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苦手な方はご注意ください。

短編集

『夢を見たら、ねこ。』

作者: 桜川藍己

 “なんじゃこりゃぁぁぁッッ”と叫んだつもりだったのだが、実際は「ふにゃぎゃぁぁぁッッ」となんとも腑抜けな音が自分の喉から発されただけだった。

 隣からは「まだ夜中だぜ? 静かにしろよ」と迷惑そうにふにゃーと一鳴きされた。

 取り敢えず落ち着けと僕は全力で深呼吸を繰り返し、もう一度自分の身体に目線を落としてみた。

 まず目に入るのは地面にしっかり着いた前足だ。というか、それ以外なにも見えない。

 まてまてまてまてッッ! 僕は頭の中で繰り返す。

 僕は根古ねこ大輝たいき、十六才の今年から晴れて東京の私立高校に通う予定だった。生来、余りガンガン人に突っかかって行くのは苦手であったが、それなりに気が合う友達も居り、充実した生活をしていた、筈だ。

 僕は「にゃぁお」と鳴いた。

 何故だか検討も付かないがどうやら自分は子猫(?)になってしまったらしい(なったのではなく転生や、憑依という可能性も否定できないが)。

 折角、もう少しで夢にまで見た一人暮らし。しかも、世界的に大都市である東京に毎日通い、バイトをしながら自由に遊びまくるという生活が待っていたというのに。

 にゃぁ……と大きなため息を付いていると、身体が急にひどい空腹を訴えかけてきた。

『取り敢えず、食べるものがないかこの辺を探索してみよう』そう思った僕は飢えから来る胃痛と、怠さをどうにか振り払い、周りの猫達(自分が考えていた数より全然一杯いた。辺り一面を覆い尽くす程にだ!)を起こさないように慎重にその場から立ち去った。

 街を見渡してみると、僕の知らない街だということがすぐに分かった。そもそも僕の街の近くには海は無いのだが、どうやらこの街は海に面して海と共に生きているようだった。もしかしたらここは街ではなく、町なのかもしれない。

 行く宛もなくフラフラとさ迷い歩いていると何かが自分の目の前に飛んできた。

 それは魚だった。

 周りを見渡してみると海の方に人影が一つあった。どうやら僕の窶れた姿を見兼ねた心優しい偽善者である漁師さんが魚を一つ譲り分けてくれたらしい。

 一瞬、猫って魚は大丈夫なんだっけ? と思ったが、某国民的アニメでよく猫が魚を食べている姿を見るから大丈夫だろうと一瞬で思考放棄し、空腹に耐えきることができずにそのままその場で魚にがっついてしまった。

 気付くと今の自分の大きさからしたら大きかった魚が骨だけになっていた。もう、それこそ某国民的アニメによく出てくる食べ終わった魚の様なキレイな骨の形だった。僕は丁寧にお礼を言おうとしたのだが、やはり可愛らしい猫の鳴き声にしかならなかった。

 腹を減っては戦は出来ぬという言葉を作った人は天才だと思う。腹が満たされたことによって、ようやく真剣に物事を考える余裕が出来た。

 これからどうすれば良いのか。そもそも何故こんなことになったのか。

 勿論僕は元の姿に戻りたい。というか、戻る以外の選択肢は存在していない。だって東京だぜ? 都会だぜ? しかも、一人暮らしだ。そんなそう簡単にその魅力を手放せる気がしない。

 まずは情報を集めなければと思い僕は夜の街を駆け回っていった。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 こんにちは。いえ、こんばんは。猫もとい根古です。まあ、今はどっちでも正解なのだが。

 僕は今、二日間不眠不休で情報採取に勤しんでいる。結局、未だに何一つ情報を得ることが出来ていない。本気で探していたのかと言われても仕方がないかと思うが、今の状況だとほぼほぼ不可能だということを先に言っておこう。言い訳だと馬鹿にされても返しようがないが、人間は兎も角、同族である筈の猫達とも意思の疎通を行うことが出来ないというのは中々に辛いものだ。パンドラの箱のように希望だけ残されたのか人間の言葉は理解することが出来るので、まだ絶望はしていないがそろそろ限界が来てしまいそうだった。

 人は普通、二日以上は不眠不休で居られないという知識を僕は思い出した。今は猫だから大丈夫だろうという楽観的な頭は持っていない(そもそも脳味噌の大きさからも逆に短くなることだろう)。

 このまま寝てしまって、後から『寝てしまったからもう戻れません』なんかなったら堪ったもんじゃない。寝不足と疲労で鉛のように重い体に鞭を打ち、僕は希望にすがり付いた。

 ガヤガヤと多種多様な話題が飛び交う静かに騒がしい夜の街。僕はオトナ達の股の間を潜り抜けながらさ迷い歩いた。オトナ達の建前に建前を重ねて本音を言う会話に頭を痛めながら盗み聞きを続けていると、ふと、若い女性二人組の会話が耳に入ってきた。

「ねー誰かから聞いたんだけどね」「またぁ? まあ、それなりに面白いからいいんだけど」「そう? 嬉しいな。それでね、夢を見れるくらいの知能がある動物って一杯いることは知っていると思うのだけど」「うん」「夢の中で他の動物になって生活していることがあるらしいよ!」「へー」「くっくっく……そうやって流せるのは今の内だけだぜ? よく考えてみてよ、今の私達の姿が本当の姿なのか分からないんだよ、もしかしたら、自分は猫なのかもしれないし、誰かの夢の中で作られているだけで明日消える存在なのかもしれない」「そ、それはたしかに恐ろしい」「でしょー?」「でも、その理論だと、どこまでも無限に世界があって、無限に世界が消えているよね毎日」「どゆこと?」

 僕は駆け出した。これ以上その話を聞いていられなかった。否定するのは簡単だ。何個でも否定材料は作れる。でも、それは逃げていることにしかならないということを今までの短い人生で学んでいた。逃げたい。でも、駄目だ。あの某ダメダメのヘタレ主人公も言っていた。『逃げちゃ駄目だ』と。


 ──僕は人殺しだ。


 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 おはようこんにちはこんばんわこぶさたしております猫こと根古ですどうぞお見知りおきを。僕は人殺しみたいです。ええ、エェそれはもうどうしようもなく、反論のしようもなくでごさぁいます。どうやら僕はそれを自覚したことで罪悪感というものを何処かに投げ棄ててしまったようで体が可愛らしい猫であることを使って色々しております。えぇ。今ワタクシはネコなのですよ! 猫の体は便利だと四日目でようやく知ることができました。ニャーと一鳴きすれば猫だけに猫なで声でご飯を無償に与えて下さり、寝床を与えて下さります。僕は猫として生きていくことを決めましたというかなぜ私は人間に戻ろうと躍起になっていたのでしょう? 猫は気楽です。今のところ寝なくても生きていられてますし、食べ物は幾らでも分けてくださいます。その辺に落ちている雑誌や本を読んで一日過ごすのもいいですし、暇潰しに縄張りを荒らしに行くというのも結構楽しかったと思います。猫は良いです。猫は気楽です。人間の様に一日の殆どを仕事に使わなくともニャーと一鳴きすれば食べ物を貰えますし、若い女性の所に寄っていけば、たちまち人気者になることが出来ます。意味の無いことで怒られることもなければ、ロボットのように個性を剥奪されることもございません。猫は自由です。女神です! 自由の女神でございます! アハハあはは私はネコデス。どうしようもなくネコなのです。最初から私はネコでございました。人間だったことは一度もありません。それでいて、僕は人殺しです。どこの誰よりも自分は人を殺しております。人だけではございません。ワタシが殺していない種族はこの世に存在していないのです。アハハははははははははッはははははハハハはハアハはハハッッ! 私はネコデス。どうしようもなくネコなのです。最初から私はネコでございました。人間だったことは一度もありません。それでいて、僕は人殺しです。どこの誰よりも自分は人を殺しております。人だけではございません。ワタシが殺していない種族はこの世に存在していないのです。アハハはアハハはアはっアハハはアアハハはははははははッッ♪ ネコ根古根古ネコ根古ねワタクシハワタシはアハハ! わたしはネコデス。どうしようもなくネコなのですさいしょからわたしはネコでございました。にんげんだったことはいちどもありませんそれでいて、ぼくはひとごろしですどこのだれよりもじぶんはひとをころしておりますひとだけではございませんワタシがころしていないしゅぞくはこのよにそんざいしていないのです──!!! あれ? スコシネムイナ睡眠をとならければッ! ネコはスイミンヲ取らなくても大丈夫なハズなのに? あれあれあれあれ荒れ在れあれあれアレあれぇぇぇッッっ!!!?


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 とある島国の最北端に程近い場所に存在している小さな町。

 海に面した大きな広場の真ん中に一匹の子猫が倒れていた。

 その周りには蝿が集っており、誰も近づこうとはしない。

 それが逆に自然と人々の日常風景の一部として溶け込んでいるかのようだった。


 ──まるで何時までもこの世界が続くと確信しているかのように。

文学っぽい文学ではないなにかでした。

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[一言] 「おはようこんにちはこんばんわこぶさたしております」から始まる段落が、段落の終盤に行くにつれて、漢字の開き具合や句読点の消去の度合いを増やされていて、文章を意識的に捏ね繰り回しているのが感じ…
[良い点] 全体的にあまり大事な部分を多く語らないスタンスはいいと思いました。文章で伝えたいことを語ってしまうよりも読者に感じてもらう方が説得力は高いです。 [気になる点] 最初の方でかなり違和感を感…
[良い点] 試みは感じます。なにかしたいんだろうなぁ。というくらいですが。文体の緩急で遊んでみたかったのかなぁ。とでもいうようなものでしょうか。 [気になる点] 習作でしょうか。勢いだけで行っているよ…
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