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砂漠に降る花 作者:AQ
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第二章(9)諸刃の剣

サラの特殊能力が発露した後、アレクは心底疲れきったような表情で「今日はもう解散」と宣言した。
アレクは、なかなか立ち去ろうとしないサラの頭をぽんと叩くと「続きは明日な」と言った。
いつもどおりの軽い口調だったので、サラは少しだけ気分が浮上した。

サラたちにとっても、長い一日だった。
道場のドア付近に控えていたナチルに案内され、男湯と女湯に分かれて風呂に入った4人は、久しぶりに贅沢な湯船つきのお風呂を満喫した。
4人とも、その日は夢も見ずにぐっすりと眠った。

 * * *

その夜アレクは、自室のベッドに腰かけながら、考えをめぐらせていた。

目を閉じれば、瞼の裏に浮かぶのは、あの白い光。
光に包まれたサラの、泉のような瞳のブルー。
彼女の体にまとわりつく、光の精霊たち。

サラの能力は、驚異的だった。
見識の広いアレクだが、あんな力は見たことも聞いたことも無い。
誰も知らない未知なる能力。
神の領域と言っても過言ではないかもしれない。

自分は臆病なのだろうか?
否、あの光を見てしまった者なら、畏怖しないヤツはいないだろう。

「たった1人を除いて、かな……」

アレクは、なぜ頭領がサラに興味を抱き、サラを所有したがったのか分かる気がした。
彼は、特別な才能や能力がある者を好むから。

平凡な者はできる限り庇護し、数が集まれば1つの集合体としてコントロールする。
盗賊たちは、彼のために生きる働きアリのようだ。
そして、無個性な働きアリ集団の中から、次代の女王アリが出現することを楽しむのだ。

頭領本人には、そのつもりは無いのだろう。
しかし、接する者から見ると彼は別格なのだ。
はるかな高みに存在する神のように……

つい考えが逸れてしまい、アレクは両手でペチペチと頬を叩く。
今は、サラのことだ。

アレクは、机の引き出しからノートとペンを取り出すと、考えをまとめ始めた。

1.サラは、魔術が使えない。(魔力ゼロ)
2.サラは、魔術を跳ね返す。
3.サラは、跳ね返した魔術を増幅させる。

書いていて、気付いたことがある。
黒剣を向けられたときのこと。

「ある意味、跳ね返されたとも言えるな……」

盗賊としてさまざまな剣を見てきたアレクが、初めて目にした黒く美しい聖剣。
その力を、アレクは推測した。

4.サラは、物理的攻撃も跳ね返す?(黒剣の能力?)

剣については、明日以降検証してみなければなんともいえない。
黒剣を持つサラと対峙した時のことを思い出したアレクは、あながち大ハズレではないだろうと感じていた。

きっとサラは、自分への武術、魔術、両方の攻撃に対抗できる特殊能力を持つのだろう。
この推測が正しければ、彼女は強い。
攻撃を受ければ、自分へのダメージの変わりに、自動的に相手へとダメージを与えることができるのだから。

「問題は、発動条件だな」

どこでサラの能力のスイッチが入るのか。
それを見極めなければ、彼女の能力はきっと……諸刃の剣となる。

5.サラは、治癒魔術がきかない。(弱点)

例えば、後方から毒矢で撃たれたとき、サラは防げるのだろうか。
毒だけでなく、あらゆる攻撃で試さなければならない。
軽い怪我をするたびに、他の挑戦者たちは癒しの魔術で回復できる。
サラに、癒しの魔術がまったく効かないとしたら、一切ダメージを受けずに勝ち抜かなければならないということになる。

「ああ、なんてやっかいな弟子を持っちまったんだ、俺」

まだ2ヶ月ある。
サラには少しキツイ修行になるだろう。
自分を真っ直ぐ見返す、あのブルーの瞳が怒りで曇るかもしれない。

でも……

「弱点も関係ないくらい、強くしてやるよ」

ノートとペンを机の上に放り投げると、アレクはそのままベッドに倒れこみ、眠りについた。

 * * *

あれから5日が経った。
ナチルのおかげで、充実した食事が提供されることもあり、サラたちは落ち着いた生活を送れるようになった。
だが、長い旅の中で衰えていた筋肉が完全に戻るまでは少し時間がかかる。

4人に対して、しばらくはストレッチや走り込みなどのプログラムで個々に基礎体力を上げていくようにと、アレクは指示した。
1人1人に『今日のノルマ』と書かれた紙を渡すと、「また夜には顔出すから」と告げ、あっさりと立ち去ってしまう。

日中道場を使うのは、居候している4人と、家事の合間に顔を出すナチルだけ。
朝と夜にアレクが顔を出し、プログラムの進捗チェックと目標確認を行う。

実は今、アレクはかなり忙しいらしい。
孤児院の脇に空き家が出たので、そこを改築して自治区の施設にしようと提案し、住民に承認されたところだった。
道場が改築されたときと同じく、手の空いている住民のほとんどが作業に借り出されているという。

サラは、淡々とプログラムをこなしながらも、不安を隠しきれなかった。
時間は刻々と過ぎているのに、アレクはサラに何も言ってくれない。

サラが特殊能力を見せつけた翌日。
朝の光が差し込み、畳の青臭い匂いが立ち込める道場で、サラは自分の弱点を嫌というほど自覚させられたのだ。

左手薬指に巻かれた白い包帯を見つめて、サラはフッとため息をついた。

 * * *

その朝、寝ぼけ眼のサラに、アレクは突然言った。

「ちょっとだけ、噛み付いてもいいかい?」

サラはもちろん、サラ以外のメンバーも、全員が引いた。

「すっ……吸うんですかっ!」

「血ぃ吸うたろか」という地球ギャグを思い出して、思わず叫んだサラ。
メガネの似合う美形なアレクが、以前映画で見た吸血鬼ドラキュラ伯爵とかぶり、サラは両手で首をガードしながら後ずさる。

「何を言ってるんだ?」

呆れたように呟きながら、アレクはスッと至近距離に詰め寄った。
昨日カリムへ接近したときと同じ素早さ。
あらためてそのスピードを見せ付けられ、サラはおびえつつも感心した。

音も無く忍び寄るなんて、まるで忍者だ。
忍者でドラキュラだなんて、キャラが斬新すぎる。

アレクは長い腕を伸ばして、困惑するサラの左手を取った。
あからさまに警戒した表情のサラ。
冷や汗でしっとりした手のひらを感じ、アレクはクスッと笑った。

「バカだな。お前に治癒の魔術が効くか確認するんだ」

細くやわらかく、吸い付くようなサラの指。
逃げられないようにギュッと掴んで、アレクはその整った顔を、薬指に寄せた。
ちょうど薬指の、第二関節の先。
エンゲージリングの宝石が光るところへ。

サラは、少しカサついてあたたかい、アレクの唇を感じた。

『プツッ』

手を振り払う隙はなかった。
アレクに噛み付かれたサラの指から、小さく皮膚が裂けた音がした。

至近距離で見るアレクの顔は、学校の美術室にあった彫像のようだ。
美しいその顔が、サラの指からゆっくり離れていく。
それを見送った頃、ようやくサラの指を鈍痛が襲った。

「痛っ……」
「悪いな、うまくいったらすぐ治してやる」

言いながら、アレクは自分の唇に移ったサラの血を、ペロリと舐める。
砂漠の姫の血はなかなか美味いなと言って、妖艶に笑うアレク。
「ええ、ワタシの血はワインでできてますから」と、地球の女性タレントのようなことを考えつつ、サラはズクズクと鼓動が響くような痛みにじっと耐えた。

サラの薬指には、プクッと赤い血が膨らんで、宝石のように艶めいている。
膨らみきった宝石は表面張力を失い、ツッと流れてポタリと床に落ちた。

ああ、後でナチルに掃除してもらわなきゃ。

サラがぼんやり考えたとき、体全体を包むような空気の動きを感じた。
例えるなら、真夏の部屋に、ムワッと生ぬるい風が吹き込むような感覚。
不快ではないものの、決して快適ともいえない。


「やはり、効かないみたいだな」


サラの指に、変化は無い。
アレクは、水の精霊の癒しを行ったが、精霊たちはサラの指に少しまとわりつくものの、傷に届くこともできずあっさりと霧散してしまった。
傷口からはとめどなく真紅の血が流れ、指を伝ってはポタポタと落ちていく。

腕を組んで、なにやら考えているアレク。
サラは慌てて怪我した箇所を唇で包み、これ以上床が汚れるのを防いだ。
口の中に広がる、苦い血液の味。

砂漠の旅で、ラクタの血を飲もうとしたことを思い出したサラは「ギリギリ有りかも」と呟いた。

 * * *

一連のやり取りを見ていたリコ、カリム、リーズは、サラの弱点をはっきり認識した。
特に、リコとカリムのショックは大きかった。

もしもあの砂漠でサラが倒れていたら?
きっと、自分たちには何もできなかった。
例え自らの命を贄としても、サラには治癒魔術が一切効かないのだから意味が無い。

よくよく考えれば、気付くチャンスはあったのだ。
例えば、砂漠へ出発する前、サラに風の精霊の浮力が与えられなかったとき。
不思議に感じつつも、きちんと確認せずに見過ごして、その後も不注意から水と食料をあっさり奪われた。
運良く盗賊が現れなかったら、サラの命は砂漠に消えていただろう。

リコは、心の中で「ごめんなさい」とサラに謝罪した。

昨日のサラは、あまりにも強く眩しすぎた。
サラがまるで1人で何でもできる女神のように見えて、強く惹きつけられる反面、小さな胸が痛むのを止められなかった。

リコは、サラの存在に寄りかかり過ぎている。
自覚はしているけれど、実際に強いサラを目の当たりにして、また落ち込んでしまった。
こんなちっぽけな自分など、サラには要らない人間だと。

でも今は、違う。

強くて眩しくて、まるで女神のようで……だけど弱いサラ。
サラを守ることが、自分の使命だ。
これからは、自分がサラの盾になるのだ。

今度こそ絶対と、リコは心に誓った。


アレクが「今日はあまり動かすなよ」と言いつつ、手際よくサラの指に包帯を巻いていく。
その様子を、心を煮えたぎらせながら見守るカリム。

カリムは、リコとほぼ同じことを考えていた。

その心の温度は、リコよりも熱かった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










サラちゃん天才で最強と思いきや、攻撃力MAX、防御力ゼロという極端な子でした。こういう極端キャラがRPGに居たら、自分なら使わないかなー。勇者、戦士、黒、白というベーシックな配置が好きな自分はアイテムコンプ狙って攻略本活用する小市民。しかしカリム君、自覚薄ながら初恋中らしい。絶対タイプじゃないと思ってたんだけどな……若い男女が一緒にいるだけで盛り上がる、大学サークル合宿的恋愛?忍者ドラキュラ君ことアレク様もかなり興味津々で、逆ハーレム警戒警報。でもサラちゃんは一途なのでご容赦を。
次回、地味な訓練はスットバス……ってわけにもいかないか。リコちゃんついに一皮剥けるか?ドMな方にはお勧めな展開かも。
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