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砂漠に降る花 作者:AQ
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第二章 エピローグ 〜魔術師ファース君、受難の日〜

いつの間に眠ってしまったのだろう?
かすかに聞こえたリコの泣き声に、サラはがばっと跳ね起きた。

「リコ!」

パッチリと目を開けたサラは、自分が枕にしていたモノを蹴飛ばし、邪魔なでかい障害物を押しのけ、リコを抱きしめた。

「リコ、泣かないで?私無事だよ?」
「サッ……サラさまぁ……」

泣きじゃくるリコを抱きしめ、慰めながら、サラは自分の現状を思い出していた。

そうだ、今はちょうど決勝戦終了直後。
バリトン騎士から、今後の打ち合わせをするから少し待てと言われて、控え室に戻ったんだ。

負けたというのに妙に嬉しそうな魔術師が「俺もつきあうー」と付いて来たので、しばらくおしゃべりしていた。
お互い全力で戦った結果だろうか、あれだけアクの強かった魔術師も陽気なハスキー犬兄さんになっていて、サラは少し感動した。

これが「なかなかやるな」「おまえもな」の法則ってやつね!

その後、アレクとの修行の話や、旅の苦労話などを少しして。
魔術師が分けてくれた、疲労回復ドリンクをいただいて……
いつの間にか、眠り込んでしまったんだ。


目覚めたばかりのせいか、サラの行動はかなりアニマルだ。
リコを抱きしめ、指でやさしく涙をぬぐい、それでもこぼれる涙を舌でペロリと舐めた。

サラのスキンシップに驚いたせいか、リコの泣き声が徐々に小さくなり、ときどきしゃくりあげる程度までおさまった。
ホッとしたサラは、周囲から視線を感じてふっと顔を上げる。

なぜか泣きそうな顔で、アレク、カリム、魔術師が、サラのことを見つめていた。
リーズが、糸目を細めて苦笑した。

 * * *

ようやく落ち着いたリコが、笑顔で「おめでとうございます」と告げ、サラから体を離した。
そのタイミングで、アレクたちが一斉にサラへと近寄ってきた。

「おめでとう、良くやったな」

くしゃりとサラの頭を撫でるアレク。
カリムは言葉が出ないようで、ただアレクの脇で涙を堪えながら微笑んでいる。
リーズは、控えめにパチパチと拍手した。
リコも、目のフチに涙を溜めながら、本当にすごかったですと呟き続けている。

「アレク、カリム、リーズ、リコ……本当にありがとう」

熱く高揚していた気持ちが、一気に温かく穏やかに変わっていく。
この瞬間をずっと夢見ていた。
トリウムに着いて、武道大会に出ると決まったあの日から。

ジュートは泣き虫が嫌いって言ったけれど、今は少し、泣いてもいいよね……?

サラが瞳を潤ませたとき。

「サーラーちゃん、俺にも感謝の言葉は?」

ニコニコと邪気の無い笑顔で、魔術師が擦り寄ってきた。
何なら言葉じゃなくて態度でと、ナチュラルに伸ばされた魔術師の腕を、アレクとカリムが2人がかりで押さえ込み、最後はリーズのスプーン猫がガッチリ拘束した。

 * * *

部屋の隅の椅子に固定され、むくれる魔術師をよそに、サラはアレクたちと今回の戦いの反省会を始めた。

「一回戦では楽に勝てたけれど、やっぱり次からは辛かったなあ」

二回戦は、剣を失っての苦しい戦い。
準決勝は、サラが剣を裏切ったが故の苦戦。

そして、決勝戦は……

「アレク、お昼休み、私にお守り渡してくれてありがとね」

サラは、笑顔でアレクにお礼を言った。
アレクは口ごもりながら、ああ良かったなと呟いた。
カリムも、リーズも、リコも、今までの温かい眼差しとは少し違う、冷めたコーヒーを飲んだような苦い表情だ。

なんとなく、決勝戦の話になってから、空気が重くなったような?
違和感を感じつつも、サラは話を続ける。

「そうそう。聞きたかったの。どうしてあのお守り、いきなりホッカイロになったのかなあ?」

おかげで気を失わないで済んだけれどと、サラは無邪気に笑った。

「ホッカイロ……?」
「ああ、ゴメン。えっとね、寒いときに熱々になる砂の袋みたいなやつ。手が冷えたとき便利なの」

サラは、胸ポケットにおさまっていた、カイロお守りをアレクに差し出した。
サラ以外の全員が、腰が引けつつもそのお守りに視線を移したとき。

まだほんのり熱を放つ、その小袋から……


『ピュイッ!』


サラを除く全員が、ピシリと固まった。
小さな蛇かトカゲのような生き物が、お守りからするりと飛び出てきたのだ。

それは、金色の羽の生えた、手のひらサイズの龍。


『うわー、龍が生まれるとこ初めてみたにゃあ』
『うん。さっきの水龍も混ざってるっぽいにゃ?』


金色のミニ龍は、つぶらな瞳をぱちぱちと瞬かせると、パフッと音をさせて小さな炎を吐いた。

 * * *

サラにはまったく見えないし、理解もできないが、どうやら今このお守りには金色の龍が住んでいるらしい。
解説してくれたリーズのスプーンも、サラにとってはただのスプーン。
だが、他のみんなには、可愛い猫に見えているというのだから、本当に魔術というものは不思議だ。

というか、みんなが語る決勝戦の話も、サラにはとうてい信じられないのだが。

「あの光龍も、こんなちびっこになっちまえば、かわいいもんだなあ」

アレクは、パフパフと炎を吐く龍の尻尾をつまみ「腹の方は水色だぞ」と面白そうに言う。
リーズも、スプーン猫も、チビ龍に興味津々だ。
リコは少し怖いのか、リーズの背中の影からそっとのぞきこんでいる。

「つまんねーな……俺には、虫にしか見えない」

カリムは、お守りに顔を近づけるが、微かに生き物のような動きが見えるだけだ。
それでもまだ、見えるようになった方。
サラのお守りを持っていなければ、きっと単なる薄い光としか認識できないだろう。

魔術師は、なぜかノーリアクションだ。
こんな珍しいアイテムに絡まないなんておかしいなと、サラが不思議そうに魔術師を見る。
スプーン猫の魔術で、後ろ手に拘束されていた魔術師は、サラと目が合うと気まずそうにフイッと顔を反らした。

その視線のやりとりを見ていたアレクは、ニッと笑い。

「おい、魔術師さんよお。あんた、コイツが怖いんじゃないのか?」

魔術師は、びくりと体を震わせる。

先ほどサラが聞かされたのは、とうてい信じがたい夢物語。
どうやらこのお守りは、ホッカイロになったのではなく、巨大な光の龍になって魔術師を丸呑みしたというのだ。

「ま、まさか。この俺が怖いものなんて……」

かすれ声で呟く魔術師に、アレクはお守りを押し付ける。

「元々は、お前が作った水龍だろ?挨拶くらいしてやれよ」


『ピュイッ』


嬉しそうな泣き声とともに、パフリと上がった炎を見て、魔術師は引きつったような笑顔を浮かべる。
溜飲が下がってしたり顔のアレクが、お守りをサラへと戻そうとしたとき、サラが瞳をキラキラさせて手を叩いた。


「あっ、そうだ。私、ファースさんの杖壊しちゃったのよね。お詫びに、そのお守りあげる!」


どうせ自分が持っていても、あまり役に立たないのだ。
試合では助けてもらったけれど、正直持っていたくないものでもあるし、一石二鳥ね!

ナイスアイデアと満面の笑みを浮かべるサラに、魔術師は「ゴメンナサイ」と呟き、肩を落とした。

今日は、彼にとって人生初の敗北……そして初の謝罪の日となった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










いきなりゆるくなってしまいましたが、こういうアホな話が作者は一番楽です。重いシリアス話続いたから許してー。ミニ光龍ちゃん、スプーンズに続く不思議ペットpart2です。まだちびっこですがきっとすぐに大きくなって、ファース君のよき相棒となることでしょう。彼らの活躍は……この話が書き終わってしばらく読書三昧してから考えよーと思います。短編か長編か……気まぐれサラダ風に。ウィムッシュ。
次回から、閑話いくつか入れてきます。例の犯人探しもあるんですが、その前にこのプロローグのちょっと前。サラが寝てる間にいったい何が?って話です。プチ逆ハー注意報。
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