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そんな二人は運命共同体
作:池魚籠鳥



第6話「電柱と後輩」






春が待ち遠しいこの頃、穏やかな日々は続いていた。心なしか暖かさがすぐそこまで近付いている気がする。俺と悠璃は通い慣れた道を歩いている。

「ほへぇ。」

「シャキッと歩かないと怪我するわよ。」

「んなこと……へぐっ!?」

「阿呆ね。」

俺は何の罪もない電柱を睨み付けた。

「先輩!」

鼻を擦りながら歩いていると後ろから聞き覚えのある声が飛んで来た。

「おはよ彩萌。」

「悠璃先輩おはようございます。」

白瀬彩萌しらせあやめ。俺達の一つ後輩になる。正直なところ俺にとって後輩になるのかは疑わしい。悠璃と白瀬は仲が良い姉妹のように見える。自然と絵になる二人は学校でも一目置かれる存在だ。ただ始めに言った通り俺との関係は皆無である。もっと砕けて言えば仲が悪いのだとも言える。

「うい白瀬。」

とは言え挨拶は毎日やる。俺自体は白瀬に対して何も嫌悪など抱いていないし、普通に接している。会話は全くないけれど。

「悠璃先輩、今日も綺麗です。」

「うふふ、彩萌こそ今日も可愛いわよ。」

悠璃の腕に抱きついて寄り添う白瀬はご機嫌であった。本当に絵になると俺でも思う。

「二人共突っ立ってないで早く学校に行くぞ。」

「そうね、行きましょう彩萌。」

「はい先輩。」






それなりの余裕を持って学校に登校した。玄関で履き馴れたスニーカーを下駄箱にしまう。

「あ、そういえば職員室に回らないといけないんだったな。んじゃ行ってくるよお二人さん。」






「ねえ彩萌。」

「何ですか先輩?」

私は常々思っていた疑問をぶつけることにした。

「率直に聞くけど恭のこと嫌い?」

「…え?」

彩萌の眉が微かにではあるがぴくりと動いたのが分かった。彩萌はあまり感情を積極的に前に出すような人ではない。それでもようやく最近になって何となく読み取れるようになったと思う。

「どうなんですかね。たぶん普通です。」

「普通…ね。その割には全然話さないじゃない。」

「男の人があまり得意じゃないんです。」

「そう。ごめんなさい、いきなり変な話をして。」

「大丈夫です。それじゃ先輩私をこれで。」

今の彩萌は何かを堪えているように見える。だから私は一つ布石を置いてこの話を終わりにした。

「あ、もう一つ。私の事は好き?」

「ふふ、ええ大好きです。」

彩萌は自分の教室へと向かった。

私は今の彩萌の言動によって、私が抱いていた疑問が確信へと変わっていった。

「心中複雑ね。」






俺はぶらりと学校の校門へと向かっていた。時刻はもう放課後で、俺は帰路に着こうとしていた。悠璃は今日も評議委員会があるので先に帰ることにした。校門に差し掛かろうとした時、前方に見覚えのある姿を見つけた。

「よう白瀬。」

白瀬は俺の声に気付いたようでこちらに振り向いた。

「………。」

言葉はいつものように無かったが、俺の見間違いでなかったら軽く会釈をしたように見えた。

「今帰り…だよな。」

「……。」

「いやさ、悠璃のやつ評議委員会で遅くなるからって先帰れって言われてさ……ははは。」

「……。」

やはり会話に成り立たないと苦しい。半ば俺の独り言にも聞こえ、端から見れば痛い人だ。だが今日はめげない。諦めたら何も変わりはしない。

「な、なあ白瀬。」

「……。」

「一緒に帰らないか?」

「……。」

白瀬は歩みを止めて唖然としている。やはり今日は無理かなと思い俺は大人しく一人で帰ろうと白瀬に挨拶をしようとした。

「俺なんかと帰るの嫌だよな。んじゃ先行くな。また明日。」

もちろん返事はなかったがこれ以上俺が側にいても何にもならないだろうと思い立ち去ろうとした。

「ん?」

と思ったのだが何かが俺の制服の袖を引っ張っているのに気が付いた。俺は不思議に思い頭だけ後ろを向いた。

「しら…せ?」

何と白瀬が俺の袖を掴んでいたのだ。意表を突かれた。白瀬は軽く俯いていてはっきりとはその表情は伺えない。それから俺達は黙ったままだった。それが何秒続いたのか何分続いたのかは分からない。

「ど、どうしたんだ白瀬?」

やっと口から言葉が出た。その言葉だけで精一杯だった。

「…そ…その…い、一緒に…帰っても…い、い……いいです。」

言葉に詰まりながらも白瀬は俺の言葉に返事をした。それはとても儚げで、細く、美しい小さな声であった。それでも俺にははっきりと聞こえた。だから俺はその声に聞き入れそうになりながらも、白瀬が不安がらないように直ぐに返した。

「うん、そっか。なら一緒に帰ろう。」

「……。」

白瀬は言葉はないものの軽く頷いていた。二人並んで歩くなどということはもちろんしない。というか無理だ。俺と白瀬は微妙な距離で歩いた。俺の方が一歩半前に出る形だ。横目で白瀬を見ると白瀬も気になるのか俺と目が数回あった。その度に目を逸らした。俺らは付き合い始めの中学生のカップルかと思ったのは内緒だ。






「ほへぇ。」

「シャキッと歩かないと怪我するわよ。」

「んなこと……へぐっ!?」

「二日も続けてなんて阿呆ね。」

俺は昨日に続き何の罪もない電柱を睨み付けた。しばらく歩くと足音と聞き慣れた声が飛んで来た。

「先輩。」

白瀬だった。

「おはよう彩萌。」

「おはようございます悠璃先輩。」

昨日は一緒に帰ったせいか何となく気不味い。その為か白瀬への挨拶が上擦ってしまった。

「う、うい白瀬。」

「……。」

返事はない。

「何緊張してんのよ。彩萌こんな阿呆相手にしないで先にいくわよ。」

「あ、はい先輩。」

「ま、待てよ!?」

悠璃と白瀬は俺を置いて行こうと先に歩き出した。俺も慌てて歩き出そうとした時俺の横を通った白瀬が何かを口にした。

「…おはよう……ございます……。」

やはり小さな声ではあったがはっきりと聞こえた。そして俺の見間違いでなければ白瀬は微笑んでいた。

「って俺を置いてくなよ。」

急いで二人の元へ足を向けた。すると白瀬の髪が一瞬のそよ風に煽られ舞った。白椿のように咲いた白瀬の髪は美しかった。俺はそれに見入ってしまった。

「へぐっ!?」

俺はまた罪のない電柱をしばらくの間ただただ睨んでいた。


大変遅くなりました。言い訳はしません。次は少しでも早く皆様のご覧になれますよう頑張ります。











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