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砂漠に降る花 作者:AQ
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第四章(3)砦の事情

 砦の少し手前で止められた馬車を降りて、サラが真っ先に漏らした言葉は「大きい」だった。
 荷台から飛び降りたカリムとクロルも、その巨大な要塞を見上げた。

 シシトの砦は、盗賊の岩山とは比べ物にならない規模だった。
 トリウムの王城より大きいかもしれない。
 遠目に見ると、乾いた大地にそびえ立つ巨大な柱のようにも思える。

「ひとまず俺一人で行ってくるから、ちょっとここで待っててくれ」

 今までにない固い声色から、グリードの緊張が伝わり……サラの胸には微かな不安の火が灯った。

  * * *

 小一時間ほど経って戻ってきたグリードは、苦々しい表情で唇を噛んでいた。
 鮮やかな緑色の髪には、砂埃がまとわりつき、白くくすんでいる。
 結界を通り抜ける前に、外でしばらく足止めされたのかもしれない。

 この場所は、まさに荒野だ。
 細く枯れかけた木の幹と、ほんのわずかの雑草に覆われた、生命の感じられない大地。
 砂漠から吹き付ける風が、砦を叩きつける音が鳴り響く。
 サラたちも、馬車の幌の陰に隠れなければ、あっという間に砂だらけになってしまうくらいの風だった。
 それが、ネルギの魔術師によるものか、天変地異によるものか、サラには分からなかった。

「サラ姫、カリム……君たちには、最悪なタイミングだったかもしれん」
「どういうことですか?」

 普段からコワモテな顔を一段ときつくして、カリムが詰め寄る。

「それが……つい昨日、ネルギの刺客が砦に侵入して、何人もの死者が出てしまったらしい。そいつは投降するフリをしたそうだ。もしかしたら君たちも、同じ穴のムジナと思われかねない」
「じゃあ、俺たちにここで待てとっ? それとも、ネルギ軍へ行けって?」
「――カリム!」

 サラがたしなめると、カリムはグリードの上着から手を離した。

「グリードさん……あなたは、どうしたら良いと思うの?」

 サラは、なるべく穏やかな声色で尋ねた。
 砦にどんな人が居て、どんな感情が渦巻いているか分からない自分たちには、判断材料が無いのだ。

「君たちを砦に連れていくことは可能だ。ただし、もしかしたら捕虜扱いになるかもしれない。特にサラ姫は女性だから……非常に、微妙な立場になるだろう」

 サラは、腰の黒剣を握り締めた。
 それは心が揺らぎそうになったときの、おまじないのようなもの。

「一般的な捕虜の扱いとは、どのようなものなんです?」
「まずは牢に入れられ、手かせ足かせをつけられるだろう。食事や睡眠をとらせてもらえるかも分からん。もしかしたら、拷問のようなこともあるかも……」
「ふざけるなっ! サラは、あんたらの国王の命でここへ来ているんだぞっ!」

 再びカリムがいきり立ち、グリードに掴みかかったとき。
 ずっと、黙っていたクロルが告げた。

「僕が言うよ。シシト将軍に」
「クロル王子……しかし」
「とりあえず、ここに居ても時間の無駄だね。カリムも、グリードに怒っても意味無いよ」

 クロルの涼やかな視線を受けて、二人はばつが悪そうに顔を見合わせた。
 黒剣を握り締め、三人のやり取りを見守っていたサラにクロルは笑いかけて……短い髪を撫でた。
 まるで、アレクがするみたいに優しくて、ちょっと乱暴な手。

「さ、行こう。サラ姫は何も心配しないで、僕に任せて!」

 いつのまにかサラの背を追い越してしまったクロルが、あの会議の日と同じ逞しい笑顔を浮かべた。

  * * *

 とんぼ返りしたグリードが、再び城門を守る騎士に交渉すると、サラたちは砦の中に入ることを許可された。
 ただし、サラとカリムは武器を取り上げられ、両手を縛られた。
 クロルが憤慨し、グリードも粘り強く交渉したものの、命令は覆らなかった。
 どうやら「将軍の命令」は絶対らしい。
 サラは、盗賊の砦では目隠しもされたし、それよりマシかもねと思った。

 砦の内部は、思った以上に複雑なつくりをしていた。
 もともと辺境伯だったシシト将軍の好みで、からくり屋敷のようになっているらしい。
 長くこの場所に居たグリードですら、城内の一部分のエリアしか知らないそうだ。
 全てを把握するのはただ一人、シシト将軍のみ……。

「グリード、黙れ」

 サラたちを取り囲んだ騎士の一人が、先ほどから『独り言』という名の情報提供を続けるグリードに命令する。

「グリード、僕が許可する。もっと話して」
「クロル王子っ……」

 国王に憧れているのか、立派な髭を伸ばした妙齢の騎士が、初めて至近距離で見るクロルに頭を下げた。
 その様子を見ながら、サラはこの砦での力関係を考える。

 本来グリードは、この砦内で中堅どころのポジションだった。
 自分の意思を貫く形で、砦を出発し武道大会へ向かったことが、若手の指示を得る代わりに彼のような年配の騎士から目をつけられる結果となった。
 目の前に居る、このヒゲオヤジタイプの騎士が何人居るかは分からないが、あまり発言力は無いのかもしれない。

 となると、頼みの綱はやはりクロルだ。
 クロルは、シシト将軍より確実に立場は上だし、なにより武器の改良やこの砦の物理的な強化に貢献しているため、信頼度も高い。
 こうしてヒゲオヤジ騎士を黙らせることもできるくらい。
 それでも、実際シシト将軍と並んだときには……騎士たちは、将軍の方を向くのだろう。

 サラは、自分の腕をキツく縛っている縄を見つめた。
 少し日に焼けたけれど、まだまだなまっちろい手首には、縄がこすれた赤い跡が見える。

 一番立場が弱いのは、サラかもしれない。
 黒剣を取り上げられてしまえば、サラは武力で騎士に勝てない。
 カリムなら、素手でも勝てるだろうけれど……。
 斜め前を歩くカリムの、がっちりした後姿を見つめながら、サラは華奢な自分の体と見比べ、肩を落とした。

 いくら少年のような格好をしていても、サラは女なのだ。
 この服を一枚脱がされれば、すぐにバレてしまう。
 砦の中には、女は一人も居ない。
 大会前、結界の張られた王城に乗り込むというプランに対して、厳しい口調で否定したアレクの声が蘇る。
 アレクが懸念したとおり……むしろより厳しい状況に置かれるかもしれない。

 サラは、あの問題を思い出し、独り言を漏らしかけた。

「もし、おと……」
「シーッ、しゃべらないで!」

 隣を歩いているクロルが、サラの耳元でささやく。
 砦に乗り込む前、クロルは「サラ姫は、僕がいいよって言うまで黙っててね」とだけ告げた。
 サラは、口をパクパクさせてゴメンと伝えると、手首の下に見える騎士服のおなかを見つめ、軽くため息をついた。

 アレが限界に達する前に、シシト将軍とは話をつけたいところだ。
 クロルの手腕に期待するしかない。

「さ、将軍様の元に到着だ」

 グリードが、緊張してこわばった笑顔を浮かべた。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 すっ、進まない……お城に入って終了です。シシト将軍と、ピリリと辛いご対面させたかったのですが、しゃーないです。あ、シシト将軍の名前の由来は、もちろん『シシトウ』です。そんなタイプの人になります。ヒゲオヤジ、三人目です。今回は雑魚キャラなのでポイ捨て。しかしクロル君が同行してくれなかったら、ひどい目にあってただろうなあ。実際の戦場って、本国の国王とかより現場の大将が優先というのが、作者のイメージです。国王様はそれなりに大変だけど、戦友とはちょっと質が違うしね……。あまり戦争そのものには触れないように進んで行きます。サラちゃん現在千人の中に女子一人、こんなスゴイ逆ハーはねえです。いや、そんな展開にはしませんが。
 次回、シシト将軍と話し合い。クロル君の悪知恵がどこまで通じるか……サラちゃんはまた蚊帳の外です。

※私信です。先日お絵かき掲示板にイラストを描いてくださった『*』さま。もしよろしければご一報ください。素敵なイラストにお礼と、ぜひぜひサイトで紹介させていただきたく……お待ちしておりますっ。
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