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砂漠に降る花 作者:AQ
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第五章(17)対面

 体が軽いことと、夜でも明るいためラクタの調子が良く、サラたち一行はたったの三日間でネルギ王宮へと辿り着いた。
 約五ヶ月ぶりの古巣となるカリムは、感慨深げにその砂に埋もれかけた城壁を見つめている。
 初めて訪れたアレクとリーズは、せわしなくあちこちへと視線を動かしては「ふーん」「へえー」とうなずき合う。
 アレクの瞳は、好奇心と警戒心が半々。
 リーズの瞳は細すぎて、サラが見ても感情はさっぱり分からなかった。

「もう、この付近には人が誰も居なくなったんだね……何本か生き残ってた木も枯れちゃったし」

 城壁の手前で、サラはラクタを引く歩みを止めた。
 出発前の光景を思い出しながら、間違い探しをするように、視界に映るものを一つずつチェックしてみる。
 サラたちが出発したときには、砂漠側にもちらほらとヤシの木が生え、避難住民の生活の跡が見えたのだが、今はもう全て砂にかき消されていた。
 一周するのに何時間かかるか分からないほど長い城門の、砂漠側ではない方角にある程度回り込めば、きっと難民キャンプがあるのだろう。

 テントタイプの簡素な住居を与えられた難民たちは、設営場所が砂に埋もれるたびに、少しずつ場所を移動していくのだ。
 わずかの水が出る、貴重な水源を追いかけて。
 それは逃げ水のように、近づいては消えてしまうのだけれど。
 サラは大きく首を振ると、自分のすぐ背後に立ち、サラの体に影を落とすカリムを見上げ言った。

「ところでカリム、私たち普通に入れてもらえるのかな?」
「……つったって、忍び込む訳にもいかねぇだろ」

 サラは再び前を向き、自分の身長の三倍ほどもの高さで連なる立派な石垣を見上げた。
 女神になれば、こんな壁は楽々飛び越えられるし、一人ずつならなんとか連れていけるかも……。

「うーん、さすがにこの子たちは連れていけないな」

 サラが手にした手綱の先にある、まつ毛と顔の長い愛嬌タップリなラクタを見つめたとき。

「おいおい、今さらそんな初歩的な話してるのか?」

 ラクタ三頭の綱を引いたアレクの呆れ声に、サラは「その通りです」とは言えず、お口にチャック&スマイルゼロ円で切り抜けた。
 アレクの後を追ってきたリーズは、ラクタから降ろしたリコを抱きかかえ、その体にスプーンの癒し魔術を当てている。
 サンドワームと遭遇して以降、微熱が続いているリコ。
 ときおり苦しげなうめき声を上げる姿を見て、サラは決意した。

「よし、とにかく正々堂々と行こう。私たち、何も悪いことしてないんだから!」
「サラ……そっちは裏門だ」

 女神の勘ではなく、人間サラの勘が、どうやら正々堂々を拒みたがっているらしい。

  * * *

 警備の騎士と魔術師が立つ城壁正門では、カリムがスマートに入城手続きを済ませてくれた。
 ラクタを門番に預けると、王宮から知らせを受けて若い魔術師がダッシュしてきた。
 その魔術師に率いられ、サラたちは王宮を目指した。

 城壁の中はそれなりに緑があり、湿気を含んだ風が吹きぬける。
 真昼だというのに、木陰の下を抜けるときは気温差で涼を感じるほどだ。
 そこはリコ、カリムと出会い、懸命にラクタ乗りの練習をした広場だった。
 三人並んで休憩をした、ヤシの木陰が懐かしい。

 召喚されてから旅立つまでの一週間は、もう訳が分からずパニック状態で、言いつけられたことをこなすだけで精一杯だった。
 今、サラも、カリムも、そして眠っているリコも……皆変わった。
 そして、頼れる仲間たちが居る。
 高揚するサラの心臓の音は、踏みしめる大地の音より大きく鳴った。

 広場が終わり、十段ほど階段を昇った先にあるアーチ型の正門をくぐったところで、現れた男性騎士二名、女性魔術師一名によって、サラたちは足止めされた。

「お持ちの剣や武器を、お預けください」
「貴様ら、俺のことを誰だか知っているのか?」
「はい、カリム様。カナタ王子の命ですので」

 カリムは、一瞬サラに視線を向ける。
 サラが、右手で『オーケー』のサインを出すと、カリムは愛用の聖剣を差し出した。
 アレクとリーズも、しぶしぶ手持ちの剣を差し出す。
 カリムたちには騎士が、サラとリコには女性魔術師がついて、衣服に何か隠していないかを手探りでチェックするという念の入れようだ。

「では、良いでしょう。カナタ王子とサラ姫がお待ちです。こちらへどうぞ」
「ああ、急いで案内してくれ。病人がいるんでな」

 出会った当時と変わらない、慇懃無礼なカリムの口調。
 事実上この国のトップであるカナタ王子の側近であっても、今のカリムはやはり不審者……いや、謀反人扱いなのだ。
 こんなに愛国心溢れる人はいないというのに。

 悔しさに歯軋りしつつも、サラはぐっと堪えて何も言わず、黙って案内係に付いて行った。
 当然カリムも、アレク、リーズも無言だ。
 トリウム王城と違い、あまり手入れが行き届いていない大理石の床には、等間隔で開け放たれた窓から砂が吹き込み溜まっている。

 足を踏みしめる靴ザリザリという音。
 そして、その靴音以上に大きく響くのは、リーズの胸で荒い呼吸を繰り返すリコのうめき声。
 この王宮に到着してから、いっそう具合が悪くなったように見えるのは、気のせいではないだろう。

「では、我々はここで」

 案内役が唐突に立ち止まった場所は、サラが旅の前には訪れたことが無い部屋だった。
 高い天井まである、両開きのガッシリした鉄製の扉が、ギギギと嫌な音を立てながら開いた。

  * * *

 カナタ王子、サラ姫、そしてサラ姫の側近魔術師が、白地にねずみ色のマーブルを描く石造りのテーブルに座っている。
 その正面に着席したのは、カリム、サラ、アレク、リーズの並びだ。
 カナタ王子は、出発前と変わらない。
 人の良さそうな、甘いマスクを完璧な笑顔に固定して、カリムやサラをねぎらった。

「よく無事で戻ってきたな。正直……ここまで上手く進むとは思わなかった。礼を言おう。異界のサラ姫、カリム。そして、リコと……」
「アレクとリーズです」

 サラが名前を紹介すると、カナタ王子は微笑みながら労いの言葉をかける。
 その瞳になんら曇りは見えず、サラはほっと胸をなでおろしていた。
 当然、カリムはもっと安堵していたはずだが、サラが横顔を盗み見ても、その表情が固く強張ったまま崩されることはない。

「カナタ王子、私から先にご報告をさせてくださいませんか? トリウム国王より、いくつかの提案を受けているのです」
「ああ、言ってくれ」

 カナタ王子は、サラ姫の側近魔術師にメモを取るように指示すると、正面に陣取ったサラへと前のめりの姿勢で耳を傾ける。
 サラは、なるべく簡潔にポイントを伝えた。

「私たちは砂漠を越えた後、国境で暮らす彼ら……アレクとリーズたちの仲間に助けられ、無事トリウムへ。国王との面会を果たし、和平への説得に成功しました。当然、水の確保はある程度約束いただいております。条件が折り合いしだい停戦調印へ進むかと。あとは――」

 サラは、テーブルの下に隠れて見えない、ポケットの中に手を突っ込んだ。
 手のひらよりずいぶん小さい『石ころ』を握り締めながら、サラは報告した。

「ネルギ軍……キール将軍を含め生き残った者全員が、戦地からこちらの王宮へ向かっています。もう数日で到着するでしょう」

 その言葉を聞いて、カナタ王子の顔からは笑みが消えた。
 サラ姫は自分には関係ないといった、ガラスのビー玉みたいな瞳で見ているし、その隣の魔術師に関しては、ひどい猫背と分厚いローブによりその表情を伺うことはできなかった。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










※お詫び……ただいまエンディングを大幅改定中です。申し訳ありませんっ! 続きは今しばらくお待ちくださいませっ。
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