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砂漠に降る花 作者:AQ
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第三章 プロローグ 〜伝言、キス、そして王城へ〜

顔に貼り付けた続けた笑顔により、無表情でもほうれい線がくっきりと現れる今日この頃。
サラの優勝お祝いイベントも、ようやく残すところあと1つとなった。

「サラ様、お疲れ様です」
「ああ、鉄人の入れてくれるお茶が今の私の癒し……」

サラの前に、定番のロイヤルミルクティがそっと差し出された。
領主館のダイニングには、甘いキャラメルの香りが漂う。
少し前に日本で食べた”生キャラメル”をリクエストしたところ、似たような素材で似たような味をあっという間に再現してくれたナチルを、サラは鉄人と呼んでいた。

「今日も……大変な人気でしたわね」

小鍋に入れたキャラメルをかき混ぜる手を止めず、ナチルがキッチンから声をかけてくる。
無言でお茶をすすっていたサラが、盛大なため息をついた。

「もう、アイドル引退したいよー。普通の女の子に戻りたいよー」
「はいできましたよ。夕食前ですし、少しだけですよ」

くすくすと笑いながらナチルが運んできたものは、できたて熱々とろりなキャラメルを冷たいアイスクリームの上にかけた贅沢なオヤツ。
サラの愚痴は、一時強制ストップとなった。


サラが珍しく愚痴りたくなったのには、訳がある。
それは……

「おっ、また美味そうなもの食ってるな」
「サー坊の考えるオヤツ、いつも美味しいんだよねー」

道場から戻ってきたのは、アレクとリーズの兄弟だ。
リコとカリムは、まだ道場の後片付けにこき使われているに違いない。
なんせ、窓ガラスは割れ、飾られた花も軽食もドリンクも……めちゃくちゃにぶちまけられたのだから。

本来ならリーズが「俺やっとくよ」というイイヒト展開になるのだが、今のアレクにはスプーン猫の監視が必要ということだろうか。
サラの対面に座り、同じお菓子をリクエストする2人。
背が高く色白の、スタイルの良いあの人物を思い出し、サラは再び大きなため息をついた。

「まったく、今日は最悪な一日だったな」

サラが10口ほどで食べる量を、丼をかっこむように一口で放り込んだアレク。
口をもごもごさせつつ「おかわりー」なんて言うから、なんて贅沢なとサラはショックを受けた。
リーズは、サラより謙虚にちびちびと味わって、オイシイネーと言いつつその細い糸目をさらに細めている。

この兄弟を足して2で割れば……

いや、あの人を足して、3で割ったなら……

「今日のアレ、気にしなくていいからね?」

サラの思考が漏れているのだろうか、猫背を丸めたリーズがそっと身を乗り出して言った。
気にしてたら生きて行けないし、と続けた台詞は、まさに達観した仙人のようだ。

 * * *

自治区の住民プラス、武道大会前に見学の常連だった少女たちとその親御さんが一同に集った、今日の道場主催パーティ。
かしましい少女たちによるファンクラブ結成宣言の後、簡易ステージの上にあがったサラに、住民たちからプレゼントが渡されるという会のクライマックスで事件は起こった。

前日のパレードで預かったという城下町の住民分と合わせて、トラック1台分と言っても過言ではないほどのプレゼントをもらったサラは上機嫌。
すぐ横で見ていたアレクも、ちょっぴり熟したマダムから多数の貢物をもらい、ホクホク顔だった。
ついでに、数名の女子から心のこもったプレゼント&愛の告白を受けたカリムは、若干ムッツリしていたが。

ファンからの貢物タイムが終わる頃、砦に帰る前のひげ&ボインのカップルもやってきた。
2人で選んだという必殺下着人シリーズ(ヒモパン等)をプレゼントされつつ、サラはこんなことを聞かれたのだ。

「サラちゃん、うちの頭領さまに、何か伝えたいことはある?」

ボインことエシレ姉さんは、相変わらずの露出度ギリギリガールズな衣装で、その姿はまるでビーナスのように美しかった。
ジュートのことを思い出したのと、エロ過ぎる美女を至近距離で見たのと、どちらのせいだかは分からないが、サラは「うわっ」と叫び、慌ててエシレの体を離した。

壇上で行われた美女との内緒話と、明らかなサラの態度の変化に、道場を埋め尽くしていた黒騎士ファンの少女たちがざわついたが、動揺したサラの耳には入らなかった。

ドキドキする胸を押さえつつ、サラは頭を働かせる。

ジュートへの伝言か……
すっかり忘れていたけれど、もしかしたらあのことを、伝えておいた方がいいのかもしれない……

「あの、じゃあ1つお願いします」

サラは背伸びをして、エシレの耳元に唇を寄せた。

「もしかしたら、この先私には”トリウムの王子と結婚する”という噂が流れるかもしれませんが、どうか気にしないで欲しいと……」

エシレがぽってりとした唇を引き結び、怪訝そうな表情をする。
サラは、やはり手紙で伝えればよかったかと、少し後悔した。
突然こんな予言めいたことを言われても、戸惑うのは当たり前だろう。

エシレは、形の良い顎に手を当てて、少し考えるようなしぐさをした後、うんうんと1人うなずいた。

「分かったわ……でもね、私から1つアドバイス」

高いヒールの靴をぐらつかせることなく操るエシレは、腰をかがめてサラに顔を近づけてくる。
真剣な表情に、何事かとサラが身構えると……

「そんな言い方じゃ男は食いつかないわよ?」
「はあ?」
「こういうことでしょ?」

エシレは、ひじき大漁のマスカラ&アイシャドウに彩られた大きな瞳で、パチリとウインクした。


『トリウムの王子にアタシの○○を奪われそうだから、今すぐココへ来て○○して』


なんですか、そのエロ超訳はー!

サラが顔を真っ赤にしてうろたえると、エシレは「可愛い」と呟いて、サラの唇に……


『うにうにうにうに……』


次の瞬間、道場が倒壊寸前になるほどの怒号と悲鳴が沸きあがった。
満足げに微笑んで「バァイ!」と手を振るエシレを、ひげが荷物のように抱えると、窓ガラスをぶち破りあっさりとトンズラした。
サラは、腰砕けになりへなへなと座り込みつつも、あの逃げ足さすが盗賊……と、感心していた。

その後のパニックについては、サラも思い出したくない。

「あの女ブッコロス!」とアシュラ面怒りに変身したアレクを、リーズとカリムが懸命に押さえ込み。
「私もキスのプレゼントを!」と殺到する女子たちを、リコとナチルが結界でなんとかガードした。

興奮したパーティ参加者たち&アレクが道場内を荒らしきる頃、リーズが提案した”サラの握手会”という緊急企画により、ようやくその場は納まった。
なぜか握手の列のラストに並んだアレクは、サラの頬にキスし「しょーがねーからこれで許してやる」と、意味不明な主張をしたのだった。


「それにしても、サー坊は、みんなの前でキスされる運命なのかねー」


あははと笑うリーズと、また苛立ちを募らせたのか「アイスだアイスだ!アイス持って来い!」と乱暴に怒鳴るアレク。

悲劇も嫌だけど、そんな運命も嫌だと、サラは再び脱力した。

 * * *

翌朝、サラは1人王城前に立っていた。
きっちり”国民への義務”を果たしたサラを、バリトン騎士とその部下たちが爽やかな笑顔で出迎えた。
王城へと足を踏み入れたサラは、この先起こるであろう出来事を想像し、軽く武者震いした。

大丈夫、私はちゃんと、みんなのところに帰るよ……

サラが握り締めたのは、リコからもらった新しいお守り。
リコをずっと守ってくれた、水の指輪が入っている布袋だ。
昨日もらったプレゼントは全部嬉しかったけれど、一番嬉しいもの1つだけを持っていくことにした。

城門から真っ直ぐ、城内への入り口へと向かうバリトン騎士に着いて歩きながら、サラは昨夜の出来事を思い出していた。


夜は、内輪だけのお祝いをしてもらった。
領主館のみんなは、サラにとってすでに家族も同然だ。
この世界に召喚される前、お母さんとパパたちに誕生日を祝ってもらったときのように、温かく優しく、満ち足りた時間だった。

パーティでモテモテだったカリムに、アレクが「なあ、どの女と付き合うんだ?やっぱり胸で選ぶのか?」とセクハラオヤジ発言したり。
酔っ払うと空気が読めなくなるリーズが「へー、カリムは女の子を胸で選ぶんだー。若いねー」と便乗し、カリムを真っ青にさせていたっけ。

リコとナチルは、サラの両脇に座って、いつの間にかメイクのレッスンを始めた。
生まれて初めてメイクというものをした結果、まるで宝塚男役のように変身させられたサラは、リコとナチルに絶賛された。
カリムが「似合わない」と言ったので、ではお姫様風にと第二ラウンドへ。

サラがメイクの実験台になったのは、リコが「手に職をつけたい」と言い出したのがキッカケだった。
もしかしたらこの旅が終わっても、リコは砂漠の国に戻らないつもりなのかもしれない。
あのわがままなサラ姫と、閉ざされた王宮で暮らすことを考えれば、自由があり恋するアレクもいるこの国に居たいと願うのは当然だろう。

カリムは……砂漠の国へ帰るだろう。
リコと違って、政治の重要な立場を任されている人物だし。
なによりカリムは、カナタ王子を裏切るようなことは絶対しないはず。

もしも和平交渉が成立したら、砂漠への旅はカリムと2人になるのかな。
盗賊の砦までは、リコやアレクたちも着いてきてくれるかもしれないけれど。

盗賊の砦でジュートと再会し、世話になった人たちにお土産を渡し、笑顔で砂漠へと見送られる……
そんなシーンをぼんやりと想像したサラは、慌てて首を振り「動かないでください!」と真剣な女子2人に怒られた。

仕上がった2回目のメイクの結果、男性3名が呆けた表情でサラを見つめたので、リコとナチルはがっちり握手した。

 * * *

城内に入る前「害意が無いことは分かっているが念のため」と言われ、サラは肌身離さず持っている相棒の黒剣をバリトン騎士に預けた。

「ありがとう。剣はパーティ後に返却しよう。さあ、こちらへ着いてこい」

歩きなれた様子のバリトン騎士に、サラはおとなしくついていく。

初めて足を踏み入れる城内は、荘厳な雰囲気だった。
1歩ごとに足が沈み込むような毛足の長い絨毯と、数々の彫刻がなされた柱、壁の絵画や花、そして天井から吊るされるシャンデリア。
吹き抜けの螺旋階段を昇り、太陽光の差し込む長い廊下を抜け、また次の階段を昇る。

もう何メートル歩かされたか分からない。
あまりの広さに、サラは圧倒された。
砂漠の王宮では、決められたエリアしか移動できなかったが、もしかしたらこの城のようにずっと奥まで続いていたのかもしれない。

この豪華な城で、サラはどのくらいの時間を過ごすことになるのだろう。
母の予言の通り、もしもあの条件を突きつけられるとしたら、しばらくは出られない。
出られたとしても、行く先は戦地だ。
戦地へ行くなら、自分は死を覚悟しなければ……

サラが深く考え込みながら歩いていくと、到着したのは1枚のドアの前。

「中には侍女頭がいる。ここからは彼女の指示に従うように」

バリトン騎士に促され、サラは重いドアを開け中に入った。
中に居たのは、60才くらいの女性と、10〜20代の若い女性が4名。
いつもナチルが着ているものより少し落ち着いたデザインの、ワンピース型メイド服を着ている。

背筋がしゃきっと伸び、長い白髪をひっつめた老齢の女性は、隙の無い動きで一礼をした。

「黒騎士様、侍女頭のデリスと申します。今後ともお見知りおきくださいませ」

ナチルを彷彿とさせられたサラが思わず微笑むと、若い侍女たちがキャアと叫び、早速デリスに怒られていた。

サラは、室内をぐるりと見渡した。
南向きなのか、大きなテラスから光が充分差し込むその広々とした部屋は、天蓋つきのいわゆるお姫様ベッドと、白を貴重としたシンプルな家具が置かれた、居心地の良い空間だった。
もしかしたら、この部屋がサラの部屋になるのかもしれない。
この世界に来て、一番の好待遇になりそうだなと、サラは1人ニヤついた。

サラが心の余裕を保てたのは、そこまでだった。

「では、黒騎士様には、今からこちらのご衣装に着替えていただきます」

デリスが差し出したモノを見て、サラは固まった。

「……本当にこれを、着るんですか?」
「ええ。王のご意思ですので」

サラは、戸惑いを隠さずに、しつこく尋ねる。

「……本当の本当に?」
「ええ。王のご命令ですので」

ニッコリと、老獪な笑みを浮かべるデリス。
サラは、この王城での暮らしが一筋縄では行かないことを予感した。


戦闘服の代わりにと渡されたのは、漆黒のシルク生地に黒い羽があしらわれた、1枚の瀟洒なドレスだった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










ようやく王城の中に進みました。RPGで例えると、村一個経てようやく隣国の城か……でも、魔術師君が言ってたように、ここは2国しかない閉ざされた世界なので、ペース的にはこんなもんでしょう。広さは四国くらいかな?その辺は読者さまの想像にお任せ。(←という名の逃げ)エシレ姉さんのメッセンジャー&ちゅーは、最初から予定してた強制イベントです。アレク様、俺だってそこにはしてないのにと妙な嫉妬が。サラちゃんの女装……じゃなくて男装解除も予定通り。トリウム王なかなかの眼力です。デリスさん、初の老人キャラだけど活躍するかは未定。
次回、王城でのパーティ開始。王族もいるし、貴族の皆様も……いきなり黒騎士改め暗黒天使な女子サラ登場でパニックルーム必至。今すぐさあキスをしよう〜♪
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