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砂漠に降る花 作者:AQ
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第四章 プロローグ1 〜サプライズパーティ〜

 壇上にずらりと並んだ椅子には、いつものメンバーが腰掛けている。
 中心には、やはり国王。
 隅っこに引っ込もうとしたところを「王位継承の式を執り行うまでは、この場所に居てください」と、リグルたちが強引に座らせた。
 おかげで若干不機嫌そうにも見えるが、実際は頼りにされることを喜んでいるようだ。

 国王の隣には、サラ。
 ドレスではなく、黒騎士の姿でここに座るのは初めてだ。
 腰の黒剣は、一応バルトに預けてある。
 盗賊の砦を出発したときと同じくらいサッパリした髪のせいもあり、サラはまた完璧な少年となった。

 サラのすぐ隣には、ルリ姫。
 相変わらずの清楚なドレスに、くるふわヘアの妖精っぷりで、サラは思わず見とれてしまう。
 ルリも黒騎士に見とれているので、あたかも両思いなのにお互い言い出せないクラスメイトのように、チラチラ見ては頬を染め合っている。

 そのすぐ隣には、デリスが立っている。
 デリスは、侍従長の役割を引き継ぐことになった。
 主な仕事は、王族のケアと、各部門への仕事の割り振りや調整、後宮と人員の管理。
 タテワリの対立が緩和され、人事の一部は文官にシェアされたので、教育係との両立もこなせるだろうとのこと。

 国王の向こうには、リグル、エール、クロルが並んでいる。
 サラから距離が離れてしまったことに、クロルはおかんむりだ。
 きっと国王の『無礼講宣言』があれば、すぐこっちへ飛んでくるに違いない。
 ただ、今日の主役はサラなのだから、クロルにばかりかまってはいられないけれど……。

 サラは、ルリの向こうに佇むデリスを見た。
 年相応にシワが刻まれた横顔と、しゃんと伸ばした背筋が美しい。
 白髪混じりの髪はいつものようにひっつめて、髪飾りや宝飾品は無し。
 ナチュラルメイクと、珍しく黒を基調にしたシンプルなドレスが、ヘレンケラーに出てくるサリバン先生をイメージさせる。

 ドレスは、国王があっという間に手配して、先ほど強引に着せたものらしい。
 そういえば、この城に到着した直後に、サラ自身が同じ目にあったことを思い出し、サラの唇から笑い声が漏れた。
 今日の影の主役は、デリスなのだ。
 デリスの喜ぶ顔が見られたら、国王も王子たちも、そして臣下たちも喜ぶに違いない。

 赤いカーペットが敷かれた壇上に居るのは、それだけ。

 今までは必ずここにいた、月巫女も侍従長も……居ない。
 現在二人は、王城地下に罪人として幽閉されているという。
 サラは、パーティが終わったら、二人に会ってみようと考えていた。
 その後のスケジュールは、城を出て一度領主館へ泊まり、アレクたちと戦地を攻略するための作戦を練る。

 出発は、明朝。
 目的地は、砂漠とオアシスの境界線上にある『シシトの砦』だ。

  * * *

「では……今宵も無礼講だ!」

 国王の宣言に、大きな歓声が上がる。
 会場に入りきらないほど大勢の臣下たちが詰め掛けたのは、サラの人徳なのか、それともハメを外したいだけなのか。
 サラは、笑顔で溢れる会場を見渡しながら苦笑した。

 赤い花事件の直後ということもあり、皆疲れていたはずだったが、どうやらこの国の人々は根っからのお祭り好きらしい。
 特に、王族との距離がグッと縮まったことや、警護すべき貴族たちが居ないこともあり、臣下たちは大いにはしゃぎ、酒を酌み交わした。
 今夜に限っては、警備を担当する騎士たちもローテーションでパーティに参加するという。
 しかし、お堅いバルトによって、警備の仕事が終わるまで酒を飲むのは禁じられてしまったのだが。

「サーラ姫っ」

 さっそく、大きな茶色い猫が一匹、サラに擦り寄ってきた。
 重い上着を脱ぎ捨て、身軽なシルクのシャツ姿になったクロルだ。
 リボンタイはまだ取っていないし、いつもふわふわさせている髪の毛も撫で付けてあるので、充分過ぎるほどの王子フェロモン。
 そして……臣下たちがこっそり盗み見ているのも構わず、サラの腕に抱きついて黒髪にすりすりと頬を寄せる。

「どうしたの? 甘えん坊だねえ」
「だって、もうしばらく会えないんだし、マーキングしとかなきゃ」

 サラが呆れ半分、可愛さ半分でため息をつきかけたとき。

「――私もっ!」

 意を決したのか、隣の席でもじもじしていたルリがダイブ。
 サラより身長は低いものの、高めのヒールによってクロルやサラと同じ目線のルリが、サラの空いている腕に絡みついた。
 右を見ても、左を見ても、カワイコちゃんがすりすり……これぞハーレム!

「……じゃあ俺も」
「いや、待て」

 可愛いとは程遠い秋田犬リグルが、大きな図体で尻尾をフリフリして寄っていくのを、長男気質により理性を保ったままのエールが押さえつける。
 咎めるでもなく、笑いながら見ている国王と、雷を落とすタイミングを計っているデリス。
 その様子を、臣下たちも微笑ましく見守る中……。

 一人の侍女が動いた。

「サラ姫さまっ!」

 見慣れた侍女服にエプロン、伸ばしかけの髪を左右二つのお団子に結わえたリコが、舞台へと繋がる階段を昇り、サラの元へと駆け寄ってきた。

  * * *

 リコは、デリスに許可を取ると、ピシッと一礼してさらに近寄る。
 しかし、現在サラはハーレム中。
 最近めきめき自己主張が上達してきたリコも、さすがに王子たちに遠慮があるのか、もじもじしている。
 サラは二匹の子猫ちゃんに「ここで大人しくしてて?」と命じた。
 二人は唇を尖らせながらもうなずいて、サラの腕を放した。

「リコ、もしかして……?」
「はい。もう準備万端ですっ!」

 知らず、頬の筋肉が持ち上がってしまうサラ。
 こそこそ内緒話をしつつも、微笑むサラに見とれかけるリコは、慌てて気合を入れなおす。
 リコにとっても『二人目のお母さん』になったデリスに、恩返しができるチャンスなのだ。

「どうする? 全員に見届けてもらった方がいいかなあ?」
「ええ、どうせならドラマチックに行きましょう!」

 ノリノリのリコに鼓舞されて、サラは強くうなずいた。
 リコはそのまま壇上から降りると、音楽隊が入場するための舞台袖に一番近いドアから出て行った。
 その間に、サラは国王へなにやら耳打ち。
 内々に計画は伝えてあったので、ニ三の短い会話で事は済む。

 不可解な動きを見せるサラに、王子たちは黙って注目し、臣下たちも自然と静まっていった。
 サラが国王から離れ、元の位置へ戻ると同時に、王子たちも一度着席する。
 つられるように、臣下たちも食べかけの皿やグラスをワゴンへ置き、全員が直立不動の姿勢を取る。
 物音一つない大会議室に、仁王立ちした英雄王の低い声が響いた。

「皆の者! 此度は“赤い花”の件で、ずいぶんと迷惑をかけた……すまなかった」

 国王は一度頭を下げると、目尻にシワを寄せながら苦笑した。
 なぜなら、その場にいた臣下たち全員が、呆気に取られて口をポカンと開けていたから。

「俺はこれから一国民に戻る。しかし、出来る限りこの国と国民のために罪滅ぼしをしたい……その第一歩が今日だ。この国が変わる一日目を、皆で祝えることを嬉しく思う」

 その声は、会場の隅々まで染み渡った。
 涙ぐみうなずく臣下たち。
 神が頭を下げ、自分たちの元に降りてくる。
 そしてこれから、同じ目的に向かって歩み始めると誓ったのだ。

「俺は、感謝している。皆にも、サラ姫にも、王子たちにも……そして、デリス!」
「ハイッ!」

 唐突に名を呼ばれ、思わず威勢良く返事をしたデリス。
 小さな瞳をめいっぱい見開いたデリスは、ローヒールの踵をぴったりと揃えて立ち上がり、国王へと顔を向ける。
 間に挟まれたルリは、二人の間を行ったりきたり、落ち着き無く目線を動かす。
 サラは国王と一度視線を絡ませると、静かに立ち上がった。

「デリス……あなたに、渡したいものがあるの」

 サラは、椅子の後ろに隠していた紙袋から小さな包みを取り出して、デリスに手渡した。
 動揺を表に出すまいと目を細めるデリスは、うながされるままに包みをそっと開いた。
 中から出てきたのは、一枚のハンカチだった。

  * * *

 キレイにアイロンがけされたそれは、決して特別なものではない。
 この王城に一時期でも滞在した女性なら、誰もが持つ白いハンカチだ。
 当然サラも、同じものを持っている。

 それは、礼儀作法を学びに来た女子に、デリスが一人一人の名前を刺繍してプレゼントしているもの。
 花嫁修業に来た貴族の娘にも、初めて王城に仕えることになった魔術師にも、もちろん侍女たちにも。
 単なる生徒ではなく、娘になった証として。

「これが、いったい……?」
「ねえ、誰のハンカチだと思う?」

 微笑むサラに促され、畳まれたハンカチをぱたりぱたりと広げていくデリス。
 その瞳が刺繍された文字を見つけたとき、そっと扉が開かれた。

「ナ……チ、ル……」
「――お母さまっ!」

 開かれたドアの中から現れたのは、一人の小さな少女。
 艶やかな髪をツインテールに結い、メイド服を身にまとった美少女だ。
 大きな瞳から溢れる涙をぬぐうことなく、床へ滴を落としながら駆け寄ってくる。

「ナチルッ!」
「デリスお母さまっ!」

 自分の背丈ほどある段差をものともせず、床を蹴りふわりと浮かび上がったナチルは、そのまま大きく広げられたデリスの腕に飛び込んだ。
 壇上で、二人は固く抱き合った。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。










 うー……ヤバイです。「あなたのお嬢さん、今日来てくれましたよ」みたいな番組、そーとーダメなんです。もう号泣。この話でもそういうベタなの入れたかったんですよねー。ていうかナチルちゃん、今まで放っといてゴメンよ。健気なチビッコなのでもっと活躍させてあげたかったんだけど、このシーンのために大人しくしててもらいました。その分再会は感動的に。読者さまは……忘れてないよね? お忘れの方は第二章へゴーです。あっ、でも恥ずかしいから見ないで欲しい気も……。さて、最近書いたくせに恥ずかしい出来だった第三章閑話エリアを、本日ざっと見直しました。誤字やら分かりにくい表現やらあちこち小規模修正……お恥ずかしいものをお見せしてスミマセンでした。ストーリーは全く変えてないので、読み直していただく必要はナシでございます……。
 次回、プロローグ後半戦。もう一個パーティ盛り上げるネタぶっこんで、地下牢チェックして、ついにお城とバイナラです。

※先日書いた恋愛掌編を公開しました。『冷蔵庫にゆずシャーベット』(http://ncode.syosetu.com/n3397h/novel.html)です。ジャスト1P(400字)、1分間のラブストーリーなので、気分転換にどうぞ。気に入っていただけたら「イエス、フォーリンラブ」と呟いてください。
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