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【完結絶対保証】ロシアンルーレットで異世界へ行ったら最強の魔法使いになってしまった件【第三部:フォーの迷宮編】 作者:日比野庵

第三部:フォーの迷宮編

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14-109.復活の儀(第三部プロローグ)

 
 漆黒の空がその目を醒まし、静かな夜が明ける。 

 朝靄が立ち込める中、遥か彼方の山々がその姿を深い紺色から紫がかった朱色へと装いを変えていく。

 ――王都フォート。

 要塞(フォートレス)の別名を持つフォス王国の都は四方を山脈に囲まれた盆地にある。

 盆地といってもその面積は大陸北にある藩王国の一つ二つをすっぽりと飲み込むくらい広大だ。人によっては盆地ではなく平野だと呼ぶ者さえいる。

 盆地の北側には満々と水を湛えるラウニール湖があり、肥沃な大地を潤し、毎年豊かな恵みを王都に与えている。

 この王都(フォート)に入る為の街道は三つあった。一つは東に向かうバステス街道。もう一つは西に向かうラドック街道。そして、南に向かうライバーン街道。その名はかつて大陸を統一した伝説王レーベの三人の息子に因んで名付けられている。

 それぞれの街道には砦が設けられ、聖騎士率いる守備隊が守りを固めている。それ故、ドラゴンによる空からの攻撃でもない限り、陥落することはないと言われる難攻不落の都。王都が要塞(フォートレス)の異名で呼ばれる所以(ゆえん)だ。

 王都には街をぐるりと囲むような城壁はない。しかし、その代わりに深い堀が巡らされ、ラウニール湖から引いた水を蓄えている。堀を渡る三つの跳ね橋が唯一の進入路だ。

 堀の中には多くの建物が立ち並び、日中は多くの人通りで賑わう。大通りが交わる角に武器庫を兼ねた塔がある。塔は緊急の際に、街道に設けた砦と狼煙で連絡を取れるように設置されているのだが、普段は街の治安維持のための聖騎士の詰め所として使われている。日本でいえば、差し詰め交番に当たるというところか。塔には聖騎士が交代制で詰めており、四六時中、人の絶えることはない。

 その中でも、一際高い四本の尖塔があった。

 尖塔に囲まれた円形の建物の周りを取り囲む何本もの大理石の柱が(ひさし)となって張り出した屋根まで伸びている。

 円柱に守られた建物は巨大であった。直径はどれくらいあるだろうか。人が両手を広げて百人並んでも届くまい。高さは王の城に迫る程だ。

 大理石を積み上げた外壁は白く、ぴかぴかに磨き上げられているが、上から五分の一程は、萌葱色の大理石だ。堅く閉ざされた正門玄関の周りには黄金のレリーフが填めこまれている。

 ――ゴーン。ゴーン。ゴーン。ゴーン。

 尖塔の鐘が順番に揺れ、朝の澄んだ大気を震わせる。一日の始まりを告げる鐘の音が遠くに聳える山脈の彼方に消える頃、尖塔を頂く円形の建物の玄関扉が重々しい音を立てて開いた。

 だが、その奥にある大聖堂の扉はぴたりと閉じられたままだ。扉の前には赤い綱が渡され、両脇に神官と思しき白ローブの青年が控えている。余人の入室は禁止されていた。特別の儀式が行われるためだ。


◇◇◇


 「これより復活の儀を行います」

 細かな装飾の施された内柱に囲まれたリーファ神殿の大聖堂。大地母神リーファの黄金像を背に、錫杖を手にした長身の神官が宣言する。彼の齢は五十になりなんとしていたが、其の容姿は驚くほど若い。その丁寧な口調と相俟って、三十代後半と謂われても違和感を抱かせない。

 神官は縁に金色の縁取りが為された純白の司祭服を着て、上方に向かって裾が広がる形の白い帽子を被っている。帽子の中央に黄金の羽根の刺繍が見える。それは彼が大司教であることを示していた。

 額には金色のサークレット。これがないと復活の儀は行えない。

 大司教の両脇には、それぞれ三人の司教が同じ司祭服を着て控えていた。大司教と同じサークレットを着けている。大司教との違いは帽子に刺繍がないことくらいだ。

 立ち並ぶ司教の前に、白ローブを身に纏った十人のうら若き乙女達が片膝をつき、両手を組んで女神リーファに祈りを捧げていた。白いローブは神官であることの証だ。彼女達の中には神官職に就くことを許された精霊もいた。    

 大司教が踵を返し、リーファ神像に正対する。続いて彼の横に控える六人の司教もそれに倣う。彼らと女神像との間には長い祭壇が置かれ、そこに一人の男が横たわっていた。

 横臥する男は齢二十を少し超えたばかりの青年。粗末な皮鎧を身に着けている。冒険者のようだ。だが、既に彼の命は失われ、その唇が大気を求めなくなって一昼夜が経過していた。

 だが、居並ぶ司教達は、大司教を導師として、彼の魂が天に召される前に蘇生させようとしていた。魂を肉体に引き戻す秘儀を今から執り行うのだ。

 復活の儀と呼ばれるその秘技は、一日の中で最も大気にマナが満ちる夜明けの直前に行われる事になっている。

 大司祭が秘儀の術式を始める。錫杖を天に掲げ二度振ったあと、胸元に引き寄せ詠唱を始めた。

「我ら宙々(あまあま)駆ける神の御使い、リーとセレスに祈らん。命の灯火を集め、新たな力と為さしめ給へ。この者に命の息吹を与え、復活の光を示し給へ……」

 大司教の低く澄んだ声が朗々と聖堂に響きわたる。その一字一句は波となって、天井ドームを震わせた。あたかも王都全土に奇跡の到来を知らせんとするかのようだ。

 長き詠唱が終わる。大司祭はゆっくりと錫杖を両手に持ち替え、再び天を掲げた。

青い珠(ドゥーム!)
「「青い珠(ドゥーム!)」」

 大司教の詠唱に合わせ、両脇の司教達が復唱する。

 司教達の頭上に青い珠が生まれ、ゆっくりと動き出す。六つの青い珠は、祈りを捧げる白ローブの女神官達の頭上で止まった。それは艶やかに光る宝珠のようにも見えた。

 司教達が精神を集中すると、片手で握るとすっかり隠れてしまう程の大きさしかなかった青い珠はどんどん膨らんでいく。

 もしも、この場にマナの流れが視える者がいたとしたら、青い珠が周囲のマナを、そして女神官達の体内マナ(オド)をも吸い込んでいく様を捉えていたに違いない。

 青い珠が更にその大きさを増す。

 突然、白ローブの一人が倒れ伏した。

 司教達の顔が歪む。大司教が一番沈痛な表情を見せたが集中は切らさない。復活の儀は続けられた。

 やがて青い珠が人の半身程の大きさになったことを見届けた大司教は、錫杖を引き寄せ、一度大きく振った。青い珠は大司祭に引き寄せられ、パチンと弾けるように消え失せる。

「母なる大地の神リーファ。天を総べる神エルフィル。天に召すべき魂に新たな使命を与え、神の慈悲を地を記す事を許し給え」

 大司教が呪文を唱えると、錫杖が白色の光を帯び、輝き出した。

「大地母神リーファの名の下に、神の奇跡を呼び起こさん。今一度現世に蘇り、リーファの栄光を地に示せ」

 大司教の錫杖が、死すべきであった肉体を指し示す。

復活(アライアル)!」

 錫杖の白色光が珠となって離れ、横たわる青年の躰に吸い込まれていく。彼の心の臓がどくんと波打った。真っ白だった彼の顔にみるみる赤みがさしていく。現世に舞い戻った彼の魂が懐かしき肉体に還り、命の息吹を取り戻す。生き返ったのだ。

 復活を見届けた大司教は目を閉じて、リーファ神に祈りを捧げると、振り返って静かに儀典の終了を告げた。

 倒れた白ローブを周りの神官達が介抱する。消耗はしているが命に別状はないようだ。何が起こったのかは、この場にいた誰もが承知していた。復活の儀は秘技中の秘技。そこへの参加を命じられる事は、神官として最高の名誉であった。たとえその身に死が訪れようと、拒む者は一人として居ない。

 司教の一人が大聖堂入口の扉に向かって声を掛ける。大扉の脇に設けられた小さな扉が開いて、赤ローブを纏った精霊達が入って来る。精霊達は祭壇に集まり、蘇生した青年の手当を始める。直ぐに動かすことはしないが、彼を控えの間に移す役目がある。

「御家族に知らせてあげてください。蘇生は成功しました、と」

 大司教が赤ローブの一人に命じる。声を掛けられた赤ローブの精霊は、一礼してから退出していく。蘇った青年の名がまた一つ「奇跡の壁」に刻まれることになるだろう。

 死者を蘇らせる魔法は奇跡の領分とされ、本来人間が行えるものではない。だがそれを可能にしたのが秘魔法「青の珠(ドゥーム)」。伝説の魔導士ラメルが残した奇跡の魔法だ。司教にのみ使用が許されたこの秘奥義は八千年経った今も生きている。その事実を知るものは殆ど居なかったが。

 大司教は倒れた神官の下に行きしゃがみ込んで語り掛ける。

「ありがとうございました。今回も難しい儀でしたが、貴方のオドで一つの命が救われました」

 大司教は立ち上がり白ローブの面々に声を掛けた。

「今日より十日の静養期間を与えます。回復に努めてください」
「はい」

 女神官達は立ち上がろうとしたが、大司教はそのままで、と手で制した。その大司祭に赤ローブの一人が報告する。

大司教(グラス)様。例の方がお見えになりました」
「分かりました。静謐の間に御通しして下さい」
「畏まりました」

 大司教は再び女神リーファ像の前に歩みを進めた。そして、青年が運ばれ、主を失った祭壇に錫杖を納める。  

「ウラクト、もう二十年が経ったのですね……」

 (グラス)の脳裏には二十年前の光景が甦っていた。
 
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