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届かぬ想い
作:真田遼



最終話


「マサトさん、そろそろ病院に戻らないと……今頃きっと、病院の中は大騒ぎになってますよ。ミイラ男が病院から抜け出したって」エリコは涙を拭い、ニコッと微笑みながらそう言った。
「そうですね。大変な騒ぎになってるかもしれませんね。っていうか、今でも結構みんなから見られちゃってますけどね」マサトの言葉を受け、エリコは辺りを見回した。近くを通りかかった学校帰りの学生や、会社帰りのサラリーマン、そして犬の散歩をしている老人や、野球のユニフォームを着た少年までもが、『ミイラ男と主婦のロマンス』を珍しそうに眺めていた。マサトとエリコは自分達のしていることが急に恥ずかしくなり、そそくさとその場を後にした。
「その格好で街を歩くと目だって仕方がないですね。あまり寄りたくはなかったのですが、私が今まで生活をしていた家がこの近くにありますので、そこで着替えと履物を穿かないと、病院まで戻れませんね」エリコが微笑みながら言った。
「そうですね……夢中で走ってきたので、周りが見えてませんでしたが、いざ冷静になると、とても恥ずかしい格好をしてますよね。それじゃあお言葉に甘えて」
 そう言うと、二人はここから然程遠くない、エリコが今まで旦那と共に生活をしていた家へと向かった。家には十分ほどで到着した。

「さあどうぞ……散らかってますけど」
「ぁ、お邪魔します」
 二人が足を踏み入れると、家の中はエリコが綾香を連れて出て行ったままの状態だった。
 普段着だけを投げ込むようにしてカバンの中に入れて家を出たので、部屋の中は、クローゼットから出された服で散らかっていた。
「ごめんなさいね。散らかしたままで……急いで家を出たので」
「あ、別に気にしませんから」
 マサトは辺りを見渡したあと、エリコに視線を向けた。エリコはガタガタと肩を震わせていた。
「エリコさん、どうしたんですか? 体調でも悪いんですか?」マサトが心配そうな口調でエリコに尋ねた。エリコは鼻を啜り、涙を拭いた後、マサトの方へと振り向いた。
「ごめんなさい……ここには、あまり良い思い出がないの。綾香の為に、いつもあの人の仕打ちに耐えていて……ホントに、ホントに苦痛な毎日で……」溢れる涙を止める事が出来ないエリコに近づき、マサトはそっと肩を抱いた。
「エリコさん……もう昔の辛い事は忘れましょう。これからは僕が傍にいて、いつもエリコさんが笑顔でいられるように頑張りますから。だから、泣かないでください」
 マサトがそう言うと、エリコはマサトの胸にそっと顔をうずめた。そして暫くマサトの胸の中で泣き続けていた。
「マサトさん……ありがとう。マサトさんがいれば、きっといつも笑顔でいられると思います。でも今は……今だけは泣かせてください。辛い事を忘れさせてください」
 マサトは何も言わず、エリコの頭をそっと撫でた。エリコはそんなマサトの優しさを受け、暫くの間、子供のように泣き叫んでいた。
 家に来てから三十分が経過していた。あふれ出るエリコの涙がようやく乾き始めた頃、エリコは埋めていたマサトの胸から離れ、じっとマサトの顔を見つめた。そして優しい口調でマサトに向かって呟いた。

「マサトさん……私の事……抱いてください」

 マサトは何も言わずエリコをギュウッと抱きしめた。そして優しく唇を重ねた。
「エリコさん……僕は経験がないので、上手くできるかどうか分かりませんが、頑張ります」マサトがそう言うと、エリコは『フフっ』と微笑んだ。
「マサトさんらしいですね。大丈夫ですよ。マサトさんなら、きっと上手に出来ると思います。それにこういう事って気持ちがとても大切なんです。マサトさんとなら、きっと……」
 エリコはそこで言葉を切ると、マサトの唇に自分から唇を重ねていった。
 ゆっくりとお互いの舌を絡めあう。ぎこちないマサトの舌を、エリコは愛おしく感じていた。
 マサトは巻いていた包帯を外していった。両手に巻かれた包帯を。そして顔にまいていた包帯を、ゆっくりと外した。包帯の下からは、痛々しい傷跡が現れた。エリコはその傷つけられた跡に、ひとつづつ、優しく口付けをしていった。自分を守ってくれてマサトの傷をひとつづつ癒してゆくように、優しく口付けをした。
 どうして良いのか分からないでいるマサトの手をとり、自分の胸へと当てた。マサトはそれに従い、ゆっくりとエリコの乳房を揉み始めた。力加減が分からず、ぎこちない動きではあるが、その事がよりいっそうマサトの事を愛おしく感じさせていた。旦那の時とは違う、愛情のこもったマサトの愛撫に、エリコは身体の中がどんどん熱くなっていくのを感じていた。
 指先の使えないマサトに代わって、自分でブラウスのボタンを外し、それをするすると脱ぎ捨てたあと、後ろに両手を回して、ブラジャーのホックを外した。締め付けらていたカップが緩み、下着の中から豊かな乳房が零れ落ちた。戸惑うマサトに再び口付けをすると、マサトの右手を掴み、自分の乳房へとそれを当てた。
 マサトは手の中にある柔らかいふくらみを優しく揉み始めた。

「ぁ、ああ……」

 切ない声がエリコの口から漏れた。マサトはドキッとして、思わず身体が硬くなった。
「そ、そう……上手よ、マサトさん……もっと強く揉んで下さい」
「こ、こうですか?」
「ぁん……そう、そうよ、ぁ、そんな感じ……。指先で、乳首を転がしてください」
 マサトは言われるとおり、人差し指の先で硬くなった乳首を転がした。
「ぁ、いい……そう……上手、ぁ、ああん……今度は、舌で……舐めてください」
「は、はい……」
 マサトはゆっくりと顔を乳房へと近づけていった。そしてすでに硬くなり、つんと上を向いている乳首を舌先でそっと転がした。
「ン……ぁぁん……そうそう……もっと舌先を使って、乳首を転がすように……ぁ、、そう!」

 立ったままでいるエリコは、マサトの愛撫により、足に力が入らなくなってしまったのか、急にその場にぺたりと座り込んでしまった。マサトもつられて、床に座り込んだ。

「マサトさんが、あまりにも上手だから、力が抜けちゃいました」エリコはニコッと微笑みながらそう言うと、自ら床に仰向けになって寝転んだ。
 マサトはエリコに軽く口付けをすると、首筋に舌を這わせ、それから徐々に舌先を乳房へと移動させ、舌の先で乳首を優しく愛撫した。

「ぁ、ぁ、それ、いい、ぁ、ぁ、凄く……ぁああ、上手ですぁ、ああ、ああん」
 エリコが自分の愛撫で感じている事を嬉しく思い、マサトはぎこちないながらも、一生懸命にエリコの身体を愛していった。

「今度は……私がしてあげますね」

 エリコはそういうと、着ているマサトのパジャマを脱がせ、下着も丁寧に脱がせた。そしてすでに硬くなっているペニスに優しく口付けをしたあと、それに丁寧に舌を這わせていった。
 マサトにとっては、初めての感触である。温かく柔らかいねっとりとした感触が、ペニスを通じ、身体全体に伝わる。しかもそれを咥えているのが、他でもない愛おしいエリコだという事が余計にマサトを感じさせていた。
「え、エリコさん……凄く気持ちいいです……気持ちよすぎて……いっちゃいそうです」
 マサトがそういうと、エリコは悪戯な微笑を見せて、マサトに言った。
「まだダメです……お口の中でいかないでね……ちゃんと、私の中でいって下さい」
 そう言うとエリコは咥えていたペニスから顔を離した。そしてニッコリ笑ってマサトに囁いた。
「ほら、私のここ、もうこんなに濡れてるんですよ。相手がマサトさんと思うだけで、こんなに濡れてしまいました。マサトさん……私、マサトさんとひとつになりたい……」
「僕も……僕もエリコさんとひとつになりたいです……エリコさん、僕、エリコさんの事、これから先もずっと愛していますから」
「うれしい……私も、この先ずっと、マサトさんの事、愛し続けます。だから、私のこと、絶対に一人にしないでね」
「はい、絶対に」
「ありがとう……」

 そして、マサトは、心から愛おしく思っていたエリコと、ついに一つになることが出来たのだった。エリコも、これからの人生、マサトと一緒にどこまでも生きてゆくことを思いながら、マサトと一つになっていった。


一年後……

「ねえ、ママ。今日のママ、とってもキレイだよ。どこかの国のお姫様みたい」
 綾香は幼いながらも、エリコのウェディングドレス姿を見て、うっとりするような口調でそう言った。
「ありがとう、綾香。あなたにそう言ってもらえるととても嬉しいわ」
「うん、だってホントにママキレイなんだもん。あ、そうだ、私、マサトお兄ちゃんの姿も見に行ってこよう。あ、もうマサトお兄ちゃんじゃないんだよね。今日からは綾香の新しいパパなんだから」
「そうよ、今日からは綾香だけじゃなくて、このお腹にいる綾香の妹のパパよ」

 マサトとエリコが結ばれるには、とても多くの困難があった。子持ちでしかも年上のエリコとの結婚を、マサトの両親はなかなか認めてはくれず、両親の許しが出るまで、二人で頑張って乗り越えてきた。
 マサトは大学を卒業し、就職先の会社でも順調に仕事を覚えていた。これからは家族を守らなければならない一家の大黒柱である。マサトはより一層仕事に頑張らないと、と気合を入れていた。
 就職してから三ヶ月が過ぎ、マサトはエリコとの結婚に踏み切った。入籍は一ヶ月前に済ませ、戸籍上はすでに夫婦である。エリコのお腹の中には、来月生まれる女の子が宿っている。彼女が生まれる前に、キチンとした式を挙げておきたくて、本日に至ったのだ。
 結婚式には以前のバイト仲間や、大学の時の友人、そしてエリコの友人等、ごくごく身内だけが出席していた。街の小さな教会で、二人は永遠の愛を誓った。
 式を終え、二人が教会から出てきた。エリコは純白のウェディングドレスに身を包み、マサトはそれに合わせるように、真っ白なタキシードを着ていた。
 二人は教会の階段をゆっくりと下り、友人達からのライスシャワーを笑顔で浴びていた。これからの人生を、二人で幸せに生きてゆく事を祈りながら、笑顔で友人達の前を通過していった。マサトとエリコ、二人にとって、人生最高の瞬間であった。


 あの男が、二人の目の前に現れるまでは……。


 男はマサトの背後に迫ると、マサトの背中に一気に包丁を突き刺した。

 その傷跡から鮮血が飛び散り、マサトの着ていた真っ白なタキシードを真っ赤に染めていった。マサトは、エリコの顔をじっと見つめ、ニコッと優しく微笑んだあと、ゆっくりと地面へと倒れこんでいった。倒れていったマサトの背後には、歪んだ笑顔を浮かべ卑屈に笑っている、エリコの元の旦那の姿があった。

「ふふふふ……はーはっはっはっ! ははははははははは!」
 
 元旦那は狂ったようにずっと笑い続けていた。周りにいた者達に取り押さえられている間も、大きな声をあげ、ずっと笑い続けていた。

 教会の前には、元旦那の狂ったような笑い声と、エリコがマサトに向かって呼びかける、悲鳴にも似た叫び声だけが響き渡っていたのだった。


 届かぬ想い……完


 アイノカタチへ続く……







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