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砂漠に降る花 作者:AQ
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第二章 プロローグ 〜運命の剣を探せ!(後編)〜

今回も極甘モードあり。しかも今までよりもう半歩、大人のボキャ天な、ピンクしおりな、いや、ギルガメッシュナイトでイジリーな・・・そんな描写がありますので、ご注意ください。
サラの大切な人の胸を深く貫いた、光の矢。
息を詰めて、信じられないものを見るようにジュートを凝視するサラ。

ジュートは自分の胸を見て一瞬息を呑んだものの、すぐに穏やかな表情に戻り、サラに優しく声をかけた。


「大丈夫だ。光は俺を傷つけられない」


光の矢は、徐々に形を失い、キラキラとした残像となり消えた。
ジュートの羽織っていた白いシャツにも、小さな穴1つ開いていない。

大丈夫、なら、良かった。
なのに、どうしてだろう。
心が、彼の胸を貫いた矢の、幻を消さないのだ。

息を吸うのも忘れ、ジュートの胸を見つめていたサラの顔色は、白を通り超して、まったく血の気が感じられないほど青ざめている。
ジュートは「驚かせて悪かった」と謝って、彼女の短くなってしまった黒髪をくしゃりとなでた。

ああ、この唯我独尊な人も、悪いことをしたらちゃんと謝ることができるんだと、サラは冷静に思った。
なのに、サラの感情と連動してくれない熱い涙が、頬を零れ落ちてポタリと床に落ちた。

 * * *

すでに、旅の準備は完了している。
これからトリウムへ向かう3人は、控え室として与えられた小部屋の中で、トリウムまで道案内のために付き添ってくれるという人物を待っていた。

小部屋の中央にある、4人がけのテーブル。
座っているのは、カリムとリコだけだ。

サラは2人から少し離れた、部屋のドアと逆側の壁に寄りかかっている。
頭を、壁にめりこませるように傾け、体全体を斜めに傾かせて。
不自然としか言いようが無い姿勢だ。
まるで人と言う字の、寄りかかっている側の棒のよう。

カリムとリコは、サラがこの部屋に入ってきた瞬間から、何か様子がおかしいことに気付き、自然とアイコンタクトしていた。
サラが見つけてきた”運命の剣”は、美しくしなやかな彼女の黒髪のように細く鋭く、彼女の腰できらめいている。
大喜びで「どうよ私の剣!かっこいいでしょ?」なんて駆け寄ってくるかと思っていたのに。

戻ってきたサラは、目も口も半開きで、ふらふらと部屋に入り、そのまま机も椅子も通り超して奥の壁にぶつかり、その壁に頭をめりこませたまま、斜めに寄りかかって硬直。
リコが一度、おずおずと名前を呼びかけたものの、ぴくりとも動かない。

2人は、サラに何もいえなかった。
サラの瞳や頬の色を見て、何が起こったか、うすうす感づいていたから。

「……に……た」

ふいに、サラが呟いたので、リコとカリムはビクッと震えた。
古い木の椅子が、ギシリと嫌な音を立てたが、サラには聴こえていないようで、そのポーズを変えない。
耳が良いリコには、その台詞が聞こえてしまった。
聞き直そうと身を乗り出すカリムを視線でいさめ、首を横に振る。

「……みたいに……してた」

今度は、カリムにも聴こえた。

やはりカリムも、ノーリアクションを貫く。
しかし、その言葉からの連想を止めることはできず、カーッと熱が頭にのぼっていく。
カリムの顔全体に、じわじわと赤みが広がっていくのを見て、リコはまた良いネタ1個見っけと内心ほくそ笑む。

サラは2人の存在を完全に忘れ、先ほど起こったすべてを思い返していた。

 * * *

声も出さずに泣きじゃくるサラを抱きしめ、頭を撫でながら、ジュートはなぐさめる言葉の変わりに、剣の秘密を語ってきた。

あのダイスを作ったのは、森に住む光の妖精。
力の強いその妖精は、とにかくいたずら好きで周囲を困らせていた。
ついには、森の神殿に祭られていた、女神の聖なる剣と呼ばれる宝剣を、どこかに隠してしまったのだ。
必死で探した他の精霊たちも、まさか小さな石ころに変化させられているとは気付かず、結局は探すのを諦めたのだった。

ジュートが「ラッキーダイス」と名づけたその石が、まさか女神の聖剣だったとは、彼にも分からなかった。
ただ、その石を転がすと面白いことが起こると気付き、たまに遊び感覚で使っていただけだ。

深読みするなら、石は自分の封印を解いてくれる運命の存在を探して、転がり続けていたのだろう。
ジュートがサラを連れてくるという運命を察し、その道筋を辿らせるように、密かに画策していたのかもしれない。
小さな石ころ、もとい意思をもたない剣ごときに自分が操られていたかもしれないという想像は、ジュートの心に強い好奇心を沸きたてる。

サラは、なぜ自分も見抜けなかったほど強く頑なな、この聖剣の封印を解くことができたのだろうか?

「さっき、お前が剣の封印を解いたとき、魔力を消去するというより、跳ね返すような力を感じた。だから」

光の妖精のいたずらは、悪意あるいたずら。
ジュートは同じように、悪意あるいたずらの矢を、サラの胸に放ってみたのだ。

もちろんその矢がサラに刺さったとしても、かすり傷になる程度の力だったし、傷がついたなら癒しの魔力ですぐに回復させるつもりだった。
跳ね返されたところで、光を完全に支配するジュートにとっては、痛くもかゆくもない。

完全な確信犯。
本来なら、この話を先にしてから試すべきだった。

だから悪かった、と何度も言ってみるのだが、サラは嗚咽を漏らして首を横に振った。


あのとき、サラには見えていたのだ。
悪意のある光の矢が、自分の体に触れたら、どうなるかということが。
光の矢が自分の体に触れると同時に、真逆の方向へベクトルを変化させること。
そしてジュートの胸に、死へと導く鋭さで向かっていくことを。

やめてって、思ったのに。
いかないでって。
あの人を、傷つけないでって、強く願ったのに。

でも、あれは止まってくれなかった。
私の思いは、関係ない。
ただ自動的に、サラを傷つけようとしたものへ、報復するだけ。

自分の意思ではどうしようもない力が、自分の大切なひとを、死に導く。

どうしてだろう。
それならいっそ、自分が消えてなくなりたいと、思ってしまうのは。


お願い、私があなたを殺すくらいなら。


あなたが私を……

殺してください……


瞳を閉じたとき浮かんだ光景は、サラの白いドレスの胸に咲いた、大輪の赤い花。

その映像が、あたかも今現実に起こっていることのようにくっきりと、サラの脳裏に広がる。
サラはブルーの瞳を大きく見開いたまま、意識を飛ばした。

 * * *

ジュートが強く抱きすくめても、くしゃくしゃと髪を撫でても。
頬や目じりに、そして唇に、羽が触れるような優しいキスを何度落としても。
そして耳元で「ごめん」「俺が悪かった」「泣かないでくれ」と甘い言葉をささやいても。
サラの見開かれた大きな瞳から、涙を止めることはできなかった。

抱きしめた彼のシャツの胸は、素肌が透けるほどサラの涙でぐっしょりと濡れて、鍛えられたその肌に張り付いている。
サラは声をあげず、ただ静かに涙を流す。
瞬きすることも忘れたように表情を変えないまま、サラはその黒く長い睫毛を濡らし続ける。

いろいろな色を見せる、彼女の青い瞳。
晴れた空を溶かしたように深く、ときには好奇心に輝き、気の弱さを見せるときは月のように暗く陰り、そしてジュートを見上げるときは淡い想いで滲ませる。
今その瞳は感情を見せず、ただただ透き通り、涙を湧きあがらせる泉のよう。

可愛らしい鼻やふっくらとした頬は真っ赤で、短くした髪の奥に隠れる白いうなじとのコントラストが眩しい。
触れるたび離れがたくなる唇は、無意識に声をあげまいとしているのか、ギュッと引き結ばれている。
抱きしめる腕に逆らわず、サラはしなやかな体を彼に預けてくる。

その姿やしぐさの全てが、愛おしかった。
けれど、一番愛しいのは、サラの太陽のような笑顔。

自分が泣かせたくせに、どうして涙を止めてくれないんだと、ジュートは苛立った。

「くそっ!」

ジュートは観念して「おまえのせいだからな」と掠れるような低く小さな声でささやいた。

もう少し、我慢しようと思っていたのに。
おまえがその髪を伸ばして、俺の元に戻るまでは。


ジュートは、サラの頬にキスをして、溢れる涙を唇でぬぐう。
涙の味を感じ、ジュートの胸は熱く高ぶった。

その熱情の導くままに、ゆっくりとその端正な顔を傾け、軽く唇を開いたまま、サラの赤く染まった唇へと近づけていく。


そっと、今までのように、サラのやわらかく熱い唇に触れて。

そのまま、サラの呼吸が止まるほど。

深く深く、くちづけた。


「……っ!」


自分の口内に、何かやわらかいものが入り込んでくる。
その強烈な違和感に、サラは意識を取り戻した。

視界に突然現れた、ジュートの長い睫毛。
その睫毛がフルリと動き、閉じられていたまぶたがゆっくりと開かれていく。
艶やかに濡れてきらめく緑の瞳が現れ、サラの心臓をドクンと震わせる。

サラは、霞がかかったようにぼやけた頭で、今の状況を理解した。


ああ、これはもしかして……

私、大人のキスってやつを、されているのでは……


サラは超至近距離で、緑の瞳と見詰め合っている。
困惑に身じろぎするが、がっちりと腕の中に閉じ込められ、体がきしむほど強く抱きしめられて動けない。
一瞬、フッと唇が1センチ離れる。
甘い吐息がかかる距離で、ジュートは悪魔のように妖艶な笑みでささやいた。


「お前、目ぇ開けてんじゃねーよ」


再び瞳を閉じたジュートは、サラの唇に軽く噛み付き、再び彼女の唇を開かせる。
サラは、魔法にかけられたように、ゆっくり瞳を閉じながら思った。


『これって、うにうにしてて、まるでサンドワームみたいね』


サラがおかしなことを考えている間に、ジュートの手は、サラの頬から首筋をなぞり、そしてサラの肩へと、降りていく。


(……っ!!)

夢見心地だったサラは、ものすごい強さとスピードで、ジュートの体を思いっきり突き飛ばした。


「ダメっ!」


そこだけは!

リベンジするまで、待ってくださいっ!!


涙を止めて真っ赤になったサラを、再び抱き寄せたジュートは「お前の髪がもっと伸びて、ついでに……そこがもうちょいどーにかなるまで、待っててやるよ」と笑った。

 * * *

茶色くゴツゴツとした岩山は、ぱっと見ただけでは人間どころか生物が暮らしているようには見えない。
サラは、砦の出口から少し離れた砂地に立ち、その光景を目に焼き付けるように、目を細めた。

そこは、気のいい盗賊、いや家族たちの暮らす、素敵な隠れ家だ。
岩山のてっぺんを見据えながら、サラは思う。

あのあたりに、きっと彼はいるはず。
今頃、たまりにたまった書類を前に、ふくれっつらで机に向かっているに違いない。
また書類を倒して、雪崩れおこさなければいいけれど。
サラは、そんな想像をして、ふっと笑んだ。


サラをちょっとだけ大人に変えたあの行為の後で、彼は言った。


「一緒に行ってやりたいけど、俺にもやることが残ってるから」


光の精霊がまとわりつき、きらめく緑の髪。
エメラルドのように透き通る瞳の、精霊王。

彼は、どうしても見つけなければいけないものがあると言った。


「先に俺の探しものが見つかったら、お前に会いに行ってやるよ」


それは、盗賊たちが欲しがるような、伝説の宝だろうか。

あなたは、いったい誰?
あなたは、何を探しているの?
あなたは、私をどう思ってる?

聞きたいことは、何も聞けなかった。


あなたのこと、私はまだ何も知らないまま。

でも、きっとまた会えるよね。


サラは「早くー」と声をかけてきた仲間を追って、砂地の石を蹴り、力強く駆けて行った。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










この話は、第二章のスタートでもあり、第一章のシメでもあります。精霊王君は一時退席ですが、まあ満足していることでしょう……うっぷす。皆さんも青汁飲んで口腔内リフレッシュを。
しかしあの「……」の話だけど、あのうにうに行為の意味がワカランと思うのは自分だけでしょうか?大人な経験者の皆さま、そー思わん?
次回から、トリウム王城攻略編に入ります。また強烈新キャラどんどん出るけど、まずは主要人物中稀少な地味顔キャラのあいつが活躍しますよー。
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