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砂漠に降る花 作者:AQ
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第三章(19)魔術師の思惑

 ドレス姿のサラと初めて顔を合わせた、あのパーティのときも、国王はこんな表情をしていた気がする。
 自分の思うとおりに事が進むという、絶対的な自信。

 なぜだろう、それを崩してやりたいと思ってしまうのは。
 3人の王子を騙した罰を与えてやりたい。
 そんなことする権利、私には無いと分かっているけれど……。

 サラは自分を見上げる国王から目を背け、悔しさに奥歯を噛み締める。
 その横顔をじっと見つめていた国王は、先ほど払いのけられたサラの左手へ再び指を伸ばした。

 包帯の上から、じわりと生温い熱を感じる。
 それは、国王の魔術の証。

「国王、私には魔術は……」
「いいんだ、俺がやりたいだけだから」

 優しい声色と困ったような笑顔に、今度はその手を振り払えなかった。
 謀ったこととはいえ、多少の罪悪感はあったのだろう。
 特に、まったくの部外者であるサラに対しては。

 サラは、ただ黙ってその熱を受け止めた。

 しばらくして気が済んだのか、国王はサラの手を離し立ち上がった。
 椅子に腰掛けるサラと、立ち上がった国王の身長差は、大人と子どものようだ。

「ひとつ、聞かせてくれないか?」

 天から降ってくるような、国王の低い声が響いた。
 小さな声がこの空間を支配し、サラの心の奥へも浸透していく。
 神様の声とはこんな音色なのではないかと、サラは思った。

 夢見るようにぼんやりと国王を見上げるサラに、降ってきたのは。

「サラ姫は、あの曲者ぞろいの王子たちを、いったいどうやって落としたんだ?」

 神様の問いに、サラはうまく答えることができなかった。

  * * *

 国王は、エールの事情を薄々感じていたという。

 母親の死、懐いていた魔術師ファースの失踪、そして近づく魔術師団。
 そもそも大人しく温厚なエールが、何かを諦めたような冷たい表情で「次期国王になる」と告げてから、国王もそれなりに悩んできたそうだ。

 しかし、国王としての命令も、父親としての言葉も、エールの心を動かすことはできなかった。
 サラが、この城にやってくるまでは、手立てがなかったのだ。
 その傷が癒えるのを待ちながら、エールの好きなようにさせてやることしか。

「本当に、ここまで面白……いや、うまく話が進むとは思わなかったんだ。俺が見たかったのは、魔術師長の反応だ。サラ姫の登場で、あっさり”婚約解消”の相談を持ちかけてきたときは、さすがの俺も笑いを堪え切れなかったぞ」

 いつも遠慮なく大笑いしているくせに……。

 どこまで本気か分からない国王の話を、サラはむっつり黙って聞いていた。

 国王はすでに自分の席に戻って、優雅にお茶を飲んでいる。
 その横には、相変わらず考えの読めない無表情のデリス。


 デリスが朝食を片付けて、戻ってきたのはつい先ほど。
 いつもガラゴロと引いているワゴンに乗っていたのは、焼きたてのスコーンと数種類の甘いジャムだった。

 サラは、国王の「冷めるぞ」の言葉に促され、しぶしぶとスコーンに手を伸ばした。
 何もつけずに一口かじり、香ばしい粉の香りと素朴な味にノックアウト。
 摘みたてフルーツを贅沢に使ったジャムを、次々と試していき、あっという間に全て平らげたサラの機嫌は、すっかり元通りだった。

 ああ、なんだか私、また謀られたかも……。

 節操の無い自分を軽く恥じつつ、サラは「ごちそうさまでした!」と国王に礼をする。
 その次に、デリスにも一礼。
 存在感を消すように、無言で椅子に腰掛けていたデリスが、かるく会釈を返す。

 30分でフルコースを用意することができる国王ならば、きっと話の流れを読んで、このタイミングで甘いものを出すようデリスに指示したに違いない。

 敗北感でうなだれるサラを見つめ、国王は笑みを漏らす。
 その柔らかい視線が、サラの口元で止まった。
 つい先ほどまでサラの左手に触れていた国王の逞しい腕が、今度はサラの頬へと伸ばされ……そっと、唇の脇をぬぐった。

「サラ姫、ジャムがついていたぞ」

 サラの前につきつけられた国王の指には、たぶんリンゴジャムと思われるゲル状物質がちょこんと乗っていた。
 恥ずかしさに、サラの頬はバラ色に染まる。

 言ってくれれば、自分で取るのにっ!

 サラが遅ればせながら、膝の上に広げたナプキンを使おうと意識を下に向けかけて……固まった。
 国王は、指についたものをペロリと舐め「うん、美味いな」と呟いた。

 すかさずデリスが「国王様、このようなことはワタクシが居ないときになさってください」と、不思議なツッコミを入れた。

  * * *

 続きがあるならワタクシはこれで……と立ち上がりかけたデリスを慌てて引き止めた国王。
 悪かったと呟くと、緩んだ表情を引き締めて、話の続きに戻った。

「サラ姫の活躍は、俺にとって嬉しい誤算だった。エールが目覚め、リグルが立つなら、もう俺は……お役御免だな」

 サラは、顔つきだけは真剣なものの、相変わらず軽い口調の国王を遠慮なく睨みつける。

 パーティで行ったサラへのプロポーズは、周囲に火をつけるためのパフォーマンスでしかなかった。
 サラが、あれだけ動揺させられたというのに。
 おかげで状況はずいぶん改善されたのだろうけれど、利用された側としては、やはり釈然としない。


 ともかく国王の狙いについては、理解できた。
 エールに取り付いた魔術師長を引き離すための、ちょっとした矛盾をつくってやっただけのこと。
 魔術師長には、サラを追い出すとか、殺すとかいう発想は無かったようだ。
 むしろ自分の娘を引っこめることで、エールを立て続けるという選択をした。

 サラの中で、大きく印象が変わった”魔術師”という存在。
 そもそも魔術師へのイメージを植えつけたのは、クロルだ。
 図書館の隠れ家で、クロルはサラにこんな言葉をぶつけたのだから。


『この城の魔術師は全員、黒騎士サマを殺すつもりだと思った方がいいよ?』


 魔術師長がそのつもりなら、婚約解消をする意味は無い。
 サラの存在を消してしまえば、すべて元通りになるのだから。

 魔術師長が、自分の娘を王妃にするという野望を諦めたのは、いったい何故なのか。
 エール王子の病状が悪化したためか。
 しかし、エールの命を危ぶんでいたとしても、現在戦争そっちのけで光の精霊アイテム探しにやっきになっているという話だし、まだ諦めてはいないはずだ。

 サラは、パーティで一度だけ顔を合わせ、にこやかに握手を交わした魔術師長を思い浮かべた。
 当時は先入観が無かったせいか、特に悪い印象は無い。
 侍従長ほどではないが、それなりに年がいっていて、小柄で大人しそうな人物だなと思った。

「国王、なぜ魔術師長は娘さんの婚約解消を選んだのでしょうか? エール王子の、病気のせいですか?」

 1人で悩んでも答えは出ない。
 サラは、思い切って質問してみた。

「魔術師長の娘は、まだ成人前だ。ずいぶん年が行った後にできた一人娘だからな……期待も大きかったのだろう。自分の後継者にと考えていた息子を、戦争で亡くしているから、なおさらな」

 国王の答えは簡潔だったが、サラはその言葉で魔術師長という人物がずいぶん理解できた。
 頑なに参戦を拒んだことも。
 思惑があるにせよ、エールの延命に尽力していることも。

 好戦的な騎士団と違って、この国の魔術師はそもそも穏やかな気性の人物が多いという。
 魔術師長も、防御系の魔術や、新たな魔術の研究などの成果が認められ、こつこつと上り詰めたそうだ。

 サラは、1つの結論を導いた。


『魔術師長は、サラの敵ではない』


 ではなぜ、クロルは『魔術師がサラの命を狙っている』と言ったのか。
 単にサラを怖がらせたかったのか、それとも……。

 クロルとのやり取りが、頭の中で詳細に再生されていく。
 サラの敵は魔術師だけではないと、クロルは言った。

 そして、クロルとの会話の中から、まだ解決されていない謎を見つけた。

「国王に近づくと……魔女に呪われる……?」

 ポツリと漏れたサラの言葉。
 反応したのは、国王ではなかった。


「サラ姫様、いけません!」


 突然立ち上がり、真っ青な顔で叫んだのは、デリスだった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 すみません、長くなったので中途半端なとこで切れました。というか、この先の展開を大きく書き直すことに……今回はちょっと不出来です。後で直すかも……。UP遅くなって本当にすみません。
 次回、国王様の暗部が明らかになります。どこまで明らかになるか……作者も悩み中。
+注意+
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