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砂漠に降る花 作者:AQ
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第二章(8)光を操るもの

サラの耳に届いた「ごめん、降参」という、アレクの呟き。
突然テレビのスイッチが入ったように、サラの視界は色を取り戻す。
瞳に映るのは、両手をあげて一歩、二歩とゆっくり体を引きつつ、心底困ったように苦笑するアレクの姿。

「もう何もしないから、ね?」

サラは、何のことかと首を傾げて、自分の伸びた腕を見つける。
その先には、黒剣の柄。

いつのまに握ったのだろう?

手がじっとりと汗ばむ感覚がした。
勇気を出して柄の先を見つめると、美しい刃がむき出しになっている。。
さらに刃の先がどこを向いているか分かり……

サラは「ギャッ!」と叫ぶと、剣を放り出してしまった。

その後、必死で畳に額をこすりつけて土下座するサラを、4人がかりでなんとかなだめたのだった。

 * * *

サラが落ち着くのを見計らって、アレクは「やっぱり今日は講義だけね」と言った。
サラの剣についてはさておき、言うべきことを言うことにしたようだ。
しょんぼりして肩を落としたサラ。

なぜ自分は、アレクに刃を向けたのだろうか。
ただ、アレクの瞳から「何かされそうだ」という直感を受けただけだ。
たったそれだけで真剣を向けるなんて、過剰防衛もいいところだ……

サラに気にすんなと声をかけてから、アレクは道場の畳側の端に4人を集め、黒板の前で武道大会の説明を始めた。
4人は大人しく、黒板前に並んで三角座りした。
小学校の授業のように、肩を寄せ合ってアレクの講義を見守る。

暗くなってきた道場には、アレクの炎の魔術によって、黒板の周りだけに灯りが点された。
まるでガスバーナーのような、強く青白い灯りだ。
ロウソクの赤く揺らめく炎より、もっともっと温度が高いだろうその灯りをみて、サラはきっと強力な魔術なのだろうと思った。

「では今から、武道大会について説明を行う」

少しかしこまり、指導する立場にふさわしい口調で、アレクは話し始めた。

武道大会は、今から2ヶ月後。
すでにお触れは全国へと広まっており、腕に少しでも自信のある者は、王城へ出発する準備に取り掛かっている。
中には敵国である砂漠の国の民もいるそうだ。

以前は、精霊の森の向こうに続く大陸からも多くの参加者が訪れたが、今はほとんど存在しない。
精霊の森が、砂漠の水枯渇と同じスピードで増殖し、L字の形の半島の出口を覆ってしまったからだ。
あたかも、オアシスの国と砂漠の国を、その先の大陸から隔離するように。
専門家も原因が分からず、首をひねっている。

オアシスに閉じ込められた大陸出身の商人には、故郷への想いが募り森に飛び込んだ者もいたが、皆死んでしまった。
妖精の森に立ち入った人間は精神を病み、狂い、自ら命を絶つのだ。
森の中でどんな恐怖が彼らを襲ったのか、知る者はいない。

しかし、まれに大陸側からオアシスにやってくる人物がいた。
森の向こうの国には特別な力を持つ巫女がいて、その巫女の力を得て森を行き来することができるのだそうだ。
今回の武道大会にも、巫女の力を借りた挑戦者がやってくる可能性もある。

武道大会は、それほど魅力的なイベントなのだ。
優勝者が手にするのは、地位と、名誉と、願いが1つ。
死者を蘇らせたり、トリウム国を脅かすこと以外なら、ほとんどの願いが叶えられるという。

 * * *

アレクの顔に見合わない太い指が、黒板に数字を綴った。

『200→16』

参加者は約200名。
200名全員で予選が行われ、一気に16名へと削られるらしい。
勝ち残った16名は、翌日に1対1のトーナメント戦を行う。
4回対戦して勝利すれば、見事優勝となる。

トーナメントの会場は、王城に隣接するコロセウム。
チケットを購入すれば一般の住民たちも観戦できるが、観覧席は入手困難なプラチナチケットだ。
人気の理由は、もちろん世界一の勇者誕生を見届けられること。
そして、王族の観戦だった。

普段目にすることができない、偉大なるトリウム国始祖の血脈。
唯一、5年に1度の武道大会決勝戦だけは姿を現わすとあって、国を愛する国民の誰もが、その席を奪い合うのだという。
もちろん、刺客の存在も忘れてはならないのだが、そのときばかりは城全体を包む結界をゆるめ、王族の周囲のみをより強固な結界で覆っての観戦となる。

「トリウムの王族は、国民にとって神にも値する、特別な存在だ」

アレクは、実際に彼らを見たときの印象を交えつつ、トリウム王族について説明した。

数々の武勇伝を持つ、英雄王こと現トリウム王。
聡明で、筆頭魔術師でもある第一王子。
武力が高く、騎士団長を務める第二王子。
美しい容姿と文才で、人気のナンバーワンの第三王子。
そしてオアシスの妖精と呼ばれる、可憐な王女が1人。

「そういえば、君にも通り名があったな、サラ?」

アレクは、記憶を探りながら呟く。

「えっと、確か……」

しばし考え込んだアレク。
リコのやや裏返った甲高い声が、道場に響く。

「わ、ワタシ知ってます!砂漠の黒いダイヤです!」

リコは、勇気を出して授業中に手をあげた内気な小学生のように、アレクを上目遣いで見て「ほめてほめて」と目線で訴えかける。
アレクはリコに微笑みかけ、リコは再び天にも昇る心地になった。

サラは「うん、石炭だね」と思ったが、何も言わずスルーした。

 * * *

そこまでアレクの話を大人しく聞いていたサラだが、ふと疑問を感じた。
確かにこの武道大会は大きなイベントで、国民的なお祭りなのだろう。
だけど、時期が時期なのに?

「アレクさん、今は戦争中なのに、そんなに盛り上がっていいんですか?」

ややとがめるような口調のサラに、アレクはうなずく。

5年前も、中止にしようという声が出たものの、国民の希望で実施されることになった。
国民は皆、戦争によってささくれ立った心を埋めてくれる、刺激的なイベントを求めているのだ。
集ってくる猛者たちも、この時ばかりは戦争のことは忘れて楽しむし、敵である砂漠の民も例外ではないだろう。

ただ、戦争の影響がまったくないわけではない。
前回の武道大会も戦時下だったため、本来500名程度の参加者が集うところが、半分以下になってしまった。

参加者が減っても、レベルが下がるという期待はできない。
このときばかりは、戦場に赴く戦士たちからも、腕に覚えのあるものが一時戻ってくるからだ。
今頃戦場では、戦士の層が薄くなることにそなえて、砦の増強に尽力しているだろう。

「出場者の中でもっとも恐ろしいのは、戦場から戻ってくる者たちだ」

5年前にアレクが苦戦したのも、そんな戦士たちだった。
戦場で、命のやり取りをした者から発せられるオーラには、盗賊として実戦を経験していたアレクも思わずひるんだという。
サラは、訓練や試合と違うであろうその戦いに思いを馳せ、ぶるっと身震いした。

神妙な面持ちの4人に、アレクはフッと強気な笑みを見せる。

「俺の見たところ、お前らの実力はこんなもんだ」

アレクは、黒板の残りスペースの一番上に『戦闘能力』と書き、カリムやリコに簡単な質問をしながら、文字を書き込んでいった。
サラには読めない文字があるので、隣のリコに解説してもらいつつ、知識を頭に叩き込んでいく。


◆サラ
武力 上の下
魔力 ゼロ
装備 聖剣(能力不明?)

◆カリム
武力 上の中
魔力 下の中 風(戦闘スピードを高める程度)
装備 聖剣(風の加護)

◆リコ
武力 下の下
魔力 上の下 火(炎の攻撃)・水(氷の攻撃、水の癒し)
装備 指輪(水の加護)

◆アレク
武力 上の上
魔力 上の上 火(攻撃)・水(癒し)・木&風(攻撃補正)・土(防御補正)・光(発光程度)
装備 聖剣(火の加護)指輪(火の加護)


「どーだ、オレ様の強さが良くわかるだろ?」

自信満々な笑顔だが、事実なので決してイヤミに見えない。

カリムは、自分とアレクの評価を見比べて、そのダークブラウンの瞳に闘志を宿した。
アレクレベルの人間が参加するとしたら、今の自分では勝てないということだ。

たった2ヶ月で埋まるのか?
いや埋めなければならない。
祖国と、自分を信じて送り出してくれたカナタ王子のためにも。

 * * *

「武道大会における絶対のルールは、相手を再起不能にしないこと。癒しの魔術を行っても復元しないダメージを与えたものは、即失格となる」

だが、とアレクは続けた。

「前回も、その失格って不名誉な宣告が、決勝トーナメントで3度ほど出たんだ」

気を失うか、倒れて10秒起き上がれなければ、戦いは終わる。
しかし、予選を勝ち抜くほどの強者同士が全力でぶつかるとなれば、お互い手加減はできない。
打ち所が悪く、死んだ参加者も1人いたという。

ケガや死を回避するのも、本人の実力のうち。
相手の能力を見極めて、勝てないと思えば早めにギブアップを宣言するかない。
ルールで定められる、移動範囲と決められた線を自ら越えるのも有効だ。
それすら叶わぬまま一瞬で再起不能になった者もいたが、運が悪かった、実力不足だったと噂されるだけ。

「前回失格になったヤツら、また3人とも確実に出てくるだろうな」

まあ死んでなければ、とアレクは笑ったが、聞いていた4人はまったく笑えない。

優勝を逃した者や失格となった者にも、5年後リベンジのチャンスは平等に与えられる。
アレクとほぼ同等、いやそれ以上の実力があるライバルもいたという。
武術と魔術との相性や、優勝候補同士が当たるというクジ運にも助けられた、とアレクは当時を回想しながら言った。


シビアな現実をつきつけられ、3人の心はぶるりと震えた。
特にリコの顔は、緊張で青ざめている。

そんなリコの様子をみて、リーズはぐっと腹に力を入れて声をあげた。

「兄さん、オレっ!」
「お前はダメだ」

覆いかぶせるように、アレクはきっぱりと言い放つ。
なぜ、という言葉が出ずに、リーズは悔しそうに唇を噛み締めた。

「分かっているだろう?お前にこの大会は、役不足だ」

しゅんとして、立てかけたひざの間に顔を埋めるリーズ。
1人蚊帳の外のリーズを、サラとリコはかわいそうに思った。
カリムだけは、いぶかしげにリーズを見つめていたが、次のアレクの言葉に集中を取り戻す。

「ただし、お前らに可能性がないわけじゃない。伸びしろはたっぷりあるんだ」

アレクは、チラッとサラを見てから、黒板の一番下に書いた言葉は。


『特殊能力』


サラは、腰に戻った黒い剣を、無意識に握りしめた。

「例えば、オレの特殊能力は炎の魔術の強化だ」

敵に追い詰められたときなど、アレクの髪は炎をまとったかのように、真紅に染まるという。
炎の精霊に好まれるその色が現れることで、アレクの魔術は格段に強まる。

「例えばサラ、君にもそれが、あるんじゃないのか?」

サラは、戸惑いに揺れる瞳でアレクを見上げた。

 * * *

確かにサラには、魔力の代わりになるような、特殊能力がある。
サラは、体育座りの姿勢のまま、恐る恐る尋ねた。

「アレクさんは、頭領から私の力のこと、どこまで聞いているんですか?」
「いや、何も?その剣のことも知らなかったくらいだ」

きっと、サラが運命の剣探しに熱中しているころには、伝達係がウマを駆りアレクの元へ向かっていたのだろう。
あのことは、知らないのだ。
でも、一体何て説明したら良いのだろう?

アレは悪い夢だったのだと、軽く現実逃避な刷り込みをしていたサラは、頭をぶるぶると振った。
嫌だ、思い出したくない。

何か方法は無いだろうか……

サラは、アレクの背後に書かれた、1つの言葉を目に留めた。
それは『癒し』という文字。

「あの、アレクさんは、人を傷つけない魔術も使えますよね?」
「そりゃ、いろいろ使えるけれど?」

軽く切り替えしたアレクに、サラは覚悟を決めて言った。

「では私に、そういう魔術をかけてみてください」

凛と響く声。
サラは、そっと立ち上がる。
座り続けていたお尻が少ししびれていたけれど、緊張でそれどころではなかった。

アレクは不思議そうに目を細めたが、すぐに右手をサラへ突き出して、その手のひらを広げた。
リコ、カリム、リーズは、アレクとサラを見比べながら、不安げな表情で見守る。
これから、何か大変なことが起きるような予感がした。

サラへと向けられたアレクの右手。
そこから現れたのは、一筋の光。

リコは、ゴクリと息を飲み込んだ。

ああ、ここにも光を操る人がいる。
王宮にいたときは、サラ姫の側近魔術師だけが使えると噂に聞いたが、実際に見たことはなかった。
光の魔術なんて、おとぎ話だと思っていたのに。
世界は、なんて広いんだろう。

リコ達が瞬きもせずに見つめる中、放たれた光は、ゆっくりとまばゆい軌跡を残しながら進む。
そして、ふんわりと優しく、サラの体を包み込んでいった。

短くなったサラの髪が、キラキラと輝きを放つ。
アレクには、自分をまっすぐ見つめるサラの瞳が、朝の光を映すオアシスの泉のように見えた。

次の瞬間。


『跳ね返れっ!』


サラの願いと共に、サラを包んだ光は霧散する。
同時に、サラへと放たれた何倍もの強い光が、アレクを襲った。


自分の体を包む、強烈な閃光。
一瞬にして、視界が白一色に染まる。

あまりの眩しさに、アレクは強く目を閉じた。
横で見守っていた3人も、突然現れた閃光を避けようと、腕や手のひらを目の前にかざした。

1人だけ視界のクリアなサラは視線を落とし、自分の体をじっと見つめた。

そうか、やっぱりそうなんだ。
私は受け入れなくちゃいけない……この不思議な力を。


「私の特殊能力は、たぶん、魔術を跳ね返すこと、かな?」


ついでにちょっと増幅されちゃうみたいねと、大きな瞳をきらめかせ、魅惑的に微笑んだサラ。
ようやく目を開けることができたアレク、そして座っている3人も、驚愕に言葉を失った。

サラの全身には、光のカケラがきらめいてまとわりついている。
雲の切れ間からこぼれる月の光に照らされたように、ほのかな発光を続けるサラ。

光をまとうその姿は、まるで壁画に描かれる空の女神のように神秘的だった。

4人は長い時間、魂を奪われたような表情でサラを見つめていた。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










石炭なサラちゃんの才能キラキラ編part2でした。聖剣+魔術倍返しで、サラちゃんそーとー強いです。あと今回地味にリーズ君もキラキラさせてます。「役不足」の意味を取り違えてるサラ&リコですが、その大会はお前には簡単すぎるよってことです。一番賢いカリム君だけ気付きかけてます。なんて、こーして補足しなきゃわかりにくいエピソードもありますが、ストーリーサクサクのためご勘弁を。(つっても、今回説明調長すぎたかも……今後はもうちょいコンパクトにいきます)
次回、順調なサラちゃんに弱点発覚?男子2人も、だんだん振り回されてるのを自覚しつつ……
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