挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
神封巫女伝 作者:栗田隆喬
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

6/28

第一章(2)

『民が森に分け入る前に、神の存在を見いだし難をしりぞけ、さらに真名を明かして完璧に封じたとは。今回の働き、見事であった』
「恐れ入ります」
『褒美を取らせよう。わらわにできることならば、叶えてつかわす。何なりと、遠慮せずに申せ』
 イアの威光が覆う地で、大王に次ぐ力を持つ大巫女に、できぬことはない。どんな望みでも叶うだろう。
 まさに、突然の幸運。いったい何を求めるべきか、よく考えねばならない。
 ところが、アミネ自身、思いもしなかった言葉が突如、口をついて出た。
「人が……神を封じて良いのでしょうか、大巫女様」
 神殿の気配が滞った。空恐ろしいまでの寒さが、あたりを支配する。まさに、あらゆる流れが凍り付いていた。
 しまった、とアミネが思った時は、既に手遅れだった。
 何を口走ったか。
 気でも触れたのか。
 後悔よりも早く、アミネの意識は神殿を抜け、すべての流れが止まった、銀に染まった薄明かりを彷徨っていた。
 アミネにとって、親しい場所だった。あらゆる苦痛と、悲しみのない、『止まった』世界。神以外立ち入ることのない、アミネ一人だけの場所。
 ところが、誰もいないはずの目の前に、何者かの存在を感じた。
 大巫女様?
 そのはずはない。まばゆいイアの威光とは、全く異なる気配に包まれていたから。
 神か?
 神々や精霊の持つ、古さや威厳はそこにはなかった。
 それは、光ではなく、また、闇でもなかった。
 あたりに広がる銀色と混ざり、ほとんど溶け合い、目立たないながらも、気づかないではいられない、不可思議であやしげな気配を発している。
 時も、光の流れも、すべてが止まっているはずなのに。誰もいないはずの場所なのに。だれが……。
 アミネは突然、先程の言葉を吐かせたのが、この見えない存在であることに気づいた。そのものに近づこうとした時、巨大な竜巻のような音が遠くから響いてきた。


 アミネは、再び暗い鏡の間に舞い戻っていた。
 大巫女がついた深いため息に、張り詰めていた気配が弛み、再び鏡からは光が流れ始める。
『そちは習いを忘れたか』
「もちろん、シルメトの習いはすべて諳じております」
『ならば、そのようになせ』
「しかし……、彼らを封じるたび、言葉が耳をつくのです。人の身にて神を殺し、精霊を封じることが許されるのか、と」
『わらわがなんと言ったか、そちはもう忘れたのか。それともシルメトごときが、わらわに口答えをするのか』
「いいえ、大巫女様」
 アミネは改めて深々と頭を下げた。
「失礼を致しました。ご容赦を……」
『そちは真名を求め、闇と深く繋がり過ぎた。邪神に惑わされている。直ちに禊をなせ。……こうなると、何らかの処罰は必要であろう。やはり、エリキ姫に任せたのが間違いであったか。エリキ姫が邪神を見いだし、仮名にて封じておれば、そちに余計な穢れを負わせることもなかったであろうに』
 慌ててアミネは言葉を継いだ。
「おそれながら、大巫女様。わたくしめが先鋒として討伐を命じられていたら、やはり巧妙な楢木の神の気配隠しには気づかず、同じ過ちを繰り返していたことでしょう。それに、この身に穢れを受け、兵を死に至らしめたのは、私が十分な守りを講じられなかったため。そして、われを忘れ、仮名でよいところを、真名にて神封じをなしたがためです。すべての罪は私一人にあります。なにとぞ、エリキ姫にはご慈悲を……」
 ふっと大巫女の笑う気配が感じられた。
『エリキ姫を庇うとは。そちはおもしろいの。わらわが何も知らぬと思うのか。そちにどのような仕打ちをしているか』
「それは……。それでも、ただ本当に彼らの……」
 途端に、まばゆい光の洪水が、打ち付けるような激しい気配となって鏡から流れてきた。嵐の河のような大きなうねりに、心が押し流されそうなる。アミネは伏せ、耐えた。
『ええい、黙っていればよいものを、まだ口答えするか。神封じをなした自らの手柄を手放すような言葉を吐くなど。そのうえ、エリキ姫を蹴落とし、階位をあげる好機でもあったというのに。……愚かな。そちがそのように望むのなら、わらわも応えよう』
 さらに大巫女の気配が一段と濃くなった。
『アミネ。そちは穢れた。もう神封じは無理だ。ゆえに、そちをシルメトの巫女の位からはずす。これからハイエワの巫女として、ムラの祭祀に関われ。クタガのムラでは正しい祭りが行われていない。イアの威光を正しく伝えよ。その穢れた身体に、急ぎ禊ぎを為せ。明日、日の出とともに向かうのだ。よいな』
「……はい」
 アミネが改めて頭を下げると、大巫女の気配は消え去っていた。
創作物語工房
作者のブログ。執筆状況なども書いてます。
なかなか新作・続きがアップされないときは
チェックしてみてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ