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第一話  一年経った。状況は悪いまま。

 ソラは眉間にしわを作りながらラゼットの報告を聞いていた。

 小休止を挟みつつも朝から続けているこの報告は現在の子供達の様子と開発中の海辺の廃村についてのものだ。

 窓から覗く街では住人が夕食を作っているのだろう、幾筋もの煙が赤焼けの空へと立ち上っている。

 ウッドドーラ商会の宝くじ騒動からすでに一年が経っていた。

 街では宝くじが毛嫌いされたこともあり、木材は薪や建築資材としてきちんと販売され、少量ながらオガライトも出回っている。

 事をややこしくしたウッドドーラ商会は二カ月ほどで身辺を整理し、店を畳んだ。内陸部へ逃げて行ったという噂である。

 ソラは春頃に子供達を海辺の廃村へ移住させ、アイスプラントの栽培とオガライトの簡易生産工場を作らせた。漁師のゼズに漁業を教えさせてもいる。

 定期的にオガライトを街で販売して資金や資材を補充しに来るゼズ達に廃村の話を聞く。

 この一年はそうして過ごしてきた。

 ソラとしては失敗談を聞く度にもどかしい思いを抱いたが、隠れて進めているために自ら足を運ぶわけにもいかず、こうして眉間にしわを作っているのだ。


「以上で報告は終わりです。ゼズ達は明日村へ戻るそうです」

「そうか」


 短い返事をしてソラはため息を吐いた。

 頭の中で要点をまとめて口を開く。


「とりあえず、今すぐにいかだ漁を止めろ。比較的に流れが緩やかな場所を選んだが、漂流しないとも限らない」


 ゼズは何を考えてやがる、とソラはぼそりと毒づく。


「船の補修は進めているそうですよ。まだ人数分を確保出来ないから苦肉の策だ、と言ってました」

「船の不足か、その点は我慢してもらうしかないな……。」


 船そのものが高い上、資材を大量購入しては目を付けられ易いため、数をそろえるのが難しいのだ。


「オガライトを安定生産できるようになったのは喜ばしいが、アイスプラントはまだ難しいか」


 一年間、取り組み続けたが海上での栽培はなかなか成功しない。

 この廃村復興をモデルケースとして海岸沿いの村に活気を取り戻したいが、未だに前途多難である。

 ──食糧難を解決すれば事態はかなり好転するんだがな……。

 現在、領内で野菜類を生産しているのは海水が届かない川の上流、内陸でもごく一部の地域だ。必然的に沿岸部への供給量は極めて少ない。

 供給量が少なければ値段も上がり、買えない人々は栄養不足で倒れてしまう。

 少しでも改善するためのアイスプラントだったが、生産に目処が立たなければ広めることも出来ない。


「子供達は病気とかしてないだろうな?」

「むしろ少し丸くなってましたよ。太る余裕があるのは羨ましいですね」

「ラゼットも少し太っ──何でもない」


 いつものんびりしたラゼットが急に真顔になったのを見て、ソラは即座に口を閉じた。

 見慣れた垂れ目に戻ったラゼットにホッとしたソラは話を逸らそうと別の話題を切り出す。


「早ければ三日後にお父様が帰ってくる。それまでに子供達を村へ帰しておけ」


 半年前は上手くやり過ごしたがその時は二日と期間が短かった。しかし、今回は四日間と聞いている。

 滞在中に子供達が見つからないように取り計らう必要があった。

 オガライトは現在ソラが率いる元浮浪児の子供達が独占販売している。生産方法を秘匿しているためだが、反感を買わないように供給量を絞って従来の薪の価格を維持するのにも役立っている。

 しかし、がめつい豚親父がオガライトの生産方法を知ったなら、街中のオガクズをかき集めて生産に踏み切るだろう。

 オガライトはソラ達にとっての資金源であり、奪われれば活動ができなくなる生命線でもあった。


「まったく、これからもお父様が帰ってくる度にこの騒ぎかと思うと気が滅入るな」


 ソラは山積みの課題を前にした学生のような表情で愚痴をこぼす。

 報告を終えたラゼットは仕事は終わりとばかりにだらけて椅子に体を預けた。


「そうそう、ラゼットはお父様達の滞在中も側付きをやってもらうからな」


 ソラが何でもないことのように言うとラゼットが跳ね起きた。


「メイド長と相談して、処罰される可能性がある使用人に休みを与えるって言ってたじゃないですか!」


 やる気のなさで右に出る者がいないラゼットは真っ先に休みを与える候補に入っていた。彼女自身もそれを知って喜んでいたのだ。

 事実、ソラは既にメイド長の弱みを握り新人や失敗の多いメイドに休暇を与えている。


「ラゼットがいないといざって時の選択肢が狭まるからな。安心しろ、ラゼットは俺が守る」

「格好いい台詞言っても誤魔化されませんよ。あぁ消えていく私の休み! あぁ増えていく私の疲労っ!」


 嘆きつつもラゼットはぐったりと椅子に体を預けた。極力、体力を使わないで嘆くことにしたらしい。


「とはいえ、特別手当てに期待ですね」

「……なんだかんだで、大物だよな」


 元々、危険手当のつもりで残っている使用人の給料に色を付ける予定ではあった。使用人たちをソラの側に取り込むための懐柔策でもある。

 必要経費と割り切ってはいるが、それ自体を期待されるとどこか腑に落ちないソラだった。


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