死神といっしょ!2nd season 〜the banquet of atrocity〜(27/38)PDFで表示縦書き表示RDF


死神といっしょ!2nd season 〜the banquet of atrocity〜
作:是音



†裏章 2


 俺はクローと旅をしていた。
 兄弟達に会う旅だ。

 俺はゼブラ・ジョーカーによって滅ぶことのない身体を手に入れてしまった。誰も俺を傷つけることができず、何物にも俺を縛ることはできない。
 ところが決して最強ではないとクローは言った。俺は最凶なのだと。最強が居るからこそ、最凶という存在があると。
 ならば最強は誰なのだとクローに問うた。
 彼は最強の名を口にした。「世界」と。
 森羅万象、有象無象、つまり摂理や運命を操るモノだという。
 だからこそ彼は俺の存在が不可思議でならなかった。無敵がこの世に存在するのは摂理に反するからだ。
 クローは俺をも因果に含まれた存在と信じて疑わない。「世界という結果にすら原因があるのに、惨劇に原因がないことはない」そう言った。

 俺はどうしたらいいのかわからなかった。
 在って良い存在なのか。在るべきではない存在なのか。どう生きればいいのか。どう死ねばいいのか。
 だからこの旅で兄弟達に訊こうと思った。ヒントでもいい。道を示すなにかを貰いたかったのだ。
 彼等も俺同様、摂理を壊しかねない絶大な力の持ち主。されど生きている。
 ――教えてほしい。俺は、生きていていいのか。存在の先に何があるのか。


 ◇ ◇ ◇


「クハハハハ! おい惨劇なんだそりゃ」
「うっせーぞコラァ!」

 旅の途中、俺とクローは海岸沿いの草原に居た。崖の下では波がしぶきをあげて打ち寄せている。
 俺は崖際に立つクローへ向けて手をかざし、力をこめた。
 腕の中から猛烈な波動が生まれ、空間の圧力が感覚として意識の中に混入してくる。
 うまいことそいつらをコントロールして……大砲のように凝縮した力を撃ち出すことができた。ゼブラは《プレス・キャノン》とか呼んでいた。
 それをクローへ放つ。
 音よりも遙かに速く伝達する力だ。避けられる方がおかしい。
 だがクローには当たらなかった。

「くっそ! 何で当たらねぇんだよ!」

 クローは四方八方鮮やかに跳び、プレスキャノンのことごとくをかわされた。
 甘い甘い、と指を振られる。
 俺は苛立った。
 いや、実のところここへ来たときにはもうかなり苛ついていて、クローを相手に発散させようとしたのだ。逆効果だったけどな。
 クローは大きく飛びあがり、木の上に立つ。ゲタなんていう動き辛そうなものを履いているのに器用だった。

「惨劇のカタストロフに弱点は無し。ってわけじゃなさそうだな。クハハハ!」
「てめえ!」
「口が悪ぃな。まったく。誰の影響だ」
「お前しかいねえよ……!」

 クローが足場にしている木へ圧力砲を放ち、粉々に砕く。

「おいおい。自然は大切にしろよ」
「うっせえ」
「……ふーむ。お前、長男坊になんて言われたんだ?」

 軽く着地し、鳥のようなよくわからん形の仮面の下でニヤニヤとしながら訊いてくる。
 長男。
 そう。彼に会ってから、俺の中で苛立ちが生まれた。
 答えどころか……ヒントかもわからない言葉を返されただけだったから。

――『惨劇、新たな僕の弟よ。十三の星霜はそれ自体が君の存在理由だよ』

「……くっ」

 頭が痛くなるような長男の意味不明な言葉は保留だ、保留。
 記憶を失って知恵が浅いと嘲られた気がし、当時の俺は苛ついた。

「どうやら一人目の息子は気に召さなかったみたいだな。クハハ」

 ひらりひらりと動き回るクローへ、俺は無我夢中で圧力砲をぶっ放す。

「ちょっと使い方が荒いな。んっと絞ってみろ惨劇」
「あ?」
「圧力の意識をだよバカ。どうもてめえはさっきから拡散気味に弱々しい圧力を垂れ流してるだけだ」

 言われ、自分の意識を覗いてみる。
 ……正直、よくわからんかった。
 わからんだらけではさすがに自分に腹が立つから、もう一回覗く。
 意識の中には大きな光源と……赤い点。力を入れると、光源と赤い点の間に線が生まれ、そこへ群がるように白いモヤが集まってきた。
 なんだこりゃ。
 光源が俺で、赤い点が照準?
 線はそこまでの最短距離線か。
 で、白いモヤがこのまま撃った場合の力の広がり。か?
 ………垂れ流しどころか、モヤだらけじゃねえか。
 試しに赤い点をクローへ合わせる。と、クローは木の裏に隠れていて照準と重ならない。
 威力で貫通させることもできそうだが、ここは少しトリッキーにいこうと思った。
 俺と照準を結ぶ線はやはり歪曲や屈折が可能だ。木を避けるように曲げて、クローに照準を重ねる。
 んで、言われたようにモヤを線を軸に絞ってみた。
 おお。いくらでも収束できる。モヤは俺から無限に出てくる。

「っし」

 そのままプレスキャノンを撃った。
 圧力砲は線で描いた軌道に沿って偏向し、木を抉るように避けて裏のクローへ。

「うおぉぉお!?」

 今度ばかりはクローも鮮やかに避ける余裕はなかった。
 転がるように木の蔭から飛び出し、前転した。驚くほどの素早さだ。
 標的を外れたキャノンはそのまま海へ。

「おー」

 手を額に当てたクローが海を見て声を漏らした。
 海面は強烈な衝撃を受け、聞いた事もない大きな破裂音を出しながら爆発した。
 海中で爆弾を使用したかのような高い水しぶき。

「今のであの威力かよ」

 肩を叩きながら鴉天狗は肩を震わせて笑った。
 正直俺自身も驚いた。


 ◇ ◇ ◇


 崖際に腰を下ろした俺とクローは、吹き上がる潮風に当たっていた。
 もっとも、俺の場合は風が俺を避けていくから、実際に当たっているのはクローだけだ。
 二人であぐらをかいて、水平線を目でなぞっていた。
 俺の圧力を操るチカラはまだまだ未熟だとクローは言った。
 そりゃあそうだろう。掌からポンポン放つだけなのだから。
 そこでクローは俺に提案してきた。〈鴉闘技クローアーツと圧力能力の融合〉を。
 鴉闘技とはクローの扱う体技のことだ。強いの一言に尽きる。
 その体技に圧力を付与させた俺専用の闘技を編み出すんだとさ。

「なあ、惨劇」

 隣のクローが、顔を海の方へ向けたまま俺を呼んだ。
 呆けた表情でぼんやりと海鳥の動きを目で追っている。

「この世界にも海鳥はいるんだよなぁ」
「はぁ?」
「いや。俺は違う世界からやってきたから、二つの世界がほとんど似た環境であることに、少し驚いたもんだ」
「ああ、そんなこと言ってたな」

 クローは違う世界からやってきた男だ。
 そこは魔力のない生活を当たり前のようにしていて、正直俺には信じがたかった。文明もこちらより多少劣っているらしい。

「魔力があるかないか。たったそれだけなのに、あっちとこっちじゃ随分違う。二つの世界を歩んだ俺は、なんとなく魔力の必要性に疑問を抱いたな」
「ふーん」
「俺の生まれた世界にも、化け物じみた連中はうじゃうじゃ居たんだぜ?」

 それを聞いて思わず鼻で笑った。
 少なくとも破壊力や危険性という点では魔力のない世界での化け物じみた奴なんてたかが知れる。
 俺がクローにそう言うと、今度は俺のほうが鼻で笑われた。

「もとから存在する魔力に頼るこっちの連中より、あっちの方が十分ヤバいっつの」
「あ?」
「思い出すねぇ。何度も死にかけた。純血のあの一族に首を突っ込んだのは人生最大の失敗だったな……クハハ」

 ぶつぶつと呟きながら過去を振り返り、自嘲気味に笑ったりしている。
 クローほどの男でも死にかけたと聞いて驚いた。
 雲が太陽の光を遮り、大きな影が俺達二人を飲み込んだとき――

 クローはとある名前を口にした。

「そう――九条八雲」

 懐かしむように天を仰ぎ、もう一度クローはその名を呟いた。

「実におもしろい女だった。圧するチカラという部分では惨劇と似た能力を持っていたが、そんなことはどうでもいい。ユニークなのは彼女の――持論だ」
「持論?」
「嘘を見抜けるんだとさ。彼女は。見抜こうとして見抜くんじゃない。ちょっと会話するだけで否が応にもわかってしまうそうだ」
「……意思を読むのか?」
「違うな」

 首を横に振られる。

「器を把握するんだ。で、それが特に何を意味するわけでもない。彼女はただ――なんだこの程度か、とか思うだけ」
「なんだそりゃ」
「だから彼女は俺に言ったよ。《これが意味のないものとして在るわけがない。だがこれは結果でもないことはわかった。なら――原因と考えるのが妥当だわ》ってな」

 嘘を見抜く力が……なにかの原因になるのか。
 クローの大好きな因果関係の話だ。原因と結果は常に繋がっているとかいう。
 この男だからこそそんな女に興味を抱いたんだろう。

「その八雲とかいう女は、結果を知ることができたのか?」

 問うと、クローは肩をすくめて手を振った。「さぁな」

「俺とアイツが会ったのは少ない時間だったからよ。そんなによく知ってるわけじゃねえ。もしかすると――」
「……もしかすると?」
「その嘘を見抜く力が原因で殺されちまったりしてな! クハハハハハ!」

 大爆笑しながらクローは物騒なことを言った。
 結果は死……か。
 まぁ、ありえねぇ事でもないわな。

「つーかクロー。何を言いたかったんだよ」
「別に。ただの昔話だ」
「昔話……ね。俺も昔のこととか覚えてりゃあ語ってやったのに」
「クハハッ、いいねぇ。惨劇の昔話。全裸の女がグッチャグチャの状態で、とんでもなくイッちまったアヘ顔のまま『助けて……』なんて叫ぶ理由を是非聞きてえなぁオイ」
「殺すぞ!」

 俺は隣に顔を向けて喚いたが、相手はケラケラと笑うだけだった。
 チッ、と舌を打つ。
 クローは俺をからかって笑いながら手を叩いている。タチの悪い男だ。

「そもそもあれは殺してくれって意味だったんだぞ!」
「またまたぁ〜、惨劇ちゃん可愛い〜。カッコイイ鴉天狗様が現れて歓喜したんだろ?」
「うわぁなんだこのナルシスト」
「そうかそうか。てめえも一応女だもんな。息子……いや娘じゃなくて妹にしとけばよかったな。うん。ほれ、俺のことをクローお兄ちゃんって呼んでみな」
「クローお兄ちゃん」
「呼んだよコイツーーー!!」

 俺の反撃はクリーンヒットしたらしく、クローは頭を抱えて草の上を転がり回った。
 しかも痙攣までしている。重傷だ。

「きめぇ! 魔人が俺をお兄ちゃんって呼びやがった! みなさーん! 最凶の魔人、惨劇のカタストロフが俺に向かって《クローお兄ちゃん》とか言ってますよー! きめぇー! ……。あ、あれ? あれあれ? でも心なしか悪くないような気が……」
「お前自分の世界に帰れ」

 腹を抱えて笑い転げるクローの足を引っ掴み、崖から海へ放り投げた。
 笑いながら海へ落ちてゆく我が父親の姿は、実に情けなく思えた。

「クハハ! クハハハハハ! 惨劇が俺のことを――クローお兄ちゃぁぁぁ」
 ――どぼーん。

 ……これは死んだな。
 ……ガチで死んだな。
 この高さから水面に激突して無事なわけがない。
 ある種の爽快感を噛み締めながら俺は伸びをした。いい景色だー。

「鴉天狗の最後の言葉は俺が記憶に留めておいてやるよ」
「どんな言葉だった?」
「ん……。あれ、忘れちまった」
「《イケ面パーラダァァイス》だろ」
「うんまぁ、そんな感じでいいと思うけどなんでてめぇ生きてんだよコラァアアアアア!!」

 隣でクローがまだケラケラと笑っていた。
 こいつ数秒前に海へダイブしなかったっけか?

「お前、何者だよ」
「俺は鴉天狗のクロー!」
「かっこつけてんじゃねえよ」

 ――バッババーン!

「効果音とかいらねぇから」

 無造作にクローの足元へプレスキャノンを撃つと、鴉天狗はまたも笑いながら避けた。
 もし最も欝陶しい者に与えられる称号があったとしたならば、確実にこいつが称号保有者だ。

「クロー。てめぇに最ウザの称号を与える」
「なにその不名誉!?」

 こんな感じで最凶と最ウザの旅はまだまだ続く。
 ……とはいえ、旅と言っても隠れながらの旅だ。

 異界では、もう戦争が始まっていたのだ。
 後に黒歴史として語られる、最終戦争ラグナロク。
 今や異界中の勢力が、この鴉天狗を血眼になって探している。この男はそれほどまでに有名だった。
 絶大なカリスマ性を持ち、彼を慕う者の中には権力や武力では動かせない猛者も多い。俺のような。
 クローという男がどこに味方するかで、戦局は大きく傾く。
 ただ、クローは戦争なんぞに興味がないらしい。
 無駄。なんだとさ。
 ちなみにこのラグナロク、誰が最初に起こしたのかまったくもってわからない。
 勝利の先になにがあるのか。掲げる大義名分の旗もない。
 ただ――何かをきっかけに始まり、何かから身を守るために他を攻撃している。そんな疑心暗鬼を究極に発展させた、盲目の争い。
 馬鹿げた戦争。
 それがラグナロクだ。

 だから俺もクローも関わらず、ただ旅を続けるだけだった。
 ……地獄という存在さえなければ。












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