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【完結絶対保証】ロシアンルーレットで異世界へ行ったら最強の魔法使いになってしまった件【第三部:フォーの迷宮編】 作者:日比野庵

第二部:レーベの秘宝編

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13-094.銀貨は要らない

 
「しばらくです。ヒロ、リム」

 二階の小部屋に通されたヒロとリムに、一人の青年がにこやかに声を掛けた。細面の中性的な顔立ちのイケメンが握手を求めていた。シャロームだ。

「こちらこそ、シャローム。悪いね。わざわざこんなところまで案内して貰って。そんなに大層な用事ではない積もりだったんだがな」
「いいえ。貴方との商談はいつでも大事ですよ」

 ヒロと握手を交わしたシャロームは、笑みを崩さないまま、どうぞとヒロとリムを中央のテーブルへと案内する。ヒロとリムはテーブルのソファに身を沈めた。

 小部屋はシックな濃い茶色の壁板で統一され、落ち着いた雰囲気を醸し出している。香でも焚いているのだろうか、柑橘系の甘い匂いが、ふんわりと漂っていた。

「ウオバルは如何ですか。ヒロ」

 ヒロとリムが座るのを待ってから、シャロームが切り出した。

「良いところだね。人が多くて賑やかだ。まだ日が浅いから、詳しい事は分からないが気に入ったよ」
「それはよかった。では、しばらく此処に?」
「あぁ、今は近くの下宿に泊まってる。慣れたらここで仕事を探そうかと思ってるんだ」
「おや、風の噂では冒険者になったと聞いていますが」
「流石に耳が早いね。冒険者ギルドで君からの言伝(ことづて)があると聞いたときは吃驚したんだが。一体何処で聞きつけたんだ?」
「ふふっ、商売柄ですよ。この辺りで黒髪黒目の人はそういませんからね」

 シャロームは口元に笑みを浮かべた。此処(ウオバル)を拠点にしている商人なら、この街(ウオバル)の色んな所に知り合いがいるのだろう。情報に疎くては商人として大を成すことなんて土台無理な話だ。やはり、シャロームと付き合いがあるのは、悪くないなとヒロは思った。

「シャローム、今日俺達が此処に来たのは……」
「分かっていますよ。念の為、契約書を確認させていただけますか?」

 用件を切り出すヒロの言葉を、シャロームが途中で遮る。先日、ヒロが古金貨を換金しに来たことは当然従業員から聞いているのだろう。ヒロは、懐から丸めた羊皮紙を取り出し、そのままシャロームに渡す。

 手渡された契約書の文面と署名を確認したシャロームは、テーブルの隅におかれたベルを手に取りチリンと鳴らした。暫くして、部屋の扉をノックする音がしたかと思うと、若い娘が顔を見せた。先程待っている間にお茶を煎れてくれた女性店員だ。

「お呼びですか。旦那様」
「パール。例のものを用意してください」
「畏まりました」

 女性店員は、シャロームに頭を下げると、ヒロ達に向かって暫くお待ち下さいませと、こちらにも頭を下げた。落ち着いた足取りで部屋を出る。トントンと彼女が階段を降りる足音が聞こえなくなった頃、シャロームが口を開いた。

「ヒロ、先程の話ですが、仕事を探していると言っていましたね。冒険者を仕事にはしないのですか?」
「仕事に出来る程の腕があればいいんだけどね。冒険者への高額クエストは、危険な仕事だと聞いている。ちょっと手が出せないね」
「冒険者クエストは危険な仕事ばかりとは限りませんよ。薬草や鉱石採取とか、配達といったものもあるはずですよ。私は商売をやっていますから、それなりにギルドへ発注させて貰っていますがね」
「そうだな。実は、配達クエストならちょくちょくやっているんだ。稼ぎは兎も角、リスクが少ないからね。ただ、毎日あるわけじゃないのがちょっと残念だね。だから、安定した稼ぎが出来る仕事が欲しいのさ」
「なるほど。それで、良い仕事は見つかりましたか?」
「いや、全然さ。これといった技能(スキル)もない異国人をそうそう雇ってくれるところなんて、簡単に見つかりそうもない。地道に探すしかないね」
「そうですか。生憎、私のところは零細でしてね。人を雇う余裕はないのです。貴方(ヒロ)には申し訳ないですが」
「いや、気にする必要はないよ。でも、さっき一階(した)で待たせて貰っていたときは、結構賑わっていたように見えたがな。それに、ギルドの受付嬢(ラルル)は、シャロームは目下売り出し中の豪商だと言っていたぞ」
「とんでもない。ただの風聞ですよ。内実は火の車です」

 シャロームは両手を広げて肩を竦めてみせたが、シャロームに余裕の表情を見て取ったヒロは、ただの謙遜だな、と軽く息をついた。そんなヒロの気持ちを知ってか知らずか、シャロームはある提案をした。

「ヒロ。折角、貴方と知り合えた事ですし、何かお役に立てることがあるといいんですが……。そうですね。先程、配達クエストをしていると仰ってましたね。では、シャローム商会が配達クエストをお願いするときには、冒険者ギルドに出さずに貴方(ヒロ)に直接依頼する、というのは如何です? これでも三日に一度くらいの割合で、ギルドに配達クエストを出しているんですよ。少なくともギルドに出して他の冒険者に取られる心配もなくなりますし、毎日とは言わないまでも、安定的に配達クエストを得ることができる。どうです?」

 ヒロに取っては魅力的な提案だった。実入りは其れ程ではない配達クエストであっても、定期的に依頼があるというのは大きい。断る理由は何処にもなかった。

「それは有り難い申し出だね。で、条件は何だい?」

 ヒロは、シャロームの申し出に飛びつきたい気持ちを抑えて、冷静に問い返した。配達は難易度が低いが故に、初級冒険者によく回される依頼(クエスト)だ。それは、逆にいえば誰にでもできるクエストだということでもある。それをわざわざ特定の冒険者に依頼するということは、それなりの理由があるはずだ。しかも相手はやり手商人のシャローム。無条件ということはあるまい。ヒロはそう踏んだ。

「はははっ、やはりお見通しでしたか。普通の相手なら、今の話で大体終わるのですがね」

 シャロームは愉快そうに笑った。

「実はエマに届けて欲しい品があるんです。ちょっとした真珠の首飾りですがね。以前、ある顧客に宝石の首飾りを売ったのですが、別の首飾りにしたいと申し出がありましてね。そのときは手頃な品がなかったので、注文だけ受けていたのですよ。昨日、丁度その品が入荷したので、その顧客に届けていただきたいのです」
「なるほど。でも、それが条件にしては、少し簡単過ぎるな。まだあるんだろう?」
「流石ですね。まぁ貴方にとっては条件にもならないのでしょうが……」

 シャロームは一拍置いて、僅かに目を細めた。

「この依頼(クエスト)は、ヒロ、貴方一人で行っていただきたい」
「何故だい?」
「今後も貴方にクエストをお願いできるのか確かめたいのですよ」
「もう少し説明してくれ」
「勿論ですとも」

 シャロームはそういって、両手の指先を組んで、肘から先をテーブルに乗せた。

「商売は信用が第一です。今回はそれ程高額な品という訳ではありませんが、一人だと誘惑に負ける人がいましてね。ちょろまかする人もいるのですよ。そんな人に大事な荷を預けるわけにはいきません。また、何かの事件に巻き込まれることだってないとは限りません。そんなときでも、依頼を完遂させられる人なのかどうか。パーティだとその辺りが分からなくなりますからね。こうした簡単な配達(クエスト)で貴方が信頼に足る人物なのかどうか見極めさせて頂こうというわけですよ」
「俺がちょろまかするように見えるのか?」
「いいえ。念のためです」
「君らしいな。シャローム」
「どういたしまして」

 口元に笑みを浮かべながら平然とシャロームは答えた。確かに大事な品物を安心して預けられる冒険者を何時でもキープできるのは、シャロームとしてもメリットがあるだろう。勿論、冒険者ギルドにクエストを出して何かあったとしても、ギルドにその責任を問い、賠償金を請求することは出来るかもしれない。だが、そのために費やした時間は返ってこないのだ。それならば、最初から信頼できる配達人を確保しておくほうがずっと良い。ヒロはシャロームの相変わらずの抜け目のなさに、流石だなと感心した。

「じゃあ、そのクエストに合格すれば、今後は、君から定期的に配達クエストを直接、回して貰えるというわけだな」
「えぇ、配達だけとは限りませんが、その通りです。成功報酬は銀貨で……」

 そう言い掛けたシャロームをヒロが遮る。

「いや、銀貨は要らない」
「え?」

 今度はシャロームが面食らう番だった。
 
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