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【完結絶対保証】ロシアンルーレットで異世界へ行ったら最強の魔法使いになってしまった件【第三部:フォーの迷宮編】 作者:日比野庵

第一部:異世界転移編

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2-015.そこまで言うなら断る理由はないね

  
 ヒロが振り向くと、イケメンの青年が立っていた。カウンターの隣の席に座っていた男だ。歳の頃は三十歳くらい。細面ながら掘りの深い顔立ち。その瞳は、意思の強さと冷静さを兼ね備え、強い輝きを放っている。背丈はヒロと同じくらい。体にぴったりフィットした仕立てのよい服が、羽振りの良さを見せつけていた。品のあるワインレッドのガウンを纏い、頭に赤いベレー帽を被っている。

「あんたは?」

 ヒロの問いに、青年は自分の頬をつるりと撫でてから、背筋を伸ばした。

「いや、これは失礼しました。私はこの辺りで商いをやっている、シャローム・マーロウと申すものです」
「何の用だい?」
「私は面白そうなものには目が無くてね。さっき、お嬢さんがお出しした金貨を見せていただけませんか?」

 ヒロが促すまでもなく、リムがタタッと駆け寄って握り締めていた金貨をシャロームに渡す。自分の金貨を玩具と言われたことが相当堪えたのか、リムの目は真っ赤だ。

「ありがとう。お嬢さん」

 シャロームは、少し屈んでリムから金貨を受け取ると、人差し指と親指の間に挟んで、ランプの光に透かすように眺めた。丁寧な口振りとは裏腹に、その鋭い双眸は金貨の模様を隅から隅まで確認している。見るというよりは鑑定しているという表現が相応しい。あれならどんな小さな傷だって見逃すことはないだろう。ヒロはシャロームの態度にやり手の商人だろうな、と緊張した。

「ほほう。これは珍しい」

 シャロームは、金貨をリムに返した後、ちょっと失礼と言ってカウンターに行き、自分の席の脇においた木製の鞄を取り出して開けた。三つに仕切られ、きちんと整理された鞄の中から、シャロームは辞書のように分厚い皮の表紙の本を手に戻ってきた。パラパラと慣れた手つきでページをめくる。

「これは、昔の金貨ですね。レーベ帝政時代の標準金貨だ。確か八千年ほど前に使われていたものです」

 シャロームは本をひっくり返して、ヒロに見せる。開かれたページには、様々な貨幣が図解入りで載っていた。どうやら商売に使う名鑑か何かのようだ。

「御覧下さい。図柄が同じでしょう」

 シャロームはページ中段の図を指さした。月桂樹のような紋様の中に髭を蓄えた男の横顔が刻まれている。

 ヒロはリムにちょっと見せてくれと言って、彼女から金貨を受け取ると、シャロームの本の図解と見比べた。その図解は手書きの絵だった事もあってか、本当に同じなのかどうかよく分からなかった。ふむ、と考え込んでいるとシャロームが解説するかのように口を挟む。

「こちらを見て下さい。ちょいと見難いですが、肖像の耳朶(みみたぶ)に水滴のような模様があるでしょう? これがレーベ帝政時代の標準金貨であることの証拠なのですよ。お嬢さんの金貨にちゃんと刻まれています」

 言われたとおりヒロは金貨を確認する。確かに水滴の印がある。

「伝説では、大地母神リーファがレーベ帝に授けた耳飾りだとされています。尤も、我々にとっては、偽物を見分けるための印の一つにしか過ぎませんがね」

 なるほど。そういう所を見ているのか。商人とは抜け目がないものだ。ヒロが感心している脇で、リムが腕を組んで、うんうんと頷いている。自分の金貨が本物だと言って貰えて嬉しそうだ。

「それにしても、まだこれ程の保存状態であるとは。素晴らしい。新品同様といってもいいくらいです。是非、私に買い取らせて頂けませんか。バルド準金貨(ギメル)枚で如何でしょう」

 そう言ってシャロームは人差し指を折り曲げて親指につけ、残りの指で三を示してみせた。

 ――金貨三枚?!

 悪く無い話だ。今は使えない金貨十枚より、使える銅貨一枚の方が遙かに価値がある。

 ヒロには断る理由など何処にも無い。ヒロがリムの顔を覗くと、リムは興奮した表情で目を輝かせている。どうやら、彼女も同じ気持ちのようだ。

 ――よし、決めた。

 ヒロはうん、と軽く頷いた。だが、それに続くヒロの言葉は、その気持ちとは全く別のものだった。

「シャローム。悪いけど、()()止めておくよ。明日になればもっと値段が上がっているかもしれないからね」

 目を丸くして驚くリムの手を取り、ヒロは行こうかとシャロームに背を向ける。

「いやはや、客人。これはとんだ御無礼を。では、正式に商談を申し込ませて戴けませんか」

 シャロームがヒロを呼び止める。

 ――喰いついた。

 ヒロは心の中で小躍りした。初めて会った見ず知らずの異邦人を相手にいきなり金貨三枚で買い取るなどと、いくらなんでも話が上手(うま)過ぎる。本当はもっと価値があるのではないか。ヒロはそう思った。明日になれば値段が上がっているかもしれない。

 そう言ってみせることで、ヒロはシャロームに餌を撒いたのだ。要するにハッタリだ。だが、そのハッタリは上手くいったようだ。

「そうかい。そこまでいうのなら、こちらとしても断る理由はないね」

 ヒロはにっこりとシャロームに答えた。ここからが本当の交渉の始まりだ。
 
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