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砂漠に降る花 作者:AQ
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第二章 閑話1 〜眠り姫を起こすのは、誰?〜

決勝戦直後。

前回大会の優勝者である”幻の勇者”ことアレクが、コロセウムの控え室を訪れるのは本日2度目のこと。
先ほど感極まって泣いてしまったことを知られるのは気恥ずかしく、顔を洗ってさっぱりしてきた。

ドアを開けようとして、少し躊躇するアレク。
なんとなく、祝いの言葉を告げるのに手持ち無沙汰なのはカッコ悪いような気がしてしまった。
こんなことなら、花でも用意しておけば良かった。

アレク自身も、サラの優勝を信じきれないところがあった。
自分の二の舞にはさせたくない、後悔だけはして欲しくないと、徹底的にサラを鍛えたものの、あの魔術師が底なしに強いのは分かっていた。

今回だって、純粋にサラ自身の力だけでは勝てなかったかもしれない。

「光の龍……か」

あの水龍が現れたときは、絶体絶命だと思った。
前回大会で対戦相手を死に追いやったあの魔術だけは使わないはずと、勝手に決め付けていたから。
その点は、完全に自分の見通しが甘かった。

ただ……
水龍を飲み込んだ金色の龍を見て、あらためて自分の予想は正しかったと確信した。
サラの特殊能力と、長かった髪を切り落としたときのエピソードを聞いて、アレクは「あのお守りは、必ず役立つ」と思っていたのだ。

光の精霊に好かれるという、サラの黒髪。
黒剣も、やはり光の精霊由来の聖剣だろう。
女神の涙という宝石については、アレクにとっても未知の存在だったが、頭領に聞けば何か分かるかもしれない。

魔力を消去してしまうサラの支配下では、光の精霊もその力を発揮できない。
しかし、ひとたびサラから切り離されたときには、驚異的な力を持つ光の精霊がサラを守るのだ。

サラは、何故これほどまでに光に愛されるのだろうか?
ネルギの姫とはそういう存在なのか?

より深く思考を落としかけて、アレクはフッと自嘲した。
サラにおめでとうと言うのが先決だ。
あの3人も、お呼びがかかるのを今か今かと待っているのだから。

アレクは、そっと控え室のドアを開けた。


そこに居たのは、よほど疲れたのか、床に転がって眠り込むサラ。

と……

そんなサラを膝枕する、灰色の髪の魔術師が1人。

「よおっ」

アレクを見て、魔術師ファースは軽く手をあげ、胡散臭いほど爽やかな微笑を投げかけた。

 * * *

魔術師は、細く長い人差し指を立てて、その形良い唇の上に押し当てた。

「でかい声出すなよ?このコが起きちまう」

トレードマークの黒いフード付マントを脱いで、さりげなくサラの体にかけるなんていう気遣いが、まさかこの男にできるとは。
苦虫を噛み潰したような表情のアレクには構わず、魔術師は眠るサラの黒髪をそっと撫でる。

あの髪を撫でるのは、自分の専売特許だったはず。
苛ついたアレクは強引にサラを奪い返そうと画策してみるものの、いざ手を伸ばそうにも、子どものようにスヤスヤと眠るその表情につい毒気を抜かれてしまう。

しばらく唸った結果、アレクはサラ奪還を諦めて、おとなしく近くの椅子に腰掛けた。

「5年ぶりか。元気そうだな」
「アンタはずいぶん年くったな」

棘のあるアレクの口調にも、魔術師はまったく動じない。
アレクは、あれほど恐れた魔術師と二人きりだというのに、案外冷静な自分に内心驚いていた。

そうだ、忘れないうちに、あの台詞を言っておかなければ。

アレクは、魔術師からもらったメガネを取り出した。
少し指が震えたものの、もう怖いとは思わなかった。

かけられたメガネの奥の三白眼が、涼やかな表情の魔術師を捉えた。
予想通り、七色の光の洪水。
しかし、ひざの上だけ、光はぽっかりと消えている。
アレクは慈愛のこもった笑みをサラに向けた後、魔術師を挑発的に睨んだ。

「5年前のリベンジ、果たしたぜ」

余裕を見せていた魔術師が、その台詞に一瞬眉根を寄せる。
アレクの顔からはずされ、乱暴に投げ返されたメガネを片手でキャッチすると、ふーんと呟きながら手の中でくるくると回した。

「リベンジねぇ……わざわざ女寄こすなんて、俺に食わせ」
「んなわけねーだろっ」

魔術師の発言内容を察し、即否定するアレク。
大声を出したいのに出せないもどかしさに、アレクは仏頂面になった。
この魔術師と話していると、自分の感情表現がストレートになってしまう。
まるで19才の自分に戻ったような、不思議な気分だ。

しかし、サラが女とバレたのは何故だろう。
この手の男が寄って来ないように、男装を徹底させていたはずなのに。

「コイツは、俺の大事な弟子だ。お前に勝つために、俺が仕込んだ。俺がっ。手取り足取りっ」

アレクの主張がだんだん過激になっていくのには、理由があった。

リベンジされたという事実がよほど癪に障ったのか、魔術師はアレクへの嫌がらせを兼ねた、欲求不満解消的行為……いわゆるセクハラをはじめた。
サラの髪をくすぐるように撫で、やわらかな頬に触れ、敏感な耳たぶにも触れた。
そして、甘い呼吸を繰り返すくちびるに……

耐え切れなくなったアレクが、再びサラを奪い返そうと決意したとき。

「んっ……」

調子に乗った魔術師の指に反応したサラが、もぞりと身じろぎした。
サラは、唸りながら右向きから左向きに体制を変えると、魔術師の膝の上でまた眠りに落ちていく。

男2人、ホッと息を吐いた。
どうやら、サラを寝かせておくという目的は共通のようだ。

「しかし、俺って勝負運ないのかなあ?」

魔術師が、無垢なサラの寝顔を見つめたまま、まるで独り言のように呟いた。

5年前はうっかりヒト死なせるしー。
今年は金色の龍にやられちまうしー。
どっかの誰かさんは、たいした実力も無いのにあっさり優勝して、願いを叶えてもらったっていうのになあ。

アレクは、魔術師の大人気ない嫌味攻撃を受け、うっかり凹みそうになる自分を励ました。

そうだ、今日の俺は5年越しの願いだった、仇敵へのリベンジを果たした。
可愛いサラも、近々王城へ正式に呼ばれる。
願いが叶うとなれば、きっと少女の素顔で喜ぶはず。

目が覚めたとき、サラは自分にどんな顔を見せてくれるだろう?
なんといっても、俺は勝利にもっとも貢献した人間なのだから、特別扱いは間違いない。
とびっきりの笑顔で、サラ自ら抱きついてくるかもしれない。

想像して、ニヤつくアレク。
なんとなくアレクの考えていることを察し、気に入らない魔術師。

再び2人の男の視線がぶつかり、火花が散る。

眠り姫が目覚めたとき、一番に笑顔を向けられるのは……

『トントンッ』

そのとき、控え室にノックの音が響いた。

 * * *

待ちきれなくなった、カリム、リコ、リーズが飛び込んできたのは、アレクの予想通り。
心地よさそうに眠るサラを見て、ホッと笑みを浮かべるのも。

そして、サラの頭が乗っている物を見て、顔を歪めるのも……

「てめっ!こいつに何しっ……」

叫びかけたカリムの口を、慌てて抑えるリーズ。
サー坊が寝てるよ?と宥めると、カリムはその安らかな寝顔を見て、一瞬癒される。
しかし魔術師への怒りはおさまらず、リーズの手を口からはずすと、男の胸倉を掴み、脅す。

「テメーは敵だ。こいつから離れろ」
「嫌だね。ていうかお前誰だよ?」

ああ、そういえば予選に来られなかった若造が1人いたんだってな。
通りすがりのチンピラにやられて、大騒ぎしたって?
そんな弱いヤツがこの大会に出ようだなんて、レベルが下がったもんだなあ。

痛すぎるところを突かれたカリムは、魔術師のシャツを放すとよろよろと後退り、ガックリとうなだれた。
勝利にニヤリと微笑む魔術師。
魔術師は、眠り込む前のサラから、仲間たちの情報をきっちり聞き出していたのだった。

きょろりと視線を動かした魔術師は、困ったように微笑む糸目の男を目に留めると、アイツは問題無しとスルー。
あとは、ドアの前から動こうとしないちび女が1人。

何人たりとも、俺からこの女を取り上げることはできな……


「ひぃっく……」


開かれたドアから、どうしても部屋の中に進むことができなかったリコ。
堪えていたリコの瞳から、涙がポロリと零れ落ちたとき。


「リコッ!」


パッチリと目を開けたサラは、自分が枕にしていたモノを蹴飛ばし、邪魔なでかい障害物を押しのけ、リコを抱きしめた。

「リコ、泣かないで?私無事だよ?」
「サッ……サラさまぁ……」

抱きしめた小柄なリコの体を離すと、サラは少しかがんで、その頬に落ちる涙を指でぬぐった。
サラの手のひらにできた、新しい真っ赤な豆を見て、リコは再び涙を落とす。
喉が渇いていたサラは、思わずその透明な涙をペロリと舐めた。

「あっ……」
「ゴメン、舐めちゃった!」

天使のように微笑んだサラは、照れ隠しのように再びリコを抱きしめた。


残された男たちは、全員撃沈した。

リーズだけは、まいっかと苦笑した。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










アレク様視点の真面目な話……と思いきや、サラちゃん無駄にモテ話となりました。あー、こーゆー描写薄くて会話中心で中身の無い話書いてると、本当にホッとするなー。(←正直者)この先もう出てこないので書くけど、魔術師君にはちゃんと好きな女子が居るのです。サラちゃんは単なるお気に入り。アレク様も大人なのでアレはナニですし、カリム君も夜の街へ連れ出されて……男とはズルイものです。でもサラちゃん落とすのは不可能なのでしゃーないか。
次回は、引っ張った割には……な、不穏な噂の犯人探し。サラちゃん探偵気取りですが、才能は微妙っぽいです。ファース君の強さの謎にもちょい触れます。
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