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【完結絶対保証】ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【第三部:フォーの迷宮編】 作者:日比野庵

第三部:フォーの迷宮編

180/191

21-180.挟撃

 
炎粒(フレイ・ウム)!」

 ヒロは炎魔法を瞬時に発動させると、ガーゴイル(パッサーシュバイ)めがけて投げつけた。的が大きいだけに狙いをつけなくても簡単に命中する。ガーゴイル(パッサーシュバイ)は突然の炎に怯んだものの、大したダメージは受けていないように見えた。ヒロは炎粒(フレイ・ウム)を連続発動して、次々とぶつけるが、牽制以上の効果はない。むしろソラリスの剣の方が余程ダメージを与えている。

 ガーゴイル(パッサーシュバイ)に魔法耐性があるのか分からない。あるいは斬る魔法、エルテが使う様な風魔法であれば効果があるのかもしれない。だが、ヒロは風魔法が使えない。炎魔法のいくつかのバージョンと、リムのサポートで一度だけ発動した光の矢の魔法だけだ。

 その一方で、ヒロはリムの様子が気になっていた。仕方がなかったとはいえ、彼女一人に死霊(アンデッド)を任せてしまったのだ。だが、リムはリムなりに奮闘していた。

 リムは清冽水(マルマ)を前方に半円を描くように撒くと、人差し指を唇に当て、小さく呪文を唱えた。リムの指先から小さく揺らめく灯火が放たれ、先程撒いた清冽水(マルマ)スレスレになぞっていく。清冽水(マルマ)はその火で蒸発し、水蒸気となって立ち上っていく。ヒロのように清冽水(マルマ)を直接浴びせかけている訳ではないが、霧のバリアを作ることで、少ない水の量ながら効果的に死霊(アンデッド)の接近を遅らせていた。

 リムの無事を確認したヒロはちらりとエルテに視線を送る。エルテは一瞬ヒロに視線を合わせたが、そのまま詠唱を続ける。

 風魔法はエルテの得意技だ。だが、今のエルテは死霊(アンデッド)に対する魔法を発動しようと懸命にマナを集めているのだ。ガーゴイル(パッサーシュバイ)に対する支援の攻撃はあてに出来ない。

(神官魔法しか効かない死霊(アンデッド)と、斬撃しか効かないガーゴイル(パッサーシュバイ)か……)

 ヒロは心の中で唸った。宝を守るのに、剣でダメージが与えられない死霊(アンデッド)と斬撃の魔法以外は効きそうにないガーゴイル(パッサーシュバイ)を配置する。実に合理的な組み合わせだと思えた。剣士だけでも魔法使いだけでも攻略できない。たとえ、剣士と魔法使い双方を入れたパーティで臨んだとしても、それぞれに対する戦力は分割される。かといって大人数パーティで踏み込もうものなら、今度はフォーの迷宮自体が崩れてしまう。

 この迷宮を設計した者は一体誰なのだ。崩れやすいのは耐用年数が切れているからだとしても、この隠しホールといい、目の前のモンスターといい、計算しつくされている。なるほど、長年に渡って攻略されていない訳だ。しかし、感心してばかりもいられない。なんとかせねば。ヒロの顔に焦りの色が浮かぶ。

 ソラリスは、ガーゴイル(パッサーシュバイ)に取り囲まれながらも、ヒロ達に近づけさせないような位置取りと攻撃を繰り返していた。ソラリスがガーゴイル(パッサーシュバイ)にやられていないのは、彼女(ソラリス)の身体能力の高さと体捌き、そしてロンボクとヒロの魔法による牽制が機能しているからだ。迂闊にソラリスを退かせると、ガーゴイル(パッサーシュバイ)達が一気にヒロ達に襲いかかってくることは明らかだ。

 ヒロは攻撃ではなく、バリアで防御に回るのはどうかと考えた。だが、ここに来る前の小悪鬼(ゴブリン)との闘いで、奴ら(ゴブリン)の矢がバリアに突き刺さった光景がヒロの脳裏から離れなかった。自分のバリアがガーゴイル(パッサーシュバイ)の攻撃を完全に防いでくれるかどうか確信が持てない。もし、ガーゴイル(パッサーシュバイ)の鋭い爪がバリアを切り裂いたら、そこでジ・エンドだ。

「もう幻影も限界です!」

 ロンボクが叫ぶ。魔法で作り出した黒曜犬の姿が半透明になっていた。流石にガーゴイル(パッサーシュバイ)も、何かおかしいと気づいたようだ。幻の黒曜犬を相手にせず、その牙をソラリス、ミカキーノ、ロンボクに向け始めた。

「くそっ」

 ヒロが炎粒(フレイ・ウム)を連続発射する。効かないと分かってはいたが、ガーゴイル(パッサーシュバイ)を近づけさせる訳にはいかない。ソラリスがガーゴイル(パッサーシュバイ)を三体屠っていたが、普通ではあり得ないことだ。何せ、彼女が殆ど一人で樋嘴(バッサーシュパイ)を相手にしているのだ。ロンボクの幻影魔法、ヒロの炎魔法のサポートがあるとはいえ、十体を相手にしてこれは奇跡に近い。

 ――少しでも時間を稼がねば……。

 ヒロはエルテに神官魔法ではなく、ガーゴイル(パッサーシュバイ)達を切り裂く風魔法を発動させるよう指示していればと後悔した。だが、あの時点では、ガーゴイル(パッサーシュバイ)がこれほどの強敵だとは思わなかった。ましてや弱点など分かろう筈もない。

 だが、こんな些細な事がパーティ全体を窮地に陥れるのだ。ヒロがエルテに風魔法に切り替えられないか、と振り返ったその時。

「ぐあっ!」 

 ソラリスが悲鳴を上げる。シャリンと甲高い金属音が響いた。ガーゴイル(パッサーシュバイ)の鉤爪がソラリスの脇腹を抉ったのだ。ソラリスがよろよろと戦線を離脱し、がくりと膝を落とした。脇腹を押さえている。だが、ヒロが駆け寄る前に、別のガーゴイル(パッサーシュバイ)がニ体ロンボクとミカキーノに襲いかかる。

 ロンボクは幻影魔法の発動に集中していたのか、防御の体勢も身を避ける準備も出来ていない。

(まずい!)

 咄嗟にヒロが炎粒(フレイ・ウム)を発動し、ガーゴイル(パッサーシュバイ)の一体にぶつける。大火力ではなかったが、至近距離からの一撃に、ガーゴイル(パッサーシュバイ)は後ずさりした。だが一体だけだ。もう一体がロンボクに迫る。

 ミカキーノはロンボクを庇うように前に出ていた。ガーゴイル(パッサーシュバイ)の鉤爪をショートソードで受ける。しかし、ガキンという鈍い音と共にミカキーノの剣は中程から折れ、千切れ飛んだ。

 ――!!

 ガーゴイル(パッサーシュバイ)の攻撃にミカキーノは体勢を崩した。その隙をついて、ガーゴイル(パッサーシュバイ)が、ロンボクを丸太のような太い腕でしたたかに打ち据える。

「がはっ!」 

 ロンボクは三十歩の距離を吹っ飛ばされ、床にたたきつけられた。

「くそったれ!」

 ミカキーノが反撃を試みる。だが、折れた剣では攻撃が届かない。ミカキーノは間合いを詰めようと更に一歩踏み込むが、有効打は与えられない。ミカキーノは、目の前の一体に集中する余り、背後の注意が疎かになった。

 そこに、先程ヒロの魔法攻撃で一瞬怯んだ、もう一体のガーゴイル(パッサーシュバイ)が襲いかかる。

 ――ぐふっ!

 ガーゴイル(パッサーシュバイ)がミカキーノを後ろから蹴り上げた。肉がひしゃげ、骨が軋む音が響いた。ミカキーノはホール中程まで飛ばされ、床に打ち付けられた。彼の手から折れた剣が離れ、ガランガランと床を跳ねた。

「ミカキーノ!」

 ヒロの声に、ミカキーノは手をついて、一旦、起きあがろうとしたが、がくりと折れ、そのまま倒れ伏した。

 ――くっ。

 ヒロが炎粒(フレイ・ウム)ガーゴイル(パッサーシュバイ)に向けて連射する。ソラリス、ロンボク、ミカキーノに近づかせない為だ。だが、いくら炎魔法を命中させても、しばらく足を止めさせるくらいで致命傷は与えられない。

 ロンボクとミカキーノは倒れたまま動かない。ソラリスは片膝をついた姿勢から、まだ立ち上がっていない。特に出血した様子はないが、苦しそうな表情を見せている。必死にカラスマルを構えるも、その切っ先が上下に震えている。

 ――このままいってもジリ貧だ。

 ガーゴイル(パッサーシュバイ)達は、ぎらりと光る眼をヒロに向け、ゆっくりと近づいてきた。全部で七体。ヒロの額に汗が滲んだ。
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