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   (その十四)一年の計は元旦にあります
「じゃあ、始業式に」
 遙香が店を出るのを見送り、涼は佐久間の隣に腰掛けた。真正面から民子と向かい合う。
「どういうことですか」
 少しも追及の手を緩めることなく、民子は問いただす。
「お二人は交際していると、私だけではなく教員皆が思っております。だから例の怪文もデマだと……しかし、現に生徒と二人きりで会っている」
「偶然会っただけだと私は伺っておりますが?」
 ここは苦しかろうが白を切り通すしかない。民子にだって確たる証拠があるわけではないのだ。わざとらしく民子は紅茶を一口すすった。
「失礼ながら、以前からお二人はどうも、お付き合いなさるほど親しいようには傍から見て思えません」
 だろうな、と涼は内心苦笑する。生徒一人庇えない教師なんぞこちらから願い下げだ。守れなんて無理は言わない。しかし隠し通せないのなら、せめて自分一人で責任を被る度量を見せてもいいだろう。
「オペラならば愛の賛歌の一つでも熱唱しますが、生憎私はそれほど歌唱力に自信はありません」
「渡辺先生、ふざけている場合ではありませんよ」
「人の気持ちを言葉で説明して納得させろ、とおっしゃる方が無茶だと私は思います。渡辺先生が私と佐久間先生のことをどうご覧になろうと自由です。しかし『交際しているように見えないからそれらしくしろ』というのはいささか横暴ではありませんか?」
 民子に見えない位置で佐久間を肘で小突く。すぐさま意図を察した佐久間はとりなすように頭を下げた。
「たしかに、今回は私が軽率でした。その点は謝ります。私の至らないせいで誤解を招き、矢沢さんにも嫌な思いをさせてしまいました」
 彼女には後日、改めて詫びます、と佐久間は付け足した。
「ですから、渡辺先生も矢沢さんに謝ってください」
 民子は目を見開いた。何故自分が詫びるのかを理解していない表情だ。正義は自分にあると信じて疑っていない。そのことに涼は呆れた。仮にも教師ならば、自分の体面だけではなく生徒の分も考えるべきだ。
「人前であらぬ疑いを掛けられて、さぞかし辛い思いをしたと思います。新学期になったらで結構です。一言謝っておいてください」
 不本意であることを露わにしながらも民子は頷いた。
「話がそれだけならば失礼いたします」
 千円札を置いて席を立つ。自分の瞳孔が開いているのを自覚しつつ、佐久間の方を向いた。
「これからデートなもので」
 佐久間の頬が盛大に引きつった。蛇に睨まれた蛙だってまだマシな顔をするだろう。


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