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【完結絶対保証】ロシアンルーレットで異世界へ行ったら最強の魔法使いになってしまった件【第三部:フォーの迷宮編】 作者:日比野庵

第一部:異世界転移編

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1-008.間違えた選択

  
 セフィーリアの姿が見えなくなると、ヒロは丸太に座り直した。セフィーリアに付いていけばよかったかもしれないと、今頃になって気づく。しかし、ヒロは少し楽観していた。

(セフィーリアの服は割と軽装だった。呉れた団子も一ダース程しかなかった。それを気前良く呉れたということは、目的地まで何日も歩き回る必要もないということだ。モンスター狩りをしながら、長旅をするということもあり得るが、水だけはどうにもならない筈だ。セフィーリアは水筒の類は持っていなかった。多分、近くに村か何かがあるに違いない)

 ヒロは多少自分に都合のよい解釈をした。それでも、先を急いだ方がいいだろう。出発だ。ヒロは、足下のナップサックを手に取り、セフィーリアから貰った包みを入れようとした。が、その手が止まる。

 包みは単に笹皮の両端をただ折り返しただけで、縛る紐の類など何もない。ナップサックの中で団子がこぼれてぐちゃぐちゃになるかもしれない。ヒロは少し考えてから、ナップサックからスーツの上着を取り出して羽織ると、包みをポケットに押し込んだ。笹皮の三分の一程が顔を覗かせ、団子は重力の命に従って、ポケットの底で渋滞する。少々強引だが仕方ない。ナップサックより狭いポケットなら、中で団子がぐちゃぐちゃになる確率は低い筈だ。ヒロは、今一つ根拠のない計算をしてから立ち上がった。

 ――こっち。

 またあの声が聞こえた。ヒロは辺りを見渡してみる。梢が風に揺られてサワサワと音を立てる以外、誰もいない。

 しばらく様子を窺っていたが、何もないと分かると、ヒロは気のせいだということにしてナップサックを肩に掛ける。

 ――こっちです。こっちこっち。

 いや、確かに聞こえる。ヒロは動くのを止めて、何処から聞こえるのか耳を傾けた。

 ――こっちに来て下さい。お願いします。

 確かに聞こえる。だが耳で聞くというより、頭の中に直接響いてくる感じだ。ここは異世界だ。ヒロは異世界にいる自分を強く自覚したと同時に、その声に少し薄気味悪さを感じた。ヒロはその場でゆっくりと一回転してみる。声の主が何処から聞こえてくるのか見極められないかと思ったからだ。

 ヒロが真後ろを向いたとき、またあの声が響いた。

 ――そう。そこです。そのまま真っ直ぐ。

 小屋の裏の方角だ。さっき確認しようとした辺りだ。その時はセフィーリアに止められたので行けなかったのだが。

 ヒロは小屋の裏手に回った。蔦葛なのか芝なのかよく分からない草が地を這うように生い茂り、地面を隠している。所々に膝の高さまでの草が生えているがそれだけだ。奥の方でせせらぎが聞こえる。小川でもあるのだろうか。ヒロは立ち止まって耳を澄ませた。別に耳で聞く訳ではないとは分かっていたが、やはり体がそう反応してしまう。

 ――こっちです。助けてください。

 頭の中で助けを求める声が響く。意外と丁寧な口調だ。何なんだ一体。薄気味悪さが消えない。それでも、ヒロは慎重に水音の方向に向かった。

 草の感触を確かめるように一歩ずつ前に進む。さっきのような黒狼に遭うのは御免だ。もし出遭ってしまったらどうすればいいと、ネガティブな感情が水位を上げる。全力で逃げればいいのか。だが、犬を相手に走って逃げ切れるとは思えない。ならば攻撃か。いや、駄目だ。攻撃するにしても素手でやるのは、無茶を通り越して無謀だ。セフィーリアは黒狼(やつ)を一撃で仕留めたが、剣があったからだ。やはり武器が必要だ。

(石で殴りつけるか)

 ヒロの結論は、結局のところ至極妥当なところに落ち着いた。石は武器としては心許ないが、戦国時代には石礫で攻撃した例もある。殴りつけられないにしても、投げて牽制することは出来る。少なくとも素手よりは全然マシだ。

 ヒロは草叢を足で掻き分けながら、手頃な石はないかと探した。所々、拳大の石が転がっている。足下にあった一つを手に取ってみる。大きな岩から割れたのか角が尖っていた。重さも十分ある。ヒロはもう一つ石を拾って石同士をぶつけてみたが、意に反して二つの石はあっけなく砕けて割れた。

(ちょっと脆いな)

 ヒロががっかりした。こんなに脆ければ、殴りつけたとて威力はないだろう。ヒロは他に堅い石がないか探したが、結局、使えそうなものは見当たらなかった。

 ヒロが、ゆっくりと進みながら、足下を探っていると、石の中に赤い色のついたものがあることに気づいた。それらの赤石は互いに等間隔に並び、互いを直線で結ぶと、所々折れ曲がり、まるで北斗七星のように配置されていた。

(何の目印だろう?) 

 ヒロは訝った。赤い石の配置は人為的に置かれたものとしか思えなかった。先程から頭に響く声と合いまって、不安がそのボルテージを上げる。

 ――こっちです。早く。

 まただ。ここまで来たら乗りかかった船だ。仕方ない。ヒロは赤い石を踏まないように脇によけて歩いた。

 いきなりジェットコースターで急斜面を下り落ちるときのような体が浮く感覚がヒロを襲った。あっという間に視界が暗くなる。

 ヒロの選択は見事に裏目に出てしまった。
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