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砂漠に降る花 作者:AQ
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第四章(9)闇の魔術の可能性

 目の前で涼しげに揺れる、キラキラの毛束を見つめながら、サラ一人が言葉を失っていた。
 騎士たちやカリムは、正体を知らないだけに「それが何か?」というきょとんとした顔をしている。
 クロルは、おかしそうに笑いながら言った。

「これはねー、さっき言った王城の魔女“月巫女”の髪なんだ」

 当然、サーッと青ざめていく騎士たち。
 シシト将軍のみ、興味津々で身を乗り出す。

「そのような恐ろしげなものは、処分されたのではなかったのですか?」
「うん、対外的にはね。こんなものがまた誰かに利用されたら困るし」

 僕が使う分には構わないけど、と補足するクロルに、隣の席で腕組みしていたリグルが突っ込んだ。

「それ、忘れ物じゃなくて“探し物”だろっ! 面倒なこと俺に押し付けやがって!」
「まあまあ。リグル兄もたまには役に立って良かったじゃん? あの事件では何もできなかったんだし」

 噛み付きかけていたリグルが、シンプルな毒舌攻撃に「キャン!」と鳴いて尻尾を丸めた。
 ようやく解凍したサラの脳みそが、月に代わっておしおきせねばと命令する。

「クロル王子、人にものを頼んでおいて“役立たず”だなんてひどい! リグル王子は、ちょっと単純だけど“役立たず”じゃないんだから、“役立たず”扱いしたこと謝りなさい!」

 何気にひどいことを連呼するサラと、しょんぼりしてゴメンナサイと頭を下げたクロル。
 リグルは「サラ姫が俺をかばってくれた……愛だ」と感激し、残りのメンバーはこの三人の立ち位置をようやく理解した。

  * * *

 クロルの忘れ物は、シシト将軍の魔術により粉々に砕かれ粉末状にされた後、密閉容器に詰められた。
 銀色の砂が詰まった、ピカピカの茶色い小瓶を手に、サラたちは少女が捕らえられているという地下牢へと向かっていた。

 なぜかそれを、持たされているのはサラだ。
 手の中の小瓶が気になって仕方なく、ついそぞろ歩きになってしまう。
 右手を底に、左手をサイドに添えて、落とさないように運ぶ。
 かといって、手の方ばかりに注意していると、石畳の縁に革靴のつま先をとられコケそうになるため、右足左足にも注意。

 しかも、横ではクロルが騎士たちにせっせと『闇の魔術』に関する説明をしているので、頭もそちらへ向けようとすればまた注意力が分散される。
 しかたなく、その小瓶はお尻のポケットに詰め込んだ。
 もしポケットが破れて落っことしたら、それは縫ってくれたリコのせいということにしよう。

 小瓶を避難させ、クルッと踵を回してクロルの方を向いたサラの耳に、ちょうどシシト将軍の低くしわがれた声が飛び込んできた。

「それでは、闇の魔術は誰もが使える可能性があると……?」
「うん。素質によって力の差はでてくると思うけどね」

 リグル兄なんかは絶対無理だねとクロルは笑い、リグルは「要らねえな」と引きつり笑いする。

「人を思うままに操ったり、不自然に寿命を延ばしたり、ましてや死んだ人間の魂を呼び戻そうなんて……弱さの証拠じゃねーか」
「ふーん。だったら今ここでサラ姫が死んじゃったらどーするの? しかも、リグル兄のお尻に敷かれて圧迫死」
「なっ……!」
「ちょっと、クロル王子! 演技でもないっ!」

 サラはクロルに突っかかった。
 リグルはといえば、「サラ姫が俺の体重のせいで……」と妄想の世界へ浸っている。

「そもそも闇の魔術は禁呪でしょっ? 広めてどーするの!」
「んー、そんなつもりは無かったんだけど」

 クロルは、サラとリグルの間に体を割り込ませ、二人の肩に手をかけながら言った。

「リグル兄も、サラ姫も、皆も、心の中に必ず闇は持ってるんだ。いくら騎士道を唱えたって、心が壊れそうになるときがある。それを無理に押さえつけようとするから溢れるんだよ。そうなる前に、まずは認めること。誰もが闇に囚われる可能性があるってね。心に闇があれば、それは魔力になるんだから」

 サラは、取り戻したばかりの黒剣を撫でさすりながら、クロルの言葉の意味を咀嚼した。
 確かにクロルの言うとおりで、暗い気持ちは誰もが持っていること。
 だけど本当に悪いことを考える人は、それを表に出さないんだ。
 そういえば、馬場先生も言ってたっけ。

「むっつりスケベが一番危険……」

 ポロリと漏れたサラの台詞に、聞いていた男全員がビクッと反応する。
 特に、斜め後ろを歩いていたカリムは、サラのお尻のぷくっと膨れた箇所から慌てて目を逸らした。
 クロルは笑い涙を拭いながら「サラ姫って、本当に面白いねー」と言った。

「あっ、話の腰折ってゴメン。それで?」
「うん。僕が言いたいのは、闇の魔術は誰もが使えるけどその使い方が大事ってこと。まずは自分の闇をコントロールできることが必要かな。それができずに手を出せば、闇に食われるだけだから。『罪悪感』って感情があるけど、あれが一番たちが悪いんだよ。自覚していながら止められない。罪悪感を持ったまま闇の魔術に手を出せば、絶対に心が壊れる」

 クロルの言葉に、サラは二人の人物を思い描いた。
 そういえば、月巫女もサラ姫も、罪悪感なんてものは持ち合わせていなそうだ。
 王姉のケースでも、強すぎる想いが罪悪感を凌駕したのだろう。
 罪悪感を失った人間が『魔女』と呼ばれるのは、正しいことなのかもしれないとサラは思った。

 魔女という存在について、深く考え始めたサラの耳に、クロルのやわらかい声が届く。

「月巫女の髪はね、使う人間によって毒にも薬にもなるんだ。だから僕は“絶対捨てちゃダメ”って言ったんだけど……エール兄が、なんか勘違いして部屋に隠しちゃったんだよねー。ちょっと探したけど見つからなくてさ」

 ハハッと明るく笑うクロルに対して、サラを始め聞いていた者はまったく笑えなかった。
 好奇心に煌めくクロルの瞳を見ていると『好奇心も罪悪感を凌駕するのか?』という疑問が湧き上がる。

「そうだよ。本当に大変だったんだぞ? デリスから詳しい理由聞かなかったら、俺だって反対してるぞ。ていうか、最初からエール兄にもそう説明すれば良かったのに」
「エール兄は疑り深いから、僕が言っても聞いてくれないよ。こうするのが一番楽……いや、スムーズにいくと思ったからさ」
「でも俺、戻ったら絶対エール兄に怒られるっ。あの夜、部屋漁ってるとこ見つかっちまったんだよ。だから逃げてきた」

 何もない空間に鋭いパンチを食らわせるしぐさをしながら、ハハッと明るく笑うリグルに対して、残りのメンバーは……そっと目を伏せた。
 サラは『単純さも罪悪感を凌駕する』と悟った。

  * * *

 長い階段を下りながら、サラが転ばないようにサポートしてくれたのは、シシト将軍だった。
 ごわごわ硬い騎士服の袖に掴まりながら、この腕を取った自分の選択が正しかったことを知る。
 すぐ後ろで、足を滑らせたリグルがクロルを巻き込んで転んだ音がした。
 すかさず始まる口ゲンカに紛れるように、シシト将軍が言った。

「サラ姫には謝らねばなりません。その容姿から、男のふりをしていることは察しておりました。その理由を“魔女だから”ではないかと疑ったのです。左手の包帯も、指輪を隠すためと思い込んでしまいました」

 意外な発言に、サラは上機嫌になった。
 ちょっと前、武道大会に出ていた頃は『女のような男』としか見られなかったのに、女と分かるということは……。

「シシト将軍、気になさらないで。きっと私から女らしさが……」
「魔女は、自らの容姿を自在に変えることができる。それが我々の掴んだ情報の一つ。その情報のせいで我々はネルギ人全員に疑いの目を向けざるを得ず」

 シシト将軍は、薄暗い視界の中でも真剣そのものだった。
 話しながら首から上だけ振り返ると、すぐ後ろにいるカリムを見た。

「実は、カリム殿が魔女という疑いの方が強かったのです。その逞しい騎士然とした容姿こそが、完璧な擬態であると」
「キモ……」

 呟いたのは、リグルだ。
 ムッとして睨みつけたカリムは、自分の代わりになぜかサラが黒剣で攻撃してくれたのを見て、溜飲を下げた。
 クロルは目の前の細かすぎるギャグに笑いながらも、新しい情報を分析した。

「魔女は容姿を変えられる、か……ネルギの魔女も、乗り移る器をいっぱい持ってるのかもね」

 黒剣を鞘ごと腹に突き刺されたリグルは、涙目で腹をなでながらも反応する。

「じゃあ、もしかしてコイツの中身が、本当に魔女って可能性もあるのか?」
「可能性は低いけど、絶対無いとも言えないよね。なんせ闇の魔術でどんなことができるのか、ほとんど分かってないんだから。もしかしたら、カリム君が魔女の手先ってことも……」

 クロルの予言めいた台詞に、自分の手のひらをじっと見るカリムと、シシト将軍の腕にギュッとしがみついたサラ。
 クロルは、軽い足取りでサラたちを追い越すと、大きくジャンプした。
 一瞬ドキッとしたサラの目に、無事着地したクロルの太陽のような笑顔が飛び込んでくる。

「大丈夫。ぜーんぶ僕が解決してあげる!」

 眼下で優雅な礼をするクロルに、サラは「期待してるね」と笑いかけた。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 会議室から、地下へと移動して終了。はー、ちまちま。出すべき情報がいろいろあってねー。ついギャグも入れたくなっちゃって……。まずは分かりにくい小ネタ説明。リグル君に「キャン!」言わせたのは、なにわ金融道という大好きなマンガから。関西弁ってあちこち可愛いです。茶色の小瓶と、右手左手右足……は両方とも好きな童謡から。内容的には、闇の魔術のびみょーな解説編となりました。禁じられた遊びほど魅力的に映るというのが、世の常だと作者は思います。こういうのはオープンにしちまえば、たいしたことは無いのです。たぶん……。しかし、今回もクロル君のおかげで助かりました。また次回もよろしくお願いします。
 次回は、ようやく捕虜少女とのご対面です。クロル君の秘策実行……といっても、もうバレバレかもしれませんが。
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