(その五)見落としてしまいます
「何がですか?」
「ここ最近の君はいつになく、しつこいような気がする」
入学式の辺りからだ。積極的と表現するべきかどうかはわからないが、押しが強くなった。しかも、涼が冷たく突っぱねても、めげない拗ねない怒らない。不安混じりに、しかし図々しく。機嫌がいいとはまた違う、落ち着かない感じだ。
「あー……」
天下は言葉を濁して明後日の方を向いた。自覚はあるようだ。
「色々あるんです、それなりに」
似非優等生にしては珍しく、適当な誤魔化し方だった。もう少し踏み込めば白状しそうな気さえした。危うく追及しかけた口を閉じ、代わりに天下の背中を押した。
「なら、こんな所で油を売っている場合じゃないだろ。さっさと教室に戻りなさい」
「訊けよ、理由くらい」
地の声で天下が呟く。どうやら構ってほしかったらしい。なんとも面倒な奴だ。
「進路相談なら職員室の隣だ。君の名前で予約しておこう」
「先生が相談相手なら行きますけど?」
「いや、今日はたしか佐久間先生だ。良かったな前の担任だぞ」
棒読みになってしまうのは仕方ない。涼とて頭痛の種に相談するなんて願い下げだ。
案の定、天下は心の底から嫌そうに顔を顰めた。歪めたと言ってもいい。思わず佐久間を憐れんでしまう程、あからさまな嫌悪の表情だった。
「……生徒にうだうだ言う前にてめえの面倒をてめえで見ろ」
ごもっとも。しかし相手は教師だ。歳甲斐もなく生徒と恋愛ごっこをし、散々他人を巻き込み、それでもなお全く改善する気配がなく、現在進行形で恋愛を続けている――救いようがない馬鹿野郎だとしても、佐久間は、教師だった。
「言葉を慎みなさい」
「担任が変わって恐悦至極に存じます」
言葉とは裏腹に天下は非常に不機嫌そうだった。チャイムの音に背を押される形で去る際も、口を尖らせ捨て台詞。
「あんた、いつまであいつの肩持ってんだよ」
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