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砂漠に降る花 作者:AQ
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第五章(28)消えたサラ姫

 サラ姫が恣意的に選んできたという、赤い瞳の器。
 理由は、国王を延命させるためだけれど……過去の話を聞いた限りでは、サラ姫にとって国王は「いつ死んでくれても構わない」存在でしかない。
 戦争という目的のために、共闘していただけ。
 それ以前に、カナタ王子が国王を敬い、頼りにしてきたというのも大きいだろう。
 カナタ王子のためなら、サラ姫は労力を惜しまない。

 いずれにせよ、国王は“死に体”でしかない。
 この国を陰で操ってきたのは、やはりサラ姫なのだ。
 サラは、愛らしくも恐ろしい小悪魔に、最後の質問をした。

「一度赤い瞳の器になって、相性が合わなかった……魂が傷つけられた人が、その後助かる可能性は?」
「さあ……そんな人は見たことないから、分からないわ」

 そこで、サラの考えは振り出しに戻った。
 サラは「教えてくれてありがとう」と言いながら、軽くお辞儀をする。
 顔を上げたときには、すっかり意気消沈して呟いた。

「結局、リコを助ける方法は分からずじまい、か……」

 月巫女の銀髪パウダーは、リコにかかった呪いには効果がなかった。
 戦地でキースや苺ちゃんたちを救えたのは、風邪をひいた相手に栄養剤を飲ませたようなもの。
 リコやエール王子みたいに、魂を傷つけられた人とはレベルが違う。
 二人は、大病を患っているのだ。

 こうしてリサーチしてみても、今のところ『魂が傷つく』という病に効く薬は見当たらない。
 ジュートが残してくれたヒントのように……リコ自身が、自分の中の闇に打ち勝つのを願うしかない。
 それはもしかしたら、精霊の森に迷い込んだ人間が生き延びる確率に近いのかもしれない。
 そして……自分にできることは、何も無い。

「まあ、リコのことはまた後で考える。とりあえず、和平はカナタ王子と進めちゃいましょう。当面の問題は、もう一つ……国王の体がいつまで持つか」

 サラは『次の器探し』と言い掛けて、止めた。
 人の命を“器”というモノ扱いするのは、どうしてもためらわれる。
 それでも、誰かにその役割を担ってもらわなければ……赤い瞳は無差別に人に取り付き、悪意を撒き散らすのだ。

「ねえ、サラ姫。いっそあなたがあの赤い瞳をもらって、自分でコントロールしたらどう?」
「無理よ。あいつ、私が近づくだけで怖がって逃げちゃうもの」

 まるで猫の子を扱うように言うと、サラ姫はクスッと笑う。
 サラは軽い頭痛を感じ、溜息とともにこめかみを抑えた。

「とにかく、誰か相性のいい人探してよ。頭がオカシクならなくて、死んじゃわないくらい強い人」
「探すのは構わないけどぉ……急がないと、あの人の体もたないわよ?」
「……あと何日くらい?」
「さあ。もって数日ってところじゃないかしら?」

 サラの脳裏に、今もこの王宮へ向かって行軍を続けているだろう、キール将軍の姿が思い浮かんだ。
 もう一度彼に受け入れてもらう……一瞬だけそんな想像をして、サラはあまりにも残酷だとそれを打ち消した。

  * * *

 赤い瞳を受け入れるということは、自分の命をすり減らす行為だ。
 誰かに押し付けるなんて考えられないし、考えたくもない。

「あーもう、メンドクサイっ! 何かいい方法無いわけっ? 誰か、アレを受け入れてくれる人はいないのっ?」

 叫んだサラを、くりっとした黒目がちな瞳が見上げた。

「居るんじゃない? 一人」
「はぁっ? 誰よ」
「最初にアレを持ち込んだ女」

 なるほど、とサラは手を打った。
 もらったものは、丁重にお返しすればいいのだ。

「それナイスアイデアかも」

 そういえば、小さい子どもって意外と鋭い意見を言うことがあるなと、若干失礼なことを考えつつ、サラ姫の頭をぐりぐりと撫でまわした。
 あっちこっち振り回されつつも、結局は『魔女探し』がサラの旅の目的になるようだ。
 現時点では、魔女の行方についてはノーヒントも同然なのだが……。

「まったく、RPGじゃないんだから……」

 ゲームの世界の方がよっぽどシンプルかもしれない、とサラは思う。
 世界を救うために、どこかに居るという悪の権化を探し出して倒す、という流れは一緒だ。
 ある町へ行けば、魔物が暴れているなどのイベントが発生。
 それを解決すれば、次の町へとつながる扉の鍵が貰える。
 次の町へ行ったら、また別のイベント。
 多少うろうろしたところで、エンディングへ至る王道ルートのヒントは散りばめられている。

 それに比べて、自分の旅はなかなかに複雑だ。
 魔法使いの手により『お姫様を助けて、世界を平和にせよ』と呼び出された勇者の自分。
 世界を平和にする……そのためには、戦争を仕掛けた“魔女”を探さなければならないという。
 この水不足が魔女の呪いなのか、魔女は単に未来を予知しただけなのかは分からないけれど、ともかくこのまま魔女を放っておけば、問題は片付かない。
 手を替え品を替え、ねちっこくオアシスの国を狙うだろう。

「とりあえず、魔女を見つけなきゃいけないのよねぇ。どこにいるかなんて、知らないんでしょ?」
「知ってたら、とっくに呼び出して文句言ってるわよ。こんな役立たずをよこして……」
「……なぁに? どういう意味っ?」
「なんでもなーいっ」

 サラ姫が漏らした『役立たず』の意味は、きっと敵軍を一瞬で蹴散らすほどの力が無かったことを指すのだろう。
 日食のとき、赤い瞳が何をもたらしたか……あの、死と静寂に包まれたモノクロの世界を知らないから言えることだ。
 しかもサラ姫はずっと赤い瞳の支配者だったから、存在そのものを甘く見ているのかもしれない。
 この存在の恐ろしさを知れば、真剣に願うはずだ。

「アレを、早く“封印”しなくちゃ……」

 サラの口から、ぽろりとそんな言葉が漏れた。
 言わせたのは、サラの中に眠っているはずの……翼を持つ女神だ。
 もっとヒントが欲しいと願ったものの、サラが意識するほど女神の存在は遠のいていく。
 砂漠の蜃気楼のような、サラの中の女神。
 追いかけることを諦めたサラは、再び人としてできる限りの知恵を絞るべく頭を働かせた。

 サラの旅の終着点、いわゆる“ラスボス”が太陽の巫女であることは、間違いない。
 そしてサラ姫は、太陽の巫女が残していった大事な鍵。
 魔女が自分の後継者と予言し、この国に託していった人物。
 彼女は今、こうしてサラが和平へと動くことを、どう思っているのだろう?
 もし魔女が、どこかでこの様子を見ているのなら……。

「もしかしたら、魔女はまた現れるかもしれない。邪魔者を消すために」

 呟いたサラは、自分の言葉がなんだか不吉な予言のように思えて、少しだけ身震いした。
 それを耳にした魔術師もサラ姫も、サラの言葉に怯えの表情を浮かべた。

  * * *

 魔女の行方についても、サラの中ではいずれ片づけなければならない宿題のポジションに置かれた。
 ずっと同じ姿勢で座りこでいたため、お尻の感覚が無くなってきたサラは、うーんと両手で伸びをしながら言った。

「とりあえず、もうあなたたちから聞きたいことはだいたい聞けたし、私は一回リコたちのところに戻ってみるわ。サラ姫は、カナタ王子にちゃんと謝りなさい?」
「――ああっ!」

 臆病な子犬のように、サラの腕の中にすっぽり収まっていたサラ姫が、突然大声を上げて立ち上がった。
 サラの渡したハンカチを、鼻をかみ終わったティッシュのように無造作に放り出すと、魔術師の方を向いて叫んだ。

「もう信じられないっ。なんであんなに大事なことを、ずっと黙ってたの!」
「サラ姫、さま……?」
「お兄さまのことよっ!」

 サラも魔術師も、サラ姫が何を言いたいのか分からず、顔を見合わせる。
 興奮したサラ姫は、顔を真っ赤にしながら叫んだ。

「お兄さまが、私と血が繋がって無いなんて!」

 ああそのことか……と、なんとなく納得するサラ。
 あまりにも多岐に渡る深い話をしたおかげで、すっかり頭から飛んでいた。
 それは、魔術師も同じだったらしい。
 小さく縮こまりながら「申し訳ありません」ともごもご呟き続けている。

「――私に隠し事するなんて、許せない!」

 サラ姫にきつく叱責され、しゃんと伸びていた腰を丸めながらうつむく魔術師。
 お年寄りを……しかも数少ないサラ姫の理解者に対する態度としては、本当に子ども過ぎる。
 サラは呆れながら言った。

「あんたねえ、自分だってカナタ王子に隠し事して怒られたんでしょ? それを棚に上げて」 

 なだめようとした言葉が、喉に張り付いて止まった。
 サラ姫の形相は、先程までと明らかに違う。
 急に凄味を増したサラ姫の周りには、プラスチックを燃やしたときのような黒い靄がまとわりつき、陽炎のように揺らめいて見える。

「それを早く知ってたら、遠慮なんてしなかった……!」

 ギリギリと唇を噛みしめ、拳を握りしめ、感情を剥き出しにして魔術師を睨みつけるサラ姫。
 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
 美しい人を例えるときの慣用句が、サラの脳裏を過ぎり……同時に打ち消された。
 目の前に咲くこの花は、確かに何物にも代えがたい美しさを持つ。
 しかし、この美しい花は……もの凄く危険だ。

「――お兄さまっ!」
「ちょっと、サラ姫待って!」
「サラ姫さまっ……」 

 細すぎるドレスの腰へ飛びついたサラの腕をすり抜けて、サラ姫は“何もない空間”に消えた。
 サラは、今と同じようにの目の前から消えた、一冊の童話を思い出す。
 それは闇の魔術の……空間移動。

「――ねえ、サラ姫はあんなこと、いつもできたのっ?」
「いいえいいえ、初めてですっ!」

 篝火がじりじりと燃え続け、そろそろ燃え尽きるほんの一歩手前まで来た、薄暗い部屋。
 激しく動揺する魔術師の右手奥。
 すきま風も入らないこの密室で、何かがゆらりと蠢いた。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 ようやく動きだしました。が、今回も三人の会話ベースで。サラちゃんのRPGもそろそろ佳境というか、ぐるぐる回って結局元のお城へ戻ってきた感じですね。しかし、赤井瞳ちゃんの所属レーベルはなかなか決まりません。スカウトしてきた社長に一旦預けるっぺ、というのが結論でした。もうこの話長過ぎて、後半サラ姫の逆切れに、作者ですら「え、なんで?」と思わされてしまいました。そーいや、そんな話も何話か前に出てたっけかー。しかし、ブラコンな妹が「えっ、あたしとお兄ちゃん、本当の兄妹じゃないの?」なんて展開は、一昔前の少女漫画ですわねえ。これもある意味王道。そしてサラ姫ちゃん、ラブパワーでいきなりの能力覚醒。さて、どうなることやら……。
 次回から、かなりの急展開に入っていきます。ジェットコースターに乗った気分で、多少のガタツキは見ないフリしつつ楽しんでいただければと思います。
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