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第7話 ZEBRA
 ふーむ。
 えっと。これは、人形か?
 あんまりいじらない方がいいな。
 むやみに構って面倒なことになったら嫌だ。
 特に魔導社製の人形なんてロクなものがない。

「準くん、これはー?」

 ガラクタの山からひょっこりと顔を出す死神。
 てにはなにやら棒状のモノを持っている。

「なんだそれ」
「わかんなーい」

 すると別の方からウサギの頭がガラクタの山から顔を出した。

『ホホホ、それも隅に立て掛けておいてください』

「はーい!」


 そう言って死神は再びガラクタの山へダイブしていった。
 それにしても、本当にガラクタだらけ。
 ラビットさんと死神と三人で片づけるにしても、この倉庫は広すぎるだろ。
 あ、ちなみにエリート餓鬼二人は書類の整理で別の場所に居る。

『いやー、助かりますよ里原様』

「しっかし凄い量ですね。これ全部ガラクタですよね」

『ええ。魔力は抜いてあるので起動しません。私一人で片づけるのは少々辛くて。ここにパペットは入れませんし、シャドーは本社で私の代理をしていますし』

「パペットは入れない。どういうことですか?」

『そのようにプログラムされているのですよ。なのでこの禁断倉庫には私しか入ることができないのです』

 ラビットさんによると、この禁断倉庫は主に不良品などのガラクタ置場という役割があるという。
 禁断という名が付いているものの、それはパペットが不良品に近づいて干渉しないようにそう名付けられているだけ。
 不良品に残留した魔力で故障するケースがあるらしい。

「パラダイス・ロストもやってくれますね」

『まったくです。しかし、特に何かを奪っていった痕跡もなく、何かを仕掛けていった痕跡もありませんでした。ただ社内を荒らしていっただけのようですね』

「でもここはまだ調べてなかったんですよね?」

『ええ、まあ。ですが危険物は探知されなかったので安心して下さい』

 傭兵集団パラダイス・ロストは結局、何のためにここを襲ったんだか。
 ただの営業妨害にしても別の安全な方法があるわけだし、何も奪わず外部だけでなく内部の隅々まで荒らしていくってのは、どうも腑に落ちない。
 わけがわからんな。

 そんな事を考えながらガラクタを片づけていると、目の前に積んであったガラクタの山が大きく揺れた。
 つぎに金髪の頭がポンと飛びだす。

「ぷはっ、おーい準くん、ラビットさーん!」

 死神だった。
 どこまで潜ってたんだよお前。

「どうした」
『どうしましたか』

 死神は何やら慌てているようで。
 ラビットさんのネクタイを引っ張りまくっていた。ってオイ。

「すごいの見つけたの! ねえ、すごいのラビットさん!」

『ホ、ホホホ……死神様。い、息が……』

「なんかね、おっきな棺みたいなやつ!」

『え?』

 ピタリと、ラビットさんが固まる。
 しばらく死神の顔をボーっと眺めていたが――

『まさか!』

 急にビクンと身体全体を揺らし、死神の肩を掴む。

『死神様、それはどこにありましたか? 案内できますか? 私をそこへ連れて行って下さい』

「う、うん。いいよー」

 なんだ?
 死神は一体どんなものを見つけたんだ。
 ラビットさんの慌てっぷりは尋常じゃない。
 ガラクタに躓きながらも、速めの足取りで死神と奥へ向かう。
 オレも後に続く事にした。

 しかしあの二人早い。
 立て掛けてある棒状のガラクタや、ベルトのような紐をかき分け、禁断倉庫の奥へ奥へと進む。

 見えてきた。
 死神とラビットさんも立ち止まっているから、アレに間違いない。
 確かに、大きな棺のようだ。
 もっと近くに寄ってソレを眺めてみる。

「……なんだ、これ?」

 大きな棺は、近くで見てもやはり棺にしか見えなかった。
 人間より一回りか二回り大きな身体でも余裕で寝る事が出来るだろう。
 内側にはコードやらプラグやらが伸びている。
 何を入れていたんだ?

『し、しまった。まさかコレが狙いだったなんて……』

 ラビットさんが呟きながら力を失い、床に膝を着いた。
 空っぽの棺を眺めたまま、一人でなにか呟いている。

『よりにもよって、コレですか。迂闊でした。私自身も忘れようとしていたのに。まさか《ゼブラの遺産》が目的だったとは。安心しきっていた私のミスです……これは……大変な事です……』

 ゼブラの……なに?
 とにかくパラダイス・ロストは何かを奪っていったと考えて間違いないようだ。
 ラビットさんの様子に、死神もオレの方へやってきて不安げな表情を浮かべる。

「どうしちゃったのかな、ラビットさん」
「わからん」

 魔導社の代表は棺の縁を握りしめ、時々ウサギの頭を振っては呟き続けている。
 なにか必死に考え事をしているのだろうか。

『しかし何故です。何故情報が漏れたのです。いえ、それよりも先に考える事があります。えっと、ホホ……私としたことが思考に集中できていません。奪う指示をしたのは別の何者かであって、パラダイス・ロストはアレの実態を知らないでしょう。知っていたらジャッカルが依頼を受ける筈ありませんもの。あんな……あんな化け物を………怪物を……奪っていくだなんて……。よりにもよって《零鋼(ぜろはがね)》ですか……!』

 ゼロ……ハガネ?
 なんだそりゃ。
 化け物って。

 いや、とにかくラビットさんを落ち着かせないと。
 どう見たって混乱している。
 まともな思考なんて絶対にできてない。

「大丈夫ですかラビットさん」
「だいじょうぶー?」

 死神も心配してウサギの頭を撫でる。

『は……はは。え、あ? し、死神様……』

 するとラビットさんは我に返り、死神の方に顔を向けた。

『はい。大丈夫ですよ死神様。ちょっと、ちょっとだけ考えにふけってしまいました』

「もー、心配したぜー! ラビットさん、勝手に自分の世界に入っちゃうんだもん」

『ホホホ』

 息を吸い、そして吐く。
 それを二、三回繰り返したラビットさんは死神の目の前にしゃがむ。
 そして、ウサギ頭の鼻先を、死神の頬にコツンと当てた。

「ふぁっ」
『そうですね、申し訳ありませんでした。こんなに可愛い娘様をお招きしておいて、自分の世界に入り込んでしまうとは。お恥ずかしい限りです』

「えへへ、どんまいっ!」

 お返しに死神もウサギの頭を撫でた。
 我に返り、落ち着きを取り戻したラビットさんがオレの方を向く。

『里原様も、取り乱してしまって申し訳ありません。お恥ずかしい限りです』

「いえ、ラビットさんが動揺するなんて珍しいこともあるんですね。事態について、オレにはサッパリだし、どれだけ大事なことかもわからないですけど。話くらいなら聞きますよ。頭の中が整理できるかもしれません」

『そうですね。いえ、そうしましょう。どちらにせよ、業務報告のついでに閻魔様へ伝言をお願いしなければなりませんし』

 そう言って、ラビットさんは棺の縁に腰を降ろした。
 それを見たオレも、適当な形のガラクタを見つけて座る。

 死神はというと、テテテ、とこちらに走って来て、とすんと座った。
 オレの足の上に。

「だー、またお前は……」
「いいでしょ?」

「……ご勝手に」
「やったぜー!」

 ラビットさんは棺の中からコードを引っ張り、その先を撫でている。

『それではお話しましょう。本当はゆっくりしている間はないのですが、こういう時こそあえてゆっくりした方が得策ですね』


 そう明るい声で言うと、ラビットさんは落ち着いた口調で、しかし静かに語り始めた。

『里原様も、そして死神様もお気付きかとは思いますが、この魔導会社マジックコーポレーション。設立したのは私ではありません。先代の社長が創ったものです。そして、彼女は私と同じ一族であり、幼馴染でもありました。とても賢く、とてもしたたかで。とても野心に満ちた、そんな方――』



 ◇ ◇ ◇




 ゼブラ・ジョーカー。
 それが彼女の名です。
 魔導社を立ち上げてからは、私と二人三脚で歩んできました。
 彼女が社長。私はその補佐。
 とはいえ彼女は大の研究好きな科学者という一面も持ち合わせていましたから、社長としての仕事はほとんど私がやっていましたね。

 その頃、異界ではとても大きな戦争が起こっていたのです。


(は!? 死神、知ってたのか?)
(えと、閻魔さん達に教えてもらった事はあるよ。おっきな戦いがあったって)


 ホホホ、驚かれましたか。
 とても大きな、黒歴史として異界全土から忌み嫌われる争い。
 最終戦争、ラグナロク。

 この魔導社もそんな中、技術の秀でた企業の一つとして戦争に関わりました。
 とても辛い仕事。
 兵器の開発です。


(兵器……)


 そう、兵器。
 そして天才ゼブラ・ジョーカーは、その腕を邪悪な兵器開発に振るう事になってしまったのです。

 戦闘パペット、という警備用の者が今も我が社にはおりますね?
 アレは私が開発したものです。が、元は彼女のアイデアだったのですよ。

 正確には戦闘傀儡(くぐつ)兵。

 一般兵程度の能力しか持ちませんが、量産が容易でした。

 更にこれに戦闘能力を増大化させたものを、戦術傀儡兵と呼びます。
 これは我が社で言うところの、式神十二式に値しますね。

 指揮官クラスの戦闘力を有する人形兵です。

(……すげえな)

 ホホホ、これらは戦場でも活躍しました。

 ……しかし。

 ゼブラの技術力と発想力は、こんなものではありませんでした。
 更に上位の人形兵を、彼女は産み出してしまったのです。

(となると、戦術傀儡兵の上。司令官クラスとかですか)


 いいえ。

 そんな生易しいモノではありません。
 戦闘傀儡兵・戦術傀儡兵。
 この二ランクとは比べることすら無駄なほどの脅威。

 彼女はそれを、戦略傀儡兵と、そう位置付けました。
 そう。戦争自体を攻略する傀儡兵です。

 コンセプトは《単機での拠点制圧・局地制覇・勢力破壊》です。

(ちょっと待って下さいよ。つまりそれって……)

 はい。
 簡単に言えば、一体でも戦争に勝てる傀儡兵ということです。

(バ、馬鹿な……!)
(すごーい)

 彼女はそんなコンセプトに基づいた戦略傀儡兵を……七種類も創ってしまったのですよ。
 しかしそれらが投入される前に、ラグナロクは終結。
 同時に、ゼブラ・ジョーカーは謎の失踪。
 四機の戦略傀儡兵と共に。
 ええ。彼女は、突然私の前から消えてしまったのです。

 私は彼女の遺した最後の言葉が、今でも忘れられません。


 ◇


『クスクス、ねえラビット。私は、とても大きな夢を見つけたのです』
『夢ですか?』
『そう。夢。でもね、それを叶えるにはとてもとても大きな力が要るのですよ』
『ホホホ、力ですか』
『うん。それでね、私は運命を変えるのですよ。それが夢です』

 彼女はとても楽しそうに、両手を広げて回っていました。

『運命を変える? どうしてまた』
『クスクス、ナイショ! 運命が変わった時、既に貴方は変わった運命の中に居るのだから。教える必要はないのです』
『ホホホホ、それは楽しみです』
『ええ、楽しみにしていて頂戴』

 彼女はとても哀しそうに、両手を広げて回っていました。

『ラビットの素顔、久しぶりに見ました』
『ええ。ほとんど被り物をしていますからね』
『クスクスクス。素顔を知ってるのは、私だけですか』

 彼女はとても嬉しそうに、両手を閉じて止まりました。

『ねえラビット』
『はい』

 そして彼女は――

『私、絶対に還って来ますからね!』

 そう言って、仕事中の私の前から去っていったのです。
 戦争終結直前の、落ち着きが戻ってきた頃の事でした。

 そしてそれ以降。

 彼女の姿を見たものは、誰一人として居なかった。



 ◇



 必ず帰ってくると。
 そう言って消えた彼女。
 彼女が残して行ったものはゼブラ・ジョーカーの遺産として扱われることとなりました。
 三機の戦略傀儡兵の事も含めてですね。

 実戦配備されることなく戦争終結を迎えた三機の戦略傀儡兵は、それぞれ管理能力のある機関に配備されることとなりました。

 そのうちの一機は、この魔導社に……。

 そして今回、パラダイス・ロストによって奪われたのが、その戦略傀儡兵。

(ゼロハガネでしたか?)
(ゼロハガネー!)


 はい。
 戦略傀儡兵、単機突入・決戦用人型兵器。

 零鋼。

 ちなみに式神十二式はコレをベースに、夜叉様の戦闘スタイルを混同させた戦術傀儡兵なのです。

(いや、本気でヤバいですよ。戦略傀儡兵が奪われただなんて)
(うんうん!)

 ええ。本気でヤバいです。
 というか、想定外でした。
 何故ならこの魔導社に零鋼が置いてあるなど、誰も知らない筈だからです。
 そして、あえてガラクタの山に埋もれさせ、私自身も存在を忘れる。
 そうすることで、ソレが存在しないに等しくさせたのですよ。

(つまり内部に密告者とかが?)

 何とも言えませんが、可能性は否定できません。
 しかし社員の大半がパペットである為、内部に密偵を潜ませるのはかなり危険な筈です。

 そしてこの零鋼。

 他の戦略傀儡兵と一線を画する兵器です。

(どういうことです?)
(ねえ、いっせんをかくすってなに?)
(たぶん、能力的に他とは異なるって意味だろ)
(うー?)


 正確な情報は私の元にもありません。
 しかし零鋼は、ゼブラが一番最初に開発を始めた傀儡なのです。
 他の戦略傀儡兵も、戦術傀儡兵も、戦闘傀儡兵も、この零鋼を元に派生開発されています。
 つまり、この零鋼こそ兵器の根源たる兵器ということになるのです。

 

 ◇ ◇ ◇




『――ふう。話をしたら私自身も整理しやすくなりました。里原様の言った通りです』

 あ、いや。
 よもやここまでスケールのでかい話だったとは思いもよらなかった。
 これはラビットさんも混乱する筈だよ。
 奪われてから半年以上経ってるんだもんな。

「あとの片付けはオレと死神がやっておきます。ラビットさんは早く」

『はい。この場はお任せします。至急、然るべき対処に取り掛かりますので。閻魔様にはそうお伝えください』

「了解です」
「がんばってねラビットさん!」

『ホホホ、それでは失礼します』

 ラビット・ジョーカーはオレ達に軽く会釈し、禁断倉庫から出て行った。
 やはり慌てているようで、早足気味だった。

 さて。
 残されたオレと死神は、なんとなくポカンとするだけ。

「戦争だってよ。オレは知らなかったなぁ」
「私も詳しいことは知らないよ」

「おー。あ、そういえば」

 オレはふと思い出して死神の頭に手を置く。

「お前、そろそろ例の時期じゃないか?」
「うん! お父さんとお母さんに会えるねー」

 一年に一度の日が、近い。
 死神の両親、ギルスカルヴァライザーさんと、ルイシェルメサイアさん。
 伝説の死神業者と呼ばれる二人で、今は結界の中で暮らしている。
 ナイトメアと、ヴァンパイアの両親もだ。
 で、毎年夏ごろになると、結界の弱まる日がある。一日だけだが。
 その日だけ、こいつらは両親に会えるのだ。

「あ、閻魔さんが言ってたんだけどね、今年は結界の弱まる日がずれるんだって!」

「ん? どういうことだ」

「メアの両親、バンプの両親、私の両親。って順番に結界が弱まるの」

「毎年同時ってわけじゃないのな」

「うん」

 その後、オレと死神に加えて、書類整理から戻ってきたエリート餓鬼二人を交えて、倉庫整理を続けたのだった。
 死神が不良品のガラクタで遊んだ所為で仕事が遅れたあげく、オレもエリートもボロボロになったけどな。

 ギルさんとルイさん、元気にしてるかなー。
 あのドクロ仮面夫妻、きっと相変わらずだ。


 ◇ ◇ ◇


 この時のオレは、本当に何も考えていなかった。
 奪われた戦略傀儡兵のことも、自分には関係ないと思っていたし。

 何より、目前に控えたギルさん達との再会に心躍らせていたから。

 だってそうだろう?

 メンバーは減ったものの、またいつも通りに、大騒ぎを繰り返す日々が続くと思っていたんだ。
 優しい人達に囲まれて。
 死神とか、ナイトメアとかが起こす喧嘩を眺めたり。

 それが当たり前だったんだから。

 そんなオレに、予想できる筈がないじゃねえか。

 これから、哀しい思いをすることになるなんてさ。

 そしてその過程で気付くんだ。

――ああ、だから彼女は、あんな風に人と接していたのか。

 って。
データ損失の為、更新が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。


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