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砂漠に降る花 作者:AQ
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第三章(2)王の策略

 王の隣に用意された席に座ったサラは、次々と話しかけてくる貴族たちに笑顔で対応していた。
 縦一列、ずらりと並んだ貴族たちの先頭に立った人物の台詞は、ほぼ決まってこの一言。

「まさかあの黒騎士が、このような美しい女性だったとは!」

 サラが、花の髪飾りを揺らせながら「ありがとうございます」と礼をすると、貴族たちは赤くなり口ごもってしまう。
 後ろに立つ順番待ちの貴族に背中をつつかれ、最後は強引に横にどかされると、また次の貴族から同じ台詞を聞かされる。
 サラは、再び笑顔で一礼。

 サラの口元にできたほうれい線は、深くなるばかりだ。

 * * *

 音楽隊が、蛍の光ポジションにあたるだろう切なげなメロディーを演奏する中、ようやく貴族たちは去った。
 名残惜しそうな表情で、サラの方を振り返りながら。
 一部、サラと顔見知りの人物は最後まで残り「黒騎士様、またお会いしましょう!」と、笑顔で手を振っていた。


 アレクに武道大会の観覧チケットをくれた、あの上位貴族の母娘が目の前に現れたとき、サラは内心動揺した。
 ずっと隠していた秘密がバレたのだ。
 特に、少女の方は自分を男として、あんなにも慕ってくれていたのに。
 嘘つきとなじられても仕方が無いと覚悟した。

 ところが、少女はサラの想像と逆のリアクションを取った。
 サラと目が合った瞬間、そのつぶらな瞳から涙をポロポロとこぼしたのだ。

 可愛らしい女の子の涙を見ると、サラにはあのスイッチが入るらしい。
 決勝後のリコにしたように、少女にごめんねと囁き、抱き寄せ、頬をこぼれ落ちる雫を唇で吸い取った。
 その行為後、顔をゆでダコのように真っ赤にしてふらつく少女を抱きとめた母親は、サラと我が子を交互に見つめながら楽しそうに笑った。

 そんなサラのフェミニストっぷりを、横目で見ていた王族たち。

 第一王子エールは、正真正銘女であると確認した上で、黒騎士への警戒をほんの少し緩めた。
 第二王子リグルは、全力での手合わせが難しくなったことに落胆し、肩を落としていた。
 第三王子クロルは、黒騎士の行動にへえとかふーんとか呟きつつ、貴族たちを観察している。
 王女ルリは、笑顔を維持しつつも、無残に砕け散った妄想の後始末に必死だった。


 貴族たちが去った後には、この国に仕える騎士、魔術師、文官たちの重鎮だけが数名ずつ残った。
 サラをこの会場へと案内した侍女頭デリスの指示で、貴族たちが退席していく僅か数分のうちに、ビュッフェ等の片づけが終わっていた。

 これから、約束の時間が始まるのだ。

 * * *

 王は椅子から立ち上がると、サラの正面へと歩いてきた。
 武道大会で見たとおり、いやそれ以上の威厳がある。
 王が一歩足を踏み出すたびに、穏やかだった空気が冷たく引き締まっていくようだ。

 砂漠の国で、病に伏せていたあの王とは、何もかもが違った。
 王の瞳の光や、鍛えられた体から発せられるオーラを見れば分かる。
 こんな人が守る国を、簡単に奪い取れるわけがないのだ。

 サラは胸に手を当てる。
 薄い生地が幾重にも重なりあうドレスの胸元に仕込んだあの書状。
 ようやく渡せるときがやってきた。

「では、勇者よ。汝の望みを告げよ」

 王は、サラの前に立ち、座ったままのサラと目線を合わせた。
 見下ろされる形になったサラは、鳶色の瞳に込められた力が強まったのを感じた。
 サラはごくりと息を飲んだ。

 礼儀作法など考えられぬままに立ち上がったサラは、胸元へと手を入れる。
 一瞬、魔術師と騎士がピクリと緊張したが、取り出されたものは武器ではなかった。
 保護の魔術がとっくに消え、よれてボロボロになった書状を、サラは王へと差し出した。

 王は何か考えるように、たくわえた口ひげを指でこすると、サラの差し出した書状を受け取った。
 やや乱暴にその書状を開き、目線を一瞬斜めに走らせ……

「なるほど。そういうことだったのか」

 呟いて、また笑い声をあげた。

 王子たちも、部下たちも、なにより王のすぐ斜め後ろに立つ美しい女性も、王の笑い声にもう何度目かの強い違和感を感じていた。
 彼らは、このような公の場で、王の笑顔など見たことが無かった。

 彼らにとって王とは、神と同等の存在。
 何よりも優先され、敬われ、畏怖されるのは、その雄々しさとこの国を支えてきた実績ゆえ。
 今見せる笑みも、くだけた口調も、彼らの神たる理想の国王像にひびを入れるものだった。
 今日は何かが起こる……そんな予感に、彼らは体を固くしていた。

 そして、次の王の台詞により、彼らの緊張は頂点に達する。


「砂漠の黒いダイヤか……確かに、その黒髪は宝石をも霞ませるな」


 王は、輝くサラの黒髪と、胸元の宝石を見比べながらうなずいた。
 サラは、その変なあだ名やめて欲しいと思いつつも、ようやく使命を果たせる時が来たのだと、心を引き締めた。
 砂漠の国の王宮で習ったとおり、ドレスの裾をつまみ、深々とお辞儀をした。


「私の名前は、ネルギ国王女サラ。トリウム国へ、和平の書状を届けに参りました」


 顔を上げたサラの表情は、気高く、そして凛々しく、まさにあの日の黒騎士そのものだった。

 * * *

 「黒……いや、サラ姫様、よろしければこちらをどうぞ」

 女装ならぬ男装解除させられたときから、なんだかんだ気を張っていたサラ。
 侍従長と名乗る老人から冷たい水が渡されると、一気に飲み干した。
 サラの一挙手一投足を見守っていた騎士や魔術師は、その行動にようやく緊張を解いた。

 やましい謀があるなら、きっとこちらから差し出された飲み物には、安易に口をつけない。
 実際、以前王城にたどり着いた和平の使者は、一切の食事や飲み物を「この国の食事は口に合わない」と拒否したのだ。
 試したはずの行為だったが、何も考えずに「お代わりくださいっ!」と満足げなサラを見て、周囲の人間は毒気を抜かれていた。

 その間に、書状は王の手から王子へ、そして文官長、騎士長、魔術師長へと回されていった。
 ネルギ国王の印と共に、サラの身柄を保証することと、和平交渉を望むことの2点が記されただけの簡単なものだ。
 なのに、1人1人がかなりの長時間、その書状を眺めていた。


 トリウム国王は、ようやく肩の荷が下りたサラを労うように、優しく声をかけてきた。
 2人並んで座っているのだから、小さな声でも構わないのだが、わざと国王は声を張り上げる。

「それにしても、砂漠の奥深くに隠されていると噂に聞いたなよやかな姫君は、このような勇ましい人物だったとはな」

 仲良くなろうとしてくれているように感じたサラは、少し砕けた口調で切り替えした。

「私もまさか、男装して武道大会に出場するだなんて、砂1粒も思いませんでしたよ」

 それどころか、今こんな不思議な世界でお姫様することになるなんてね……

 拗ねたようなサラの表情に、王はくすくすと笑う。
 自分が笑うたびに表情を凍らせる人物が、すぐ傍に控えていることには気付かずに。

「その衣装は、急ごしらえの割には良く似合っているな」
「そういえば、このドレスを用意してくださったのは国王だと伺いましたが……」

 サラは、胸元をふわふわと綿帽子のように包む黒い羽を指でつまみ、素晴らしいデザインだと改めて思った。
 もしも、ルリ姫の着ているドレスのような胸強調系のデザインだったら、悲しいことに「スクープ! 黒騎士、女装姿でパーティへ」と、週刊誌に取り上げられてしまったかもしれない。
 羽をいじりながら、ずっと聞きたかったことをサラは思い切って質問した。

「なぜ、私が男ではないと分かったのですか?」

 約3ヶ月もの間、あれだけの人数の前に露出して誰一人疑わなかった、完璧なサラの男装。
 気づいたのは、直接胸に触れた魔術師だけだったのに。

「それは……なんとなく、な」

 国王は、椅子の背もたれの向こう側に、ちらりと視線を送った。
 サラが身を乗り出して国王の視線の先を向くと、表情を強張らせていた側近の女性が、長い銀髪を耳にかけ、軽く会釈した。
 そのやり取りの意味が分からず、サラは首を傾げる。
 もしかしたら、あの美しい女性は特別な魔術が使えて、人の性別を判断できたりするのかもしれない。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」


 国王は、立ち上がった。
 手招きして呼び寄せたのは、近くでサラの様子を伺っていた、3人の王子と姫だった。

 * * *

 軽い挨拶だけは済ませていたのだが、こうしてフリートークするのは始めてだ。
 サラは、なんと言ったらよいか分からず、目の前に並んだ4人の姿を順番に見つめた。

 上の王子2人は、黒目黒髪。
 特に長男のエール王子は、魔術師だけあってその髪を長く伸ばし、今は皮ひもで一つに結わえてある。
 相手がサラに対する警戒心から、不審げに眉を寄せていることにも気付かず、少し前まで自分もあんな髪型だったなー、シャンプー楽だしもうロングに戻れないなーと、サラは懐かしく思った。

 次男のリグル王子は、他の王子たちと違い、健康そのものといった褐色の肌をしている。
 どことなくカリムに似た雰囲気を感じるのは、ストイックな武人のオーラ故か。
 エールと違って、二重まぶたのリグルの瞳は大きく見開かれ、間近で見る美しいサラの姿に釘付けになっている。
 サラは、リグルの半開きの口元からヨダレが零れ落ちそうなことに気付いたが、なんとかスルーした。

 三男のクロル王子と、ルリ姫は、茶目茶髪。
 クロル王子については、サラも噂を耳にしていたのですぐに分かった。
 「クロル王子と黒騎士、どちらが美少年か?」というバトルは、サラのファンクラブでは常に議論されていること。
 ついついライバル意識を燃やし「ああん?」とガン見してしまうサラに、クロル王子も冷ややかな視線を返してくる。

 ルリ姫は、やはり噂で聞くとおり、可憐な妖精そのもの。
 クロルと良く似た顔立ちではあるが、よりふっくらした女の子らしい顔つきで、やや目尻の下がった大きな瞳が印象的だった。
 思わず見とれたサラの脳裏に「なんでーこんなにぃーかわいいのかよー」という、ド演歌が流れかけ、サラは慌てて頭を振った。


 しばらく自発的な会話を待っていた王だったが、誰も一言も発しないため、業を煮やして話しかけた。

「ルリ、黒騎士が女で残念だったな」

 その台詞からワンテンポ遅れて、ルリ姫の顔がみるみる赤く染まっていった。
 「お父様のバカ!」と心の中で呟くも、絶対的な権力者である王にそんなことを言えるわけはなく、ルリはただ俯いて恥ずかしさに耐えることしかできなかった。

「エール、リグル、クロル。お前たちには、喜ばしい結果かもしれないぞ?」

 再び、いたずらを企む王は、ニヤリと笑うと、サラと王子たちを交互に見つめながら言った。
 サラが薄々覚悟していた、あの台詞を。


「和平にあたっては、1つ条件がある……それは、両国の王族が血を結ぶことだ」


 王を見つめ、呆然と立ち尽くす王子たち。
 何も聞かされていなかった側近たちも、衝撃を隠せずにざわつく。
 トリウム王は、ネルギ王族自身が来ない限り和平を進めないと突っぱねた理由を、あらためて説明した。

 もしもカナタ王子が来たなら、ルリ姫を。
 サラ姫が来たなら、3人の王子のうちの誰かを。


「和平は、サラ姫とここにいる王子、いずれかの婚姻を持って成立とする!」


 ひゅうっと小さく口笛を吹いた、1人余裕の第三王子クロル。
 他の王子2人、ルリ姫、そして覚悟していたはずのサラも、有無を言わせぬ王の宣告にただその鳶色の瞳を見つめることしかできなかった。

 * * *

 クロルは、偉大な国王の発言の裏にある意図を考えていた。
 サラ姫と彼女に選ばれた相手が、互いに好意を持ったなら、幸せな結婚になるだろう。
 しかし、和平のためだけに結婚という制度を利用するなら、それはサラ姫を人質としてこの国に留まらせるということだ。

 ま、僕には関係ないけどねと、クロルは仲良しごっこをしている2人の兄が争う姿をイメージし、ほくそえんだ。


「ああ、もう1人候補が居たな」


 まだ頭がうまく働かないサラの傍に寄った王。
 とまどいに揺れるサラのブルーの瞳を見つめ、フッと微笑んだ後、まるで一介の騎士のように跪くと、その白くやわらかな手の甲に口付けた。
 サラの脳裏に、カナタ王子の声が蘇る。


『右手への口付けは、忠誠と親愛を。左手への口付けは……』


 王は、固く分厚い武人の手で、サラの左手を強く握ったまま、上目遣いにサラを見上げた。


「この俺も、今は独り身だ。俺を選んでくれても良いぞ? サラ姫」


 母の予言には無い展開に、完全にパニックとなったサラ。
 手のひらといわず、全身の毛穴からドッと汗が吹き出てくる。
 餌を求める金魚のように、パクパクと口を開いたり閉じたりを繰り返すものの、言葉が出てこない。

 言葉が出ないのは、王子や側近たちも同じだった。
 さすがのクロルも、今度ばかりは他の王子たちと同じように、固まっていた。

 そんな王子たちの表情を、面白そうに見つめる鳶色の瞳は、追加で爆弾を落とした。


「よし、サラ姫が選んだ相手を、この国の国王としよう!」


 俺を選んでくれれば、俺はもちろん嬉しい。
 王子たちを選んでも、俺は楽隠居できて嬉しい。

 立派なあごひげをしゃくりながら「一石二鳥だろう?」とささやいた国王は、英雄の名にふさわしい勇猛な笑みを浮かべていた。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 わーい。この物話で一番書きたかった殿方が、実は国王サマでした。ヒゲ&ダンディ! これ最強タッグだな。作者的には「ハイよろこんで!」って即答しちゃいたいくらいですが、そうは問屋が卸しません。サラちゃん、これから複数男子からの求愛攻撃に苦悩。しかし異世界召喚されていきなりこの展開になってたら、まさに正統派の逆ハーストーリーと呼べたんだけど……それだとアマすぎ夢物語すぎてなんだかなーと思うとこがあり、一章二章でサラちゃん頑張らせてみました。というか、三章は一瞬のご褒美タイムです。この先また波乱あるしね……。
 次回から、サラちゃん&王子たちの、もやサマ的ぶらり結婚相手探しの旅スタートです。ルリ姫だけは蚊帳の外でマコトにスイマメーンの巻。
※今回から、小説のルールブックにある”正しい書式”を意識してみました。過去の分もちまちま修正していく予定です。
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