挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
神封巫女伝 作者:栗田隆喬
21/28

第二章(4)

 アミネはこんこんと眠り続けていた。
 夢うつつに意識が戻ってきたとき、身体全体が大きく揺れているのを感じる。獣の臭い。道を踏みしめて進む感覚は、馬に乗っているようだった。ユニが乗ってきたというシシカゲだろうか。
 背後からは、誰かがアミネの身体を支えている。頭のどこかで、他人に身体を預けるなど巫女にあってはならないこと、と声が聞こえる。だが、森の木々に身を委ねたときのような不思議な安心感にその声も消えて行く。時々身体がずり落ちるように傾くと、包みこむようにしてそっと引き上げてくれる。そのときふわりと草の香りがした。
 アミネの耳元に、低い声がささやかれた。異郷の言葉だった。まったくわからないはずのその言葉の響きが、なぜか懐かしく、心地よかった。
 それが、「敵」だと気づいた時、再びアミネは夢の世界へと漂い出していた。


 巨木が覆う緑の大地をアミネは歩いていた。
 道はない。それでも脚は、自然と木の根や石を避けて歩きやすい足場をたどっている。
 どこからともなく霧が流れてきた。日の光が遮られる。あたりは輝く白色に包まれた。かすかな風に、ゆっくりと霧は流れていく。冷たい湿り気が肌に纏わり付いてきた。どんどん視界は悪くなっていく。それでも森の木々の緑だけは、白のなかに埋もれることなく、ますます濃くなってきた。
 足もとに、ひんやりとした水の流れを感じた。小川だろうか。深さは足首ほどしかない。川底は丸い石が並んでいるようで、足裏にあたる滑らかな感触が気持ちよかった。
 清涼を感じる冷たい流れには、足の底や指先に滞ったものを運び去るような力が感じられる。
 アミネは流れのかみてに向け、歩き続けた。ただ、歩き続けた。
 水は冷たく、指先が少しずつ痺れるような感覚に襲われてくる。だが、その痺れさえ心地よく感じられてきた。
 足の指の先端に起こった小さな振動が、少しずつ、膨らみながら体中を駆け巡る。そのまま頭と手の指の先を突き抜けていくような感覚が、一歩、一歩と歩くたびに強くなってきた。
 ふと気づくと、辺りの霧が少しずつ晴れている。
 霧がほとんどなくなったころ、アミネは小川づたいに池のようなところにたどり着いていた。
 池を囲む木々は、ムラの神殿よりも数倍もの高さで、見上げてもてっぺんは雲の中にあるかのようだった。葉の緑は今まで見たことがないほどに濃い。その丸い葉の表面からは、金色に輝く光の粒が空へと立ちのぼり始めた。
 無数の木々から次々に立ちのぼる光の粒で、霧に白みがかっていたはずの空気は、次第に金色に包まれていた。
 その光景に圧倒されアミネが立ち尽くしていると、滑らかな鏡のようだった池の中心に突然、泡が沸き起こった。水底には大きな暗い影が潜んでいる。赤い二つの光がぼんやりと浮かんだ。途端に、先程まで輝き光を放っていた漂う金の粒が、一斉に光を吸い取り始め、一気にあたりは暗闇に転じた。唯一の光は、泡立つ水底に輝く、二つの暗赤だけ。
創作物語工房
作者のブログ。執筆状況なども書いてます。
なかなか新作・続きがアップされないときは
チェックしてみてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ