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砂漠に降る花 作者:AQ
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第三章(11)波乱のお茶会スタート

 その朝、1時間ほど早起きしたルリ姫。
 眠い目をこすりながら侍女を呼び出し身支度をすると、サラの部屋を訪れた。
 おかげで、今日の髪型は横髪だけを編み込み花飾りで止めた、一番シンプルなもの。
 化粧もほとんどしていない。

 早朝を狙ったのは、昨夜リコというサラ姫の連れてきた侍女から、「特にイベントの無い日は、この時間なら比較的マトモなサラ様にお会いできますよー」と聞き出していたから。
 それでも、ルリは若干びくついていた。

 サラの部屋をノックしようとして、右手を握り締めたまま少し考える。

「ちょっと……ちょっとだけ」

 ごめんなさいと呟くと、サラの部屋のドアノブをゆっくりと回した。
 いつもどおり、鍵はかかっていないようだ。

 少し東向きなサラの部屋。
 薄く開けられたドアの隙間から、ほのかに明るい光が差し込んで来た。
 これなら、部屋の中にいるサラには気づかれないだろう。
 ルリは、少しずつドアを開いていく。

「……ち……に……ん」

 耳に届いたのは、魔術の詠唱に似た声。
 今までほとんど聞いたことのない、苦しげなあえぎ声交じりの、サラの声だった。

 この中で、何か恐ろしいことが……。

 震える手で、もう少しだけドアを開いて、片目で室内を覗き込む。
 夜明け直後の淡い朝日を受け、サラのシルエットがうっすらと確認できる。

 サラは、床の上にうつぶせで寝かされ、両手を背に回して頭を持ち上げた……なんとも奇妙な姿勢だった。

 これって……。

 ――魔術で、拘束されている?


「サラ姫っ!」


 部屋の扉を開け放ち、飛び込んだルリ。

「きゅうひゃくにじゅうなな、きゅうひゃくにじゅうは……あれっ、ルリ姫、いつのまに?」

 寝巻き用ワンピース姿のサラは……背筋を鍛えていた。

  * * *

 呆然と佇むルリの脇を、侍女服のリコが「あ、いらしてたんですね。おはようございまーす」とにこやかに声をかけながらすり抜けて、濡れタオルで手際よくサラの汗をふき取り、定番の黒いドレスを着せた。

「それにしても、今日は朝から激しすぎですよ。また何かあったんですか?」

 サラの短髪を器用に結い上げながら、リコは質問する。
 一度風呂に入ったらいいのではないかというくらい、サラの体からは汗が噴出していた。

 リコにはお見通しだった。
 サラがストイックに自分の体を痛めつけるときは、何かあったときなのだということは。

「うん……夕べ、ちょっとね……」

 曖昧に答えたサラは、怪訝そうな表情のリコから目を反らすと、ドアの前で立ち尽くしているルリに声をかけた。

「あっ、そういえばルリ姫!」
「な、何かしら?」

 唐突に声をかけられ、気を取り直したルリが、緩んだ口元を引き締めながら王女の微笑みを見せる。

「私が……筋トレ1000本やってるの、リグル王子には絶対内緒ですよ?」

 あの試合の後、サラは黒騎士魂に火がついていた。

 緑の瞳の騎士にも、リグルにも、勝てたのは運が良かっただけだ。
 正統派の打ち合いでも、負けたくない。
 いつか、リグルには再試合を申し込まなければ。
 黒剣を取り戻して、リグルにも自分の聖剣を持ってもらって。
 もしそれで負けたとしても、我が人生に悔い無し。

 サラが自分の野望を熱く語る姿を、うっとりと至近距離で眺めるリコ。
 再び口元をゆるめ、ぼんやりと虚ろな目で見つめるルリ。

 果てしない夢を熱く熱く語り終えたサラは、もう1つの裏目標も心の中で確認する。

 腕立て伏せだけは、もう少しノルマを増やさなければ。
 ダンベルを取り入れてもいいかもしれない。
 この間、騎士たちの倉庫にいくつか使えそうなアイテムが転がっていたから、今度リグルかバルトに言って、貸し出してもらおう。


 昨夜の肝試し……よりも、クロルの”弟疑惑”に思いのほかダメージを受けていたサラは、ルリ姫のドレスの胸元をチラリと見て、アレで1才差かと呟いた。

「ところで、ルリ姫は普段どんな食生活を……」
「ああ、私ようやく理解できました」

 サラの質問を遮ると、ルリはいつもの妖精スマイルを浮かべた。

「あなたが、珍じゅ……とても稀有な存在だってこと」

 一瞬失礼な単語が飛び出しかけたものの、笑顔で上手に取り繕ったルリ。
 リコは、ルリが言いたかったことをなんとなく察し、サラへと同情的な視線を送った。

「ときにサラ姫、今日の午後は何かご予定があるのかしら?」

 サラが、リコの顔を見ると、リコは首を横に振る。

「特に決まった予定は無いみたいです」
「じゃあ、あなたには来ていただきたいところがあります」

 ルリが告げた場所は、国王お気に入りの花畑があるという、城の中庭だった。

「今日は、毎月恒例のお茶会です。あなたを特別ゲストとしてご招待いたします」

 丁寧に用意された詳細地図付きメッセージカードを受け取りつつ、サラは思った。
 このお茶会でも、なんだか一波乱ありそうだと。

  * * *

 午後3時。
 ガッツリ勉強し、お昼ごはんをモリモリ食べ、ちょっと昼寝をしてきたサラの体調はすこぶる良好。
 何があっても耐えられる……いや、耐えなければと心に近い、その花園へ足を踏み入れた。
 人よりずっと背の高い木が多い茂り、果実や木の実も栽培されているそこは、小さな森と言っても過言ではない。

 どうやら、森の中にバラが咲き誇るテラスがあり、そこが4人で行う定例お茶会の場所らしい。

 サラは、渡された地図の通りに進んだはずが……何度も曲がる場所を間違えた。
 森を『ダンジョン』と名づけ、マッピングしつつ進んでいったことで、やや日が傾きかけた頃にようやく目印のバラ園に辿り着いた。

「ごめんなさい、遅くなりましたっ!」

 適度に日差しが当たるその場所には、テラコッタタイルが敷かれ、白いラウンドテーブルが置かれている。
 テーブルの上には、レースのテーブルクロス。
 広げられた数種類のお菓子とサンドイッチ、ティーポットにカップ。

 なかなか本格的なアフタヌーンティっぷりだ。
 これらはすべて、ルリ姫が用意したという。

「あら、サラ姫、遅かったじゃない」

 ルリは立ち上がると、サラの手を取り空いている席へとエスコートしてくれた。
 サラはペコペコ謝りつつ席に着くと、ルリ姫が淹れてくれる紅茶の、甘い花の香りを思う存分吸い込んだ。

 ――うん、落ち着いた。

 サラの右隣には、ティーカップを差し出してくれたルリ姫。
 左隣では、クロル王子が微笑んでいる。
 そして正面やや左手には、硬い表情のリグル王子。
 正面右側に、無表情のエール王子。

 サラが紅茶を飲む姿を、やけに真剣に見つめるクロル。
 満足したように頬をゆるめながら、サラがカップをソーサーに置いたタイミングで、クロルは話しかけた。


「サラ姫、昨日は怖がらせちゃってゴメンね?」
「あっ……うん、平気」


 サラは、落ち着いたはずの心臓が騒ぎ、頬が熱くなっていくのを感じる。

 昨夜、サラの左手に口付けた後から、クロルの態度は明らかに変わった。
 それまでの、気まぐれな洋猫のような態度から……理想の王子様に。

 魔女の部屋を出て、後宮の入り口まで送り届けたクロルは、本当に優しくて優雅で。
 別れ際には、サラの手に再びキスをして、極上の笑みを浮かべながら、サラが部屋に入るまで手を振っていてくれた。

 あれは、やばかった。
 今もやばいけど……。

 無駄にキラキラした王子スマイルを真横から向けられ、サラは初めて自分が女の子たちにどんな罪深いことをしてきたかを自覚した。
 そんなクロルの笑顔とサラの態度を見て、明らかに不審がる3人。

「おい、クロル……お前昨夜サラ姫に何したんだ?」

 怖がらせたという単語から、どんなイメージをしているのか、リグルが攻撃的に瞳をきらめかせた。
 口篭るサラと対照的に、クロルは饒舌になる。


「ああ、そういえば言い忘れてたっけ。僕、サラ姫と結婚することにしたから」


 クロルはサラの左手を取ると、長い睫を伏せて顔を近づけ、皆の前で堂々と口付けてきた。
 サラはもう、顔を上げることができなかった。

「おっ……お前……いや、ちょっと待て。お前はまだ13だ。早まるな」

 自殺志願者を止める警官のように、リグルが言う。
 エールとルリは、お茶にむせてゴホゴホと咳をしている。

「あ、それね。もう問題ないんだ」

 クロルは、キラキラ100%王子スマイルで、サラの手をとったまま告げた。

「今日の午前中で、法律変えてきたから。結婚は、男子に限り年齢制限無しになったよ」

 女の子の年齢制限は、幼女趣味持ちがいるからなかなかねー。
 本当は、結婚時の年齢差は20才までって盛り込みたかったんだけど、父様が目敏く見つけて却下されちゃったよ。


「だから、サラ姫。僕と結婚しよっ。今日にする? それとも明日?」
「ダメだ! サラ姫は俺の嫁だ!」


 椅子を倒しながら勢いよく立ち上がったリグルが、サラの手を撫でていたクロルの胸倉を掴み、強引に引き離す。
 クロルは乱暴な兄の行動にもまったく動じず、冷笑を返すのみ。
 珍しく慌てた様子のエールが、二人の間に割って入ろうと動いたとき、うっかり自分のカップを倒した。
 テーブルクロスに染み込むお茶を拭こうとしたルリの、ピラピラしたドレスの袖口が、自分のカップにじゃぶっと浸かり、悲鳴があがる。

 こうして、柔らかな午後の日差しを受けた穏やかなティータイムは、サラの登場と同時に修羅場へと変わったのだった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 ちとスランプ気味なので、なかなか話進まずスンマセン……。とりあえず「ケンカをやめて〜2人を止めて〜」な、王道ラブコメ風にエピソードにしてみました。オタク……じゃなく職人系クロル君、思い込んだら行動力発揮します。というか、じわじわ囲い込み漁? 作者が以前、若くして結婚した友達(男)に理由を聞いたら「彼女の親に寿司をおごられた。2回連続」と言われて納得したことを思い出しつつ。あと、サラちゃんの筋トレ1000回は、大好きだった少女漫画のワンシーンから。『月刊きみとぼく』という超マニアックな雑誌で連載してた……あー、マンガの話は長くなっちまう。その辺の情報、日常ブログに書いておきます。
 次回はお茶会後半戦。弟2人にやられっぱなしのエール王子、そろそろ逆襲に入る……かも?
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