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砂漠に降る花 作者:AQ
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第二章(21)騎士との誓い

次の試合が始まるというのに、観客席のざわつきはなかなか収まらなかった。

判官贔屓という言葉が、これほど当てはまる試合は無かった。
一方的になぶられるだけだった少年騎士に、誰もが憐れみを覚えていた。
勝てる見込みの無い勝負を受けたことに、あきれる者さえいた。

ところが、少年騎士は良い意味で観客の期待を裏切り続けた。
圧倒的に強い敵の攻撃を必死でかわし続け、徐々に攻撃を見極めて、受け止められるようになり。
最後には、完璧な勝利を掴み取った。

見ている観客の誰もが、その劇的な展開に心を動かされていた。
一般席に座る者も、そうでない者も。

「アイツは、何者だ?」

ざわめく観客たちに答えが与えられるのは、もう数時間先のこと。

 * * *

黒剣と指輪を受け取り、控え室に戻ってきたサラは、ドアを後ろ手に閉めると同時に、崩れ落ちるように床に転がった。
ただただ、疲れた。

体の表面に傷も作らず、痛みを感じるところはない。
一ヶ所だけ、剣闘士の拳がほんの少しかすった頬がじわりと痛みを訴ええるが、きっとたいしたことはないだろう。
とにかく、目に見えるところにさえ傷が無ければいいのだ。
せめて、あと1試合は。

「よっ、少年。試合見てたぜ」

危険度ナンバーワンの魔術師が声をかけてくるが、サラは返事をせずに寝転がったまま、はあはあと荒い息を繰り返している。

「俺、お前と戦ってみたいなー」

サラのツヤツヤした金髪ヅラの中心部、つむじのあたりを、ツンツンと杖の先でつつく魔術師。
つつかれるたび、逃げるようにゴロリと横に転がっていくサラ。
控え室といっても、風雨にさらされるコロセウムと接しており、床は砂埃だらけだが、どうせヅラも服も汗や砂でぐちゃぐちゃだし、サラは気にせず転がった。

勝てたのは、本当にラッキーだった。
黒剣ダイスちゃんの意識が自分の中に残っていたから、あれだけ攻撃を受け止められた。
あんな条件を飲まなければ、もっと楽に勝てたのかもしれないけれど……

サラは、気づいていた。
本当に厳しい勝負になるのは、この先だ。
まだ、自分の手の内は見せられない。

「おい、そっとしといてやれよ」

革靴の紐を結びなおした緑の瞳の好青年騎士が、闘技場へと向かいつつも、後ろ髪を引かれて声をかけた。

少年が休めるのは、あと3試合分。
しかし、自分とこの得体の知れない魔術師は、さほど試合に時間をかけるタイプではない。

今のうちに体力を回復しておけよ?

騎士は、大歓声に笑顔で答えながら、颯爽と控え室を飛び出して行った。

 * * *

どのくらい寝転がっていたのだろう。
ベスト4が出揃ったぞと、サラはバリトン騎士から叩き起こされた。

「大丈夫か、少年。リタイアするか?」

体は鉛のように重く、全身に疲労感がまとわりついて、サラを心地よい地面へと誘惑してくる。
するわけねーだろと呟きながら、サラは苔の一念で体を起こした。
首をコキコキと鳴らし、腕をぐるぐる回して軽くストレッチした後、自分の見た目があまりに汚いのを気にして、手のひらで体中の砂を払った。

一試合目に、省エネ戦法で勝利しておいて良かった。
二試合目では、予想外に消耗させられてしまったけれど、少しだけ休めたし戦えないほどではない。

この準決勝が、きっと山になる。
つい先ほど、この手が握手を交わした相手が、敵となるんだ。

サラは、何かのげん担ぎか、靴紐を何度も結びなおす騎士を横目に見ながら、先に闘技場へと向かった。


コロセウムを埋め尽くす観客たちは、登場したサラと緑の瞳の騎士へと惜しみない声援を送った。

2回戦で見せた堂々たる戦いぶりから、サラの人気はうなぎのぼりだ。
一方、騎士の方も負けてはいない。
数年前までこの王城の警備を担当していた騎士には、昔馴染みも多いようで、声援の量からも圧倒的な支持を受けているのが良く分かる。

「オレは最初から、アイツには何かあると思ってたのよ」
「ああ、オレもだ」

大穴狙いでサラに賭けた者たちが、喜び勇んで自分の先見の明を吹聴している。
順当に勝ち進む、優勝候補たちの一角に食い込んだ、不思議なキノコ少年ことサラの評判は、試合を重ねるごとに高まっていた。

げんきんな観客たちの態度を横目に見つつ、カリムは思った。
最初の評判が低すぎたのかもしれないが、高まっていく噂を聞く分には悪くない。
はしゃぐ観客たちの姿を見ながら、アレクは「サラが優勝してもお前の取り分はねぇぞ」と意地の悪い笑みを浮かべたが、カリムはまだ優勝してもいないのに暢気なことだと、内心呆れた。

リコは、準決勝の舞台に立つサラの姿を見ただけで、すでに号泣していた。
そっと差し出されたリーズのハンカチが、瞬く間に水浸しになる。

「リコ、泣いてばかりいないで、あいつの姿をしっかり見ておけよ」

お前も5年後にあそこに立つんだろ?と言いながら、アレクがリコの頭を撫でると、リコは顔を真っ赤にしてコクコクとうなずく。
リーズにも、そのスプーン無しでお前も狙えと無茶な要求をして、猫たちにニャンニャンとブーイングを受けている。

アレクは軽口を叩きながらも、緊張に汗ばむ手を何度もズボンの生地でぬぐっていた。
遠目にも、あの騎士の強さが伝わってくる。
サラにとっては、今までの2試合とはまったく違う次元の戦いになるだろう。
うまく頭が切り替えられればよいのだが。

神様なんて信じないと豪語するアレクだったが、今日だけはサラの勝利と無事を、神に祈っていた。
勝利のおまじないもかけたのだが、今大舞台に立つサラは覚えているだろうか。

今朝のミーティング時、アレクはサラに1つのアドバイスをしていた。

もしも、この王城に仕える騎士と当たったら……


「大丈夫だ、サラ。お前ならやれるよ」


アレクは、心の中に留めておいたはずの言葉を、無意識に口に出していた。
すぐ隣に座って、アレクを意識していたリコだけが聴こえるくらいのボリュームで、そっと。

リコは、初めて聞くアレクのやわらかい声色に、自分の耳を疑った。
幼い頃に聞いた声が、リコの脳裏によみがえる。
そう、あれは、父が母に語りかける声。

もしかして、アレクは……

「どーしたの?リコ?」

顔を青ざめさせているリコに、すかさずリーズが声をかけてくる。
リコは、首を横に振り何でもないと呟いた。
再び潤み始める瞳を、しっとりしたハンカチで軽く押さえるが、なかなか止まりそうもない。

そうだ、私本当は、気づいてたんだ。
知りたくなかったから、またいつもの癖で、見ないフリしてた。
アレクの目が、いつもどこを向いていたか、最初から私は知っていたの。

リコに向けるのは、ナチルと同じ、家族を労わる優しい目。

でも、サラに向けるのは……

闘技場の中心で、立派な青年騎士と対峙するサラの姿が、涙で霞んでふわりと揺れた。

 * * *

「例の条件だが、俺の方に異論は無い」

サラが言い出す前に騎士が告げたので、サラは苦笑しつつも「ありがとうございます」と一礼した。

「では、何か引き換えの条件は?」

この相手は、剣闘士のように武器を手放すことはないだろう。
しかし、本来なら聖剣と魔術を組み合わせて戦うタイプのはず。
サラの一方的なわがままで、相手にだけハンデを負わせるわけにはいかない。

騎士は、緑の瞳をまっすぐ空へと向ける。
一瞬、まつげが影を落としたその瞳の色が深い緑に見えて、サラはドキッとして目を逸らした。

「そうだな……」

考え込む騎士に対して、勝手に焦るサラ。

「な、なんでも言うこと、聞くぞっ!」

何言ってんだ、私はっ!
やばい、緑の瞳は危険!鬼門!

とっさに伏せられたサラの青い瞳は、金色の前髪に隠れて見えない。
その瞳を覗き込むように首を傾げていた騎士は、フッと笑んだ。

「じゃあ、俺からの条件を1つ出そう」

緑の騎士は、優雅に剣を抜くと、磨きぬかれ輝きを放つ剣の中心部に、軽く口付けた。
それは、騎士が神と王に対して誓いを立てる儀式。

「我は誓う。持てる力の全てで、この戦いに臨むことを」

目を閉じる騎士のしぐさに、サラは一時戦いを忘れて見惚れた。
ぼんやりと騎士を見つめるだけのサラに、騎士はお前も剣に誓えと促した。

「全身全霊で、向かって来いよ」

その剣で、俺を殺すくらいの気合で、な。


挑戦的に煌めく騎士の瞳に、サラはぎゅっと口を真一文字に結ぶと、黒剣を抜いた。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










サラちゃん、準決勝直前まで行きました。なかなか試合に入れんのは、やっぱそれなりにどんな相手か書かなきゃとね。うん、技量の問題もあるけどね。緑の騎士、やっぱかっちょいい男です。登場キャラのなかでも、癖が無いし誠実だし優しいし一番モテキャラかも。しかし名無しのままです。年齢は実際かなり上……ついでに既婚者と思われます。あと、アレク様の気持ちにリコちゃんようやく気づいてプチ失恋の回でもありました。とはいえ「今は妹でも満足、だってサラには彼氏いるしぃ」というあみん気分は当分抜けそうにありません。
次回、準決勝の試合まるまるお送りします。初めて剣同士の戦い。しかも好敵手との戦いで、何気にサラちゃんピンチです。技量のない作者もピンチ?
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