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砂漠に降る花 作者:AQ
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第四章(13)情報収集

 サラの話は、トリウムにとって都合の悪い事件を除いて、すべて正直に伝えられた。
 ときに笑い、ときに目を伏せながら話を聞き終えたキースは、一度目を閉じると覚悟を決めたように強い視線をサラに向けた。

「サラさま……いえ、サラ姫さま。どうもありがとうございました。お話をお聞きして、私はもう逃げられない、逃げても仕方が無いと悟りました。私もあなたに、全てをお伝えします」

  * * *

 同い年くらいにも見えた童顔なキースは、実はサラより三つ年上の十八歳だった。
 両親と三人、比較的裕福な暮らしを送っていたのは、すべて十五才年上の兄のおかげだという。

「私と兄には血のつながりはありません。ちょうど母が私を身ごもっているときに、私の本当の父が亡くなってしまいました。同じく奥さまに先立たれていた今の父が、母を支えるためにと再婚したのだそうです。生活は、決して豊かではなかったので」

 キースが暮らしていたのは、王宮にほど近い小さな町。
 そこで家族四人、細々と農業をしながら暮らしていたとのこと。

「血のつながりは無いはずなのに、兄と私は同じ黒髪黒目で、良く似ていると言われていました。そんな私のことを、兄もずいぶん可愛がってくれました。物心ついたときから兄の魔力は高く、周りの大人からも一目置かれていて……私にとっては英雄のような存在でした」

 年の離れた妹を可愛がっていた優しい兄。
 彼が変わったのは、王宮に呼び出された二十歳の頃だった。
 妹を怯えさせるほど冷酷な人物に豹変した兄は、家族に何も言わず戦場へ旅立ち、そのまま一度も戻らなかった。
 兄からの便りもなく、代わりに王宮からは相応の手当てが渡されたという。

「私は両親の反対を押し切って、王宮に向かいました。ただ兄の情報を知りたかったのです。黒髪黒目の若い女性をサラ姫の侍女として求めていると聞いて、こんなチャンスはもう無いと。立場のある兄に迷惑をかけるわけにはいかなかったので、身分は隠して……でも、結局それが間違っていたのですね……」

 気付いたときには、もう遅かった。
 必死で仕事を覚えながら、少しでも兄の痕跡を探ろうと画策した少女は、何も結果を得られぬうちにサラ姫の真の目的を知る。

「サラ姫は、私や他の侍女をあの部屋に閉じ込めて言いました。『私の身代わりとしては失格』だと……そして、トリウム王城の方はしばらくいいから、戦地の方で役に立って欲しいと」

 サラは、キースの言葉から確信した。
 やはりサラ姫は、サラたちが和平を実現できるなんて信じていなかったのだ。
 サラたちには和平を命じながら、一方では戦況を有利な方へ導こうと画策を続けていた。
 その結果、こうして罪も無い少女を次々と闇へ落としていく……。

「サラ姫は、私の額に指を当てながら、最後に『黒髪黒目の女は、魔術にかかりやすいから楽だ』と言いました。その先は……すみません、記憶が無くて……気づいたら私はここにいました」
「キース、ありがとう」

 彼女は何も知らない、ただ利用されただけだった。
 そのことに、サラはホッとしつつも、ネルギ軍の情報がほとんどえられなかったことに落胆した。
 ただ、キール将軍の容姿がある程度分かったことは、収穫だった。

 キースに面立ちが似ていて、今の年齢は三十三歳。
 魔術師なので、髪も長いだろう。
 特別目立つような、杖や指輪を持っているかもしれない。
 そんな人物がいたら、きっとキール将軍だ。

「サラ姫さまっ、私はいったい何を……何をしてしまったんですか……?」

 すがりつくような瞳が、サラの目の前に迫ってきた。
 サラは、小さく震えるキースを抱き寄せ「今日はもうオシマイ。続きは明日ね」とささやいた。

  * * *

 夜は、サラたちを囲んでの、盛大なパーティが行われた。
 もちろん、トリウム王城で開かれたパーティとは比べ物にならない素朴なものだったが、限りある物資の中から工夫された料理やおもてなしに、サラは素直に感激した。
 サラたちが馬車に積んできた食材や、シシト将軍秘蔵のお菓子とお酒が惜しげもなく振舞われ、そのほとんどが遠慮を知らないリグルの腹におさまった。

 お楽しみグッズを放出し、若干覇気を失ったシシト将軍に、クロルが「今度、補給物資と一緒にまた持ってきてあげるよ」と慰めたため、シシト将軍はコロッと機嫌を直す。
 あの怖すぎる笑顔で、クロルのローブの首根っこを掴まえ、無理やり酒を飲ませながら騎士道について懇々と説くという……クロルにとっては想定外の拷問が行われていたが、サラはそれを遠巻きに眺めつつ「クロル王子にはやっぱりあの手の騎士が合うのね」と微笑ましく思った。

 パーティには、両手の戒めを解かれないままのキースも加わった。
 キースが参加を許されたのは、夕方に聞いた打ち明け話で彼女が単なる駒だということが分かったからだった。
 一部から反対の声は上がったが、サラは「和平への近道は、民間人どうしの交流だ」と強く主張して、シシト将軍を唸らせた。
 案外気の利くカリムが、キースの傍に寄り添って食べ物を取り分けるなどのケアをしている。
 二人がときどき微笑みあっているのは、きっと砂漠の国の思い出話に花を咲かせているせいだろう。

 サラは皆の様子を伺いつつも、奇跡で復活した騎士たちを中心に、挨拶まわりをしていた。
 そのついでに、ネルギ軍の情報をさりげなく……しかし、根掘り葉掘り聞き出す。

「じゃあ、ネルギ軍の攻撃がまたそろそろ……?」
「ええ、サラ姫様のお話を伺って確信しました。彼らの攻撃は、月の満ち欠けに連動すると」

 月明かりの消える新月の前後、夕陽が沈む頃を狙って、ネルギ軍の魔術攻撃は行使される。
 そのからくりはサラにとって納得のいくものだった。

「とはいえ、連日の攻撃はありません。最低でも一日か二日おきに」
「キースのことがあって、今日は攻撃が無かったということは、明日か明後日にはまたあるということね?」

 サラが到着したタイミングは、絶妙だったのかもしれない。
 もしくは、もう二日早く到着していれば、皆を守れたのかも……。
 不安げに唇を噛んで黙り込んだサラに、話していた騎士たちは動揺する。

「はい、明日の夜は新月ですから、たぶん明日には……でもサラ姫のことは、私が全力でお守りします!」

 一人の若い騎士が叫ぶと、横に居た騎士たちが俺が俺がと雪崩状態になる。
 日本のベタなお笑い芸人のように、最後は「どうぞどうぞ」となって……はくれなかったことに苦笑しつつ、サラは笑顔でお礼を言った。

 飲み物を取りにいく振りをして、サラは一人壁際に移動した。
 冷たい水を一杯飲み干し、かなり薄ぼんやりとしてきた地球の知識を懸命に紐解いた。
 教えてくれたのは、五人のパパたちのうち一番インテリな大澤パパだった。
 もしもこの世界が、地球と同じだとしたら……。

「皆既日食が起こるのは、新月の夜。つまり明日のお昼には……」

 ぶるり、とサラは身震いした。
 ずっと感じていた『時間が無い』という根拠の無い焦り。
 それが警告音となり、サラの頭の中に鳴り響く。

「行かなくちゃ……」

 ネルギ軍の居る場所は聞いた。
 腰には黒剣もある。
 ポケットには、銀の砂も入っている。

 サラは、近くに居た騎士に「おトイレ行ってくるね」と告げると、そのまま一人会場を抜け出した。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 今回は遊びほぼ無しでした。一ヶ所「どうぞどうぞ」(ダチョウ竜ちゃん)だけっす。キール将軍のお話は、特に濃ゆい情報ではなかったし。しいて言えば、三十代独身猫顔男子……しかもかなりのドSということくらいでしょう。重要な新キャラは出さないといいつつ、ちょっとドキドキ。ご対面はもうすぐです。あとは、悲しいかな終わってしまった皆既日食ネタ……。数日遅れでこの世界でも起こりますので、どうぞイメージを忘れずに。物語的にはあと半日なんだけど、実際は何日かかるかなー……。そして今回クロル君の勘を封じるため、シシト将軍に活躍してもらいました……すまん、クロル君。本当の地球では、未成年はお酒飲んじゃダメですからねっ。
 次回は、サラちゃん夜の単独行動スタート。当然目的地はアソコです。ちょっぴりシリアスモード入って行きます。
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