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砂漠に降る花 作者:AQ
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第一章(3)母のノート、異世界への扉

サラは、母のノートを手に取った後、そのまま机に向かった。
制服姿のまま、ヒザの上にはテディベアを乗せて。
まるで、何かに急かされるように、一気に物語を読み込んだのだった。

その話は、児童小説というカテゴリーになるのだろうか。
ファンタジックな、剣と魔法の世界が舞台だった。

  *  *  *

主人公は、砂漠の国の姫。
名前はもちろん、サラ姫だ。
サラ姫に母はおらず、父である王様と、病弱な王様の代わりに国を治める兄王子と暮らしている。
長く続く隣国との戦争を終わらせるために、和平の使者となったサラ姫が、砂漠を越える旅をするところから、物語は始まる。

旅の途中、さまざまな困難がサラ姫を襲った。
とくに、砂漠の盗賊にさらわれたときは、絶体絶命のピンチだった。
しかし、サラ姫が盗賊の頭領を説得したことで、盗賊は味方になってくれた。
そのときサラ姫は、この頭領に恋をしてしまうのだけれど、大事なことを何も言えずにそのまま別れてしまった。

盗賊の協力で隣国についたサラ姫は、なんとか王様に会うことができた。
和平の願いを聞いた王様は、サラ姫に難題をつきつける。

「戦争をやめるためには、3人の王子のうちの誰かと結婚せよ」

3人の王子の誰も選べなかったサラ姫は、怒った王によって「それなら自力で戦争を止めてみせよ」と言われ、戦地の最前線へと送られてしまう。
傷ついた両国の戦士を止めようと無理をして、サラ姫は戦火の矢に晒される。

そこに現れるのが、その世界の空を守る守護者といわれる、翼のある女神だった。
女神の奇跡によって、戦いはおさまり、サラ姫は一命をとりとめた。

傷を癒し隣国にもどったサラ姫だったが、今度はこの大地にかけられた魔女の呪いの話を聞かされた。
魔女の呪いがとけなければ、再び戦争が起きてしまう。
砂漠のどこかに住むという魔女を見つけ出して、呪いをとくようにと王から頼まれたサラ姫は、再び祖国に戻った。

たくさんの人の協力から、少しずつ情報を集めて、魔女の呪いの真実にせまったそのとき。
サラ姫に、悲劇が襲った。
魔女の呪いによって、もっとも愛しい人の手によって、サラ姫は命を終えてしまう。
ただ、サラ姫の死をきっかけにして、長く大地にかけられ続けた魔女の呪いはとけるのだった。

幸福に包まれた世界に、女神が降り立った。
その傍らには、サラ姫が恋した盗賊の頭領。
彼は本当は盗賊ではなく、この世界の大地を守る、精霊の森の王だった。
女神と精霊の森の王は、この平和を永遠のものにするために、いつまでも寄り添い続ける。

というシーンで、物語は終わった。

  *  *  *

一気に読みきったサラの手は、震えていた。
サラ姫の年齢は、15才だ。
決して明るい話ではない。
苦難の末に殺されてしまう、悲劇の姫。

大学ノート1冊の半分にも満たないくらいの短い話で、母が言ったとおり、つたない文章だった。
しかも、たくさんのエピソードが歯抜けになった、あらすじだけを追いかけたようなストーリー。

そんな話を、なぜ母は書いたのだろう。
私が産まれた直後に、15年後の私に見せるために。
わざわざ、私と同じ名で。
なぜ……?

ノートを閉じて引き出しにしまうと、じっとりと汗ばんだ手で、サラはひざの上のテディベアを抱きしめた。
なぜだか寒気が止まらなかった。
部屋に1人いるのに、誰かにじいっと見られているような、嫌な感じがする。
早く着替えて、布団へ入って寝てしまおう。

そう思って立ち上がったとき、サラは激しい頭痛に襲われた。

  *  *  *

ぐらぐらと世界が揺れてみえるほどの、強いめまい。
体が凍えるような冷気に包まれる感覚。
突然、頭の後ろを強く殴られたような衝撃があり、サラはぐうっとうめき声をあげた。

自分の体に何が起こったのか分からず、その場に倒れこむ。
倒れた先には、床が無かった。
暗く底の無い穴に吸い込まれるように、どこまでも体が落ちていく感覚。
目を開けても、閉じても、暗闇しかない。

これは夢だ、そう思いたかった。
でも、腕の中にはぎゅっと抱きしめたままのテディベアがいる。
やわらかい感触が、これは夢ではないと訴えているようだ。

意識を手放すこともできないほどの恐怖感の中で、サラは鈴が鳴るような、可愛らしい少女の声を聞いた。

『みぃつけた』

その声は、サラの声。自分の声だった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










憧れの異世界オチの瞬間を書けました。安い夢1個叶って満足。
母のノートは、実はちょい未完成。後でつじつま合わせるの大変かも・・・
しかし、落ちた先には・・・ゴメン、サラちゃん。フカフカ天蓋ベッド&好みど真ん中王子って展開にしてあげられず。まあそれはもうちょい後でのお楽しみ?
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