警告
この作品には
〔残酷描写〕
が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
2012/1/22:あとがきに簡単な設定メモを入れました。
わたしの名前はネフ・インディゴ。14歳。今年の春、マトラの魔法学校を主席で卒業した精霊魔法使いだ。
当然在学中は最強の学生魔導士で、能力測定結果では他の生徒達とは桁違いの魔力を記録した。気に入らないのは過去最高ではなかった事。
現在のマトラ王国最強の魔導士が在学中に記録した魔力には及ばないらしい。だけど、わたしの魔力成長速度ならそんなのはすぐに追い抜くはず。
どの位の差なのかは知らないけど、そんなに離れているとも思えない。
――誰にも負ける気はしなかった
卒業後、生まれ育った村に戻ったのもつかの間、最強の魔導士になる為に村を出る事にした。
向かったのはジヌラと言う、小さいがどこに行くにも交通の便の良い街だった。
わたしは魔戦士組合員の登記をする事にした。
この街を拠点として活動するつもりだ。
「以上で魔戦士組合への登録は完了しました。そこの依頼ボードから依頼を受ければ、成功報酬を受ける事が出来ます」
『ん、それは知ってるから大丈夫』
「え、あの、一応規則なのでご説明しますが、依頼は難易度によって分けされています。人数指定がある場合もあります。ともかく最初ですので難易度Dから始める事を推奨しています」
『あっそ、でももう何にするかを決めてるの。この依頼を受けるから登録して』
「これは……、いくら何でも初回から難易度Aはどうかと」
『本当は難易度Sを受けたいけど、ある程度の実績を積まないと請けられないんでしょ? 仕方ないから難易度Aにするだけ。いいから登録しておいて』
わたしは依頼の紙をポイッと投げる様にして受付けの女性に渡した。
受付の女性は不満げな表情をしたが、登記簿を開いて登録していた。
全くイチイチめんどくさいな。
最初だからって並の戦士達と一緒に仕事しないといけないなんて。
さっさとランク上げて最強の座を手に入れよう。
そして、トリックススターズの称号を手に入れて華々しく生きるんだ。
「あ? なんだこのガキは……?」
「今年の新卒エリート魔導士様だってさ」
「ふーん、エリートだからって新人が難易度Aの依頼とかってアリなん?」
「くっそ、足だけはひっぱるなよ」
最初の依頼のメンバーは、いかにも無能そうな剣士達四人だった。
一人はいかにも力押ししか出来ないタイプで、汚らしい使い込んだ鎧で身を包み、無骨で重そうな戦斧を背中に背負っている声のでかい無粋な男。
二人目は、自分の身長程の長い槍を持ち、動きにくそうな分厚い鎧を着けている男。
三人目は、二刀流らしく短めの剣を携帯しており、動きやすそうな服装の男。
四人目は、戦士には不釣合いな高級な装飾が施された曲刀と派手な防具を装備した男で、言葉の最初が必ず「くっそ」なくそ男。
こんな連中でも難易度Aの依頼をやれるのだな。
所詮、難易度Aと言っても凡人から見ての難易度に違いない。
ふん、ゴミクズ共が。
どうせわたしに嫉妬でもして言っているのだろう。
わたしはそんな事しか出来ない哀れな四人の男達に、冷ややかな目線を送って鼻で笑ってやった。
たどり着いたのは、ここジヌラ付近で活動している強盗団のアジトだった。
建物は石造りの塀で囲まれ、門前にはお約束の様に左右に二人の弱そうな見張りが居る。
ジヌラから歩いて3時間程の森の中にそれは存在した。
今時まだ強盗団なんてものが存在していたのかと驚くが、わたしはそんなゴミクズを専門に消去して行こうと考えた。
わたしは世界を正し、同時に恩恵を受ける事が名声を得るにも一番効率的だと考えたからだ。
強盗団は、ジヌラに来る商人などから金品を奪っている。
その為に、最近商人の数もめっきり減り物資不足が深刻化していたのだ。
「あれだな、強盗団のアジトは」
「見張りが居るな、裏に周るか?」
「弱そうじゃないか、表から攻めちゃえばいいんじゃないのん?」
「くっそ、ほんとに弱そうな見張りだなぁ」
こんないい加減な作戦で、こんな連中が今までよく生きてこれたものだ。
わたしは呆れてため息をついた。
やはり、わたしが「よく生きてこれたものだ」と思ったのは正しかった。
二刀流の男と、長槍の男は調子付いて門番に突っ込んで行ったが、銃によってあっけなく殺されたのだ。
商人を襲っていたんだ、銃位は持っていて当然だ。
あの二人が今まで生きてこれたのは奇跡だったのだろう。
だが成功報酬は100万丸だから、三人で分けるなら一人33万程に増える事になる。
割るのに半端だから、もう一人位減ってくれるといいんだけど。
「うぬぬぬぬぬぬぬっ!? 二人がやられた! こいつら飛び道具を持ってやがるぜ」
「くっそ、ガキ! 魔法で応戦しろっ!」
お前など一瞬で消す事も出来るのにと思ったがまぁいい。
こういう奴らには、分かりやすく力を示せばすぐに態度を改めるものだ。
わたしは今華々しいデビューを飾る為、右手を門へと向けて差し出した。
『コンプレッション・エクスプロージョンッ!』
これは半径10数メートルを吹き飛ばす爆裂魔法だ。
もっと効率の良い魔法や強力な魔法も使えるけど、ここではこの派手な魔法がいいだろう。
爆裂魔法コンプレッション・エクスプロージョンが発動し、門の前の空間が急速に収縮し始める。
それはやがて光の1点とまでなった後に爆発した。
派手な爆音を周囲の山々まで響かせ、アジトの門や付近の壁を粉々に吹き飛ばした。
同時に両脇に居た二人の門番も爆発に巻き込まれ、煙が晴れると少し離れた地面に倒れているのが見えた。
門番に殺された二人も爆風に巻き込まれて少し位置が変わっていた、どうせもう死んでるしどうでもいいんだけど。
「ははっ! ざまーみろっ!」
「くっそ! ったく、なら最初からやれってんだ」
しかし、こいつらの口調の汚さは耐え難いな。
二度と一緒に行動したくない連中だ。
ふんと笑おうとした時、わたしの左上から気配がしたと思うと、それはこちらに向かって落ちて来た。
とっさに気配の方へと顔を向けると、剣を持った男が木の上から飛び降りてきている最中だった。
そんなに気配を発してしまって、しかも空中から自由落下して来るなんて当ててくれと言ってる様なものだ。
魔法には瞬間的に発動出来るものだってあるのだ、ただの一瞬で消してやる。
剣を振りかざして落ちてくる男に向け、わたしは手を翳す。
わたしの手のひらに魔力の光が輝いた時……。
「そこだーっ!」
すぐ近くで大声が聞こえたと思うと、わたしの顔すれすれを重い何かがブンと言う音をさせて通った。
それは仲間の一人が振るう戦斧だった。
斧はその重量に任せ、落下して来る男に鈍い音をさせてヒットすると、そのまま元居た場所へとはじき返した。
飛ばされた男は木の幹にひっかかったが、やがて胴体が2つに別れてそれぞれ地面へと落ちて行った。
目の前での出来事に、ついあっけに取られてしまったが、生暖かい感触がした事によってすぐさまわたしの腕に異変が起きている事に気が付いた。
何と言う事か……あの男の振るった斧によって、わたしの右腕も半分程斬られてその傷はおそらく骨半分にまで達している。
深手を負うと想像より痛みはないものなのだな、わたしは魔法の発動を左手に変えてアジトから出てくる敵を倒した。
強盗団のアジトを一掃出来たのは、その日の夕方になった頃だった。
暗くなって来た為、街に戻らず近場の川の脇でキャンプをする事にしたのだが、その頃わたしの右腕は酷く腫れて痛み出していた。
治癒魔法をかけて痛みを和らげていたが、一向にそれは治まらなかった。
今まで擦り傷以外の怪我をする事もなかった為、本格的に治癒魔法を使ったのは初めてだったが、思っていたよりこの治癒魔法は効果が出ない事が分かった。
もっとも、わたしが使える治癒魔法はごく初歩的な自然治癒促進魔法の類であり、ヒーラーの使う上位の回復魔法とは比べられるものではないのだが、いくらかけ続けても出血すら止まらず傷が塞がる様子も見られなかった。
食事もとらず、治癒魔法をかけ続けているわたしを二人の男が舌打ちをして見ている。
「おいガキっ! 諦めろ」
「くっそ。あぁ、切るしかないな」
お前の斧のせいだろうが。
人の腕をこんなにして侘びの言葉もないのか。
こんな時、ヒーラーさえ居れば……。
ふと、わたしは幼馴染のセラフィの事を思い出した。
セラフィは魔法学校に途中まで一緒に通ったわたしの幼馴染であり、唯一の友人だった。
将来の夢を語り、一緒に旅をしようと誓った、心から信頼出来る相手だ。
わたしが精霊魔法使いになると言った時、セラフィはヒーラーになると言った。
その言葉通りにセラフィは魔法学校の途中で、聖職者になる為にナボラの修道院へと入ったのだ。
そして、魔法学校を卒業してすぐにセラフィは戻って来た。
だけど、わたしはセラフィとは一言も口を聞く事もなく、つい先日置きざりにしてこの街へとやって来たのだ。
セラフィは何も言わず悲しそうな目で見つめてたっけ。
なんでこのわたしがこんな目に、セラフィ……助けてよ。
とても惨めな気持ちになり、涙が頬を伝った。
その時……。
「全く、うぜぇガキだぜ」
「くっそ。じゃぁ押さえるぜ」
わたしは二人の男に体を押さえつけられた。
『な、何を!?』
「何を? めんどくせぇから切っちまうのさ」
「くっそ。聞いたか? 切っちまうんだよ」
『やめろぉぉーッ!』
必死に抵抗をするも、男達の強い力に身動きが出来ない。
そしてドスンと言う音の後、右腕に一瞬激痛が走り気が遠くなって行った。
再び目が覚めると、わたしは焚き火の近くに寝かされていた。
右腕を見ると、そこにはもう斧で斬られたあの傷のある腕はなく、腕の途中から切断され包帯を巻かれたものへと変わっていた。
暫くその短くなった腕を眺めていたが、何故だかすっきりした気分もした。
「切った腕ならもう埋めた」
「くっそ。腕は食えなかったが、別のもんはうまかったぜ。ガキにしてはな」
『……!?』
わたしはその意味がわからず、二人の男の顔を見ていたが、直に下腹部の痛みに気が付いた。
着衣も乱暴に肌蹴ている。
ハッとした表情をした時、二人の男がにやりとした。
翌朝わたしは一人、ジヌラへと戻って来た。
あの二人の男はあの後すぐに魔法で殺してやった。
今頃は狼の餌にでもなっている事だろう。
帰ってきたものの、腕が痛むので街の治療院へと赴いた。
元に戻せないかと聞いてみたが、それは無理だそうだ。
しかし、治せる者はたった一人だけだが存在すると言う。
その者とはナボラの聖職者の一人であり、それも神の子と言うとんでもなく遠い存在だった。
一般の者など立ち入る事は出来ない領域。
それでも治せると言われた事で、希望が湧いて来るから不思議だ。
そうだ、ナボラに行っていたセラフィなら分かるかもしれないし、頼んでくれるかも……。
いや、セラフィはダメだ、約束を守らなかったわたしがどんな顔をして頼めると言うんだ。
わたしはとりあえず、先送りの問題としておく事にした。
その後、依頼の報酬を受け取りに魔戦士組合へ向かった。
「そうですか……、あなたの他全員死亡したのですね」
担当は登録したあの女性係員だ。
係員は、わたしの右腕を見てすぐに納得した様だったが、曇るその表情を見ていると「だから言ったのに」とでも言っているかの様に思え、すぐに左手を当てて右腕を隠した。
もらった100万丸の報酬を使い、右腕に特注で義手を作った。
義手と言っても指が動く訳ではないのだが、人目だけは気にならなくなった。
でも、こんな腕じゃ村になんて絶対に帰れない、もう開き直ってこの世界で生きて行くしかないだろう。
100万丸もあった報酬だったが、義手を作る為に殆ど使い切ってしまったので、次の依頼を受けないといけないのだが、前回の事もあり暫く一人でこなせる簡単な依頼だけを受け続けていた。
その難易度はせいぜいCの簡単な依頼だったが、一人で暮らしていけるだけの収入は得る事が出来た。
そんな生活を続けて半年が経った頃には、いい加減地味な仕事をするのにも飽きてしまっていた。
最近になり、また最強の魔導士になった夢をよく見る様になった。
だけど、小さな仕事ばかりしている為か、魔戦士組合の評価ランクも2のままだ。
このままではとてもなる事は出来ないだろう。
やはりもっと大きな仕事をしなくてはダメだ。
そんな中、魔戦士組合の依頼掲示板を見ていると、1つの依頼が目にとまった。
――緊急募集、強盗団本部の殲滅
それは、あの強盗団の本部を一掃すると言う依頼だった。
当然一人で請ける事は出来ないが、この半年小さな依頼ばかりやっていたとは言え大分仕事にも慣れて来た。
右手の不自由ももう問題ない。
目的の為にもこれは請けるしかないだろう。
「この募集に申し込むのですか? 最近は大きな仕事をされていない様ですが大丈夫でしょうか?」
『いいよ……、登録して』
心配そうな顔をして、わたしの右腕をちらっと見る受付の女性をよそに、わたしの気持ちはかなり高ぶっていた。
「わかりました、今回は緊急募集ですのであちらで待機していて下さい」
受付の女性の示す方向を見ると、そこにはテーブルと椅子が置かれており、既に剣士らしき男が二人そこに座っていた。
一人は自信家そうに見え、もう一人はそれの付き添いの様に少しおどおどしている様に見える。
テーブルにつくと、自信家そうに見える男が話しかけて来た。
「キミ、この依頼に参加するのかい?」
『そうだけど、何か問題ある?』
早速来たか、どうせまたガキ扱いでもするんだろうな。
気に入らない奴だったら、帰り際にでも殺しとくか。
「お、そっかそっか、よろしくな。ほら、お前はビビリ過ぎだぞ? 彼女みたいにびっとしろよ」
「うっわー、だけど緊張するんだからしょうがないだろ」
何なんだ、この二人は。
年齢は大分上そうだけどまるで素人だな、当てにはなりそうもないけど嫌な奴ではなさそうだ。
少しするとそこに二人組の女が現れた。
一人は黒髪の妖艶な美人、もう一人はあたしより小さな背丈で華奢に見える体型に不釣合いな大剣を背中に背負っていた。
その大剣は、まるで血で出来ているかの様に真っ赤な色をしていた。
「あっちゃぁー、もう魔導士は居るんだね。クリーダどうするぅー?」
「別に何人でも構わないと思いますが……」
このやけに美人の女は魔導士か、クリーダとか呼ばれているからそれが名前なのだろうけど覚える気はない。
後、わたしが居ればもう魔導士は必要ないと思うけど。
それにしてもあの小さい女は大剣を背負ったままなのに随分軽快な動きをしているな。
見かけによらず、物凄い怪力なのかもしれない。
「あぁもう! ルビーさんは! 子供じゃないんですからそんなにはしゃがないで下さい!」
美人な女は、大剣を背負ったままはしゃいでる小さな女をひょいと持ち上げて椅子へ座らせていた。
今のは一体……、小さな女だけだったら分かるが大剣の重さもあるはずだ。
あっちも怪力なのか、それとも剣がハリボテなのか。
そう思って見ていると、二人の剣士達も同じ様に思ったのかあっけに取られた様子で見ていた。
「あらぁ?」
不意に真後ろから声がした。
振り返ると、また別の二人組の女性が立っていた。
二本の棍棒を、腰の後ろでクロスさせて装着していると言う事は、どうやら二人とも格闘家らしい。
一人は目力の強い左右の髪をリボンを結んだ女で、もう一人は下手すると少年と見紛う程色気を感じさせない女だ。
「おー! 噂をしてもしなくてもおチビじゃないかッ! 少しは背が伸びたかな? いや、おチビに限って伸びる訳がないッ! 正直、伸びたら負けだと思ってる。 だからあたしは神様に毎日祈ってるんだッ! 神様ラーメンライスッ! 伸びてない奴ねッ!」
もう一人の前髪を揃えた長い髪の女が、意味のわからない事を言い出し、その場で何かに祈り始めた。
「ブーッ! どうせならもっといい事祈れよッ!」
「お二人もこれに参加するんですか……」
美人の女が二人に声をかけると、二人の女は片手を上げて軽く挨拶する仕草をしていた。
何だ、この四人は知り合いなのか。
全く、煩いのが来ちゃったな。
「ゲェェェーーッ! 出たァァァッ!」
赤い大剣を背負った女がいきなり大声を上げた。
「おチビたーん、元気してたぁー?」
「ゲー出たって全く汚いなぁ! おチビには幻滅だよッ!」
「そのゲーじゃねぇッ! あ、そうだ! 急用を思い出したのでこれにて失礼ッ!」
すると、大剣の女は美人の女の手を引っ張って外に飛び出して行った。
「あ、おチビたん……行っちゃった」
「いい? 会うは別れの始まりって言うでしょ? でもね……、あたし達は違うんだ、それが腐れ縁って奴なんだ、覚悟するんだよ?」
「うん……」
言ってる事がもう滅茶苦茶だ。
何なんだこいつらは……。
結局、今回の依頼はヒーラーを一人追加して、剣士二人と変な格闘家の女二人とわたしの六人で行く事になった。
現地へ向かっている途中、格闘家の女達はピクニックにでも行くかの様にずっとおしゃべりをして笑っており、剣士二人はヒーラーを囲んで世間話で盛り上がっている。
その後ろからわたしは無言で付いていく形になっている。
わたしが一人なのはいつもの事だけど、他の連中の緊張感のなさは何なのか。
遊びに行く訳じゃなく、強盗団の本部をこれから殲滅しに行くと言うのに。
これは先が思いやられるな。
こんな状態の問題だらけのパーティで、半日近く歩いた所で日か傾き始めた為、適当な所でキャンプをする事にした。
「もう、あんたのせいよぉ? おチビたんが居れば野宿する事もなかったのにぃ」
「甘ったれるんじゃないよッ! 野宿は冒険のロマンなんだッ! ロマン……つまりいやらしい事も多少はあるんだ」
リボンの女がいやいやをすると、少年の様な女がにやっとしていた。
この格闘家の女達……やっぱり出来ているのか。
「ここはふかふかだよ、キミはここで眠るといい」
「ありがとう」
「そこにオレ達が両側からはさんで寝れば安心さ」
剣士二人とヒーラーもこんな時におめでたいな。
わたしはそんな連中達と距離を置いて寝る事にした。
空を見上げると、無数の星が落ちてくる様に光っている。
生まれ故郷の村の空を思い出しつつ、わたしはじきに眠りに落ちていった。
翌朝、朝焼けの中でわたしが目が覚めると、既に剣士二人が行き先の方向について話しており、ヒーラーの女は食事の準備をしている様だった。
端の方では格闘家の二人が頭から毛布をかぶって、もぞもぞとしてはクスクスと笑っている。
何だか随分とよく寝たな、昨日歩き疲れたせいだろうか。
剣士達の案内により、それから1時間程度歩いた所に荒れ果てた古い屋敷を発見した。
屋敷は既に人が住まなくなって10年は経っている様で屋根はボロボロで穴も空いている。
100メートル程離れた森の中から様子を伺う。
廃墟ではあるが、人の出入りはある様だ。
どうやら、これが強盗団本部で間違いはなさそうだ。
「さて、ここからどうやって攻め込むかをオレなりに考えたのだが……まず」
剣士の一人が攻略について話し始めた時、屋敷の方から銃を発砲する炸裂音が聞こえて来た。
この距離で気づかれたのかと思い身を隠そうとしたが、辺りには6人居たはずのメンバーの内四人しか居ない。
居ないのはあの格闘家の女二人だ。
さっきの銃声と言い、二人がいきなり屋敷に突っ込んでいたとしたら今頃は撃たれて死んでる事だろう。
全く、毎度毎度バカが突っ込んで死んでくれるな。
屋敷の様子を再び伺うと、何故かあの建物が倒壊し始めていた。
土煙を上げ、バリバリと言う木材の折れる音を立てて崩れて行く。
あっけに取られていると、少ししてあの格闘家の二人が何食わぬ顔で戻って来たではないか。
『あなた達……勝手になにしてるの?』
「何って、敵を倒して来たに決まってるじゃないッ! 敵が出てきたら倒すって作戦でしょ? だから建物も倒しておいた。これはサービスだよッ! 無料! 無料!」
そう言う少年の様な格闘家の目はマジだった。
「そ、そうか……は、ははは……作戦ね」
「……」
剣士達も呆れ、ヒーラーは声すら失っていた。
「ただねぇー?」
リボンの格闘家が呟いた。
『ただ?』
「無料って事? それはもう引っ張らなくていいから……」
「そうじゃなくてさ、ここ……違うみたい」
「ん……? 違う?」
「確かに中に強盗団は居たんだけどぉ、本部はあそこじゃなかったみたいよぉ?」
リボンの格闘家の話によると、ここにあった屋敷はアジトですらなかったそうだ。
その為、中には数人しか居なかったそうだ。
「そんなはずはない、報告の資料では位置的にここで間違いないはずなのだが……」
わたしは周囲を見渡してみたが、他にそれらしい目標物は見つからなかった。
根本的に場所を間違えているのだろうか。
「お……、来たみたいだよ」
「あらぁ? そうみたいねぇ」
二人の格闘家の女達が何かを楽しみにする様な口調で言った。
「来たって何が……ん!」
「お、おい……こいつは」
わたし達の周囲から強い気配を感じる……いつの間にか囲まれてしまった様だ。
どこから現れたのかは分からないが、これは倒す以外生き延びる道はなさそうだ。
わたしは魔力を高め、戦闘へと備えた。
それからすぐに四方八方から襲ってくる強盗団達との戦闘が始まり、気が付くと仲間ともはぐれていた。
遠くから銃声が聞こえているが、周囲の山々に反射して方角が分からなかった。
あれから何時間が経過して、何十人を倒したのだろう。
銃声も聞こえなくなり、周囲の敵の気配もなくなっていた。
このまま帰ってもよさそうだけど、まだ残党が残っているかもしれない。
一度倒壊した屋敷の方に向かって見よう。
仲間は……、別にどうでもいいや、もう全員殺されてるかもね。
暫く歩いて行くと、あのヒーラーの女が血だらけで倒れていた。
まだ小さく息をしている様だけど、様子からして長い事はなさそうだ。
わたしは立ち上がると、屋敷の方向へと向かって再び歩き出した。
その時、左から風切り音を感じ、とっさに左手を上げて防御した。
次の瞬間タンと言う音がして、左腕が急に軽くなった。
そして、足元に何かが落ちたのが分かった。
何が起こったのかは想像出来るけど、今はそれに気を取られてはいられない。
一度後ろへ飛んで距離を取ってから標的を捉え、対人用の即発動魔法を撃ち込む。
標的は軽く吹き飛ぶと、草の上で弾んで動かなくなった。
このヒーラーに気を取られて発見が遅れたか。
左手を見ると、関節の少し上からきれいになくなって血が噴き出していた。
止血したい所だが、右手は既に義手であり、指を動かす事は出来ない。
縛れないと言う事は、つまり止血をする事は出来ないと言う事だ。
今回はヒーラーは居るが、既に目の前で死に掛けている。
それを見つめているわたしもじきに出血多量で死ぬだろう。
手を上げてなるべく出血を防ごうとするも、徐々に意識が遠のいて行く。
意味のない事をしているなと冷静だった。
――なんなんだ……この情けない終わり方は
明日の今頃は、わたしは狼に食べられて骨になっているのか……。
『いやだなぁ……』
独り言の様にそう呟くと、わたしの意識は遥か遠くへと遠のいて行った。
***
その後、どういう訳だかわたしはジヌラの宿屋で気が付いた。
天井をぼんやり見つめつつ目をこすると、何故か顔にあたたかい感触がした。
不思議に思って再び見て見ると、そこには生身の両手が映っていた。
『あれ、わたし両腕とも……』
起き上がって何度も両腕を見てみるが、確かに両腕ともそこに存在していた。
義手ではない生身の両手、傷1つないきれいな腕。
部屋を見渡してみると、剣士二人と死にかけていたあのヒーラーもベッドで寝息を立てて眠っていた。
見たところ全員何の傷も負ってはいなかった。
もしかして、夢でも見ていたのだろうかと思ったが、枕元にあるものが目に入った。
そこにはお金が置かれていた。
お金は、他の者達の枕元にも置かれている。
金額は15万丸だった。
宿屋の主人に誰がここへ運んで来たのかを聞いたが、何故か知らないの一点張りで教えてくれなかった。
そう言えば、格闘家の女二人の姿が見えない。
まさか彼女達が治療して運んでくれたのだろうか、それとも別の誰かが運んでくれたのか。
どちらにしてもわたしの両腕が完全に復活しているのは謎だった。
剣士達とヒーラーと別れた後、わたしは魔戦士組合を辞めて故郷へと帰る事を決心した。
セラフィは許してくれるか分からないけど、それでも謝りたくてしょうがなくなったのだ。
「そうですか、辞めてしまうですね」
わたしは魔戦士組合の受付の係員のあの女性に、登録抹消の手続きをお願いした。
『はい、村に帰ります。色々とお世話になりました』
係員の女性はわたしの腕を見て不思議そうな顔をしていたが、最後にこう言った。
「短い間に随分と変わりましたね、またお会いする時を楽しみにしています」
にっこり微笑む女性にわたしも微笑んで返した。
何だかとてもすがすがしい気分だ。
さぁ、村へ帰ろう。
わたしは鼻歌を奏でながら村へ向かって歩き出した。
*トリックススターズ
王国に認定された魔戦士組合員の称号。他の組合員の指標。称号のみで何か特権が存在する訳でない。
*マトラ王国
500年の歴史がある王国。魔物(魔の者)との抗争を続けている。過去は隣国に攻め入って国土を広げた事もあるが、現在は協定を結び、武器や魔法を開発、輸出している。王室、軍、ラボで構成。
*魔戦士組合
王国が設立した民間からなるギルド。職安的な雰囲気。様々な依頼が集められている。
*登場人物
ネフ・インディゴ:最強の魔道士を目指す主人公。
セラフィ・パイラ:名前のみ登場。ネフの幼馴染。ヒーラーになる為、ナボラの修道院に入った。
*トリックススターズ
ルビー・サファイヤ:小細工魔法士、お婆ちゃんがいる、両親はもう居ない、飼い猫の名前はダイヤ、ヘリオの剣術を会得、真っ赤な両手剣を手に入れた。
クリーダ・ヴァナディン:科学魔導士、魔法と科学を合わせた魔法使い、ルビー大好き。完全電離プラズマ魔法は、瞬間で二億度を発生させる。
スフェーン・アウイン:マトラ最強のソーサラー、ランク8。ルビーとは昔色々あったらしい。
シンナバー・アメシス:プリースト、ランク6、家が教会、父はフェルドスパー・アメシス司祭、スフェーン大好き、片手棍二刀流を使いすぐ前へ出て行く最凶のプリーストとして悪名名高い、カレーをこよなく愛してる。よく少年と見間違えられるが一応女。実は神の子。
*その他
・強盗団
ジヌラ付近で活動しており、商人を襲っては金品を奪っている。ジダンとの繋がりがあるか、ジダンなのかは明らかにはされていない。
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