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砂漠に降る花 作者:AQ
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第五章(21)ネルギ国王の病状

 サラ姫の境遇を聞いて、サラの胸には再び嵐が巻き起こった。
 高ぶる心を抑えながら、今聞いたばかりの話を整理する。

 きっとサラ姫は、生まれてすぐに『闇の魔術』を使えることが分かったのだろう。
 だから王妃に“魔女”として疎まれ、幽閉された。
 しかしすぐに戦争が起こり、サラ姫の能力は“使える”と判断されたのだ。

 それからというもの、幼いサラ姫は闇の魔術を駆使し、刺客を生み出し続けた。
 おもちゃで遊ぶように、無邪気に……。
 幽閉されたサラ姫の映像が鮮明に思い浮かぶのは、女神の見せたあの映像と同じものだろうか。

「月巫女も……」
「サラ殿?」
「ううん、なんでもありません」

 サラは、中途半端な笑顔を作りつつ、首を横に振ってみせた。
 サラ姫と月巫女が、サラの中で一つに重なる。
 同じように呪われた子として生まれた月巫女には、彼女の力を打ち消すくらい明るい太陽があり、いつも傍にいてくれた。
 結果的に周囲から二人で一人と扱ってもらえたから、幸せな暮らしができたのだ。

『太陽と月は、もともと一つだった』

 サラの記憶から、あの童話のフレーズが浮かんだとき、その部屋の扉は現れた。

  * * *

 重厚で巨大な木の扉は、それまで通り過ぎてきた他の部屋とは違い、繊細な模様が一面に彫られている。
 モチーフは、一枚には鳳凰、もう一枚には龍。
 巨大な龍を見上げたサラは、お守りから現れた金色の龍の存在を思い出した。
 案外面倒見のよさそうな魔術師ファースに育てられ、今頃はぐんぐん大きくなっていることだろう。

「今なら、あの子もちゃんと見えるのになぁ」
『――コンコン』

 サラの独り言に、カナタ王子が扉を叩く音が重なった。
 内側からの反応は無い。

「サラ、いるんだろう? 私だ。ちょっと開けてくれないか?」

 何度もしつこくノックし、声をかけてもノーリアクション。
 結界の魔術が施されているらしく、カナタ王子が全力を使って強引に扉を押すもののビクともしない。
 顔を真っ赤にして、必死にトライし続けるカナタ王子を横目で見ていたサラは、もうそろそろいいだろうと声を張り上げた。

「サラ姫! 聞こえてるんでしょう? 猶予はおしまい! 開けますよっ!」

 サラが手を触れると同時に、反発しようとうごめく力を感じる。
 しかしサラは、その程度の魔力をコントロールする術はすでに身につけている。
 抵抗もむなしく、その扉はギギギときしみながらサラの細い腕に押しやられた。
 カナタ王子は、自分が体当たりしても開かなかった扉と軽々それを開けるサラを見て、目を丸くしている。
 そんなカナタ王子に構わず、ずけずけと部屋の中に押し入っていくサラ。
 何かの術を使っていたのか、祈りを捧げていたのか分からないが、部屋の中央には床に膝をつけたサラ姫が居た。

「お兄さま、と……あなた……」
「強引な真似をして、ごめんなさいね?」

 先程、サラ姫が笑ったように優雅に、サラは履いてもいないドレスの裾をつまんでお辞儀のポーズをとった。
 それは『サラ姫をお手本にせよ』と、横にいる魔術師に仕込まれたしぐさ。
 今のサラにとっては、嫌味そのものでもあった。
 ごめんと口では謝りながら、真逆の感情を顔に出すのは、サラ姫の十八番なのだから。
 さすがに気付いたサラ姫は、ぷぅっと頬を膨らませて立ち上がる。

「あなた何をしに来たの? 邪魔なんだけど」
「サラ。国王はいつ目覚めるんだ? この……サラ殿と私から、国王に今度の相談がしたいんだ」

 サラの代わりにカナタ王子が、目的を簡単に説明する。
 サラ姫は、隣にいる魔術師と目配せし合った。
 何かがピンと来たサラは、二人の様子を水も漏らさぬようにじっと観察する。

 室内は、あの地下室のように薄暗かった。
 さほど広くはない部屋に、閉ざされた窓。
 四方の壁に焚かれたかがり火の煙が充満し、視界は悪い。
 燃える炎が酸素を奪っているのか、少し息苦しい。

 以前、一度だけ訪れたときはもっと明るかったはずだ。
 サラの背丈ほどもある大きな窓は、開けば中庭に面するバルコニーに繋がっていて、そこから眩しい光が差し込んでいた。
 しかし今は、バリケードで覆われたように、黒く分厚いカーテンで閉ざされている。

「お兄さま……今じゃなきゃ、ダメなの? また後で起こしてあげるから。ねっ?」

 今度は、カナタ王子とサラが目配せする番。
 子どもから脱皮できていないサラ姫は、隠し事ができない。
 隣に居る性別不詳の老魔術師は、先程は手にしていなかった杖を持ち、腰を曲げてそこにもたれかかりながら立ちつくしている。

「ああ、今すぐだ」

 カナタ王子の今までになく鋭い視線は、サラ姫に諦めの溜息をつかせた。

  * * *

 国王は、室内の隅に置かれた天蓋付きのベッドに横たわっていた。
 サラとカナタ王子は、国王の表情が見える距離まで近づく。
 カナタ王子は「変化が無い」と言ったけれど、それは身近な人間だから……そう感じるくらい、サラの目に映る国王は、明らかに痩せていた。
 それとも、ここでもまた生気あふれるトリウム国王と比べてしまっているのだろうか?

「今起こしたら、お兄さまが……まいっか。私が守ってあげればいいのよね」

 素直なサラ姫は、思ったことをそのまま口にする。
 サラは鼻から深く息を吸い込み、右手はズボンのポケットへ入れた。
 国王が起きたら、カナタ王子の身に何かが起こるのだ。
 警戒するサラを気にも留めず、サラ姫は国王の枕元へと歩み寄る。
 その華奢な背中に、しわがれた声が投げかけられた。

「姫さま。本当に、よろしいのですか?」
「うん、もういいわ。どうせ軍がもうじき戻ってくるんでしょ? 面倒だからそこから選べばいいのよ」

 一体何を、と問いかける言葉は、サラの胸の奥で弾けた。
 サラ姫が国王の額に口づけるた瞬間、国王の目はカッと見開かれた。
 その瞳が、ぎょろりと一回転して……サラたちの方向に止まった。

「――っ!」
「国王……?」

 サラも、隣にいるカナタ王子も、息を飲んだ。
 国王の瞳は、片方はサラ姫と同じく漆黒。
 もう片方は……血を流したような深紅。

「魔女の眼っ!」
「ああ、騒がないでよ。うるさいなあ」

 手慣れた様子で、サラ姫は国王の背に手を当て、その上半身を支えるように起こした。
 国王は口元をだらしなく緩め、そのオッドアイでただ一人の人物を見ている。
 サラの隣に居る、カナタ王子を。

「だーめ。お兄さまだけは駄目よ。また他の人を用意してあげるから、大人しくしていて?」

 サラ姫が、国王とカナタ王子の間に割り込みながら、いつもよりゆったりとした口調で語りかける。
 年下の子どもに言い聞かせるように。
 異常さに身震いしたサラは、硬直するカナタ王子の腕を掴んだ。

「大丈夫ですか?」
「あっ、ああ……すまない」

 国王に、いつもの“暗示”をかけ終わったのか、サラ姫が振り返った。
 赤い炎を受けて、その黒髪が燃え盛る太陽のように輝く。
 サラ姫の瞳にも、暗い炎が見えた気がした。

「ちょっとあなた、お兄さまに触らないで!」
「あ、ゴメンっ」

 カナタ王子につられたのか、反射的に謝ってしまったサラ。
 白く滑らかな砂漠の王子服の袖を離し、一歩後退った。
 今この空間を……特に、悪魔の傀儡となった国王をコントロールしているのは、サラ姫なのだ。
 彼女を動揺させては、悪魔が野に放たれる。

「お兄さまには、言わなきゃって思ってたの。この人……国王さまに贄が必要なんだけど、もうこの王宮には魔術師が居なくなっちゃったでしょう? だから、軍が戻ってくるなら何人か連れてきて欲しいの」

 サラ姫の発した言葉の意味は、カナタ王子には伝わらなかった。
 カナタ王子は、首を軽く横に振りながら、サラと同じ位置へと一歩下がった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 さて……またもや一日ズレでお届けしました。申し訳ありませんっ。どうぞ、思う存分「ドジでのろまなガラパゴスゾウ亀め!」と罵ってください。お話の方は魔女サラ姫、大活躍の回でした。サラちゃんの同情もこっぱミジンコ。(←作者が考えたギャグではありません。こういう漫画があるのです) 久々のサラ姫節(支離滅裂トーク)を思い出しつつ書きましたが、いかにブラック過ぎずカワイゲを残すか、というのが悩んだ部分です。こういうキャラをヤンデレというらしいのですが、書き始めの頃はそんな単語も知らず……好きな人を好きすぎてボコるとか、好きな人と二人きりになりたいから周囲をボコるとか。ミザリーは好きなのですが、リアルに居たら「ノォー!」と叫んであっさり殺される脇キャラな自分であります。サラちゃんはそう簡単にはやられませんが。
 次回は、このへんの事情をもう少し詳しく。といっても、サラ姫ちゃんの説明なので、話半分理解できるかくらいですが。
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