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砂漠に降る花 作者:AQ
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第二章(4)ナチルの過去

また全体的にちょいシモな部分があります。アレク登場時は、もうこの手のネタを避けて通れないのか・・・苦手な方はご注意を。
リーズによる、偉大な兄アレクの人物紹介は、現在の仕事内容へと移った。

この屋敷は、アレクが統治者として暮らすようになった5年前に、大がかりな改築が行われた。
それまでは、貴族たちのささやかなパーティやダンス、音楽などに使われていた屋敷奥の大ホールを、畳張りの道場に変えたのだ。
自警団メンバーたちを中心に、アレクが今度は何をしてくれるのかと集まった大勢の住民によって、ほとんど経費をかけずに完成したらしい。

サラは、今自分がいる空間全体を、ゆっくりと眺めた。
古い柱と、少しゆがんだ窓枠、水平とはいえない畳もある。
道場を形作るすべての素材から、住民たちの愛情が伝わってくるようで、なんだか感動的だ。

広さからすると、サラが通っていた遠藤家の道場の4〜5倍程度はあるだろうか。
柔術を訓練する畳床と、剣の訓練をするコンクリート床に分かれている。
壁際には、練習用に刃を潰した剣や、先を丸めた槍が、キチンと整列して立てかけてある。
各20組くらいはあるだろう。

この道場を使い、アレクは師範として、普段から住民にさまざまなことを教えている。

騎士に憧れる若者には、キツイ訓練と上下関係を。
魔術師に憧れる子どもたちには、礼儀作法と魔術を。
女性には、護身術と美容体操を。
さらに老人には、長生き健康体操を。

アレクが特に注力しているのが、生徒の才能を見出して伸ばし、自分の手で誰よりも強い剣士を育てることだという。
それはきっと真実なのだろうと、サラはアレクの様子をチラ見した。

カリムを立たせたり、寝転ばせたり、うつ伏せにしたり、仰向けにしたり。
鍛えられたその体を余すところなく触りまくり、腰の聖剣を勝手に奪い振り回して「お前は俺に弟子入り決定」と、満面の笑みでカリムの頭をバシバシと叩いた。

カリムは、仰向けに寝かされたまま、なんだかうつろな表情をしている。
リーズの長い説明も、耳に入っているか疑わしい。
サラはかわいそうにと思ったが、旅の途中に、自分もよく彼にそういう表情をさせていたことには気付いていない。

手ごたえに気を良くした様子のアレクは、次の獲物を探すように視線を動かした。
その視線が止まったのは、サラだ。

カリムには及ばないものの、それなりに鍛え上げているサラの方へと、その触手ならぬごつい両手を伸ばす。
ビクッとして、一歩後ずさるサラ。

「怖がらないでいいんだよー、坊や。優しくしてあげるからね……」

メガネを光らせながら、じわりと近づいてくるアレク。
逃げられるような隙は、一切感じられない。
アレクの長く引き締まった腕が、サラの肩へと伸ばされる。

サラが思わず、女の子の声色で叫び声を上げかけた、その瞬間。


「なにやってんじゃ、このエロ領主ー!」


白と黒の混ざった色をした物体が、目にも止まらぬ速さで飛んできて、アレクの頭を直撃した。
アレクはその衝撃をモロに受けて、サラの足元にバタリと倒れる。

飛んできた物体は、女の子だった。
勢いをアレクの頭でうまく殺し、ふわりと器用に足から着地。
唖然とするサラが、女の子を見下ろすと、彼女はニコッと子猫のように愛らしく微笑んだ。


「ようこそ、当邸宅へ。私コレの専属メイドをしております、ナチルと申します」


丁寧に深くお辞儀をした、黒いワンピースに白いフリルのエプロンをつけた、ツインテールの小柄な少女。
コレと呼ばれたアレクが、まだ諦めつかないようにサラの足へと伸ばした手を、ぐにっと力強く踏みつけた。

 * * *

屋敷の客人たちは、ナチルとともに玄関脇のダイニングへと移った。
砂漠から来た3人は、まだショックが冷めやらぬ表情をしている。
リーズだけは、慣れているのか立ち直りが早いのか、セクハラ中やはり何も聞こえていなかったカリムに向かって、先ほどの話をかいつまんで伝えなおしている。

しばらく倒れていたアレクは、ナチルが夕食の話をし始めると「俺ちょっと出かけてくるから、夕飯いらない」と言い捨て、道場に直結している裏口から屋敷を飛び出していった。
アレクの後ろ姿を消えるのを確認してから、ナチルはサラたちに向き直った。

「私、ちょうど夕食の買い出しに行っておりまして、エロ領主ことアレク様と先に顔を合わせてしまわれたこと、心から謝罪いたします」

これからも、決して二人きりにならないよう気をつけてくださいねと、サラの手をとり上目づかいに見上げる少女。
こげ茶色のくりっと丸い瞳と、ふんわりした栗色の髪を耳の上で2つにまとめたツインテール、そして目鼻立ちのハッキリした色白な顔をした、まさに子猫のような美少女だった。
どこかで徹底的にマナーを学んだであろう、かしこまったその口調やしぐさも、お人形のように可愛らしい。

サラが、少し顔を赤くしながらうなずいたとき、サラのお腹からキュルッと大きな音が鳴った。

「まあ、すぐにお食事をご用意しましょう。今日は皆さんのためにお肉もお魚もたっぷり仕入れてきましたので」

ウインクしたナチルを、4人全員が目にハートを浮かべて見つめた。


ダイニングには、2人暮らしでは大きすぎるくらいの広いキッチンが併設されており、4人は夕食作りを手伝った。
料理は得意だったサラが、するするとジャガイモの皮を剥いていく。
その横では、リコが泣きながら玉ねぎの下処理。
上手に魚をさばくのはリーズで、段取りと味付けを確認するナチル。

カリムは、料理というものに取り組むのは初めてだった。
何をやっても失敗するので、すぐに仕事を干されてしまい、リコから「そこに立ってると邪魔」とまで言われて、大人しく皆の脇に座っていた。
サラは手を休めないまま、そっとカリムを観察してみる。

旅の前には、カリムを無表情で感情表現に乏しい人物だと思っていたけれど、本当はそうじゃない。
王宮では、感情を表に出さないようにと意識していたみたいだから、それが癖になってしまったのかもしれないな。

旅の途中、カリムは常に気を張り、皆のフォローに必死だった。
サラとリコにとって、なんだかんだ言いつつも、頼れるリーダーだったことは間違いない。
でも、今のカリムは、拗ねてしょんぼりとした少年のように見える。

サラが「カリム、この皮剥いたじゃがいも、4等分にしてくれる?」と声をかけると、無表情で「ああ」と言ったものの、そのお尻には喜んでパタパタ振られるしっぽが見えるようだ。
だんだん、年相応に見えてきたカリムを、サラは孫を見るおばあちゃんのように、目を細くして見つめた。

リコは、そんなカリムの耳の先を見て、ああまたカリムの欲求不満度が上がったなと、内心おかしくてたまらなかった。

 * * *

「あとは、煮えるのを待つだけなので、皆さんはお座りになってくださいませ」

料理の仕上げをしながら、ナチルは「手伝ってくださりありがとうございます」と、丁寧にお辞儀をした。角度は、最敬礼の40度。
伸びた背筋と、エプロンの上でそっと重ねられた手のひらが、とても上品で優雅だ。

こんなに小さな少女なのに、その態度も言葉遣いも、あまりに大人びているのは何故だろう?

「ねえ、ナチルはどこでその礼儀作法を身につけたの?」

サラが何の気なしに訪ねると、ナチルは「あまり面白い話ではありませんが」と前置きしてから、自分の複雑な生い立ちを語った。


ナチルはまだ10才。
幼くして、天涯孤独の身となった。
ちょうどネルギとの戦争がはじまった頃に生まれたナチルだが、騎士だった父は戦死し、母もショックで病となり、後を追うように亡くなった。

そのような立場の子どもたちは、当時珍しくなかった。
しかし、突然の戦争による動揺で、トリウムの政治は麻痺状態に陥っていた。
孤児の子どもたちは、政府から手を差し伸べられることもなく、追い詰められ、市街地から徐々に自治区方面へと追いやられていった。

大人の保護を受けられなくなった孤児たちは、自然と集まり一緒に暮らすようになる。
廃屋へと転がり込み、市場でくず野菜をもらったり、時には盗みをしたりしながら肩を寄せ合って暮らしていた。
その間には、餓死したり、大人の浮浪者に襲われたりと、ずいぶんな数の仲間が亡くなったそうだ。

ところが、5年前にアレクが現れてから、状況は一変する。
ナチルは他の子どもたちと一緒に孤児院に入り、ようやく人間らしい生活をおくれるようになった。

孤児院できちんと教育を受けたナチルは、魔術の才能を見出される。
たった5才のナチルだったが、その魔力は大人の魔術師に匹敵するほどのレベルだった。
一緒に訓練する他の子どもたちを凌駕していたため、困った教師は王城へ相談。
幼くとも戦力になりそうだと判断された結果、ナチルは孤児院から王城へ預けなおされた。
そこでナチルは礼儀作法を学び、王に仕える正式な魔術師を目指す道へと進んだ。

魔術師になるという夢が実現したと思った矢先、運命は再び暗転する。
訳あってナチルは、政府の権力者の怒りを買ってしまった。
命を狙われたナチルは、自治区、いやこのトリウム最強の男であるアレクの元に逃げ込んで、一命を取り留めた。
アレクの治癒魔術が無ければ、命を落としていただろう大怪我だった。

そして、まだ諦めていないはずの刺客から身を守るために、現在はアレクの屋敷でメイドとして暮らしながら、同時に一番弟子として武術・魔術の訓練を受けているそうだ。

 * * *

ぐつぐつと煮えるスープを味見しながら、ナチルは言った。

「やはり、あまり愉快ではない話になってしまいましたね」

シン、と静まり返った食堂。
聞いていた全員が、その過酷な生い立ちに、言葉を発することができなかった。
ナチルは、黙り込んでしまった4人を見て雰囲気を和らげるように、くすりと笑って言った。

「だから私、アレク様にはとても感謝しておりますの。そのお礼に、アレク様をマトモな人間に戻そうと、日々努力しているところなのですわ」

その台詞に、皆がなごみかけた瞬間、すかさずリーズが反論。


「あー、たぶん無理だよそれ」


だって、兄さんが初めてしゃべった言葉は、ママじゃなくてち○こだったらしいから。


可憐な乙女3人は、ピシリと石化する。

カリムは、先ほど「お前、こいつももっと鍛えなきゃダメだぞ?」と言われながら、触られまくった自分のそこを思い、ガックリと肩を落とした。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










どーだ!メイドっ娘!幼女!ツインテール!……はぁはぁ。別にそういうので興奮するような趣味はありませんが、王道ファンタジー狙ったら出さなきゃいかんのかなと。しかし悲惨な過去話になっちゃったな。こーいう重いとこは、さくっとシモなオチでカバーっす。
さて、次回。リコちゃんの悩みは深まりつつも、実力まだまだの3人にアレク様の手ほどきスタート。手取り足取りでムフフ……とならないように気をつけます。
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