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†裏章 3
 作られた生命の話。
 たくさんの死を踏み越えて生まれた者が居る。
 そいつは何者かが、目的を果たす為に作ったものだった。
 ところがいざ生まれた時、既に自分を作った者は居なかった。
 目的を抱いていたのは作った者であり、生まれてきたそいつには何の目的もない。
 その命は目的を果たすべく作られた。だから目的こそがそいつの存在理由。
 だがしかし、その二つを繋げる存在が欠如してしまった。
 糸を切られた目的だけがそいつの中で漂っていた。
 そいつの身体は目的の為に作られたものであり、自分の身体を調べれば、必然目的が何なのかというところまで辿り着くことができる。
 確かに命にも身体にも理由がある。
 ところが心はどうなのだろう。
 果たしたいと願ったのは作った者だ。
 もしその者が居たならば、生まれたそいつはただ従い、拠所にできただろう。

 生まれた。だから生きたい。そう願った筈だ。
 より安全に、争いや危険を避けながら、自分の身を守りながら生きたい。皆がそうしているように。
 しかしそいつの身体は――戦うために作られた。

 俺、惨劇のカタストロフはここまでしか知らない。
 そいつがどうやって生きるのか、わからない。それはそいつの心次第だからな。
 兵器に心。戦争の道具たり得るためには、あってはならない組み合わせだと俺はその時考えさせられた。

 これはそんな生命の悲劇に出会った時の話。

 

 ◆ ◆ ◆



 ここは終わった土地だ。
 なにもかもが消え失せた土地。
 薄気味の悪い場所だった。
 右も左も見渡せば廃墟ばかり。廃れているというより、壊されている。
 二人目と三人目の兄弟に会った俺は、クローと共にこの辺境の地に足を踏み入れていた。
 まさか二人とも一人目の兄弟と同じ事を言うとは思わなかった。
 十三の星霜が俺の存在理由だと。求める答えは得られなかったが、顔合わせはこれで三人終えた。残るは九人。
 俺はなんとなく気付いていた。クローの本当の目的は兄弟との顔合わせじゃあなく、俺にこの世界を見せたいんじゃないかと。
 そうでなければ、クローがこんな――気分の悪い土地に俺を連れていく筈が無い。

「ここはな、惨劇。ゼブラの実験に利用された土地なんだ」
「ゼブラの?」
「ああ。でっけえ龍の形をした巨大無人兵器の火力実験にな」
「それでこんな有様か……。けどいいのか、んな事して」
「いいんだよ」

 クローは吐き捨てるように言った。
 当たり前のようにこの大破壊を肯定した。

「あそこに大きな建物が見えるだろ」

 クローの指差す先。
 確かに大きな建物が見えた。しかもそこだけは周囲の破壊っぷりが嘘のように、未だ外観を保ち、傷がほとんど付いていなかった。

「ゼブラの兵器。龍怒ロンドでもぶっ壊せなかった。忌々しい建物だ」
「……あれを壊すために此処へ来たのか?」

 頷く。
 確かにあの大きな建物は危険な香りがした。俺やクローでもそう感じるのだ。他の連中は近寄ることさえできないだろう。
 一体――あの建物はなんなのか。

「行こう惨劇」
「行くって……あの中へか」
「そうだ」
「ここから俺がプレスキャノンぶっ放せばいいじゃねえか」
「それじゃあ駄目だ。アイツ等を解放してやれない」

 クローは先へ進んでしまう。
 様子から見るに、やはり彼はここで何かをするつもりだったのだろう。
 この旅でのクローの目的は俺よりも遙かに多いのではないか。
 この鴉天狗は世界を知りすぎている。
 そしてそれら総てに気を回すこともできる男だ。
 それはつまるところ、この男にとって足枷以外の何物でもないと俺は思った。
 クローはもっと、もっと高く羽ばたくべき逸材だ。
 だが現実の彼は世界を知ったことで、それを気にしながら低空を飛んでいた……。
 今みたいに。
 

 ◇ ◇ ◇


 暗くて湿気の多い建物だ。
 じめじめとした廊下はひんやりとしているそうだ。俺は温度とか感じないが、クローがそう言った。
 そこは病院にも似ている。通過する部屋にそれぞれ番号がふってあった。
 その一つを開けようと手を伸ばしたところで――

「よせ惨劇」
 と、クローに止められた。
「何も触れるな。そこを開けた途端、アイツ等が溢れてくる。お前は大丈夫かもしれんが、俺が無事では済まなくなる」
 言われ、俺は頷いて了解の意を示した。
「つーかここはなんなんだよ。アイツ等ってなんだ」

 俺の問いに、クローは呟くように答える。

「腐った意志が集まった場所だ。腐った意志の基に研究をしていた施設だ」

 こんなものがあっては駄目なんだよ。と、クローはひどく忌々しげに言った。
 廊下の突き当たりに、広い空間があった。
 エレベーターがある。
 稼働はしていない。
 ひたひたと、液体の零れる音が前から聞こえた。

 ギラリと光るものが二つ。
 それは暗闇から侵入者を狙う眼光だった。
 
 そこに――何かが立っていた。

『ひゅぁああ゛ひゅぁああ゛』

 喉に物を詰まらせたような擦れた声を出している。それが声なのか、鳴き声なのかは定かではない。
 生き物――なのだろう。
 だがあまりにも歪で、今にも溶けてしまいそうな身体だ。
 触手で天井からぶら下がったそいつは、逆さまになって両腕を垂らしていた。

「おいクロー。なんだありゃ」
「……魔族の少女か。こんな小さな子にまで。むごいことを」

 そう呟くと、俺の一歩前に出る。
 魔族の少女だと? どう見ても原型を留めていない。
 こんな研究をしていたという事か。

『ひゅぅぅあ゛!』

 擦れた叫びと共に、少女の眼が輝く。
 そこからクローへ黒い光を放った。

「仕掛けてきやがったぞクロー!」

 クローは何も言わず光を避ける。
 反撃しようと俺は腕を伸ばした――が、クローは俺の前で手を伸ばし、制した。
 それから鴉天狗は目にも止まらぬ速さで移動し、変わり果てた少女の背後に回る。
 天井に足で張り付き、少女と同じように逆さになっている。
 触手を伸ばしてクローに抵抗するも、無数のそれは瞬時に切り裂かれてしまった。クローが放った真空の刄によって。

『ひゅぁああ゛』
「――そうか」

 クローは少女の髪に触れて囁いた。
 粘液で濡れた髪を、整えているかのように撫でている。
 まるで――会話――。

『ひああ゛』
「うん……。うん……。そうか、痛かったよな。苦しかったよな」
『ひゅぁああ』
「……ほう、二ヵ月も。友達を守っていたのか。優しい子だ」
『うう゛』
「オジサン来るのが遅れてごめんな」
『あ゛ぁあ』
「うん、もう大丈夫だ。お父さんとお母さんの所へ帰れるよ」
『ひゅ……あぁ』

 不思議と少女はクローへ攻撃しなかった。
 敵意を取り除く……。
 それがクローのチカラだからだ。
 クローはそのまま脚を大きく振り――
 異形と化した少女の首を切断した。

「おやすみ……」

 骸となった少女へ呟いたクローの顔は、とても哀しそうで、苦しそうだった。
 痛みに耐える苦しみは俺自身よく知っている。それは辛いことだ。
 あの少女は痛いという意思を伝えることもできず、ただ悶えながら、この場所に居た。クローは彼女を救ったのだ。

「タタリガミ研究に失敗した姿があの少女だ」

 聞いたことのない単語をクローが言う。

「呪詛に飲み込まれ、タタリガミに支配された姿。あの子はただ呪詛に縛られ、呪詛の声を聞かされ、呪詛の痛みを受けるばかりだった」
「腐った意志の研究……。呪詛を操る研究か」

 今やっとわかった。
 このまとわりついてくるような不快感。クローが気を付けるよう忠告したアイツ等。
 それは呪詛だ。
 この建物にはそいつらが飛び回っている。
 確かにこればかりはクローにも防ぎようがない。

 俺は歩みを進め、拳を握る。
 目の前にあるエレベーターの扉へ向かってそれを思いっきりぶつけた。
 けたたましい音と共に扉は形を変え、内側に吹き飛ぶ。
 下へと続く大きな穴が、暗闇の口を広げていた。
 なるほど確かに世界を知ることは足枷になる。
 こんな事情を知ったクローが黙っていられるわけがない。


 ◇ ◇ ◇


 先程に増して暗い。
 闇に闇を乗算させたかのような暗さだ。
 明かりなんて無かった。
 クローが配電盤を手探りで見つけるまで地下のエレベーター入り口の前で身動きがとれなかった。
 どこかで主電源が入った。クローか。
 手前から順に電灯が点いてゆく。
 電灯だけではない。部屋のあちこちに配置された機器類も起動した。
 照らされたモノを見た俺は……ここで闇に隠されていたモノの凄惨さに発声を躊躇った。

「腐った意志……。まったくもって……間違いねぇ……」

 目に入ってきたのは無数の巨大なガラス製カプセル。
 中身は――ひどい有様になった生命体ばかりが薬液に浸されていた。
 腕がねじ曲がった者。
 腰から下が無い者。
 腹から棒状の金属が突き出た者。
 皆、意識のないうちにタタリガミとやらの暴走が起こった失敗作だ。
 薬液の中には犠牲となった者達が、研究凍結時のまま放置されていた。

「タタリガミは最終戦争ラグナロクに向けて兵器として開発された」

 語りながらクローがやって来た。

「居・食・住、果ては兵器に至るまで魔力を活用している異界。無論その兵器に対処できるのも魔力。魔力に対して処置がとれる。そこである連中が目を付けたのが呪詛だ。連中は対応が困難な兵器を求めた」
「呪詛……」
「呪詛は魔力同様、異界のどこにでも存在する。そしてより攻撃に特化してもいる。呪文詠唱も特別な儀式も必要ない。簡単に利用するシステムさえあれば魔力よりも扱い易い」
「そのシステムがタタリガミか」
「おうよ。心臓・眼・血管・神経・骨格にいたるまで呪詛を操るために改造する。狂気の沙汰だ」

 クローはカプセルの一つを撫でた。
 中の被験者は見るも無残に破裂していた。
 タタリガミの骨格に対応できず、身体が耐えられなかったのだろう。

「なんとかゼブラがこの場所を調べあげた。火力実験を理由に施設を攻撃した。だが――タタリガミの失敗によって生まれた連中が……この施設を守った為に、攻撃は失敗。龍怒も撃沈された」
「あの少女はその生き残りか」

 クローは頷く。

「こんなのはただの殺戮だ。だから俺はこの施設を跡形もなく消し去らないといけねえ」

 さすがに外部からプレスキャノンを放っても、無尽蔵にたむろする呪詛に防がれるか。
 ここに居る呪詛が望むのは解放。この研究を永久に葬ることだ。
 ここが中枢なら、あとは簡単。
 クローは冊子の束を部屋の隅から取り出していた。
 ガラスケースの中にタタリガミの骨格も置いてある。
 それはどう見ても鋼でできた歪な骨格標本であり、こんなものを身体の中にネジこむ異常さが一目でわかる。
 
「こんな馬鹿げたフレームに……生身の肉体が対応できるわけねぇじゃねえか」
「ああ。研究資料を見ても反吐が出ることばかりだ。如何にしてそのタタリガミを身体にねじこむかが事細かに書かれてやがる」
「早いとこ消そうぜクロー……。気分悪ぃぜ」 
「おう、タタリガミのデータと試作品はここにある。それを消し去れば――。ん、なんだこれは」

 突然、クローの目の色が変わった。
 奥の方になにかを見つけたらしく、そちらへ駆けていく。
 俺も後を追った。
 水――薬液が床に流れている。

「馬鹿な!」

 クローが立ちすくむ先。立ち並ぶカプセルの中に、二つだけおかしなものがあった。
 割れている。
 二つのカプセルが、内側から割られ、ガラスの破片がそこらじゅうに散らばっていた。

「お、おいクロー! こいつぁ……」
「成功していた……?」
「資料には成功例なんて書いてなかったんだろ!」

 慌てて俺とクローは抹消予定の資料を読み返す。
 素早くページをめくるも書かれているのは結局、失敗の二文字。
 俺達は床に座り込んで冊子をめくっていたので、流れてきた薬液で濡れてしまった。
 ふと、クローはあることに気付く。

「この二つのカプセルは……改造精製の被験体じゃない」
「は?」
「1から作られた試験管ベビーってことだ」
「タタリガミの為だけに?」

 しかし、とクローが呟く。
 周りを見回して割れたカプセルを眺めた。

「被験体が居ない。自分でガラスを突き破って出たのか」
「タタリガミ研究の成功作が二体も居たってことか」

 クローは割れた二つのカプセルに近づく。
 被験者の情報が書かれたプレートを読んでいるのだ。

「片方は成人。もう片方は……子供。しかもこの二人、親子だ」
「名前は?」

 俺が問うと、クローは薬液で濡れたプレートを指でなぞり、名前を読み上げた。

「父親、《ベルゼブブ・B・ランチャー》。その息子……《ベルゼルガ・B・バースト》」

 タタリガミ研究の成功作二人。
 俺達が来る前にここから逃げ出したのか。
 異界で唯一呪詛を操れる親子。忌まわしき研究の果て。間違いなく強い。
 きっと――ラグナロクに参戦すれば出会うこともあるだろう。
 そんな事を考えてしまった。

「で、どうすんだその二人。追って殺すか? 研究の抹消が目的だろ」

 だがクローは首を横に振った。

「放っておけ惨劇。この施設内に居ないという事は、タタリガミに支配されていないってことだ。さっきの少女みたいにはなってないだろ」

 折角助かった命なのだから、彼等の好きにさせてやれ。
 クローは迷うことなく俺に言った。
 ベルゼブブとベルゼルガ。
 与えられた強大な力を、一体何に用いるだろうか。
 間違いなく戦いの人生を歩むことになるだろう。
 タタリガミは、戦いの為に作られたんだからよ。

「派手に壊せよ惨劇」
「任せろ。いいからさっさと逃げろ」

 クハハ、と笑い声を残し、クローは来た道を戻って行った。
 ここからは俺、惨劇のカタストロフの仕事だ。
 派手に壊せとクローは言った。
 俺の身体はいろいろと変な機能が備わっている。
 バラバラになるわ攻撃は効かないわで。もう一つ変なことができそうなのだが、それは使う機会がないから永久封印だろう。
 当時の俺はそう考えていた。

 さて。
「アキュムレーター壱号解放」右肩…肩甲骨あたりがガパリと開く。
「続いて弐号解放」左肩甲骨あたりも同様。
「参号解放」両足首から固定アンカーが射出され、地面に突き刺さる。それから腰部が開いた。

 身体を固定したところで、拳を胸の前で合わせた。
 参号までで十分だ。
 周囲の圧力が総て――俺の支配に下った。
 呪詛でさえ、俺には近づけまい。
 その時――

(羨ましい……)

 ――!?
 声……。
 声が聞こえた。
 誰の声か。
 内か外か。

(二度目を歩んでいる……羨ましい)

 内か外かもわからなかった。
 干渉? いいや違うな。俺に干渉は無縁だ。
 呪詛の干渉はありえない。
 仮に百歩譲ってそうだったとしても、これから消し飛び解放される連中に用はない。
 
「クハハ。一度目を覚えていないってのもなかなか面倒くせえぞ?」


 ◇ ◇ ◇


「派手にとか言った俺が間違ってたな……」

 クローは、研究施設があった場所を眺めながらぼやいた。
 やりすぎだと怒りやがった。

「てめぇ惨劇。誰が地形を変えろって言ったよ」
「だからそれはクローが派手にやれと言った結果だ」
「ぬぬぬ」
「俺は悪くねぇからな」

 半径約1.2キロメートル。
 でかいクレーターを作ってしまった。
 クローもよく死ななかったもんだ。
 終わった土地にこびりついた残滓を消し去り、この土地は本当の終焉を迎えた。
 今後、ここへ訪れる者の中に例の呪詛使いの二人が居るかどうかは俺の知り得るところではない。
 その二人にとっては始まりの土地だから。
 クレーターの隅に立ち、そんな事を考えながら施設のあった場所を眺めていた。

 ◇

 クローがなにやら、後の方――クレーターの外側で喋っている。
 少女……?
 赤いヘルメットを被った少女が、クローと喋っていた。
 おそらく野次馬でどこからかやってきたその子に、クローが注意しているのだろう。

 だがクローの様子がおかしい。
 首を傾げたり、頭をかいたりしている。
 応対に困っているということだろうか。
 近づいてみた。

「――あのなぁ、お嬢ちゃん。戦争は――」
「――でも貴公の存在は――」

 あぁ?
 なんだなんだ。

「鴉天狗のクロー。よく心に留めておいてください。後の世に残さなければならないモノがあるということ。守るべきものはたくさんあるということ」

 その少女はきびきびとした口調でクローにそう言った。
 あの子が乗ってきたと思われる巨大な人型機械が遠くで立っている。
 あれは近年、破壊業者という勢力に配備された機動歩兵って代物だ。
 それにしても特徴的なカラーリングだ。
 真っ赤。
 ガキのくせに洒落ている。 

「イーグル……君は……」
「なんでしょうクロー」
「このラグナロクで何から何を守る?」

 イーグルと呼ばれた少女は、その問いに少し考え込んだ。
 それから――人差し指を一本。
 高々と天へ突き立てた。

「私は空が好き」
「ほう」
「この起動歩兵カデンツァは、私の翼です。自由に空を駆けることができる。見上げるだけだった私に、自由を与えてくれた。空は……素敵なのです」
「クハハ、ジョーカーの酔狂ってやつか。空に魅入られた少女、イーグル・ジョーカー」
「空を汚すものは総て私が駆逐するのです」
「なるほど君が守るのは空か」
「私はラグナロクという戦争に参戦するのではなく……この戦争、ラグナロクと戦っているのです。だから貴公の質問には少し考えてしまいました」
「クハハハハ。そりゃすまなかった」

 イーグルはぺこりと頭を下げ、機動歩兵の元へ駆けて行った。
 どうやら破壊業者もクローを欲しているらしい。
 大空へ羽ばたく紅き翼カデンツァ。
 それを見送りつつ、クローはため息を吐いた。

「やれやれだ……」
「クロー。旅は――」
「続けるさ」

 仮面の上から髪を掻きあげ、頭を振った。「続けるとも……」
 クローは悩んでいた。
 力ある者として、戦争へ関わること。
 それは流れる血を増やすことだ。
 ところが流れる血を減らす為に参加しろという声もある。
 どちらに転ぶかは……戦況次第。
 クローは見極めているのだろうか。介入のタイミングを。
 それとも本当に干渉を避けているのだろうか。

「俺は思うんだ惨劇。幾つもの思惑はそれら総てが違うものだ。それらが協調し合わない限り、こういう争いは続くんじゃねえかって」
「じゃあ永遠に争いは続くな」
「だろうな。最終戦争なんて名ばかり。おそらくこの戦争が終わった後――」

 俺はこの時の会話を今でも忘れない。
 この鴉天狗の器の大きさ、偉大さを。
 今だからこそさらに実感できる。

「――次の争いが起こる。それが何年後かはわからん。その繰り返される思惑の中に……必ず《世界から武力の抹消》を唱える者が居るだろう」
「予言か?」
「必然だ。利用し、利用され、最終的に世界から兵器や武力を無くそうと策謀する者が必ず居る。そういう奴は――どこかで間違っている。目的を見失っているだろう」

 なるほどクローという男の先見の眼は確かなものだと今になって思う。
 全く以てその通りだからだ。
 この約十年後――クローの言うとおり、目的を見失った大馬鹿がちゃんと居たのだ。
 クローの言葉のまんま。
 本当にこの男は預言者だったのかもしれない。
 惨劇が起こした次の争い。
 なるべくクローの予言を外れるように努力はすれども、思惑は拭い去れず、そして十年で紡がれたのはまさしく必然への道であった。


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