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砂漠に降る花 作者:AQ
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第二章(1)オアシスへの旅路

盗賊の砦からトリウムへの道のりは、徒歩で約20日間。
サラたち一行は、峠で一泊野宿をしたものの、その後は小さな村や集落で食糧や宿を確保しながら無事国境を越え、トリウムの王が住む城にほど近い、城下町に住む盗賊仲間の家を目指して進んでいった。
荷物をしょっての徒歩移動なため、歩みは遅いが、砂漠越えとは比較にならないくらい穏やかな旅だ。

 * * *

サラは、初日一昼夜かけて岩山の連なる峠を越えたときは、今回もキツイ旅になるのかと覚悟した。
しかし肉体的にきつかったのはそこまでで、その後道のりは平坦に、気候は温暖になり、風景には徐々に緑が増えていく。
砂漠の民が焦がれてやまないオアシスの国の美しい自然や風景に、サラはちょっぴり観光気分にひたった。

そして、国境に近づくころから、サラたちはちらほら他の旅人と顔を合わせるようになってきた。
声をかけてくる彼らの表情は、真剣そのものである。
皆、これからネルギへ向かうところだという。

砂漠に入るときのために、数頭のラクタを引き連れて、ある程度の団体グループで向かうのだそうだ。
ラクタの足に靴のようなものをはかせ、逃げ出さないよう縄で縛って引き連れている。
おとなしく愛嬌のあるラクタが、鼻息を荒くしたり、フルフルと頭を振って嫌がるところを見て、サラはちょっとかわいそうになった。

ラクタは乾いた砂地に強いが、硬い石や木の根があるような場所を歩くと、足の裏が傷つき痛がって進まないので、砂漠限定の動物だ。
本来、商人たちの移動手段はラクタではなく、もっと移動スピードの速い、ウマに似た動物だった。
砂漠の手前で、ラクタ貸しという商人に頼み、ウマを預かってもらいラクタに乗り換えるのが、戦争前までの商売のやり方。

しかし現在、その動物のほとんどはネルギとの戦争に駆り出されており、私的に利用できるのはかなり地位の高い貴族や、情報伝達を担う騎士に限られるという。
馬車を使った乗合バスのようなシステムもあったのだが、大陸中央を通るメインの街道が戦争により封鎖されてからは運行休止中。

砂漠の王宮へ出入りを許された、水やオアシスの特産物を取り扱う商人たち。
その多くは、現在荷物を抱えてトリウムの街に立ち往生しているという。

商人たちも、ラクタでの国境〜砂漠越えにチャレンジしたいのはやまやまだが、戦闘エリアの拡大と、盗賊出現の噂により、金より命を惜しむ者も少なくない。
それでも、物資が欲しい砂漠の国の貴族たちからの報酬額がどんどん吊り上るため、危険を承知でチャレンジしようというグループが、何組か現れはじめたところだった。

ネルギから来たというサラたち一行は、これから砂漠へ向う旅人にとって、最新の情報を仕入れるまたとない好機。
サラが、砂漠にはすでに休憩できるような集落がほとんど残っていないこと、まれにサンドワームが水を求めて地上へ出ることなどを伝えると「可愛い坊や、ありがとう!」と足早に去っていった。

商人たちは、感謝の言葉とともに、食糧などの物資を情報提供のお礼にと渡してくれたため、サラたち一行は食糧補給にはほとんど困らずに旅が続けられたのだ。


そして、商人たちが最も喜んだ「今週のビックリドッキリ盗賊出没エリア情報」を伝えていたのが、サラたちの新しい旅の仲間である1人の男。


「ああ、いいことするって気持ちがいいなぁ!」


仲間を売ったことに気付いているのかいないのか、晴れ晴れとした笑顔で、うーんと両腕を空につき出して伸びをする。
そんな男を、サラは興味深げに、リコは眉をひそめて、カリムは興味なさげに、見つめていた。

彼の名前は、リーズ。
サラが心の中で”下っ端男”と名付けた男。
なぜか彼が、トリウムへの案内役として選ばれていた。

 * * *

サラたち3人が待つ部屋へリーズが現れたとき、サラはまた「あ、また下っ端男がパシらされてる」と、ちょっとひどいことを思った。
ところがリーズは頭領から直々に、サラたちの旅に同行する、大事な案内役を任されたという。
内心、ひげもじゃのような、もっと頼りになりそうな男が来てくれたらよかったのにと、サラは少し(そしてカリムは大いに)がっかりしていた。

リコも、自分が倒れたとき彼に介抱されたという恩も忘れ、サラと大差ない感想を抱いていた。
しかも一緒に旅を続けるにつれて、リコの中でのイメージは、坂道を転がり落ちる石のように悪い方へ傾いていく。

空に向かって「今日もいい天気だなぁ」とひとりごちるリーズを、リコは斜め後ろからいぶかしげに見つめ、その挙動を観察した。

リーズという男は、なんだかおかしなやつだ。
リコどころか、子どもでも勝てるであろう、微々たる魔力。
体もひょろ長く、カリムと並ぶとその差は歴然だ。
正面から見ると分からないが、真横に並ばせると体の厚みは半分しかない。

盗賊としての彼の仕事は、当然魔術師でもなく、戦士でもなかった。
めったに戦闘には参加せず、薄暗い峠のねじろで、家事や育児サポートなどの雑用をして暮らしてきたという。
リコたちのように、連れ去ってきた仲間候補を、あまり怖がらせずケアするのも、彼の主な仕事だった。
その経歴を聞いて、その貧弱なルックスにもメリットがあるのね、とリコは納得した。

不細工ではないが、糸のように細いタレ目と、まあまあ高い鼻、薄くやや大きめの唇。
少し茶色がかった黒髪は、きれいに短く刈りそろえられているが、それは自分で切っているらしい。
後ろ髪もまっすぐに切ることができるほど、手先が器用なことが特技だと、うれしそうに言っていたが、はたして大の男として、そんなことを自慢にしてよいのだろうか?

「あの、もしよかったら、リコさんも俺が切ってあげましょうか?」

と、髪を伸ばしかけのリコに禁句を言ってきたので、無言でツンとそっぽを向いたら、ものすごく落ち込んでしまい、ねとねと小声で謝り続けるので本当にうざかった。

22才というから、リコより5つも年上のくせに、腰の低さは4人の中でもダントツ。
珍しいオアシスの花や虫など、何か興味をひかれるものを見つけては「姐さ〜ん」「カリムさ〜ん」と報告に寄って行き、冷たくあしらわれては落ち込んで、リコの元に寄ってくる。

かわいそうだから、突き放さずに聞いてあげると、懐かれてしまったのか、おとなしい大型犬のようにニコニコしてついてくる。


『イイヒトだけど、頼りなくて会話がたいくつ』


それがリコの、リーズに貼った最初のレッテルだった。

 * * *

少し背は高いものの、屈強な盗賊たちにつきものの威厳やオーラがないリーズは、平凡な商人にしか見えない。
だが良く良く見ると、看過できない違和感のある場所が一点。

それは、マントの胸ポケットにある。

ポケットの入り口からのぞく、キラリと光る2つの物体。
金と銀のスプーンだ。

出発当日、あの待合室にやってきたときにも、それらは胸ポケットに入っていた。
数日旅する間も、ずっと。
たぶんスプーンの定位置を、あそこに決めてあるのだろう。
彼が動くたびに、カチャリと布越しにくぐもった音が聞こえたから。

地味で代り映えしない砂や岩ばかりの風景から、少しずつ緑が顔をのぞかせはじめたときから、彼はスプーンをときどき取り出すようになった。

そして今は、ポケットの丈をちょいちょいっと自分で縫い直し、スプーンのへら部分がしっかり外に出るようなデザインに変更。
マントが揺れるたびに、今にもポロリと落ちそうで落ちない、絶妙なバランスだ。

リコは、その違和感をスルーしようと努力したが、リーズが一歩歩くたびにカチャカチャと鳴る金属音が耳につくようになり、ついに我慢の限界となって尋ねた。

「ねえ、なんであんた、そんなところにスプーン入れてるの?」

リコが呆れてというか、もうかなり変人を見るように険しい目つきでいうと、リーズは少し困ったように笑って、額をポリポリとかいた。


「いや、この子らが外を見たいっていうからさー」


その返答の瞬間、リコの中でリーズは『100%ヘンタイ』と、レッテルが上書き保存されたのだった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










今回はちょっと平和に。嵐の前の静けさというヤツです……第二章、かなりの波乱展開待ってます。
「本当はスゴイのに、才能隠してて、好きな子にダメ男と思われてる」という匿名係長シチュエーションも、やっぱ王道でしょう。この話、そういうの盛りだくさんにしてきます。
次回、サクッと目的地に着くんですが、サラちゃんまた目立っちゃうことを。リーズ君はまた地味にフォロー係長。
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