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砂漠に降る花 作者:AQ
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第四章(14)ネルギ軍本陣へ

 風の音と、ザクザクと砂地を踏みしめる音だけが聞こえる。
 今日の自分はいつもと違う……サラは星の明かりだけが頼りの荒野を歩きながら、そう思った。

 パーティをこっそり抜けたとき、誰かに見咎められても良かった。
 例えば勘の鋭いクロルや、なんだかんだ過保護なカリム、臭いを嗅ぎつける力が強いリグル、歴戦の猛者であるシシト将軍や騎士たちに。
 しかし、サラは闇に溶けるように会場を出て、あの強固な城さえすんなり抜け出してしまった。

 城内では、方向音痴という能力も鳴りを潜め、何かに導かれるように進んだ。
 城門を守っているはずの騎士も、なぜか居なかった。
 今夜はもう安全と見込んでパーティに参加していたのか、もしくはちょうどトイレや交代のタイミングだったのか。
 サラは、湧き出てくる疑問を振り払うように空を見上げた。

「すごい星空……落ちてきそう」

 思わず、降り注ぐ星の光に両手を伸ばした。
 当然星は遠く、手に掴めるわけはないのだが、サラは指の隙間から零れる星の光に目を細めた。
 夜になると冷え込むのは、荒野も砂漠も同じだ。
 空気が乾いて冷えるほど、星たちの輝きが強くなる。
 足元の石につまずかない程度に照らしてくれている、月のカケラたち。

 この世界に来てから、サラの近くにはいつも必ず誰かがいた。
 こんな風に一人きりになったのは、初めてだった。

「みんな、ごめんね……」

 涙が零れないように、上を向いて歩く……そんな歌みたいなことが自分に起こるのを、サラは他人事のように感じながら歩いた。
 パーティを楽しく過ごして、キースと添い寝して、明日の朝まで待てば明るい太陽の元を歩けたのに。
 今夜動くとしても、誰かの生み出す炎があれば、星に頼らずとも容易に歩けたのに。

 そうしなかったのは、ただ『予感』に突き動かされたからに他ならない。
 得体の知れない不安を抱えたまま、サラは空を見上げながら黙って進み続けた。

  * * *

 ときおり星の位置を確認し、冷たい東風に向かって進んだ。
 サラの頬が上気し肌が汗ばみ始めた頃、一つの街にたどり着いた。
 そこは、命の気配がしない街だった。

 砂漠の国で見かけた廃墟とは異なり、石造りのしっかりした屋敷が碁盤の目のように広がる道沿いに並ぶ。
 王城の城下町を真似ているのだと分かった。
 ここはかつて栄えていた、トリウムの国境で一番大きな街だった。

 整備されたはずの石畳の道は、分厚い砂に埋もれていた。
 街路樹は枯れ、道端には農具らしきものが壊れたまま置き去りにされている。
 もう十年以上前に住民は消え、ネルギ軍の陣地となった。
 この街のどこかに、キール将軍が居る。

 そして、もう……。

「出て来いよ。いるんだろう……?」

 風の音が一瞬静まり、代わりに少年の低く澄んだ声が響いた。
 声をかけたサラは、体にまとわりつく靄を振り払うように、黒剣の束を握った。

「戦うつもりは無い。ただ、話をしに来ただけだ」

 街に張られていた結界を越えたサラに、警告も無いままぶつけられた魔術攻撃。
 全て吸収しながら、サラは歩みを止めず進む。
 肌を刺す冷たい風の代わりに、真夏の夜のように生温く不快な風を受けながら。
 しばらく歩くと、五感以上に正確な状況を伝える第六感が、薄暗く視界のきかないゴーストタウンの中から一軒の屋敷を見つけ出した。

「ここか……」

 今日は、見えないはずのものが見える。
 街の中を突っ切る間に、何軒もの大きな邸宅を通り過ぎてきたが、外観はそれらの屋敷となんら変わりない。
 むしろより砂に埋もれて、存在感を消している。
 しかしサラの目には、黒く冷たい靄が滲み出ているのが見えた。
 サラが一歩近づくたびに、その靄の濃度が濃くなる。

「いくら結界を強化しても、無駄だ」

 呟きながら歩み寄ったサラは、錆び付いたその館の門に手を触れた。
 指先一つで、門のように見えていた鉄柵が崩れ落ちる。

「この中に、キール将軍が居るんだろう? 彼と、話したい。望むのはそれだけだ」

 一人芝居を続けていたサラの前に、ようやく人影が現れた。
 黒いマント姿で、フードを深くかぶった小柄な男たちが数十名。
 サラが通り過ぎてきた道端の小屋や、折れた街路樹の影や、朽ちた住居の裏からまるで虫のように湧き出てくる。
 一定の距離を置き、無言でサラを監視し続ける無数の視線に、「盗賊とは大違いだな」と内心苦笑しながら、サラは腰に差した黒剣を門の中へと放り投げた。

  * * *

 汗ばんだ肌にこびりついた砂埃がざらつき、口の中はいがらっぽい。
 後手に縛られ床に転がされたサラは、とりあえずお腹に隠した小瓶が見つからずにすんだことに安堵しつつ、上半身を起こした。

 もうこれで、部屋を移されるのは三度目だ。
 移動中は目隠しされているものの、徐々に深いエリアへと進んできているのが分かる。
 自分は魔術が使えない、だから結界の影響も受けない、そのおかげでこの街へ入れたのだと何度も説明し、指輪の類を身につけていないことを確認されたサラは、こうしてアジトの地下へ引き入れられた。

「……お前は、何者だ?」

 六畳ほどの小部屋には、派手な指輪をつけた五人の魔術師が並んでいた。
 乱暴にサラの腕の縄を引っ張りながらここへ連れてきた男が、静かに問いかけてきた。
 五人は壁際に並んで、感情の見えない顔でサラを見ている。
 もっとも小柄な一人が、案内役の男から取り上げた黒剣を両手で抱え、その束に埋め込まれた宝石を撫でている。

「キール将軍に会いたい」

 サラの言葉に、目の前の男が一瞬苛立ちの表情を見せたが、後方を気にしつつすぐに元の無表情に戻った。
 この五人は、今までサラを糾弾してきた魔術師たちとは違った。
 髪や瞳の色は違えど、全員の顔には深いシワが刻まれ、その年齢は計り知れない。

『贄や指輪の力を超えるほどの魔術を使うとき、魔術師自らの魂が燃やされる』

 唐突に、記憶の中の閉じられたドアが開くように、過去カナタ王子の教えてくれた言葉が現れた。
 彼らの年齢は、見た目でははかれない。
 侍従長の額のシワも、もしかしたら苦労させられたせいではなく、無理をしたせいかもしれない。
 ふうっと息を吐きながら、サラは何度目かの同じ台詞を告げた。

「あんたらには用は無い。キール将軍に会わせて欲しい」
「……どこの誰かも分からぬ者を、将軍に会わせると思うか?」

 別の男が、口を挟んできた。
 それはサラの黒剣を手にした、もっとも小柄な男だ。
 サラはその男を見上げながら、不敵に笑った。
 ようやく、キール将軍の一歩手前までたどり着いたらしい。
 これで、王手だ。

「お前たちは、誰に仕えている? キール将軍か……それとも、ネルギ国家か?」

 サラの言葉は、喉の渇きにより掠れていた。
 それでも、暗く狭い室内では十分すぎるほど。

「とにかく、顔を見ればわかるはずだ。“私が”ここに何をしにきたか、ね……」

 低い天井に一つ吊るされたランプの下、床に座り込んだサラは、黒剣を持つ男だけを見つめた。
 挑発するように細められ、ほのかな灯りの元で宝石以上に煌めくブルーの瞳。
 男は一度ごくりと唾を飲むと、サラの黒剣を手にしたまま軽く目を閉じ、何か意味を成さない言葉を呟いた。

 しばしの静寂の後、一人の背が高い男が現れた。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 更新時間が遅れ遅れですみません。今回は遊びもなく少し話進めました。ようやくアジトまで辿りつきましたよー。良かったー。サラちゃんちょっと性格変わってます。相変わらず描写力が無いのですが、少し硬派な感じにしてみました。廃墟の街は、正直ちょっと……かなり手抜きです。ストーリー進行のため、ギャグ以外の描写はガリガリ削って行きますよっ。脳内でドラクエに出てくるドムドーラ(廃墟の町)でも思い浮かべていただければ……。時間があればうろうろ探索して、どっかの家のタンスから薬草でも拾ったところなのにー。しかし、暑くなったり寒くなったりで、しんどい毎日ですわ。作者ヘタレてます。すんません。
 次回は、おまたせキール将軍とご対面です。サラちゃんにとっても、意外な展開になる……予定。話がうまく進めば。

※以前書いた恋愛掌編をアップしました。『甘い生活〜1分間のラブストーリー〜』第二弾。かなりディープな話ですのでお気をつけて。『トーストにピーナツバター』http://ncode.syosetu.com/n4855h/
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