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神封巫女伝 作者:栗田隆喬
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第二章(2)

 アミネは少しずつ身体を起こそうとした。全身の痛みは、不思議と和らいでいる。まるで、何日も伏せていた病の床からある日突然に回復したようで、頭のてっぺんから足の指の先まで、驚くほど軽く感じられた。
 それでも新しい怪我には、痛みが残っている。左腕の傷跡には、布が巻かれていた。鼻を近づけると少し刺激のある青臭いにおいがする。痛み止めと化膿止めの草が、すりつぶされて湿布されていた。
 足は動かそうとすると、髄を割るような痛みがまだ残っていた。ひどく腫れていた足首にも、腕と同じように布が巻かれていた。巻く位置や向きに合わせて痛みが出にくい方向へと布の張り方をかえた丁寧な手当に、アミネは驚いた。ムラの治療師には、ここまでの腕も配慮もなかった。
 彼らは荒々しく、愚かしい蛮人のはずなのに、なぜイアの者よりもずっと繊細な所作ができるのか。粥を盛ってきた朱塗りの椀にしても、イアの職人には作れないものだった。今までに聞いた話と全然違う。あの男が特別なだけなのか、それともシルメトの習いが、間違っていたのか……。
「あっ。アミネ様が、お目々覚ましたよっ」
 鈴のような少女の声が、向こうのたき火から聞こえた。
「アミネ様っ」
 この声は……。
「ユニ……様」
「アミネ様っ」
 小さな人影が、たき火の影から駆けてきた。アミネがびっくりしていると、ムラに残っていたはずのユニが胸に飛び込んでくる。
「アミネ様、アミネ様、アミネ様ぁぁっ」
 アミネは泣きじゃくるユニを抱き締めた。
「よかったぁ、お目々覚ましてよかったぁ」
「どうしてここに……」
「あのね、ユニね、アミネ様がいなくなって、お馬さんに、お願いにいったの。アミネ様に会わせてくれる、お馬さんは、いませんかって。そうしたら、シシカゲさんが、乗せてくれたの。それで、ムラの裏の門から、ユニ、だれにも知らずに、こっそり出てきたの」
 シシカゲは、エリキ姫の馬だ。大巫女様から賜ったと、いつも自慢にして溺愛していた。とはいっても、自分で手入れをするでもなく、馬房で声がけをするわけでもなかったのだが。
 執着の激しいエリキ姫のこと、愛馬が消えたとなれば気を失って倒れ、病に伏したとしても不思議ではない。
 それも馬と共にユニが消えたとなると、だれの仕業かは明らか。幼い巫女の面倒は、寮長の巫女が負うところになっている。当然その責を問うだろう。エリキ姫からどんな仕打ちを受けることになるのか。アミネはかっぷくのいい寮長に、イアのご加護をそっと祈った。
「それで、ずっとアミネ様を探してきたら、おじさんとリリルルちゃんが、アミネ様に会わせてくれたの」
「……おじさん、とはな」
 苦笑いを浮かべながら、エナイシケの若者が影から姿をあらわした。アミネは、若者の元に駆け出そうとするユニを引き止めた。少しでも緊張をゆるめたら途端に気を失いそうだった。何とか意識を集中し、森の蛮人をにらみつける。
「この子に近づくな、エナイシケ」
 怒鳴ったつもりが、声がかすれ、まるでつぶやくようになってしまった。
「ずいぶんなご挨拶だな」
「どうしたの、アミネ様」
 後ろで、ユニが不思議そうにのぞきこもうとしている。
「ユニ様、危ないから隠れてください」
「おいおい。別に危害を加えるつもりはないって、何度も言っているだろう」
「そうだよ、アミネ様。あのおじさん、いい人だよ」
「騙されちゃだめっ」
 アミネは再びエナイシケをにらみつける。
「心配無用と言っておきながら、私の粥に混ぜものをしたか、まじないでもかけろう」
「別に何も……」
 そうだ。何かを企んでいるぐらいなら、あんなに丁寧な手当をするはずはないだろう。
 だが、アミネは精一杯の声を張り上げた。
「うそをつけっ。ならば、粥を口にしたあとの、強い眠りは何だ。眠り薬かまじないの他に、敵を目の前にしたイアの末を眠らせるものはない」
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