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砂漠に降る花 作者:AQ
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第四章(18)足手まとい

 あれほど美しくまたたいていた星たちは影を潜め、荒野には夜明けの気配が満ちてきた。
 薄靄に包まれる中、結界の向こうに武装し剣や槍を構えた騎士たちをぼんやりと捉える。
 両翼が後方へ下がる、方円の陣に似たその形なので、正確な人数は掴めない。
 その陣の正面、先頭には……サラの良く知る人物がいた。

「――サラっ!」
「カリム……」

 円の中央には、きっとシシト将軍か、もしかしたらリグルやクロルも居るのかもしれない。
 彼らは自分たちが守るべき人だけに強固な結界を作っているようで、カリムの後方にはサラの目にも分かるほどくっきりと、ドーム状の膜が浮かび上がっている。
 その結界とは無縁な場所に、最初からカリムは居た。
 きっと、城を出たときからそこに居たのだろう。

「今助け」
「――来ないで!」

 サラは廃墟の縁から、声の限りに叫んだ。
 他の騎士たちを置き去りに駆け寄ってきたカリムが、一瞬たじろいでその場に立ち止まる。
 サラがネルギ軍の結界から出てしまえば、困るのはキール将軍だ。
 元々魔力の強いキール将軍でも、赤い瞳が消えれば“一般レベル”の魔術師だ。
 すでにこの結界をキープするだけで限界なのに、サラの手でそれを消してしまうわけにはいかない。

「サラ……?」

 カリムは警戒をあらわにしながらゆっくり歩み寄り、サラの数メートル先で足を止めた。

  * * *

 乾いた地平線の向こうから、少しずつ朝の気配が立ち上ってくる。
 そのスピードに合わせるように、廃墟へ近づくにつれ、いつもの仏頂面がより険しくなってくるカリム。
 もしかしたら、サラの苦しげな表情に気付いたせいかもしれない。

「お願いだから、それ以上来ないで」
「サラ、何言ってんだ?」
「シシト将軍と皆に伝えて欲しいの。私は大丈夫だから、砦に戻って結界を強化して待っていて」

 カリムの瞳に、獰猛な獣のような光が宿った。
 サラはそこで初めて、自分の失敗を悟る。
 カリムは、完璧に誤解してしまった。

「お前をここに一人残して、帰れるわけがないだろ?」

 口調は淡々としているものの、サラには言葉の裏の激情が伝わった。
 砂混じりの微風になびく髪と、サラの手前を容赦なく睨みつける視線。
 しなやかな腕が腰の聖剣に伸びる。

「カリム……結界を破るつもりっ?」

 サラの背筋に、ゾクリと悪寒が走った。
 今のカリムなら、その剣で本当に結界を打ち抜いてしまう。

「ダメ! やめてっ!」

 カリムの剣が抜かれ、旋風が巻き起こる。
 その剣先が向かう軌道が、サラにははっきり見えた。
 とっさにその場所へ動き、立ちふさがるように両手を広げる。
 結界を斬るなら、サラ自身も斬られる……ギリギリのポジションへ。

「サラ!」
「お願いっ、私の話を聞いて!」

 ピタリと止まった剣が、静かに下ろされた。
 サラは額に浮いた冷や汗を騎士服の袖でぬぐうと、小さくため息をついた。
 直情型のカリムには、別の言い方をしなければならなかった。
 もっと、順序だてた説明を。

「ここには、私が自分で来たの。誰かに連れてこられたわけじゃない」

 剥きだしの聖剣を手にし、いつでも戦闘に入れる姿勢のまま、カリムはサラの話を聞くフリをした。
 アゴをぐっと引き、師匠のアレク並の三白眼を作って、サラの背後に居る魔術師たちを確認していく。
 自国の民……しかし今は、敵としか見えない者たちを。

「大丈夫。私に魔術は効かない。誰かに脅されてるわけでも、操られてるわけでもないから」
「サラ……」

 苦笑するサラに、カリムはようやく振り上げた剣を降ろした。

  * * *

 カリムという人物は、こうやって相対すると本当にやっかいだ。
 物怖じしなくて、行動派で、一度決めたことは貫き通す……頑固オヤジ。

 クロルなら、サラの意図を汲み取ってくれる。
 リグルなら、サラの感情に反応してくれる。
 エールなら、冷静に状況を分析し、結論を出してくれるだろう。
 アレクなら、何も言わずに「お前を信じる」と言ってくれるような気がする。

「カリムって……国王様に似てる?」
「はぁっ?」

 サラは、さすがに「見た目と性格がオヤジ臭い」とまでは言えず、一人くすくす笑った。
 意味わかんねーと呟くカリムの台詞は、年相応の少年らしくぶっきらぼうなのに……成熟し落ち着き払った見た目とミスマッチ過ぎる。

「まあ、お前が無事で良かったよ」

 まるっきり緊張感の無いサラの態度を見て、カリムも少しだけ警戒を緩めた。

「皆には心配かけちゃって、ごめんね。私がここに来たのは、理由があるの。ちゃんと手紙残していけばよかったね」
「理由って何だよ。場合によっちゃ許さねーぞ」

 サラは先ほどの失敗を教訓に、慎重に言葉を選んだ。
 カリムも皆も、今はただ自分を連れ戻したいだけなのだ。
 来ないでとか、帰ってと言ったところで、反発されるのは当たり前。
 北風と太陽の、北風をやってしまった。

「理由は……皆が弱いから」

 選んだ言葉は、辛らつなものだった。
 クロルなら、または魔術師ファースなら言うかもしれない……相手の心をえぐるような言葉。

「今の私は、自分を守るだけで精一杯なの。ついてこられても、守ってあげられない。だから帰って」

 サラの言葉は、カリムの胸を焦がす灼熱の太陽。
 ダメージを振り切るように、カリムは叫んだ。

「俺は別に、お前に守ってもらおうなんて思ってねーよ!」
「――闇の魔術が相手でも?」

 激したカリムの心が、一気に冷えていく。
 珍しく顔色を青ざめさせるカリムに、サラは追い討ちをかけた。

「これは私にしかできないの。皆がもし操られたら、足手まといになる。分かってくれる?」

 言葉にして初めて、サラはそれが真実だったことに気付いた。
 なぜ夜明けを待たずに、誰にも告げずに、一人ここまで来たのか。
 サラには、敵の姿が見えていたのだ。
 もしかしたら、銀の砂を託してくれたクロルにも、見えていたのかもしれない。

「くそっ……あいつの、言うとおりかよ……」

 やっぱりね、とサラは思った。
 今頃クロルは「だから言ったのに」と皮肉たっぷりで微笑んでいることだろう。

「本当に、俺たちは何もできないのか? ただ待つことしか……」

 口惜しさに、握りこぶしを振るわせるカリム。
 汗で濡れた前髪が、額に張り付いている。
 目尻に光るのは……悔し涙だ。

「ごめんね、カリム」

 本当は誰よりもこの戦いを止めたいと願ってきたのは、カリムなのだ。
 この手を伸ばして、ありがとうと手を握りたくなって……サラは自重した。
 こんなに近くにいるのに、結界が二人を阻むのが悔しい。

「全部終わったら、必ず帰るから」

 言いながら、サラは不思議な感覚を味わっていた。
 誰かがこの体を使って、何かを言わせようとしているような……なのにうまく言葉にならないような、もどかしさ。
 昨日見た夢を思い出せない、そんな感覚とも似ている。

「終わるのは、いつだ?」

 そんなに長くは待てないと、苛立ちをぶつけるようなカリムの視線を、サラはやわらかく受け止めながら微笑んだ。
 カリムが目を見張るほど、美しい笑みで。

「今日の午後……太陽が消えた後には、必ず」

 伝えた瞬間、サラの心にピリッと電気が走った。
 もう、時間が無い。

「サラっ!」

 カリムの呼び声を背中で聞きながら、サラは廃墟の奥へ向かって再び走り出した。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 普段地味キャラ路線なカリム君……やっぱり地味です。小娘サラちゃんに手も足も出ません。なぜこんなに地味になっちゃうんだろ。おかげでこの後書きでもあまり書くことがありません。とにかく彼はオッサン臭いという結論で。ちなみに、サラちゃん逆ハー相手の分析してますが、作者的補足を。国王様はもうちょっとえげつないはず。本気で結界に斬りかかる風に見せて、実は嘘。しかも「お昼までに来なかったら○○するぞー」と交換条件置いてきます。ジュート君なら……やっぱ「見ててやるよ」(=見てるだけ)かな。一番厳しいですが、サラちゃんにとってはそれが最高という……Mか? 愛弟子アレク様も似たようなスタンスですが「何かあったら頼れよ?」と言います。ツメが甘い。そして魔術師ファース君は「失敗しても知らないぞー」と呪いの言葉を吐く(一応止めようとしてる)でしょう。ここらがキャラ書き分け限界……。
 次回、サラちゃんがアジトに戻ると状況一変。ピンチの足音がひたひたと……もう覚悟決めてシリアスモードで突っ走ります!
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