目覚ましはジャンピングキック
「ゆう!おっきろー!」
「へぶっ!!」
肩に強烈な痛みが走り、半身が摩擦により急激に加熱、そして一瞬の浮遊感の後、落下。
目が覚めた時には、床の上だった。
「うっ……つつっ……ったま痛ぇ……」
何だか酷く頭が痛み、思考がはっきりしない。
悪夢を見た後のような、妙な後味の悪さが俺を支配していた。
後、強烈なジャンピングキックを喰らった気がするが、多分これは夢じゃない。
「ゆう、お早う♪」
俺の視界が、急に薄暗くなる。
首だけ曲げて天井を見上げると、見慣れた顔がそこにあった。
「……ヒィ姉、何だよ朝っぱらから……」
俺の姉の一人、浅羽尋だ。通称ヒィ姉。
「朝ご飯作れ!」
子供みたいな事を口走るヒィ姉。こんなんでも19の大学生というから驚きである。
「はいはい……ったく……」
「ご飯に味噌汁、あと納豆よ! これなくして日本の朝は始まらないんだから!」
「そういう台詞は作れるようになってから言えよ」
台所に立ち、卵を溶く。
納豆を入れて納豆オムレツにする算段だ。
「むー! ゆうは厳しいわね!」
枕を抱きながらベッドの上を転がり、頬を膨らませて抗議するヒィ姉。
何というか、本当に子供だ。
「こちとら頭が痛たいんだから。少し静かにしてくれ」
「ふーん」
《あんまり寝てないもんねぇ……私もちょっと眠い……》
「あー、そうだな。そういやあんまり寝てな……ぶっ!!!」
《勇者様、お早うございまーす♪》
一気に、まだ眠っていた記憶が覚醒する。
頭痛の訳、させられてしまった約束、そして、この幻聴の凶悪な泣き声。
出来れば無かった事にしてしまいたい数々の事実が、一気に押し寄せて来た。
『…………』
とりあえず、無視。
出来れば、勘違いであって欲しい。そんな淡い期待を胸に、頑張って黙ってみた。
《お早うございまーす♪》
『…………』
《……泣くよ?》
『お早うございまーす!』
《よろしい♪》
どうやら、夢では無かったらしい。
《早速、今日からお仕事始まるんで。よろしくねー♪》
卵焼きの焼ける音に混じって、やっぱり聞こえてくる幻聴。
『仕事って……ああ、あの魔物が出るとかいう……いや、つーか今日学校だし』
善良なる一学生にとって、学業は神聖なる義務である。
いつもはうざったいだけだが、勇者業をボイコット出来る言い訳となるなら、むしろ有り難い。
《ああ、その点はご心配無く。ちゃんと学校に行って良いよ♪》
『ん?』
《その時になれば解るから。普段通り生活しといて♪》
『……ふーん』
とりあえず、軽く流しておく。
本当に分かるかどうかはともかく、今考えても無駄って事だ。
幻聴の言うとおり、本当に化けもんが現れると決まった訳でも無いし。
「よし、完成!」
幻聴に付き合ってる内に、朝食が完成した。
ご飯に味噌汁に納豆オムレツに冷や奴、魚が無いのが残念だが、まあ仕方ない。
「ヒィ姉、朝飯出来た……ん?」
「ぐぅ……zzZ」
寝てるし。しかも人のベッドで。
ふう……とりあえずここは……と。
ジャンピングキィィィック!!! |