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砂漠に降る花 作者:AQ
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第三章 閑話 〜名探偵クロルの事件簿(1)〜

 魔術であっさり痛みをデリートしたオトナの国王と違い、王子たち3名はまだ床にうずくまったままだ。
 熱血リグルが「この腹の痛みを俺は自力で克服する」と言い出したものだから、頑固な兄弟3人で我慢比べ中。

 そんな3人とは一線を画し、1人手のひらの白いバラを見つめながら、大きくため息をつくルリだった。

  * * *

 壇上からフロアへと降りたサラの前には、3名の部門長が集っていた。
 戦地の情報と和平への道のりを探るため、しっかり情報交換が必要だろうと、国王が指示したためだ。

 一番仲の良い騎士団長バルトは、何やら気まずそうに頭をかいている。
 悪人ではないらしいと若干印象を変えた魔術師長も、サラを前に言葉をかけあぐねている様子。
 文官長は最も高齢だが、あのクロル王子と仕事をしている人物とあって、何を考えているかまったく読めない……まさに、ちりめん問屋のご隠居的ジーサン。

 サラは、ひとまず気になっていたことを聞いてみた。

「あのー、魔術師長?」
「はいっ!」

 小柄で気の弱そうな魔術師長が、小学生のような元気良い返事をしたことに、サラはくすっと笑った。

「今日は、コーティ来てなかったみたいだけれど、お休みかしら?」

 細い指をあごに当て、少し唇を尖らせる思案顔のサラ。
 先ほどまでの風格漂う黒騎士とのギャップに、魔術師長は戸惑いつつ返答する。

「コーティは、本日会議に参加するよう伝えておりましたが、なぜか来なかったようで……」
「本当? 部屋で倒れていたりしないの?」
「はい、会議前呼びに行った者より、室内はもぬけの殻だったとの報告が」

 そのとき、壇上でうめいていた1人の男が立ち上がった。

「エール兄、僕を治して!」

 クロルだった。
 フザケ半分でじゃれていた先ほどまでとは違う、殺気を感じるほどの真剣な瞳。
 エールは請われるがままに、無詠唱でクロルの痛みを消去する。

「ありがと! 2人はそのままそこに居てもいいよ」

 舞台から身軽に飛び降りると、サラたちの方へ駆け出すクロル。
 一瞬目を見合わせたエールとリグルも、何事かと慌てて後を追った。

「今の話って、本当っ?」

 突然乱入したクロルに、魔術師長は戸惑いを通り越して困惑の表情でうなずく。

「サラ姫!」
「はいっ!」

 今度は、サラが小学生のような返事をする番。

「昨夜のことは、エール兄から聞いてる。さあ、一緒に行こう!」

 クロルはサラの右手をしっかり握ると、会場から逃げるように走り去った。
 またもや必死で追いかける、エールとリグル。

 その様子を壇上から見守っていた国王が、ふむと言いながらあごひげをしゃくった。

  * * *

「クロル王子、どこへ行くのっ?」

 はあはあと息を切らせながら、廊下を駆け抜けていくサラ。
 中庭に小さな森を抱えるほどの広い城内を、端から端までダッシュは、お姫さまスタイルのサラにもキツイ。
 特に、フカフカのカーペットにヒールの踵が取られ、確実に3割はスピードはダウンする。

「説明は後でねっ!」

 方向音痴のサラにも行き先が分かったのは、2度ほど往復した道だから。
 到着したのは、クロルの隠れ家がある図書館塔だった。
 風の魔術を使ったエールと、元々脚力があるリグルも追いついたため、4人はひとかたまりになり階段を昇る。

「クロル、どういうことだ?」

 あれだけの距離をダッシュしたというのに、涼しげな表情のエールが問いかける。
 乱れた呼吸を整えつつ、魔術とはやはり便利なものだと、エールを恨めしく思うサラ。
 勝手にライバル意識を膨らませるサラに、クロルが呑気な口調で話しかけてきた。

「実は前から、サラ姫に試してもらいたいことがあったんだよねー」

 クロルは、図書館塔の階段を4階まで上り詰め、いつもの隠れ家を通り過ぎ……。

「おい、クロル! この先はダメだ!」

 後方から伸ばされるエールの手を、バスケのフェイントのように軽く避けると、クロルはそのまま上へと昇っていく。

「リグル兄、エール兄をおさえてて?」
「お、おう」

 図書館塔そのものが初めて訪れるというように、きょろきょろと建物を見渡していたリグルは、クロルの命令に大人しく従った。

「クロル!」
「本当にエール兄は、隠し事が多いよね。今度全部キッチリ吐いてもらうから」

 サラの右手を引っ張りながら階段を昇りつめ、5階を封鎖しているドアの前までたどり着いた。
 何の前フリもなく、サラの手はそのドアへと伸ばされる。
 触れた瞬間、静電気が走るような、ピリッとした感覚。
 思わず手を引いたサラは、クロルのキラキラ光る瞳を見つけた。

「やった! 封印解除! さすがサラ姫、僕の嫁っ!」
「てめーの嫁じゃねえ!」

 暴れるエールを拘束しているため、リグルはクロルへ足でツッコミを入れたが、クロルは縄跳びのようにぴょこんと飛んで楽々クリア。
 もしかしたら、クロルはかなり運動神経が良いのかもしれないと、サラは思った。
 単にメンドクサイという理由で鍛錬を怠っているとしたら、お仕置きが必要かもしれない。

「まあ、入ってみようよ」

 ニッと微笑んだクロルは、その閉ざされた扉を開けた。

  * * *

 何十年、何百年もの間、閉ざされていたという図書館塔5階。
 そこにあるのは……。

「――何も、無い?」

 エールの戸惑う声が、室内に反響する。

 そこには、ガランとした空間が広がっていた。
 大きさも部屋の作りも、開かずの間と同じだ。
 窓の無い密室は、薄暗く息苦しいため、ドアは開放したまま進む。
 エールが炎の魔術で隅々まで明るく照らしてくれるので、視界は鮮明だ。

 一番奥の壁際へ進み、ふとしゃがみこんだクロルは、床に落ちている何かを摘むと、ズボンのポケットに入れた。

「よし、ここは終了! 次行こう!」

 サラたちは、再びダッシュでの移動を開始した。
 またもや広い王城を、隅から隅へと駆け抜ける間に、サラの足は豆ができてじくじくと痛む。
 それでもクロルはサラの手を掴んだまま、離してくれない。
 サラも、なぜかその手を離そうとは思わなかった。

 まるで気まぐれな猫のような行動を取るクロル。
 しかし、好奇心に輝くその瞳からは、人を魅了するような光線が出ていた。

「クロル、せめて目的を教えてくれよっ」

 1人体力が有り余っているのか、猛ダッシュしているというのに軽いジョギング感覚のリグルが話しかけてくる。
 さすがに息が切れてきたのか、クロルが細切れに呟く。

「リグル兄、元気なら……魔術のしくみ、サラ姫に、説明を……」
「んん?」
「魔術師、贄、対象物が……揃ったときに、精霊は、どこから現れるか……」

 リグル王子の思考が迷路をさまよっている間に、サラ達は2番目の目的地にたどり着いた。
 そこは、サラも一度行ったことがある場所。

「まさかと思ったが、クロル……お前ってやつはっ」

 頭が痛いというように、骨ばった指でこめかみを押さえるエール。
 新陳代謝が良く汗だくのリグルは、白い上着の袖で額をぬぐう。
 クロルはまだ余裕があるのか、その笑みを崩さない。

 ズボンのポケットから取り出したのは『開かずの間』の鍵。

「せっかく僕の部屋から一番近いのに、ここに来るのはまだ3回目」

 サラと2人で行った後に、もう一度訪れていたことをさりげなく暴露しつつ、気楽なお散歩のように告げると、クロルはあっさりその扉を解き放った。
 ツンと鼻につくカビ臭は、初めて足を踏み入れたときと同じ。
 こういう場所が苦手なのか、リグルは尻尾を丸めながら「は、はやく灯りつけてくれ、エール兄……」と呟く。
 リグル以上に動揺したサラは、無意識にクロルの手を強く握り締めていた。

 嫌……あそこは嫌。

 サラが心底行きたくないと思った場所へ、クロルは容赦なく足を勧める。
 どす黒い痕の残る、最奥の壁へ……。


「はい、サラ姫。ここもよろしく!」


 黒ずんだ壁に、手のひらをペタリと押し付けられ、サラは悲鳴を飲み込んだ。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 この閑話は、クロル君が第三章の置き土産……あちこちから拾ってくれるという話です。こんなにばら撒いてタンスか! と思っても、後の祭り。サラちゃんと2人でも良かったんだけど、アクセントに兄2人も連れてきてしまいました。しかし、拾っても拾ってもまだ落ちている……まるでこの話の誤字脱字のよう。あとここでまた宣言しておきます。1つ、人より力持ち(←いなかっぺ大将)……じゃなくて、1つ、伏線は拾い切れませんので、一部次章へ持ち越します。2つ、文章とにかく手抜きします。描写は限界ラバーズ(←ショーヤ)……じゃなくて、限界まで削らせていただきます。3つ、8月中には過去の分も含めて、読み直し&変なトコ直します。はあー……。
 次回は、塔の探索の続きです。いろんな意味で、細かいとこはスルーお願いします……。
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