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神封巫女伝 作者:栗田隆喬
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第二章(5)

 やがて水の泡立ちは、沸騰した湯のように強烈な熱を伴ってきた。大気は熱くなり、吹きかかる蒸気から逃げるようにしてアミネは、背を向け駆け出した。
 水しぶきを上げ走る。
 丸かったはずの川底の石は尖り、まるで幾千もの刃を突き立てたようになっていた。
 水底に潜む影の気配が熱気とともに迫った。足の切れる痛みに歯を食いしばり、漆黒をアミネは走り続けた。流れ出る血が水の流れに黒赤い帯となって、光を発していく。その色はまるで、背後に迫りつつある水底の二つの赤と同じだった。
 アミネは走った。
 吸い込む熱が、喉と胸を焼く。
 足元の水はどんどん熱くなっていく。
 身体中が汗を吹いた。だが、迫りくる存在の放つ恐怖に、芯の方は氷のように冷たく固まっている。
 息が切れる。
 心の臓も切れかかっていた。
 まるで払われたように足が重なり、アミネは熱湯へ伏せ倒れた。全身を川底の石刃が貫く。あまりの痛みに悲鳴を上げ、アミネは宙を仰いだ。
 涙がこぼれる。視界に広がる暗闇に、小さな点のような輝きがあった。はじめは涙の滴が、たまたま光を映しただけかと思ったが、それは少しずつ大きくなり、立ち込める暗黒の霧を引き裂く青白い光となる。
 強く細い光。
 それはまるで風に揺れる布のように闇を照らしていた。まゆい光の中には、黒い影があった。一瞬、すっと熱を払う心地よい微風。
 それまで近づいてきた熱気が弱まる。背後から迫っていた存在は、突然現れた光に戸惑い、ためらっているようだった。しかし、しばらくすると再び熱気が強まりはじめた。
 迫りくる気配。血にまみれ、傷尽き果てたアミネは、もう逃げ出す気力もなかった。
 降り注ぐ光を仰ぐ。
 光の中にあった影が、ゆっくりと降りてくる。大きく羽を広げた鳥の姿だった。鷲だろうか。鋭い瞳がアミネを見つめていた。
 舞い降りた鳥は、アミネを翼でそっと覆った。柔らかな羽毛の感触がアミネの傷ついた身体を包んでいる。先程までの強烈な熱気とは全く違う、羽根で覆われた暖かな暗闇。
 アミネの夢の記憶にあるのは、それが最後だった。
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