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神封巫女伝 作者:栗田隆喬
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第二章(7)

 目を血走らせたエナイシケの青年。
 首もとにその手が伸びた。
 巫女の護衛についていた兵士たちに比べるとまるで女のように細く柔らかな手。だが、内側から息の根を止められる強い気配が指先から迸っている。
 恐ろしかった。
 それは森の神々や精霊のもつ敵意と全く異なる、人の持つ憎しみの感情。それが、何かによって強められ、アミネに向けられていた。
 指先にわずかながら、力が込められる。
 首の奥が握りつぶされるような感触。
 アミネの心の臓が激しく打つと、それから急に頭の奥から身体の芯まで、冷たい静けさが広がった。
 これまでのすべてが、つまらない舞踊の出し物のように感じられた。
 それも、品がなく、くだらなく、みっともないばかりの舞。
 やっと恥さらしを終え、幕の後ろに引っ込むのだ。……いや。引きずり下ろされるという方が正しいかもしれない。
 そう思うと突然、笑いが込み上げてきた。どうにも滑稽で仕方がない。
 息苦しくなってくるはずが、全く痛みも苦しみも感じなかった。
 首が絞められ、笑い声も漏れなかったが、アミネは薄れゆく意識の中で、壊れたように笑っていた。
 目尻からは涙がこぼれた。悲しくはない。だが、止まらない笑いと同じように、なぜか涙が止まらなかった。
 滲む視界に、森の神との戦いで死んだ若い兵士の面影が浮かんだ。目の前のエナイシケの男と重なってくる。
 なぜだか、この期に及んで自分を殺そうとする若者にアミネは同情を寄せていた。
 その理由も分からない。だが、心の奥に、自分と同じような何かがあって、それにこの青年も突き動かされているのを感じた。
 血走らせたヤツヒの目を見るたび、今度は無性に悲しくなってくる。
 首元を絞める手が食い込んできた。それは細く鋭い刃物のようだった。肉を切り裂く猛禽の爪。
 かろうじてそれを防いでいるのは、アミネの首を覆う無数のしなやかで硬い鱗だった。
 気づくと、アミネは白い蛇と化していた。目の前のヤツヒは夢に出てきたのと同じような赤茶の羽根を持った鷲となっている。だが、夢とは違い、黒々とした瘴気のようなものが全身から立ちのぼっていた。
 赤い目。開かれた鋭い嘴。そこからは赤黒い舌がのぞいている。
 蛇を襲う鷲。それはどこでも見られる光景だったが、突然、幼いころに遊んだ三竦みの遊戯がよみがえった。
 鷲、蛇、そして、人。
『鷲ハ、蛇ヲ屠ルモノナリ』
 ヤツヒの内に秘めた鷲が、地を這う蛇である己の最期を握っていた。
 張るような耳なりが、どんどん大きくなってくる。目の前がかすむ。
 鷲が口を大きく開き、白蛇を飲み込もうと迫ってきた。
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