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砂漠に降る花 作者:AQ
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第三章(30)会議スタート

 前夜の事件のせいでだいぶ疲れていたのか、その朝サラはリコに殴られて目が覚めた。

「さっ、早く起きてください! 今日は大事な日なんですからね!」

 いつものように豪快にサラを着替えさせながら、リコはふと白いテーブルの脇に目を留めた。

「あら? サラ様、夕べどなたか訪ねてきました?」

 ワゴンの上に残された、2つのカップとフルーツエード。
 飲むと”マヒ”状態になって戦闘不能になるアイテム。
 美味しかったのに、もったいない……。

 サラは、リコに「ねー、”キアリク”って言ってみて?」とお願いしたが、「今日は遊んでる暇無いんですよっ!」と一蹴された。
 そのうち例の侍女魔術コンボが展開され、しぶしぶ着替えと身支度に協力するサラに、リコは言った。

「そうだ、伝言を預かってました! クロル王子から」


『今日は何が起こっても、全部僕に任せて』


 リコの言葉を聴きながら、クロルの氷の微笑を思い出したサラは、なぜかザワワと背筋に悪寒が走った。
 サラの頭に髪飾りを刺しながら「このお城にも、頼りになる人が居て良かったですね」と、リコは嬉しそうに笑った。

  * * *

 王城内の大広間。
 つい数日前に、サラが始めて男装解除姿を披露した、記念すべき場所だ。

 その後は毎日ドレス暮らしなので、足をもつれさせる細身の靴や、スピーディな歩行を阻害するズルズル長いスカートにも慣れた。
 ただ1点、ドレスのお腹がキツくなるから、あまりご飯を食べられないことが悔しい。
 腹12分目くらいは楽勝なのに、9分目で満足しなければならない。

 王族はもちろん、魔術師、騎士、文官たちが3ブロックに分かれて整列している中で、サラは広間の左側に居並ぶ魔術師たちをチラリと横目に見た。

 魔術師の着ている服なら、どんなに食べても大丈夫そうだ。
 そんなラッキーな制服を支給されているというのに、魔術師には痩せている人が多いから不思議だ。
 時々でっぷりと太った魔術師を見かけると、つい”魔人ブウ”とあだ名をつけたくなってしまう。

「コーティは……いない、か」

 さすがに大きな会議だし、力があるとはいえ下っ端のコーティは参加できないのだろう。
 元気な姿を見て安心したかったが、仕方ない。
 後でデリスあたりに聞いてみよう。

 魔術師の隣には、騎士たちがいる。
 騎士集団も、ある程度の人数が警備に割かれているようだ。
 先頭に立つバルトと目があったサラは、軽く微笑んだ。
 バルトは一瞬慌てた様子で視線をさまよわせると、軽い会釈を返してくれた。

 文官に目を移してみたものの、サラの知り合いは居ない。
 全員がほぼ中年のオジサンで占められているのは、若者たちにあまり人気が無い職業だから……らしい。
 怪我をしたり、才能を見限ったりと、魔術や剣の道から外れた人たちの受け皿として機能している。
 だからこそ、若くして「文官になる」と宣言したクロルは、可愛がられているのかもしれない。

 彼らを束ねるのが、侍従長。
 国王と彼らの間に立ち、クッションの役割をする。

 簡単な仕事はエール王子や各部門長に振り分け、魔術師と騎士の対立を仲裁したり、その他揉め事は全て侍従長に持ち込まれるらしい。
 よほどストレスが溜まるのだろう、彼の眉間に刻まれたシワは消えることがない。
 60代後半かと思いきや、実年齢がまだ50才と聞いて、サラは内心ショックを受けた。

 壁際には、数名の侍女達が控えている。
 その中にはデリスの姿を見つけたが、サラは挨拶を控える代わりに、ピシリと背筋を伸ばした。

 残りのメンバーは全員、サラの隣に居る。
 パーティの時と同じく、豪華な衣装に身を包んだ、国王、3人の王子、姫、そして……あの女も。

 初めて見たときのように、国王の背を守る月巫女。
 魔術師ファースと同じグレーのローブをまとい、無表情で存在感を消しながら佇んでいる。
 フードの裾から零れる銀髪を、あれだけ美しいと思ったのに、今日はまったく心が動かない。

 ……今はまだ、そのときじゃない。
 クロル王子が、きっと何か考えているだろうから。

 サラが目の端で月巫女を観察している間に、侍従長が壇上に上がってきた。
 パーティの時と同じく、しわがれた力強い声が響いた。

「ただいまより、トリウム国の――」

 しかし、国王はすぐにそれを制する。

「あー、よいよい。堅苦しい挨拶は抜きだ」
「こっ、国王様……」

 泡を吹いて倒れんばかりに動揺する侍従長。
 国王は玉座から立ち上がると、左手を横へ伸ばした。

 それが下がれという合図だったのか、侍従長は苦虫を噛み潰したような表情で、左手後方へ移動する。
 国王を挟んで、月巫女と線対称の位置に落ち着いた。

  * * *

「本日は、臨時の召集に応えてくれて、感謝する」

 息を詰めて国王の言葉を待っていた臣下たちは、ねぎらいの言葉を受け取ると、少しだけ表情を和らげた。
 一部には、何らか問題が発生したため、今回の会議の規模が大きくなったのではないかという懸念が広がっていたからだ。

 そんな彼らに、国王の次の言葉が届くと、空気が変わった。

「さて……皆に集まってもらったのは、他でもない」

 ほんの少しだけ、低められた声色。
 眩しげに細められた二重の瞳には、冷徹な光が宿る。
 その瞳が、会場全体をぐるりと見渡すと、その視線を受けた誰もが壇上から目を逸らせない。
 サラは、そんな国王の横顔を、王子たちの姿の影から見守っていたが、その視線はついつい隣に立つ人物へ移ってしまう。

 国王のすぐ隣には、エールが居る。
 真剣な面持ちで国王を見ているエールは、顔色も悪くないし、むしろ調子が良さそうに見える。
 先ほどサラと顔を合わせたときも、珍しく照れたように笑いながら、そっと耳元で「昨日はすまなかった。あのことは誰にも言わないから」とささやいてくれた。

 あのこと……。

 それを思い出した瞬間、サラの視界からは、国王もエールも、ましてや自分達を注目する数百人の人々も消えた。
 心を支配するのは、あの緑の瞳。
 少しハスキーな声。
 生まれて初めて、男の人から告げられた言葉。

 昨夜は、腰が抜けるほどびっくりした。
 あんな風に言い逃げされたのはしゃくだけれど……悪くない。

 サラがニヤつきながら、うんうんと首を縦に振ったとき。


『オオー!』


 会場全体が、どよめいた。

「サラ姫っ! 本当かっ!」

 まるで野犬のような荒々しい形相でサラに詰め寄ろうとするリグルと、それを必死で止めるエール。
 国王は、なぜか驚いたように目を見開いて、サラを凝視している。
 戸惑うサラの視線は、すぐ隣で顔を真っ赤にしているルリへと向けられた。

「あの、今何か……?」
「私、やっぱりイヤよ……自分より年下のお母様なんて……」

 それだけ呟くと、白魚のような指で顔を覆い、うつむいてしまったルリ。
 ルリの台詞の意味が分からず、半ばパニックに陥りかけたサラに、国王が颯爽と歩み寄ってきた。
 サラが少しだけ心惹かれる、あのいたずらを企む少年の笑みを浮かべて。

  * * *

 国王が目の前に立つと、女子としては決して小柄ではないサラも、すっぽり隠されてしまう。
 壇上に居る者はともかく、臣下たちからはサラの姿は見えなくなった。
 国王の背中を覆う鮮やかな緋色のマントが翻り、純白の上着の袖がサラへと伸びていく……その動作から、何が行われているのかをイメージするしかない。

 サラの細い両肩は、がっしりとした国王の両手で掴まれていた。
 かわいらしいパフスリーブの膨らみが潰れてしまうが、それどころではない。

 国王はサラの体をくいっと引き寄せると、厚い唇をサラの白い両頬に、2回軽くタッチ。
 ヒゲをチクリとやられて、思わずサラが身をすくめると、ほんのかすかな……しかし、冷静極まりない声が届いた。

「サラ姫、どうやら覚悟はできたようだな?」

 ならば幸せにしてやると告げられ、もう一度左ほほの隅へとキスが落とされる。
 くるりと巻かれた後れ毛のあたりが、たくさんの固く太い毛でチクチクする。
 くすぐったいのは苦手だ。
 そのせいで、頭がうまく回らない……。

 覚悟って……幸せって、何……?


「――ちょっと待った!」


 完全に放心状態のサラと、狙った獲物の喉笛に噛み付きかけた国王の間に割って入った勇者は。

 氷を通り越して、ドライアイス並の冷気を発する、クロルだった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 国王様、暴走の巻でした。彼はこんなチャンス逃さないお方ですので。具体的になんて言ったのかは、読者さまのご想像にお任せ……といいつつ補足すると、ぼんやりしてるお魚サラちゃんに釣り針投げてみたところ、逃げるかと思ったら食いついてきたので一瞬ビックリ。でもラッキー……的な展開だったようです。野球で例えるなら牽制球アウトってとこですね。「ちょっと待った」コールはネルトンです。あと、最後サラちゃんに「幸せってなんだっけなんだっけ」と言わせようと思ったのはボツ。「おじちゃんのおひげが痛いの〜」(←あーみん)もボツ。「キアリク」はドラクエの毒消し魔法ですね。※現在分かりにくいボケは止める&解説入れていきますキャンペーン中。
 次回から、国王様VSクロル王子です。新旧似たもの対決……あまり激しくなりすぎないように注意します。当然ぼよよんな主人公は蚊帳の外です。
+注意+
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