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届かぬ想い
作:真田遼



第19話 メッセージ


 エリコを怒鳴りつけて家を出てから二時間後、旦那は妙にスッキリとした表情で帰宅した。迎えに出たエリコに対し、少し微笑みながら話を始めた。
「さっきは悪かったな。ちょっとムシャクシャしててさ……でも、もう機嫌も直ったし。まあ、試写室ではちょっと嫌な事があったけどさ、一発殴ってやったら気持ちもスッとしたよ」
 そう言いながら笑っている旦那に対し、エリコは何も言葉が出なかった。旦那の機嫌がどうこうというよりも、旦那に殴られた相手の事が心配だった。自分の機嫌の良し悪しで人を殴るという旦那に呆れて言葉が出なかったのだ。エリコの横を通り過ぎてゆく旦那からは、まだお風呂にも入っていないにも関わらず、甘い石鹸の香りが漂っていた。

 入浴後、肌の手入れを済ませた後、先にベッドに入っている旦那の横へとそっと潜り込むエリコ。旦那が先に眠りに着いた日は心が妙にホッとする。エリコは旦那を起こさないように、細心の注意を払いながらベッドへ潜り込んだ。旦那は何の反応も示さない。どうやら眠りについているようだ。エリコは「ふぅ」と安堵のため息をついた。
 旦那に背を向け、眠りに就こうとした時だった。エリコの胸を旦那が後ろから両手でまさぐり始めた。エリコは胸の辺りがキューっとなり、そしてムカムカし始めていた。
 旦那は後ろから強く乳房を揉み、乳首の辺りを指で強く刺激する。エリコはそっと目を閉じ、頭の中で、後ろにいる旦那を、あの時の青年に置き換えた。旦那の愛のないセックスに対する、エリコのささやかな抵抗である。
 パジャマの中へ直接手をいれ、胸を揉み始める旦那。親指と人差し指で乳首をつまみ、ぐりぐりと指を動かし乳首を刺激する。徐々に硬くなり始めた乳首をねじりながら、強く胸を揉まれるエリコは思わず甘い声を漏らした。
 首筋に舌が這い、体中に鳥肌が立ち始めた。耳の後ろを舌で刺激され、思わず身体に力が入る。耳の後ろから首筋へと舌が動き、うなじを通り、背中へと移動する。舌の平全体で背中を舐められると、エリコはゾクッとする感覚に見舞われた。
 そのまま舌が徐々にお尻の方へと下りてゆく。そしてお尻の膨らみに舌が這う。お尻全体を舐め回されたあと、お尻の割れ目を両手でこじ開けられた。そこへと旦那の暖かい舌がねじ込まれる。

「い、いゃ……ダメ……」

 そんなエリコの言葉などお構いないしに、旦那の舌がお尻の穴へと滑り込んだ。
 クチュクチュと唾液と舌が絡み合う音が寝室に響く。お尻の穴を十分に舐めまわされたあと、そのままその舌はエリコのヴァギナへと移動した。
 旦那の湿った舌がヴァギナへとねじ込まれる。

「ぁ、ぁ、いい……気持ちいぃ……」

 エリコのその言葉に気を良くした旦那の舌はさらに動きを早めた。エリコは自ら前後に腰を振り、旦那の舌の動きに合わせながら、自分の感じる部分を旦那の顔へと押し付けた。
 エリコの愛液が溢れ出し、甘酸っぱい匂いが布団の中へと漂い始めると、旦那は自らの欲望を抑えきれなくなり、すでに硬くなったペニスをエリコのヴァギナへと押し当て、それを一気にねじ込んだ。
 硬くなったペニスが子宮の入り口へと届くほど後ろからエリコを責めあげる。エリコは自然に漏れる声を抑えきれず、叫ぶようにしながら快感に浸っていた。

 行為が終わると、旦那はエリコの背を向け、ものの一分も経たないうちにいびきをかき始めた。まだ呼吸の荒いエリコは、そんな旦那の事などどうでも良かった。頭の中で旦那を青年に置き換えて行為に挑むようになってからは、旦那の自分勝手なセックスにも対応できるようになったのだ。エリコも息が整い始めると自然と眠りへと就いていったのだった。

 翌日、洗濯をしていると、旦那のズボンのポケットから名刺が一枚落ちた。香水の匂いが付き、裏にはキスマークが付いている。恐らく昨日立ち寄った風俗店でもらったものだろう。エリコは深いため息をつきながらも、旦那に対してその事を問い詰めるのは止める事にした。言ったところで風俗通いを止めるとは思えなかったからである。
 土曜、日曜とあまり旦那とは会話を交わすことはなく、エリコにとって苦痛である旦那と一緒の休日はゆっくりと過ぎていった。

 月曜日、エリコは再び緊張し始めていた。仕事へ出掛ける前のこのドキドキが収まるのはまだまだ時間が掛かりそうだ。昼からの仕事の事を考えると、朝から少し緊張していた。
 雑事を済ませ、仕事に出かける時間になり、「よしっ」と気合をいれ仕事へと出かけた。
 店に入って着替えを済ませると、ウソのように先程までのドキドキとした感情が薄れていた。どんな事でもそうだが、エリコにとって、本番よりも、その本番へと臨む前の方が緊張してしまう。実際その場に立てば、ドキドキしていた事がウソのように心が晴れるのだ。エリコは大山に出された指示を慣れないながらもこなしていた。
 その日も、結構ミスする事が多かった。周りのスタッフは「そのうち慣れますよ」と優しく声を掛けてくれるのだが、もしここに『ロッテンマイヤーさん』がいたならば、キツク注意を受けていたのだろうなと思うと心が苦しくなった。
 エリコはその日の仕事を終え、少し凹み気味にスタッフ間での連絡ノートを開いた。すると、そこには自分宛へのメッセージが書かれていた。


『藤本さん、お疲れ様です。藤本さんの後のシフトに入っている、松川と申します。僕も入った頃はホントに失敗ばかりで他のスタッフの皆さんに迷惑ばかり掛けていましたが、皆さん優しい人ばかりなので、あまり焦らずに仕事を覚えていってくださいね。どんくさい僕でも今では人並みに仕事をこなせているので、きっと大丈夫だと思いますよ』


 松川というスタッフからのメッセージに、エリコは心が温かくなっていた。文面から松川というスタッフの人柄が窺える。
 店長から、このスタッフの事は聞かされていた。松川君でも出来たのだから、藤本さんも大丈夫ですよと言われた事が、いまだに頭に残っていた。
 店長の話と、ノートの書かれていたメッセージを見て、松川というスタッフはどんな人なのだろう、一度会ってみたいと、エリコにそんな感情が芽生えていた。初詣の時に出会った、あの時の青年のような人ならいいのにな、とエリコはそう思っていたのだった。
 







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