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未雨
作:並盛りライス


 原色の青で泣く空が、時折見せる嘘の表情に戸惑って、忽然と姿を消した子供達の残像が霞んでいた。
 私は、一斉に蜂起した背高泡立草の蔭から、一人でその様子を窺ってみたものの、迎えにくる母親は七時にならないと帰ってこない事を知っている。
 もちろん鍵は持っている。小学四年に上がり立ての頃、兎のマスコットのぶら下がった家の鍵を持つ事を許されたのだ。
 しかし、誰も居ない家のリビングは、まるで呼吸をしない草食動物のように、不気味で無機質な雰囲気を私に与えた。
 遅くなる時は、親戚のおじさんの家に行くように指示されていたが、私にとっては、他人の家族の中で平然と家族の様に馴染む事は苦痛でしかなかった。
 なによりも嫌なのは、おじさんの本当の子供であるワカナが居る事だ。
 紛れもない本当の子供であるワカナを見ていると、私は偽物だという意識を抱いてしまうのだ。
 ある日突然、ワカナが死んでしまえばいいのにと思った後で、私は酷い罪悪感に襲われた。
 鍵を持つようになってからは、私は二度とおじさんの家に行っていない。

 公園は、田舎のこの町ではそれほど大きくないにしても、滑り台やブランコといった遊具は一通り揃っていて、砂場も小さいながら造られている。
 遊具がある付近の大部分の地面は、綺麗に整理されているが、入り口以外のフェンスの周りには、未整理の雑草地帯が残っている。
 私はその、見捨てられた雑草の林の中がお気に入りで、農薬が入っていたと思われる、比較的綺麗なビニルを敷いて、そこに座る事が多かった。低学年の子供達と遊ぶのに疲れると、いつも私はその秘密の場所で休むのだ。
 私は他の同年代の女の子達に比べると虫や蛙などがそれほど嫌いじゃなかった。今まで平気で、土遊びをしていた女の子達が急に虫を怖がりだしたのを不思議に感じていた。
 学校では、よく喋るグループに入っていて、それ以外では年下の子とよく遊んだ。近くに同じ学年の子供が住んでいなかった事も、関係していたかもしれない。
 考え事をしていると、いつも自分が何処に居るのかを忘れてしまう。忘れてしまえる事で、私は幾らか救われていたのかもしれない。

 時計の針は進まない。本格的に雨が降りだす前に、私は秘密の場所から立ち上がった。
 月日が経つごとに狭くなっていく公園を、今では向こう側まで見渡せる。
 誰も居ない。誰かが居て欲しいと願ってしまってはいけない。そうすれば、最も心の弱い部分が警戒しろと私に囁く。
 雨はまだ降らない。雨が降るまでは泣くのは止めろと私の肩が震えた。
 そして、長い間待っていた雨が降りだすと、私は誰も居ない家へと帰るのだろう。
 そうすれば、この公園には、本当に誰も居なくなってしまう。
 だからもう少しだけ、私の居るこの公園で、せめて雨が降るまでは、この曇り空を見ていたい。
 もう少しだけ強くなりたいと自分の背丈程になった泡立草を踏みつけてみたが、泣きたい気持ちは巨大な湖に広がる波紋のように静かに大きくなるだけだった。
 その日は結局、雨は降らなかった。
「明日、雨なら良いのに」
と聞こえないように母に言った私の心は、何処にも行けない曇り空を作り続けていた。














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