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等身大に、奇々怪々
作:怠惰



12.新人教育、必要ですか?



 大通りを歩くこと数分、やや人込みが薄くなってきた辺りで一本裏に入った所にある寂れた背の低いビル。
 その一階部分を賃借し、書かれた字が読めない程に黒ずんだ木製の看板を出してひっそりと骨董や輸入雑貨を販売している小さな店が俺のバイト先である。
 店名のイシュタールとはどっかの神話か何かに出て来る豊饒を司る神の名前らしいが、店の外見は豊饒どころか苔すら根を張るのを諦めそうなほど。
 築何年か突っ込むのも恐ろしいような老朽化した入口に、磨いても曇りが晴れない硝子窓。そして店先に並べられた何をモチーフにしたのか分からない彫刻や石像の群が胡散臭さを倍増させる。
 その奇妙なモノリスの間をすり抜けて店内に入れば、そこに広がるのは更なる混沌。和洋中米東西南北貴賎清濁老若男女一切を問わず手当たり次第に集められた役に立つのか立たないのかそもそも何に使うのかすら予想もつかない物品が所狭しと並べられている。

「……って、なんか昨日より増えてないか?」

 入口の横に目を向けると、そこには大量の段ボールが積まれていた。半分ほどは口を開いて虚ろな中身を覗かせているが、残りはまだ『何か』を腹一杯に詰め込んでいるようだ。

(……誰か作業してるのか?)

 店主の老夫婦は注文はしても陳列や搬入などはまずしない。ましてや、これだけ大量の品物となれば俺のようなバイトに全ての作業を丸投げしてしまう。
 実際、入口に立つ俺の左手側、レジの更に奥にある私室と化した空間からは陰気なアナウンサーの声と共に年配特有のテンポによるゆったりとした会話がちらほらと聞こえてくる。

 と、そこで店の奥から商品のブラインドを掻き分けてひょこっと一人の男の子が現れた。

「…………おぉう」

 従業員用のエプロンを付けたその姿を見て、思わずそんな声を上げる。ちょっと失礼かもしれないとは思ったが、仕方ないだろ。出て来たそれがあまりにも予想外の外見だったのだから。
 身長は160とそこそこといったところだろう。すらりとした細身のジーンズに、労働で汗をかいたのか、上着を脱いで黒いロングのTシャツの袖を捲り上げ、その上から店名が胸元に入った空色のエプロンを付けている。
 そこまではごく普通であるが、注目すべき点はそれを土台にして据えられた頭部。
 陽の光に透かしたかのような金色の髪に、明るい翡翠色の瞳。ピンと切れるような目とスッと延びた鼻筋の中に僅かな丸みを残した、幼さと美しさを混然とさせた中性的な顔立ち。
 要するに欧州系の貴族を彷彿とさせる美少年、それがこの天地創造以前の世界もかくやという澱みに満ちたこの店の奥から突然現れたのだ。

「あ、んっと、君は……?」

 その少年に話し掛ける。すると、異国の風貌を持つその男の子はにっこりと微笑みを浮かべて。



「お、いらっしゃせぇー」



 なんか変に砕けた口調で挨拶してきた。

「わりい、今商品並べてっから、慌ただしくしてっけど」

 外見に相応しく透き通った声である為に、余計にその奇妙な喋りが強調されてしまう。

「……いや、俺は客じゃなくてバイトだが」

「おっと、そうなん? わりぃ、入ったばっかなもんで」

「最近になって2人入ったとは聞いてたけどね。まさか今日出くわすとは」

「僕も昨日んなって急に呼ばれちって。暇だったから別にいーんだけどよぉ」

 ニコニコと愛想よい笑顔を浮かべながら、そんなヤンキー風の口調で話す。……ホント、何処で習ったんだろうかその日本語。

「まあとりあえず。俺は宮内雅彦、マサとでも呼んでくれ」

「おう、マサさん。僕はリル・バレルつーんだ。イギリス、から来た」

 イギリスだけ一音ずつゆっくりと発音する。流暢に国名を言っても聞き取れないと思われたのだろうか。

「それで、今は何をしてたんだ? 商品の陳列か?」

「ん、半分は倉庫に入れとくよう言われたんだけどよ、重くて運べねーから残りのを並べてたんだわ」

 言われて傍に積まれた箱をよく見れば、僅かに大きさの違う二種類があるようだった。リルはその大きい方を広げて中身を並べていたらしい。

「そうか、先にやらせてて悪かったな。俺もすぐ用意するから」

 そう言って、従業員室――と言っても単にテーブルや流し等の些細な諸々があるだけの小さな部屋だが――に向かい、荷物を置いてエプロンと軍手を付ける。

「つか、今度は一体何買ったんだあの2人は」

 指先が僅かに余った軍手をぐいぐいと直しながら面倒そうに口にする。まあろくなもんじゃないだろうことは大方予想は付くが。

「何と言うか……色々?」

「……ま、取りあえず何の足しにもならなさそうなもんばっかだな」

 段ボールの中を覗けば、手足が78本はあろうかという謎の動物をモチーフにした像やQの形をした笛のようなものなどがごろごろしている。

「……まあいいや。とりあえず、こっちの小さい方を運んじまうか」

「合点承知」

 ……多分回転寿司で覚えたのかな、それ。

「んじゃいくか。せーのっ」

「ふんっ!」

 腕を広げた程度の幅の段ボールを左右から持ち上げる。が、

「お、重っ……!」

「何だこれ、ちょっ、一回降ろそう!」

 その予想以上の重さに、ぴきりと腕に痛みが走り、慌てて一度床に下ろす。

「一体何入ってんだこれ? 中身をばらして運んだ方がいいんじゃないか?」

「あ、そりゃ駄目だ。店長は中を見ないようにっつってたからよ」

「はぁ? 一体そりゃまたどうして……」

「あと、もし落としたりしたら口を塞いで急いで逃げろとか、具合が悪くなったらすぐに報告しろとか」

「…………」

 ふと、ABC兵器という単語が浮かんだ俺は考えすぎだろうか。

「……深く考えずに、大人しく運ぼうか」

「……そいつがいいな」

 ……仕入先が気になるな。伝票とかついてないし。運送会社じゃなくて運び屋とかが関わってそうな感じ?



「おとうさん、どうしてサンタさんの服は赤いの?」

「それはね、共産主義コミュニズムの豚共の返り血を沢山浴びたからだよ」



「おとうさん、どうしてサンタさんの服は赤いの?」

「それはね、人間は網膜に入る光の波長の長さによって色を決定し信号に変化して脳がそれを認識するんだけれどサンタさんの着ている服はその反射する光の波長が可視領域の中でもかなり長い部分に位置するのでそれが人間の脳の認識するところの赤という色に当て嵌まるから赤い色に見えるんだよところで色の認識といえばクオリアという問題があるんだけれどそれは自分の見ているこの赤色と他の人の見ている赤色ははたして同じ色なのかもしかしたら自分が緑だと思っている色を他の人は赤だと思っているんじゃな」



「おとうさん、どうしてサンタさんの服は赤いの?」

「ググれ」



時事ネタで申し訳ない。ちなみに幼い頃作者が両親に聞いた所、その解答は「赤が好きだからだよ」でした。
サンタさんって意外と情熱的?











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