんなものなのかは気になる。
 俺は再び耳を澄ませ、お隣さんの声を聞いた。

『はい、というわけでね。今回は紹介するのはね。こちら! 『苦悩の梨』〜! ひゅ〜、パチパチパチ〜』

 お隣さんから妙にテンションの高い独り言が聞こえてくる。
 そうか、紹介するタイプの人か。
 えっと……なんと言ったかな……『苦悩の梨』?
 俺の知らない商品だ。お菓子? おもちゃ?

 俺は気になり、目の前にあるノートパソコンで『苦悩の梨』と検索した。
 検索結果が画面に表示される。ふむふむ……なっ……これは……。俺は検索結果の画面を見て言葉を失った。
 お菓子とかおもちゃとか、そんな楽しいものではなかった。『苦悩の梨』、それは……、

「…………拷問……具」

 苦悩の梨。形が梨に似ていることからこう呼ばれる。口、肛門、膣に入れ、ネジを回すことで広がり、体の内側から破壊する拷問器具。

 ざっくり調べた感じではこんな道具だ。
 拷問具。拷問に使用する器具。対象を肉体的、または精神的に痛めつけるそれは現代では使われないものだ。日常生活においても必要のないものだろう。
 それを聞き間違いでなければ、お隣さんは持っているということになる。

 いや……おそらく聞き間違いであろう。
 隣の202号室は押入れの向こうの部屋。聞き間違いということは十分にありえる。というか、そうであって欲しい。

『いや〜、それにしても見れば見るほど、梨に似てますね〜。パクッ。なんちゃって、アッハッハー』

 どうやら聞き間違いではないようだ。
 押入れの向こうから、つまらない言葉が聞こえてくる。
 どういうことだ。本当に隣の住人は拷問具を持っているのか。なぜ。なんのために。

 答えが出るはずもなく、ぐるぐると疑問ばかりが頭を渦巻く。
 そんな俺の考えをよそに、隣の声は続いていく。

『はい。では、さっそくですね。いよいよ、入れてみたいと思いまーす』

 入れる、どこに? いや、場所は分かっている、さっき調べたばかりだ。調べたからこそ、どこに……誰に入れるのかが気になった。

 まさか他人、ということはないだろう。先ほどから聞こえてくる声は一人分だけだ。
 と、なると自分……はないだろう。自分に拷問をするなんて、頭のおかしい人かマゾかのどちらかだ。まあでも、そうでもなければ拷問具なんか持たないか……?
 他人でも自分でもなければ、おそらく対象は人ではないのだろう。犬や猫といった動物。その辺りが妥当か。
 いや、なぜそんな物騒なことを考えているんだ。物で試せば済む話ではないか。わざわざ生き物でするわけがない。手頃なそれっぽい物に入れて試せばいい。
 そもそも、あれは本物か? ただのおもちゃじゃないのか。冷静に考えれば拷問具なんか手に入れれるわけがない。あれはおもちゃ。それなら自分にやっても、「痛いー」で笑い話で済む話だ。
 そうだ。そもそもお隣さんは動画を撮っているんだ。そして、それをネットに流すんだ。物騒なわけがない。拷問具をモチーフにしたおもちゃを試して、リアクションをとるタイプの動画なんだ。

 俺が一人で納得し、隣の部屋へと再び耳を傾けた。

『おおっ! 入ります、入ります。どんどん入りますねー。見てください! もうすっぽりと入りましたよー!』

 隣の部屋からは変わらず声が聞こえる。なんかテンションが上がっているように聞こえた。
 気のせいかバタバタと物音が聞こえ出してきた気がする。

『おおっと。私としたことが猿轡を外すのを忘れてましたね! 失礼失礼、よいしょっと……』

『……いや! 痛い痛い痛い! やめてやめて! お願い! やめて! 痛い! いやっ!』

 え? どういうことだ。
 急に先ほどまではしなかった女の声が聞こえてきた。その声は悲鳴に近い。壁伝いでも必死さが伝わってきた。
 しかし、そんな悲鳴を無視するかのように男は続ける。
 男と女のテンションが違いが目立つ。

『はい! では、いよいよ! ネジを回してね! 開いていきたいと思いまーす!』

『ひっ! い、いや! やめて! いやあぁぁぁ!』

 女の悲鳴が大きくなる。とても演技には聞こえない。本当に絶叫している声だ。
 なぜそんなに絶叫しているのか。先ほどからの男の言葉。これはどう考えても……。

「や、やめろーーっ!」

 俺は思わず叫んでいた。
 やばい。やばい。これはやばい。
 そんな俺の叫びは聞こえているのかいないのか、女の叫び声はどんどん大きくなっていく。
 そしてついに、

『ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 隣から特大の女の悲鳴が聞こえた。





 それからしばらくすると、女の声は聞こえなくなり、男の「それではみなさん、今回はこの辺で。さようなら〜!」という声を最後に何の音も聞こえなくなった。

 …………いったいあれはなんだったんだ。
 本当に拷問具を女に使ったのか。使ったのだとしたら、途中で声が聞こえなくなったのは、もしかして……。
 駄目だ。悪い想像しか出てこない。
 どうする。直接聞きに行くか。
 駄目に決まってるだろ。間違いなら失礼だし、合っていたらどうするつもりだ。どうするというか、どうされるか分からない。むしろ間違いであって欲しい。

 どうにかして隣の部屋の状況が分からないだろうか。音だけでは限界がある。
 覗く? 盗撮でもするか? どうやって?
 俺はなにか盗撮道具でもないかと、ノートパソコンのネットで調べようとした。
 そこで気づいた。
 そうだ。お隣さんのあの口調。最初に聞いたとき、あれは動画投稿者の口調だと思ったではないか。
 ならば、動画をアップロードしているはずだ。それを探せばいい。
 俺は急いで動画サイトにいき、検索する。
 ……なんて?
 なにで検索すればいい?
 俺はとりあえず、『苦悩の梨』で検索した。
 いくつか動画は出てきたが、先ほど隣から聞こえてきた内容のものではない。
 次に『苦悩の梨』『実況』で検索。それらしきものはない。
 『苦悩の梨』『やってみた』検索。なし。
 他にも『拷問』『レビュー』『www』などの組み合わせで検索したが、引っかかるものはなかった。

 もしかして、ネットにアップロードしてないのかもしれない。
 考えてみれば当然だ。もし、あれが本当だとしたら、あんなものをネットに上げれるわけがない。
 いや、でもネットの世界は広い。動画サイトが違うのかもしれないし、会員制の闇サイトとかがあるとしたら、そこにある可能性もある。
 とにかく、ここにその動画はなかった。
 これ以上調べても仕方ない。俺はそう思い、ネットを閉じようとし、

「………………」

 ふと、『裏野ハイツ』で調べてみることにした。
 まあ、あるわけがない。あったとしても、このアパートの紹介ぐらいなものだろう。
 期待なんかしていなかった。最後にふと気になったから調べてみただった。それがまさか……、

「…………あった」

 タイトルは『裏野ハイツ秘密の部屋』。『パート◯◯』という感じで動画は一つだけではなかった。
 タイトルだけで内容がよく分からない。もう少し目を惹くようなタイトルにした方がいいと思う。再生数はどれも2桁。3桁に届いているのは最初の方だけだ。動画投稿の闇だ。詳しくは知らないけど。

 俺は適当な動画をクリックした。動画が始まる。

『はい。みなさん、こんにちは〜』

 画面には至って普通の男が映っていた。この男がこの動画の投稿者なのだろうか。そして、隣の住人なのだろうか。
 男は普通にオープニングを始めていた。画面から見える部屋は暗い感じだ。しかし、暗くても分かる。間取りが同じ。その部屋は裏野ハイツの部屋だ。
 暗めの部屋で画面いっぱいいっぱいに映った男が世間話をする。正直面白くない。俺が違う動画を見ようとカーソルを動かしたとき、

『……はい。いやー、少し世間話が長くなってしまいましたね。では、いよいよ本題です』

「……!」

 カーソルを動かそうとしていた俺の手が止まる。
 本題。それがいったい何を意味するのか、俺は食い入るように画面を見た。

『はい、では今回紹介するのは〜、これだ!『ギロチン』〜! いえ〜い!』

 男が横に逸れ、後ろにいたものが映し出される。

「……っ!」

 俺はおもわず、息を呑んだ。
 そこに映し出されたのは、首を固定された別の男。口には何か口枷がつけられている。そして、その男の上には大きな刃物があった。
 ギロチン。あの刃が落ちてきて、男の首を斬る処刑道具。道具というか装置。部屋の中にあるから少し小さめだが、それでもなかなかのサイズがあった。

『〜〜! 〜〜っ!』

 ギロチンに固定されている男が何かを叫ぼうとしているが、口枷があるため、何も話すことは出来ない。

『さあ! では、いよいよ、やってみますかね!』

 動画投稿者は楽しそうに男の口枷を外す。そして、ギロチンの刃が固定されているところへ移動した。
 そのテンションは上がっていた。

『……や、やめろ! これを外せ! おい! 聞いてるのか!』

『はい。では、いきま〜す。さーん、にー、いーち、ゴー!』

『お、おい! バッ、やめ…………』

 男の声などまるで聞こえていないかのように、投稿者はギロチンの刃を落とした。刃は重力に従って真っ直ぐ落下し、下にあった男の首を落とした。先ほどまで叫んでいた男の頭がゴロゴロと地面を転がり、その切断面からはドバドバと赤いものが出ていた。

「………………」

 俺は画面内の惨劇に言葉を失った。まだ頭で理解できていない。頭が真っ白で呆然とすることしかできない。一歩遅れて理解。画面内で起こったことを頭が理解し始めてきた。

「……うっ!」

 理解した瞬間、喉にこみ上げてくるものを感じた。俺は口を押さえ、急いでキッチンへ。

「……う、お、おえええぇぇぇ……」

 俺は流しに嘔吐した。ボトボトと夕飯が流しに落ちる。

「はあ……はあ……」

 俺はコップに水を注ぎ、それを飲んで一息ついた。
 少し落ち着いた俺はキッチンからノートパソコンの画面を見る。

『はい。では、今日はこの辺で。さようなら〜!』

 動画は締めの言葉とともに終わっていた。
 俺はノートパソコンの前へ移動した。
 まさか、あんな内容だとは……。
 まったく想像していなかったわけではない。だが、認めたくはなかった。今もまだあの動画は気のせいではないのか、合成ではないのか、と疑っている。しかし、ギロチンが男の首を落とす瞬間、その生々しさが目に焼き付いてしまった。それを思い出し、再び吐きそうになるのをなんとか堪え、俺は画面を見る。
 動画はまだ他にもある。もしかして、他も似たような内容なのだろうか。

「……っ」

 俺は唾を飲み込み覚悟を決め、他の動画をクリックした。





 結論から言うと、他の動画もだいたい似たような内容だった。内容はどれも拷問具、または処刑具の紹介。
 毎回違う他人に使い、実験台にされた人は毎回息絶えていた。実験台にされた人は男女、歳は20代から50代ぐらい。特に共通点は見られない人達だった。子どもや老人がいなかったのは幸いか。

 いろんな道具を使っていく中で、俺が一番恐怖を感じたのは投稿者の表情だった。
 叫び、悲鳴を上げていく実験台と相反するようなテンションの高さ。その楽しそうな表情は決して狂喜に満ちた表情ではなかった。あれだけのことをしていながら、歪んでいない、純粋に楽しんでる表情をしていた。本当にただのおもちゃのレビューをしているかの表情。その子どものような投稿者の表情が俺は一番怖かった。

『はい、というわけでね。今回は紹介するのはね。こちら! 『苦悩の梨』〜! ひゅ〜、パチパチパチ〜』

 ついに、さっきお隣から聞こえてきた声の動画までたどり着いた。投稿時間はついさっきになっている。
 毎回のように笑顔の投稿者。その手にはネットで検索した通りの形の『苦悩の梨』。

『はい。では、さっそくですね。いよいよ、入れてみたいと思いまーす』

 投稿者の後ろにいるのは、縛られた女。投稿者は女に近づき、そのスカートの中に『苦悩の梨』を入れた。女の顔が苦痛に歪む。
 そこから先は、この動画のいつも通りの展開だった。投稿者が楽しそうに『苦悩の梨』のネジを回す。叫び、息絶える女。声だけが聞こえていた時に想像していた通りだった。想像とは違っていて欲しかった。

「……ん?」

 この動画が終わり、俺は動画一覧に気になるものを発見した。それはついさっき投稿されたこれより新しい動画。つまり最新の投稿ということになる。
 この『苦悩の梨』の回をさっき撮って投稿したばかりだというのに、二連続ですぐに投稿したのか。
 しかし、隣からはあれ以降何の声も聞こえていない。いや、前に撮ったやつを投稿しただけかもしれないな。
 俺はそう思い、この最新の動画をクリックした。

『はい、みなさん、どうも〜。こんにちは〜』

 隣の住人と思われる投稿者は、毎度のように明るくオープニングを始める。
 今回の実験台となるかわいそうな被害者が投稿者の後ろに見えていた。このお隣さんの動画は、だいたいは実験台の人をカメラの前で投稿者が体で隠すのだが、たまにこうして最初から見えていることがあった。今回はそのパターンらしい。別になにか決まりがあるわけではないだろう。それよりも俺はその実験台の人を見て絶句した。

「…………え?」

 その人物は男。髪型、眉、目、鼻、口、耳、輪郭。間違いない。間違えるはずがない。その男については誰よりも俺が一番よく知っている。だって……それは……。その動画に映っている実験台の男。それは……、

「…………俺……だよな……?」

 ありえない。俺はここにいる。今この場でこの動画を見ている。しかし、その動画に映っている男も間違いなく俺だ。自分の顔だ。間違えるわけがない。
 俺はこの動画の投稿時間を見て驚いた。その投稿日は明日になっていた。俺は今この動画を見ているノートパソコンで現在の日付を確認した。間違いない、この投稿日は明日になっている。どういうことだ。意味が分からない。

『はい。では今回紹介するのは〜、『頭蓋骨粉砕機』〜!』

 俺の理解は追いつかないまま、動画内の投稿者は喋り続ける。
 言葉とともに出された道具。それが処刑道具なのはもう疑いようがない。見た感じでは何に使うかは分からなかったが、さっき言った名称で何に使うかは十分分かった。
 しかし、そんなことも今の俺にはあまり頭に入っていない。なんだこの動画は。
 これ以上見てはいけない。
 俺はそう思い、動画を一時停止させる。
 カチッ
 …………カチカチッ
 おかしい。一時停止出来ない。
 一時停止をクリックしても何の反応もなかった。

『はい。では、これをですね。つけていきたいと思いまーす!』

 投稿者が『頭蓋骨粉砕機』とやらを画面内の俺につけ始めた。画面内の俺の口には口枷がしてあり、言葉を話せないでいる。
 現実の俺は動画を止めようとしているが、動画はまったく止まらなかった。他の動画をクリックしても反応がない。カーソルは動くのだが、クリックした場所の反応がまったくないのだ。

『はい。では、猿轡を外してみましょう』

『……や、やめろ! たのむ! やめてくれ!』

 動画から俺の声が聞こえる。自分で聞く自分の声というものは変な声がするものだ。しかし、その声も俺の耳にはあまり入っていない。
 これはやばい。非常にやばい。
 この動画が何かは分からないが、このままではこの動画の行く先は決まっている。
 俺は急いで動画を止めようと試みるが、上手くいかない。右上の閉じるバツボタンをクリックしても反応はない。やばい。どうすればいい。俺は考える。そうだ。電源を落とせばいいだけじゃないか。
 俺はノートパソコンの電源スイッチを押した。強制終了。本来ならこれで画面は真っ暗になる。しかし……、

『はい。では、ネジを締めていきたいと思いまーす!』

 動画は未だに続いていた。
 なんだこれは。ノートパソコン本体の電源ボタンも通じない。どう考えても異常だ。
 怖い。
 俺はパニックになっていた。電源ボタンを連打する。長押しする。どれも効果はなかった。
 この動画を止めたい。見てはいけない。そう思うが、まったく止まらない。ノートパソコンが反応してくれないのだ。

『や、やめろぉぉ! お、おい! ……ぐ、ぐああああああああぁぁぁぁ!!』

「うわあああああぁぁぁぁ!」

 俺はノートパソコンをぶん投げた。大きな音を立てノートパソコンが壊れる。見るも無残になった画面には当然動画は映っていない。途中からあまり見てはいなかったが、動画の最後、俺は明らかに悲鳴を上げていた。

 やばい。やばい! やばい!!
 あの動画が何だったのかは分からない。未来の動画? そんなわけがない。そんなわけがないと信じたい。
 だがとにかく、お隣さんはやばいやつだってことは分かった。このままここに住んでいたら、いつあの動画のように実験台にされるか分かったもんじゃない。

 俺は今すぐここを出ることに決めた。携帯や財布など必要な物を急いでまとめる。ここを出てどうする? とりあえず『裏野ハイツ』の他の住人にも伝えた方がいいか? いや、それは出た後で考えよう。とりあえず今は逃げることが先だ。
 俺はまとめた荷物を抱え、玄関の扉を開けた。

『はい、こんにちは〜。みなさ〜ん、こちらがお隣に住む203号室の住人さんで〜す。今回からはね、捕まえるとこも実況していこうかなってね、思いましたんですよ〜。はい、では、いっきま〜す!』

 そこには片手でカメラをこちらに向け、もう片方の手に金属バットを持った男が立っていた。

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