挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
【完結絶対保証】ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【第三部:フォーの迷宮編】 作者:日比野庵

第三部:フォーの迷宮編

126/191

15-126.折り型

 
「お帰りなさい。ヒロ様!」

 下宿に戻り、自分の部屋の扉を開けたヒロを真っ先に迎えたのはリムの安堵の声だった。タタッと駆け寄り、ヒロにしがみつく。リムの金色の瞳が心なしか潤んでいるように見える。

「遅かったな、ヒロ」

 ソラリスも声を掛けた。何でもないような口振りであったが、その顔には、心配したんだぞ、と書いてある。

 ヒロはすまないと二人に詫びると、ベッドに腰掛け、水を一杯くれと頼んだ。「はい、ただいま」とリムがテーブルの水筒から銅のコップに水を注ぐとヒロに渡す。

 ヒロはそれをぐいと飲み干すと、ふぅと一息ついた。やっと戻ってこれた。戻る所があるのはいいことだ。何ともいえない安心感がヒロの心を満たしていく。もしも、家庭を持ったら、こんな日常を過ごすことになるのだろうか。異世界であっても、人の営みは変わるものではないのだろう。ヒロは不思議な感覚を味わっていた。

「心配掛けたみたいですまなかった。待たせたね」

 ヒロは空のコップをソラリスに渡してから、もう一度二人に謝った。

「そうですよ。ソラリスさんと折り型(おりかた)をしてなかったら、迎えに行くところでしたよ」
折り型(おりかた)?」

 ヒロがテーブルをみると、折り鶴が二つ置かれていた。羊皮紙で折ったもののようだ。リムはその一つを手に乗せて、ヒロに見せる。

「私とソラリスさんで折ったんですよ。昔から伝わる手遊びです」
「へぇ。俺の国では折り紙と呼んでいた。こっちの国にもあるんだね」
「ヒロさんも折れますか?」

 ヒロは折り鶴を解いた羊皮紙を受け取ると、同じように鶴を折って見せた。指がまだ覚えていたようだ。

「凄ぉい。ヒロさんも(スウィー)を折れるんですね。私は(スウィー)の折り型は知らなかったので、ソラリスさんに教わっちゃいました」
「ソラリスが折り紙を?」

 意外そうな顔をみせたヒロにソラリスが少し呆れたように返事をする。

「あたいが折り型なんて、似合わないかい? こう見えても盗賊なんだ。手先が不器用じゃ務まらないのさ。だから、(たま)にこうやって指先の練習をしているのさ」
「そういうことか。リムは一杯教わったのかい?」
「あ~。もしかして馬鹿にしてます? 私だって、色々折れるんですよ。その昔は手紙を出す相手に合わせて折り型を変えていたんですから。折り型の形で、誰からの何の手紙か分かるようになってたんです」

 そういうと、リムはテーブルに残ったもう一つの折り鶴を解いて、パタパタを何かを折り始めた。たちまちドレスの形を折り上げて見せる。

「これはお祝い事の時に使われていた折り型です。女の赤ちゃんが生まれたときとか。他にも色々あるんですよ」

 リムはリボンやらハートやら次々と解いては折ってみせる。随分と慣れた手つきだ。手紙を折り紙にして出すとはなかなか洒落ている。

「折り型なんて、今じゃ滅多に見なくなったね。折り型を知ってる奴もそういないんじゃないかな。あたいも知り合いが偶々折り型を知ってたから、教わっただけだしね」
「ふぅん。廃れつつあるのか。ちょっと勿体ない気もするな」

 ヒロは、リムから渡されたハート型の折り紙に目線を落とす。

「手紙なんざぁ、内容が伝わればいいってのが今の風潮さ。それはその通りなんだが、あたいは好きじゃないね」

 ソラリスの少し情感が籠もった口振りに、ヒロはおやと顔を上げた。彼女(ソラリス)は実用第一で、装飾には興味を持っていないと思っていたからだ。ヒロはソラリスの意外な一面を覗いたような気がした。

「それで、ヒロ。クエスト(おつかい)は上手くいったのか?」

 ソラリスが燃えるような紅い瞳をヒロに向ける。彼女なりの気遣いなのか、照れ隠しなのか、コップにもう一杯水を注ぐとヒロに差し出した。

「……何とかね。クエストは何の問題もなく終わったよ。だけど、それ以外に色々あってね。宿題を貰ってきた。遅くなったのはそれが理由さ」

 コップの水を一口飲んでから、ヒロが答えた。

「なんだそりゃ?」

 ソラリスが怪訝な顔を見せる。

「ソラリス、リム。君達に相談したいことがある。今日はもう遅いから、明日詳しく話すが、決して口外しないと約束してくれるかい?」

 二人が大きく頷いたことを確認すると、ヒロは残りの水を飲み干して、ソラリスに渡した。

「葡萄酒を呉れないか。ちょっと酔わないと寝れそうにない」
「お前でも酔いたい時があるんだな。何がいいんだ、白か? 赤か?」
「胡椒も蜂蜜も入っていないやつで」

 ヒロの答えにソラリスは白い歯を見せてニカリと笑った。
 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ